六五話 天霊と星槍
ヒロムはフレイの大剣でバッツに斬りかかるが、バッツは素手で防ぎ、そしてその刀身を容易く握り潰した。
が、ヒロムはそれを読んでいたかのように破壊された大剣を手放し、バッツの顔に拳を叩き込む。
さらにヒロムは右脚を高く上げるとバッツの脳天に勢いよく踵を叩き落とした。
「くっ……!!」
「オラァ!!」
ヒロムはさらにバッツの腹に蹴りを入れて蹴り飛ばそうとするが、バッツはその一撃を耐える。
「!!」
「痛てぇな、オラァ!!」
バッツは紫色の稲妻を右手に集中させ、ヒロムを潰そうと殴りかかるが、ヒロムはそれをギリギリで避け、そしてバッツの腹に拳を叩きつける。
「がっ……!!」
「痛いだぁ……?
それを……イクトの前で言えるのかよ!!」
ヒロムは全身に白銀の稲妻を走らせると目にも止まらぬ速さで何度も殴りバッツを倒そうとする。
が、バッツも負けてはいない。
ヒロムの攻撃を最初は反応出来ずに受けていたが、気づけば紫色の稲妻を身に纏い、ヒロムの攻撃を避けていた。
「忘れたかぁ?
オレはオマエの力も手に入れたんだ!!
同じことくらい……」
バッツが何かを言おうとするとヒロムの拳が体に叩きつけられ、さらにそこで白銀の稲妻が炸裂してバッツは吹き飛ばされてしまう。
「!?」
バッツは吹き飛びつつもなんとか体勢を立て直して立ち上がるが、ヒロムの変化に思わず動きを止める。
「オマエ……なんでここまで力が増してる……?
人は死の淵を彷徨えば奥底に眠る力が目覚めるとか言うが……」
「そんなわけねぇだろ」
ヒロムはバッツの言葉を否定し、そして否定した言葉について自分の言葉を語り始めた。
「死の淵を彷徨えば心は強くなるかもな。
でも……そんな都合のいい方法で強くなれるなら苦労はねぇ……!!
持てる力最大限に発揮してこその強さだろうが!!」
ヒロムの感情の高ぶりに呼応するように白銀の稲妻は大きく、そして激しくヒロムの体を駆け巡る。
「オマエのそれはただの紛い物だ……!!
他人の力に頼るだけのオマエに負ける気はねぇ!!」
「はっ!!
オマエもだろうが!!
他人に縋って力を借りてるオマエもオレと……」
「違うさ。
オレはアイツらと共に戦うために「共有」しあってる。
けどな……オマエのそれはただ一方的に「支配」して力で黙らせてるだけなんだよ!!」
だから見せてやる、とヒロムは天を掴もうとするように頭上に右手を突き上げ、それと同時に一筋の光がヒロムの背後に現れる。
「オレにしかないオレの力を!!」
「精霊で何かするのかぁ?
だが十一体とオマエが力を合わせても勝てないんだぞ?
どうやって……」
「ここから先、オマエが見るのはオマエも……親父も知らない真実だ!!」
「戯言を……」
「……光瞬く天より舞い降りし慈愛の光。
闇に覆われし世界を照らす希望となり、王を導け!!」
ヒロムは何か呪文にも似た何かを唱え、そして光はそれに反応するように大きくなる。
それを見たバッツはある答えに辿り着き、慌てて阻止しようとした。
「ふざけたことを……!!」
バッツは勢いよく紫色の稲妻で槍を作るとヒロムに向けて投擲するが、その槍はヒロムに近づく途中、何かに触れたのか弾け、そして消滅してしまう。
「!?」
「舞い降りろ、「天霊」セラ!!」
ヒロムの背後の光から一人の少女が現れる。
純白の衣装はへそを露にし、青い光の翼、そして白銀の美しく長い髪。
それらは彼女を天使のように思わせる。
そしてその純白の衣装と光の翼が見るものを魅了してしまう。
「綺麗……」
その姿を見たユリナたちは美しいと思い、その一方でヒロムの精霊について驚くソラは目を疑っていた。
「なんで新しい精霊が……?」
ソラの感じたものはガイやシオンも感じているらしく、ただセラの姿に愕然としていた。
「……私は「天霊」のセラ。
マスターの命により馳せ参じました」
「セラ、敵は目の前のアレだ。
頼めるか?」
「おまかせください」
「……フハハハハァ!!」
セラの姿を見たバッツは驚くでもなく、高らかに笑い、そして拍手をした。
「まさかここに来て新しい精霊を生み出すと思わなかったぜ。
オマエの力なら可能だろうが、新たな精霊を作り出すなんて発想はなかったぜ」
「生み出す?」
「今のままじゃ勝てない、だから……」
「何言ってやがる。
セラはオレの中に眠っていた精霊だ。
生み出してなんかいない……コイツはずっとオレの中にいたんだからな」
「何!?
ありえない!!
オマエの中には……」
「ありえないだろうな……!!
何せオレは元々十六人を宿してたんだからな!!」
十六、その数にバッツだけでなく、その場にいた全員が驚き、言葉を失っていた。
ただでさえヒロムは十一体の精霊を宿している。
それは能力者や精霊について知るものなら誰もがすごいと思うことだ。
なのに、今ヒロムはそれより多い十六体を宿していると言ったのだ。
「ふざけてるのか、オマエ……!?
あとから契約するか自分の魔力で生み出す他に今更新しく精霊を手にするなんて方法はないんだよ!!」
バッツはヒロムに向けて何度も紫色の稲妻を放つが、セラはヒロムの前に立つと光の盾を出現させ、バッツのその攻撃を防いでいく。
紫色の稲妻は光の盾にぶつかるとともに威力を失い、そして音もなく消えてしまう。
「!?」
バッツはそれを不思議に思うしかなかった。
今の自分はソラとガイ、そしてヒロムと十一体の力により人と精霊を凌駕するほどの力を持っている。
なのに、それほどの力から放たれる一撃を容易く防がれるのがおかしく思えたのだ。
「何をした……!!」
「先ほど名乗ったのですが……私は「天霊」セラ。
能力はその名の通りなのですよ」
「……まさか……トウマと同じ「天霊」の力か!!」
「トウマ……ですか。
そうですね、マスターのかつてのご兄弟と同じ力ですが、本質が違います」
「何?」
「ですが教える気はありません」
セラは光の剣を手にすると、バッツに向けて飛翔し始める。
バッツは紫色の稲妻を全身に纏うとセラへ殴りかかるが、セラは光の剣でそれを防ぎ、さらに紫色の稲妻を次々に消していく。
「この……」
「はぁ!!」
セラの一閃。
それはバッツの体に見事命中し、そしてバッツにダメージを与えた。
バッツは傷口を押さえるが、それでも余裕の表情を顔に浮かべていた。
「……残念だな。
この程度ならすぐに再生……」
バッツは傷が再生すると自慢げに言うが、傷は一向に治ろうとしない。
それどころかなんの変化もない。
ありえない、そう思ったバッツは焦り、それを見たセラは説明した。
「あなたはマスターたちの力を吸収し、そして飾音様の魔力と合わせて自分の肉体を作った。
つまり、その体の殆どは魔力でできている。
「天霊」の力は魔力を無効化する……つまりあなたの体はこの力を受ければその機能が低下する」
「な……」
「あなたはマスターの肉体を奪おうとしていたようですが、飾音様による妨害を受けたために人の肉体を新たに生むことを選んだ。
それが敗因になる」
「そうかよ……だが、それを受けなければいい」
どうかな、とバッツの言葉を否定するようにヒロムが呟くとヒロムの頭上に光が現れる。
「まさか……」
「漆黒の空駆ける流星よ、幾多の輝き導きし光の一閃で運命を穿ち闇を祓え!!」
ヒロムの頭上に現れた光は流星のようになるとバッツに向かい、そしてバッツに何度もぶつかり、吹き飛ばしていく。
「くっ!!」
「来やがれ、「星槍」ディアナ!!」
バッツを吹き飛ばした光の中からセラの時のように一人の少女が姿を現す。
お腹を大きく披露する形の黒いチューブトップの上に胸部までしか丈のない白いコートを羽織り、白いスカート、黒いブーツを身に纏った腰までは余裕である長さの茶髪の彼女は手に槍を持っていた。
ディアナ、ヒロムがそう呼んだことで彼女は現れた。
「お呼びでしょうか、マスター」
「ディアナ、セラの援護を頼みたい」
「了解しました。
では……敵を翻弄します」
ディアナはセラが攻撃しようとするバッツに狙いを定めると槍を構え、光を纏うと音もなく消えてしまう。
「!?」
「安心しろ、バッツ。
オマエじゃ勝てねぇよ」
何を、と消えたディアナを探そうとするバッツの体にいくつもの斬撃が襲いかかり、そしてバッツの背後にディアナが現れると同時にバッツはいつ繰り出されたかすら認識出来ない速度で放たれるディアナの槍による連続突きをその身に受け、そしてセラの一撃がバッツを襲う。
「な……」
「私の能力は「流星」。
その力は一条の流星の如き速さで駆け抜ける力だ!!」
ディアナは光を身に纏うと消え、次にバッツの前に現れた時にはバッツは大きな斬撃をその身に受けていた。
セラの一撃により大きく負傷したバッツはそのダメージと今の自分の現状に怒りを覚え、そしてその身から勢いよく闇を放つ。
「くそがぁぁ!!」
「!!」
勢いよく放出される闇は恐怖と殺意に満ちており、そしてそれを放つバッツの体の傷が徐々に塞がっていく。
バッツから放たれる闇に対して警戒するセラとディアナはすぐにヒロムのもとへと戻ると、ヒロムとともにバッツの動向を探っていた。
が、バッツはバッツでヒロムに対して怒りをぶつけるように紫色の稲妻を何度も放つが、それはすべてヒロムに当たることなく、まったく違う関係のない場所に当たっていた。
「ふざけるな……!!
ふざけるなぁ!!」
「コイツ……」
(セラの一撃で危機感感じて姿を維持するための闇を攻撃に回し始めたな……)
「さっさとオマエを潰し、オレは更なる高みへと……全ての支配者になるんだァ!!」
セラの「天霊」の力をその身に受けた影響なのだろうか?
バッツから余裕はなくなり、取り乱し、もう自分のことしか口にしない。
それどころか発する言葉も何か不自然な点が目立つ。
「勝つのはオレだァ!!
闇を……もっと力を寄越せ!!」
バッツの叫び声に呼応するように周囲に紫色の稲妻が放たれ、パーティー会場を次々に破壊していく。
パーティー参列者はそれから逃げようと慌て、ユリナたちも恐怖に襲われ、ガイとシオンはそれらから彼女たちを守ろうとしている。
「凌駕した気でいただけの道化だな……」
ヒロムはため息をつくとバッツを憐れむような目で見つめ、そしてフレイを呼び出すと彼女とディアナを見た。
「……さっさとバッツを潰そう。
そのためには……」
「今のままではダメです、ね」
「フレイの言う通りですね。
どうされますか?」
「決まってる……。
これ以上隠しておく意味もない」
やるぞ、とヒロムはフレイとディアナに伝え、そして二人もそれに応えるように頷く。
そしてフレイとディアナはヒロムの隣に並び立ち、セラはヒロムを守るように紫色の稲妻を防ぎ始める。
「時間は稼ぎます、マスター!!」
セラはバッツの攻撃を防ぐとともに光の剣を構え、そしてセラは光の矢を生成するとそれをバッツに向けて放ち、さらに飛翔してバッツに接近する。
バッツは光の矢を避け、迫り来るセラを攻撃しようとするが、光の矢はバッツの体から放出される闇を徐々に消し去っていく。
「!!」
「はぁっ!!」
闇が消えた瞬間を狙ってセラは斬りかかるが、バッツはさらに闇を放出すると衝撃波を生み出してセラを吹き飛ばした。
「きゃっ!!」
「邪魔を……」
「待たせたな」
するとヒロムは全身に光を纏い、そしてフレイとディアナは光となってヒロムを包み込もうとしていた。
「何をしている……」
「これがオレの真の力……
ソウル・ハック……クロス・リンク!!」




