333. 陸の孤島
塩の実の草を数本生やそうとしてちょっとミスって一面に生やしてしまった後、次に何をしようかと考えてたところで私は気づく。
この辺で1番大きな家に人が集まって何かしてるっぽい。しかもその集まりを、何故かお酒マンが窓から覗いてる。この場にお酒マンがいることにまずびっくりだよ。
とりあえず私もお酒マンの後ろから部屋の中を覗いてみた。中の会話もバッチリ聞こえるよ。なぜなら妖精イヤーは地獄耳だから。
お、見習いメイドちゃんだ。いや、もうメイドは辞めたんだっけ? じゃぁ何て呼べば……。まぁそのままでいっか。
で、その後ろに筋肉オバケ。筋肉オバケは見習いメイドちゃんの護衛してたからこの場に居るのは納得だね。
見習いメイドちゃんの横にはどことなく似てる小さい男の子がいる。あれってもしかして弟だったりするのかな。つまり見習い弟くんか。
さらに私が追ってきた一般冒険者3人組。略して3ピー組。それからこの館のお手伝いさんっぽい人たちと、めちゃ目立ってる知らないオバチャン。
オバチャンはすごく機嫌悪そうでなんか色々わめいてる。
大阪でヒョウ柄服きてそうなオバチャンだ。機嫌が悪いからか私の悪意センサーにバリバリ反応してるけど、機嫌の良いときは飴ちゃんとかくれるかもしれないね。
方言がキツイからか、ちょっと何言ってるか聞き取りにくいなぁ。
あとはー、わ、何かすごく影の薄い男の人いた。
あれは意図的に気配を消してるのか。オバチャンの口撃の矛先を向けられないようにしてるんだろうな。処世術ってヤツだね。
ってか、ロン毛男性ってこの世界にきて初めて見たかも。イケメンロン毛兄さんだ。優しそうな笑みを浮かべてるけど私は騙されないよ? だって悪意センサーにバッチリかかってるからね。
まぁ、それを言ったら3ピー組も引っかかってんだけど。
で、お酒マンが筋肉オバケに向けて何か手をぐりぐり動かしてる。ハンドサインで何かやり取りしてるのかもしれないな。筋肉オバケ以外はこっちに気付いてない。
っと、3ピー組の1番イカツイのが振り返ってきた。あぶないあぶない。
しばらく見てると突然筋肉オバケが吹き出した。
何笑ってんの? 会議中でしょ? 笑ったらアウトだよ? そのせいでこっちが見つかりそうになったじゃん。
何を見て笑ったのかと思ったら、筋肉オバケの視線は魔王に向いていた。なら仕方ないか。ポチは存在がギャグだもんね。そりゃ見ただけで笑っちゃうよ。うんうん。
あわてて隠れたけど、たぶん見つかってないかな。どうやら3ピー組のイカツイのは勘が鋭いらしい。気をつけねば。
それはそうと、何を話してるのかが問題だね。
犯人がどうとか、私たちを疑うのかとか、ゲームがどうとかそんなことを話してるっぽい。つまり何か事件が起きて、その犯人捜しをしてる……ってこと!?
めちゃくちゃ真剣に話し合ってるし、ちょっとした事件じゃなくてがっつり重い事件なんだと思う。
アクセス困難な秘境の村で、外は雪。つまり陸の孤島。そこで発生する事件と言えば、これはもう密室殺人事件じゃないの? 間違いないって。
でも死体がない。だから今は行方不明者が出た段階なんだと思う。殺されたのに死体が隠されたんだ。
仮に殺人事件じゃなかったとしても何か重大な事件が起きたことには違いないハズ。ハッピーエンドを目指すにはいつだって常に最悪の状況を想定して行動しなきゃいけないんだって。
とりあえず殺人事件だと想定して行動しよう。
そうなると、まず怪しいのは大阪オバチャンと3ピー組。
でもこの人たちは犯人じゃないと思うんだよね。なぜなら序盤で1番怪しい人は犯人じゃないってのがセオリーだから。それに3ピー組はアリバイがある。だって村に入る前から私がずっと見てたんだから。
パッと見、刑事役のロン毛兄さんが実は!ってパターンとみたんだけど、どうよ?
そんなことを考えていたら、突然お酒マンが透明になった!
なるほど、透明化の魔道具か。これでお酒マンは誰にも知られずにここまで来たんだね。って、そんなことより誰かが近づいてくる!
私はポチをひっ捕まえて屋根の上に逃げ隠れた。
その後みんなが外に出てきてまた騒ぎ出す。
これはアレか。私が生やした塩の実の草に驚いてるだけか。事件とは無関係だったか、ちぇー。
「ねぇ、お姉様」
「ん、なに? って、うお!?」
なんかまた光の柱が出た!
3ピー組を追いかけてたときに見たヤツだ!
そんな状況の中で、筋肉オバケが集団から抜け出してダスターさんと密会してる! あやしい動きだ!
まさか犯人はこの2人だなんてことは……。
私はいそいで2人の近くまで飛んでいった。
「で、お姉様。何をされているのデス? 先程の光は……?」
「何って、殺人事件だよ殺人事件! さっきの話聞いてなかったの?」
「いえ、もちろん聞いテいましたヨ。ですが違うと思いマあばばばばば!」
「突然なによ?」
何か言いかけてポチが左腕を抑えて苦しみだした。また厨二病発作が出たらしい。腕が語りかけますってヤツだ。ウザイ、ウザすぎる。
「いえ……、それよりお姉様。あのようナ草を簡単に生み出せるのデス。お米や味噌ナドも楽勝デショウ? この地の特産とやらデお米と大豆も生やしてくださいナ」
「え、やだよ」
どうして西洋ファンタジー世界に来てまで和風なのを作らないとダメなのさ。世界観壊れるって。金色の野とかなら作っても良いよ。もしくは宝石の花みたいなファンタジーっぽいの。
「あ? なんでやねんケチ。ちょっとくら……、この世界の人間もキット気に入るデショウ。お姉様が望まれる内政チートにも役立つカト」
「食に対する価値観ってのは子どもの頃食べたモノが絶対なの。いきなり味噌とかムリムリの無理よ。変な匂いのする泥水とか言われるのがオチだって」
「そんな、そこまでは……。ぐ!? そこまで言うのでしたラ仕方がありませんワネ。諦めまショウ。ところでお姉様、私の封印が解かれた経緯ナドを詳しく教えて頂けないカシラ? 姫からもお聞きシましたガ、どうにも分からないコトが多く」
「えー? えーと……、なんだっけ?」
「まさか、覚えておられないのデスカ? エネルギア魔術師のその後ナドも知りたいノデスガ」
「エネルギア? 誰それ?」
「え?」
「え?」
「……エネルギアって国の魔術師軍団と戦争してたんやろ? なんで知らんねん」
「思い出した。エネルギアって西隣の国だったっけ。ちがうよ、魔王を復活させたのは股間の魔術師。エネルギアとはもはや関係ないとかみんな言ってたもん。んで、勇者がいるんだから魔王もいるんじゃないかってなって出てきた魔王っぽいのを倒しただけ」
「え? 何それ? 俺ってそんな恥ずかしい名前の魔術師に封印解かれたん? ってか俺が復活してからやけに対応早いと思っとったけど、もしかしてちょうど良え感じの奴が出てきたから魔王に仕立てて倒しましたとか、そんな感じなんか?」
「もー。私もあんまり詳しくは知らないんだって。細かいことは勇者くんとかに訊いてよね」
っと、筋肉オバケがこっち見て何か言いたそうだ。
「で、妖精様XX。あの草はいったい何XXXXXX?」
相変わらず冒険者ギルド関係者の言葉は聞き取りづらい。あの草って、さっき生やしたヤツのことか。
「塩! 塩! 特産!」
相変わらず私の語彙が乏しいけど、まぁ伝わるっしょ。塩の実が成る草で、王国東部の特産品にするんだよ。
……む、特産?
「あ、そうだポチ。この国の東で1番偉い貴族がさ、東の特産品が欲しいって言ってたんだよね。アンタちょっとあの塩の草を届けてきてよ。特産品って言ってさ」
「……は? うっ、ハイ喜ンデ!」
「代わりに人形じゃ不便だろうから見た目だけでも生身っぽくしといてあげるね。ほいっとな」
ぺかーと光った後、ポチの体が見た目は生身っぽくなる。
「クソ、マジで妖精なんでもありやな……」
よしよし、これでわざわざ私が東の辺境伯さんとこに行かなくてすむね。
そんなことより事件のことを訊き出さないと。
「密室! 密室! あやしい、行動!」
陸の孤島なんて単語分からないから、とりあえず密室と言ってみる。で、あやしい行動。伝われ!
「あ? 密室? 怪しい行動って誰がだ?」
えーと、殺人事件ってなんて言うんだろ?
それに誰が、なんて今の段階でわかるワケないじゃん。わかったら事件はそこで終了だよ?
えーと、よし。
殺人鬼と一緒だなんてこんなところにいられるか! 私は1人で部屋に戻るぞ!
「一緒に! こんなところに! 私は1人で! じゃ!」
ダメだ。ポカンとされた。
たぶん筋肉オバケとお酒マンは白だね。悪意センサーにもかからないし。となるとこれ以上この2人から情報は出てこないか。
あ!
べつに私が異世界語を頑張らなくても、ポチに通訳させれば良かったんじゃん!
まぁ良いや、この2人から聞くべきことはもう聞いたし。
それより舞台を整えよう。雪と言ってもこんな薄っすら積もった程度じゃ陸の孤島とは到底言えないよ。
犯人はこの中にいる!をやるためには逃げられる前に急いで封鎖しとかないと。
よーし、まずは大雪降らせるぞぉっと!




