鍛冶場に舞い降りた紅の瞳
俺たちは小さな欠片をいくつか確保し、荷袋に収めた。まだまだこのダンジョンには危険が潜んでいる。今は《繋》との合金を作る分だけで十分だ。
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数日後。
ハルトンに作った鍛冶場には、炉の熱がごうごうと唸っていた。
「カイン、温度が安定しねぇぞ!」
俺が叫ぶと、兄弟子は汗まみれでふいごを押し込みながら舌打ちした。
「分かってる! だが、これ以上火を強めたら地金が割れる!」
赤く光るミスリルの欠片が、炉の奥でぐずつくように膨らんでは縮む。鉄や鋼とは明らかに違う反応。繊細すぎて、こちらの呼吸を少しでも乱せばすぐに割れてしまう。
「まだ……俺たちの火じゃ足りねえってのか」
カインが奥歯を噛みしめた。悔しさがにじむ。
俺も同じだった。せっかく手に入れた貴重な鉱石、このまま無駄にするなんて許せない。
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「お、なかなか頑張ってるじゃない」
突然、戸口から張りのある声が飛び込んできた。
俺とカインが振り返ると、そこには一人の旅装の美女が立っていた。
腰まで伸びた赤髪が炉の光を反射してきらめき、深紅の瞳は炎よりも鮮やかに輝いている。背筋は真っすぐ、豊かな曲線を隠そうともしない立ち姿。誰もが振り向くほどの美貌なのに、纏う空気はどこか豪胆で、男のような気安さがあった。
「……誰だ?」カインが険しい目を向ける。
「私はフレイア。流れの旅人よ」
女はにっと笑い、腰に手を当てた。
「火と鉄の匂いがするから来てみれば……面白そうなもんを打ってるじゃない」
「旅人、だと?」俺は訝しんだ。
「怪しいもんじゃないさ」
フレイアは歩み寄り、炉の炎を覗き込んだ。
「……ふむ。火が暴れてる。あんたらの腕が悪いわけじゃない、炎が言うことを聞いてないんだ」
カインがむっとした顔をした。「なにを知ってる」
「火の扱いなら、ちょーっとだけ得意でね」
フレイアは片目をつぶり、指先に小さな火を灯した。
それは赤でも橙でもなく、透明に近い光を帯びた澄んだ火種。炉の光に負けないほど鮮烈に煌めいていた。
「ちょ、ちょっと待て……!」
カインが思わず声を上げる。
「安心しな。見てろ」
フレイアはその火種を、迷いなく炉の中に落とした。
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次の瞬間炎が変わった。
荒々しかった火が静まり返り、炉全体を包むように均一に揺らめく。
熱は確かに強烈なのに、不思議と澄み渡ったような温かさを持っていた。
「……地金が、落ち着いた」
俺は思わず息を呑む。
「こりゃ……すげえ」
カインも目を見開いていた。ミスリルが暴れることなく、素直に溶けていく。
フレイアは腕を組み、にやりと笑う。
「どうだ。少しは役に立ったろ?」
「ただの火魔法じゃないな」
俺が口にすると、彼女は肩をすくめた。
「細けぇことはいいの。火ってのはね、強けりゃいいわけじゃない。温度も、息も、気分も大事なんだ。……男と同じさ」
豪快に笑うその姿に、鍛冶場の空気が一気に変わる。
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「やれるぞ、トリス!」
カインが叫ぶ。
「おう!」
俺は槌を握り直した。
打つたびに、ミスリルは澄んだ金属音を響かせ、火花が散った。
カインと息を合わせ、交互に槌を振る。フレイアが火を保ち、炎は決して揺らがない。
やがて、炉から取り出された刀身が、青白い輝きを放った。
「これが……《繋》の新たな姿か」
俺は感嘆の声を漏らす。
鉄にミスリルを混ぜ込んだ刀は、驚くほど軽く、刃渡りは澄んだ光沢を放っていた。
「ふふ、なかなかの出来じゃない」
フレイアが腕を組み、満足げに頷いた。
「お前が火を貸してくれなきゃ、絶対にできなかった」
俺が言うと、彼女は豪快に笑った。
「礼なんざいらないっての。あんたらが全力で打ってたから、私も手を貸しただけさ」
そう言い切ると、フレイアは炉に背を向けた。
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その夜。
俺は出来上がった《繋》を膝に置き、窓の外を見上げていた。
刀はほんのりと青白い光を反射し、まるで新たな道を示すように輝いている。
(フレイア……ただの旅人、じゃないな)
彼女の火は普通の魔法ではなかった。だが、本人は豪快に笑ってごまかした。
その姿を思い返すたび、胸がざわつく。
まるで嵐のように現れて、炎のように場を支配する女
「……また会うことになるんだろうな」
そう呟いた俺の手の中で、《繋》は新しい響きを放っていた。
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初投稿作です!みなさんおてやわらかにお願いします。
AIをとーても使いながらの執筆となっております。
あと、AI様にお絵描きをお願いするのにハマり中です。




