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転生したら孤児院育ち!? 鑑定と悪人限定チートでいきなり貴族に任命され、気付けば最強領主として国を揺るがしてました  作者: 甘い蜜蝋
蒼き都、動き出す

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寝てる暇なし! 三日で全部強化します

体調不良により投稿できずすみません。

再開いたします。

 会議が終わったのは、すっかり夜も更けてからだった。


 魔導官たちが慌ただしく資料を抱えて出ていく。

 領主館の蒼晶灯が少し明るさを落とし、静けさが戻り始めたころ。


「……さて」

 椅子の背もたれに体を預けて、大きく息を吐く。


「ここからが本番ね」

 ミーナが眼鏡を外し、こめかみを揉んだ。

 疲れているはずなのに、その瞳だけはぎらぎらしている。


「三日で“深層仕様”にするって、自分で言ったんだろ」

「ええ。今さら引っ込める気はないわ」

 ミーナはぱん、と両手を叩いて立ち上がった。

「よし。じゃあまずは──蒼晶と紅晶の“喧嘩”の原因からよ」


「今からか?」

「今からよ。魔族が下で遊んでる間に、寝てる暇なんてないわ」

 そう言いつつ、ちらっとこちらを見て微笑む。

「……もちろん、無理はさせないけどね」


「なら、付き合うさ」

 俺も立ち上がる。

「アリアは?」


「私は鍛冶場行く」

 アリアはもう扉のところにいた。

「ガルドさんとカインに今夜のうちに話通しとく。

 矢と剣、深層仕様にしてもらわないと」


「徹夜コースだな」

「いいの。あの魔族、マジでムカついたし」

 アリアはニヤリと笑った。

「次会った時、顔面に矢をまとめてお見舞いするから、ちゃんと準備しなきゃ」


 ノクスが“シャッ”と喉を鳴らし、アリアの足元にすり寄る。

 アージェはミーナの隣にぴたりと付き、護衛モードだ。


「じゃ、三日後の地獄に向けて──それぞれ地獄の準備ね」

「物騒な言い方やめろ」


 そんな軽口を交わしつつ、俺たちは三方向へ散った。



◆ 蒼晶研究所支部


──紅と蒼のケンカの理由


 夜の研究所は、いつもより騒がしかった。


 魔導具の光があちこちで明滅し、

 蒼晶試料を運ぶ魔導官たちが走り回っている。


「ミーナ様! 戻られましたか!」

「大変お疲れさまです!」


「ただいま。報告は後回し。まず、あれを出して」


 ミーナが指さした先。

 紫に汚れた蒼晶の破片と、紅晶だけが残った粉末。


 50層で戦ったあと、回収してきたサンプルだ。


「トリス」

「おう」


 俺は掌をかざし、《真鑑定》を起動する。


 蒼晶破片:

 ・魔力属性:水・雷

 ・外部干渉:不明(高濃度魔力による汚染)

 ・状態:構造不安定/紅晶素の混入


 紅晶粉末:

 ・魔力属性:火・闇

 ・状態:自律振動あり/“何か”に呼ばれている波形


「……やっぱり、“呼ばれてる”って表現で合ってるな」

 俺は眉をひそめる。

「紅晶の魔力が、下方向に向かって揃ってる。

 重力じゃなく、魔力の向きだ」


「ディスカリア……」

 ミーナが小さくその名を呟く。


「魔族は蒼晶を壊してるんじゃない。“向きを変えてる”のよ。

 蒼晶の魔力を引っ張って、紅晶に混ぜて……下へ流してる」


「つまり、紅と蒼で“川”を作ってるわけか」

「そう。わざと濁流にして」


 ミーナが魔導盤の針を見つめ、静かに言った。


「最初の研究テーマ、決まりね」


 白紙だった研究ボードに、ミーナがさらさらと書き込む。


 ──第一研究課題

 【蒼晶→紅晶変質の条件解析】

 【紅晶汚染の遮断/逆流防止】

 【紫晶波形の“遮断装置”の試作】


「“遮断装置”?」

「紫の波さえ止められれば、蒼晶は自然に落ち着くはず。

 ディスカリアの“声”を、途中で切るの」


 ミーナが振り返り、にやっと笑う。


「ねぇトリス。《電磁誘導》、まだ遊びあるでしょ?」


「……嫌な予感しかしないな」

「いいじゃない。雷で“ノイズ”作れるんでしょ?

 それ、魔力の世界にも応用できるわ」


 ミーナは机に乗り出してくる。


「魔族がきれいに作った“紫の線”を、

 あなたの雷でぐちゃぐちゃにかき回すの。

 ……想像しただけで、ちょっとスカッとしない?」


「……それは、すごくする」


 ディスカリアの顔を思い出す。

 あの、俺を“素材”としか見てない目。


「いいな、それ。やろう」


「決まりね」


 ミーナが振り返り、研究所の面々に声を張った。


「最優先研究テーマを発表するわ!」


 魔導官たちの視線が集まる。


「目標は──“魔族の汚染を、こちら側からぶっ壊す”ことよ」


 その言葉に、空気が変わった。


 恐怖ではなく、“やってやる”という熱。


「三日で基礎式を組む。

 雷と水の複合魔導装置、《紅晶ノイズキャンセラー》試作!」


「名前カッコつけたな」

「大事でしょ? 名前は士気に関わるの」


 ミーナはいたずらっぽく笑い、こちらを振り返った。


「トリスは仮眠取って。

 あなたの雷は最終テストで使う。予備バッテリー代わりにね」


「人間をバッテリー扱いするな」


 とは言いつつ、少しだけ肩の力が抜けたのも事実だった。


 ミーナがいる。

 この研究所がある。


 俺ひとりでどうにかする話じゃない。


 だからこそ──


「頼むぞ、ミーナ。

 あいつに、こっちの“意地”を見せてやろう」


「もちろん」



◆ ハルトン鍛冶区画


──深層仕様の武具たち


 鍛冶場に入ると、夜なのに火が全開だった。


「遅い」

 いきなり、ガルドさんの低い声が飛んでくる。


「お帰りと言ってほしいところだが」

「帰ってきたならとっとと座れ。話を聞く」


 隣ではカインが笑っていた。

「まあまあ師匠。トリスも死にかけて帰ってきたんだ。椅子くらい出してやんなよ」


「死にかけてはいない。ちょっと派手にやられただけだ」

 俺は苦笑しつつ、ダンジョンで拾った素材を机に並べた。


 紅晶牙虎の牙。

 紅晶熊の斧腕。

 紫に汚れかけた蒼晶の薄片。


 ガルドさんの目が細くなる。


「……深層に踏み込んだって顔だな」


「50層。魔族がいた」

 隠しても無駄なので、素直に言った。


 カインが目を丸くし、次の瞬間ニヤリと笑う。

「ははぁ。そりゃまた、面倒なところまで行ったな」


「……で?」

 ガルドさんが素材をひとつ手に取る。

「何を強化したい?」


「全部だと言いたいところですが」

 アリアが手を挙げる。

「優先で。

 私の弓と矢、トリスの刀《繋》。

 あとノクスとアージェ用の防具を、紅晶に負けないように」


「欲張りだな」

 と言いつつ、ガルドさんの口元がわずかに上がる。

「面白い素材だ。やってやろう」


 カインが紅晶牙虎の牙を指で弾いた。

「この牙、反発が強い。

 矢じりに仕込めば、紅晶に当たった時“砕けずに食い込む”かもな」


「それ、最高」

 アリアの目が輝く。

「紅晶の装甲、弾かれてばっかりだったのよ」


「トリスの《繋》はどうする?」

 ガルドさんが俺を見る。


「魔族の紫の波に、振り負けないようにしたいです。

 重くはしたくないけど……“芯”を通したい」


「芯、ね」

 ガルドさんがニッと笑う。


「じゃあ、《繋》の中に“蒼と紅の筋”を一本通してやる。

 お前の雷と、蒼晶の魔力の“道”だ。

 下手にいじると折れるが──やってみる価値はある」


「折れたら困るんですが」

「折らねぇよ。誰に鍛冶を習ったと思ってんだ」

 ガルドさんは豪快に笑った。


 カインがふと真顔になる。


「トリス」

「はい?」


「お前の刀は、もう“普通の武器”じゃない。

 持ち主の中身がブレたら、そっちに引きずられる」


「……つまり?」

「簡単に言うと──」

 カインがニカッと笑う。


「変なところでビビるな。

 前に進むか、守るか。お前が決めた方向に、ちゃんと切れるようにしてやるから」


 胸の奥が少し熱くなった。


「頼りにしてます、兄弟子」


「よし、それでいい」


 鍛冶場に火花が散る。

 紅と蒼の光が、夜の闇を押し返すように揺れていた。



◆ そして三日後へ



 三日間は、あっという間だった。


 ミーナたちが組み上げた“紫晶ノイズ潰しの魔導装置”。

 ガルドとカインが仕上げた、深層仕様の《繋》とアリアの矢。

 ノクスとアージェには、結晶の波から感覚を守るための簡易装備。


 どれも、触れた瞬間わかる。


 ──これは、本気で「下まで殴り込みに行く」ための準備だ。


 転送広場に立つと、ダンジョンビューの水晶がきらりと光った。

 グレイの声が遠くから聞こえる。


『さあ本日も始まりました、“トリス隊・深層チャレンジ特番”!

 ついに50層を超えた我らが雷伯様が、さらに下へ挑みます!』


「……特番組まれてるぞ」

 アリアがじとっとした目で水晶を見る。


「まあ、いいんじゃないか」

 俺は少しだけ笑った。

「見てるやつがいるってのは、悪くない」


 ミーナが隣に立ち、そっと小声で言う。


「帰ってきた時、みんなが笑っていられるように。

 ……そのための準備は、全部やったわ」


「ああ」


 ノクスが影を揺らし、アージェが吠える。


「行くぞ。51層の先──

 魔族の“巣”を、暴きに行く」


 蒼晶の光が、俺たちを包んだ。


 次の瞬間、足元からふわりと重力が消え──

 深層への再突入が始まった。

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