蒼晶神殿の囁き
このまま、基本1日2話更新で年内走り抜けますが、更新の時刻はまちまちになります。1話の時はすみません。
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階段を降りきった瞬間、空気が“変わった”と全員が同時に気づいた。
音がない。
風がない。
水滴の粒ひとつ落ちない。
けれど──何かが喉の奥を撫でてくる。
まるで“呼吸を聞かれている”みたいな。
「……ここ、嫌な感じする」
アリアが弓を構えたまま囁く。
「ミーナ、どうだ?」
「魔力の流れが……歪んでる。蒼晶が、泣き声みたいに震えてる」
蒼晶の壁は本来、静かで澄んだ光を宿している。
しかし、今は。
蒼と紫が縫い合わされたみたいに“揺れていた”。
まるで誰かが強引に傷をつけて、色を混ぜて──
それでも生きようとして震えている光。
「この層……暴走じゃない。誰かが触った跡がある」
「触ったって……誰が?」
「普通の魔物じゃこうならないわ。結晶を“壊さずに汚す”なんて──」
ミーナはそこで言葉を止めた。
その答えを言いたくない、という顔で。
俺は短く息を吐く。
「進むぞ。ここは50層。節目だ。何かいる」
ノクスが影に沈み、アージェが吠える。
ふたりとも、すでに“近い”のを感じている。
蒼晶の回廊を抜けると──
巨大な空間が広がった。
蒼晶柱と流れるような光紋。
本来なら神殿のように荘厳な光景のはずが──
中央に“穴”があった。
蒼晶が抉り取られたような、大きな空洞。
「……蒼晶ごと、持っていかれてる?」
アリアが息を呑む。
ミーナが震えた声で言った。
「違う。これは“飲まれてる”の。蒼晶の魔力が……外に流れてる」
「外?」
「ううん……“下”」
その時だった。
コン……コン……
響いてはいけない音がした。
足音。
蒼晶の床を叩く、ゆっくりとした足音。
俺たちは一斉に武器を構えた。
空間の奥の闇から──
ゆらり、と細い影が現れた。
人の形。
だが、明らかに人ではない。
蒼晶を模した角。
長すぎる腕。
仮面のように感情のない顔。
胸には蒼晶核を潰して埋め込んだ痕。
そして、歩くたびに“紫の粉”が落ちた。
「……魔族だ」
ミーナが震える声で言う。
アリアの手が震えた。
「え……待って。本でしか読んだことない……。なんでダンジョンの中に?」
「知らねぇ。けど──」
俺は刀《繋》を握り直す。
「来るぞ」
魔族は、止まった。
そしてゆっくりと顔だけをこちらへ向けた。
仮面のような顔の上で、
“目の位置に紫晶がひとつだけ”光っていた。
蒼でも紅でもない──紫晶の魔力。
次の瞬間、そいつは口を開いた。
「──やっと、来たね。
蒼晶の《器》。」
俺は眉をひそめる。
「俺を知ってるのか?」
「知っているよ。
蒼晶の中で、一番きれいに“鳴る”魔力を持つ者。
ずっと……呼んでいた。」
呼んでいた──?
ミーナが震える声で言った。
「トリス……この層の蒼晶……“あなたの魔力の波形に合わせて汚されてる”」
「俺の……魔力に?」
魔族は喉の奥で、ぞり、と笑った。
「魔力というものは面白い。
似た魔力は、よく響く。
だから、私はこの巣を歪めた。
綺麗に、君に届くように。」
「理由はなんだ」
俺は静かに問う。
紫晶の魔族は、愉しそうに手を広げた。
「決まっているだろう?
君は“器”で、私は“収集者”。
蒼晶の魔力は美しい。
その核が欲しいのだよ。」
アリアが叫んだ。
「ふざけるな!! 蒼晶は……トリスは……奪わせない!!」
魔族は首を傾げる。
「君たちも綺麗だが……不要だ。
壊すつもりはない。
私が欲しいのは、ただひとつ──」
紫晶の目が俺を射抜く。
「《蒼晶の核》を持つ少年。君だけだ」
アージェが吠え、ノクスが影を揺らす。
アリアが矢をつがえ、ミーナの魔力が風を震わせる。
俺は刀を握り、言った。
「──なら、ここで倒すだけだ」
魔族の唇がゆっくり吊り上がる。
「それでいい。
君が壊れる時の“音”を──ずっと聞きたかった」
蒼晶がぱきりと軋み、空気が紫に染まる。
50層。
蒼晶の最奥。
紫晶魔族──《ディスカリア》。
ここから、本当の深層戦が始まる。
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