壁の中に、何かいる
このまま、基本1日2話更新で年内走り抜けますが、更新の時刻はまちまちになります。1話の時はすみません。
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「……あれ、見て」
アリアが指差した先。
階段の下、49層の入口。
今までの層と違う。
色がない。
蒼晶の光も、紅晶の妖しさもない。
ただ、どこまでも薄暗い灰色の空間が広がっていた。
「……蒼晶が光ってない?」
ミーナが息を呑んだ。
壁一面、蒼晶の結晶はある。
けれど――まるで“命”を抜かれたみたいに、
一切、光っていない。
「そんなこと……ありえるの?」
「わからない……。蒼晶って、基本的に魔力に反応して光るの。
でもここは、魔力が吸われてるみたいで……」
ミーナの声が震えている。
ノクスが、一歩も進もうとしない。
影を背中に貼りつかせて毛を逆立て、“ニャ……”と低く唸った。
「ノクスがここまで警戒するの、初めてね」
アリアも弓を構えたままだ。
アージェの耳も伏せられ、喉奥から低いうなりが漏れる。
何かが、この階層にいる。
そして――“見ている”。
「トリス。ここ……嫌な感じがする」
ミーナが俺の袖を掴む。
その瞬間だった。
カリ……カリ……。
削るような音が、壁の奥から響いた。
「……何、今の」
「晶を……削ってる音だ」
アリアが顔色を失う。
カリ……
カリ……カリ……
カリカリカリカリ……!
音が徐々に増えていく。
近い。一ヶ所じゃない。四方八方。
「待って……この音……」
ミーナが蒼白になった。
「蒼晶の中を“食い破って”中を移動してる……!」
「食い破って……!? 蒼晶を!?」
蒼晶は鋼鉄より硬い。
それを食って進むなんて魔物、聞いたことがない。
そして次の瞬間。
壁がぼこりと膨らんだ。
「来る!! 下がれ!!」
俺が叫ぶと同時に――
バキィィィィン!!
蒼晶の壁を“内側から”破って、
細長い腕のようなものが飛び出した。
腕じゃない。
結晶だ。
飢晶蛇
蛇の顔に、紅晶の牙。
身体は半透明の蒼晶で覆われ、腹の部分だけ紫に脈動している。
そして――
「……喰ってる」
アリアが震え声で呟く。
蛇の口元には砕けた蒼晶の欠片。
さっきの“カリカリ”音は、確かに蒼晶を食う音だった。
「蒼晶を……餌にしてる?」
「紅の影響だけじゃない……これはもう“別の何か”が混ざってる……!」
ミーナが震える。
そのとき。
壁のあちこちが同時に“隆起”した。
右の壁。
左の壁。
天井。
三方向が一度に膨らみ、蒼晶の殻を破って
同じ蛇がにゅる、と顔を出した。
「嘘でしょ……四匹!?」
「いや、もっとだ」
ノクスが影を広げ、アージェが前に立つ。
紫の光が、蛇たちの腹でゆっくり脈打っている。
心臓の鼓動みたいに。
「トリス……これ、絶対、普通の紅晶の暴走じゃない」
ミーナが湿った声で言う。
「誰かが……“餌”として蒼晶を使ってる。
この階層全体を、魔物の養殖場みたいにしてる……!」
「……魔物を“育ててる”やつがいるってことか」
「うん。
しかも、紅晶でも蒼晶でもない……“第三の力”よ。
紫晶が混ざってるのがその証拠」
完全に、奥の魔族の“手跡”を感じる。
ただし、ミーナはまだ“魔族”とは言えない。
ただ、自然ではありえないという確信だけが強まっている。
「前方六。天井五。左右八……まだ増える!」
「囲まれてるじゃない!」
アリアが叫ぶ。
蛇たちが一斉に口を開いた。
蒼晶を食い破ったその口で、今度は――俺たちを喰うつもりだ。
「下がる場所はない。
なら――切り開くしかない」
俺は刀《繋》をゆっくりと引き抜いた。
紫晶の光が、蛇の腹で脈打つ。
それはまるで、下に潜む“主”の心音のようだった。
「行くぞ。
この階層は……あの“何か”の手前の壁だ」
雷光が刃に集まり、気配が一気に張り詰める。
蛇たちが、同時に動いた。
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