第二形態 紅翼
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紅晶合成獣の全滅
本来なら、この部屋の脅威は大きく削がれているはずだった。
だが。
クリムアーキストは微動だにしないまま、
仮面の奥の“赤い横線”だけが細く揺れた。
その揺らぎは、
興味を持った捕食者の目だった。
「……笑ったな、今」
アリアが唇を噛む。
「ええ。解析完了と……戦闘モード移行」
ミーナが震えた声で魔導計を握りしめた。
「来るぞっ!!」
次の瞬間。
パチン。
また、指を鳴らした
だが、今までと“音”が違った。
重い。
深い。
空気の中に入ってくるような、異様な響き。
その音が広間に広がった瞬間
床が赤く染まった。
「……!? ちょっ、広がり方おかしい!!」
ミーナの魔導計が真っ赤に点灯する。
紅晶脈が生き物みたいに脈打ち、
さっきまで“道”だった床が、一瞬で紅晶の海となる。
ザザザザザッ!!
結晶が津波のようにせり上がり、
柱が、壁が、天井が
全部“奴の支配領域”に変わっていく。
「部屋全体が……あいつの“術場”に……!」
「クソ……やっぱ本体はここからか……!」
クリムアーキストが動いた。
ゆっくりと、一歩。
ただそれだけで、足元の紅晶が“舞い上がる”。
そして
ブワッッ!!!
結晶の翼が広がった。
背中から生えた紅晶の板が十数枚、
重なり合って巨大な翼のように形を変える。
光が反射し、赤い炎の鳥みたいに見えた。
「うわ……何あれ……」
アリアが息を呑む。
「いや、鳥じゃない……“刃の羽根”だ!!」
俺が叫ぶ。
その瞬間、羽根の一枚が
射出された。
ギィンッ!!!!
真横の壁を貫き、
厚い蒼晶岩盤を、
まるで紙のように切り裂いて突き刺さる。
「……あの速さ、避けられるわけないじゃない……」
アリアが蒼白になる。
「違う! まだ避けられる!!
一枚だけならな!!」
ミーナが叫ぶ。
「でも、問題は……」
クリムアーキストが腕を広げた。
紅晶の羽が、全部で十六枚。
それが一斉に震え――
「……全部、撃ってくる……!!」
パチン。
羽根が火花を散らしながら――
十六枚、同時に放たれた。
真っ赤な閃光が“雨”となって襲いかかる。
「散開ッ!!!!!」
俺が叫ぶ。
瞬間
アージェがミーナを抱えるように押し出し、
ノクスが影の裂け目へアリアを引き込み、
ルメナが俺の背に光の壁を張る。
紅い刃が空を裂き、
床を削り、
壁を粉砕する。
避けた直後、
俺の足元が“紅晶の海”に沈んだ。
「……ッ!!」
紅晶脈が足首に絡みつき、
生き物みたいに締め上げる。
「トリス!!」
ミーナが叫ぶが、
すぐに別の羽根が彼女の頭上へ落ちる。
「アリア!! ミーナを!!」
「任せろ!!」
アリアが影から飛び出し、
ミーナの肩を掴んで横へ引き倒す。
紅い羽根が背後を貫き、
天井にめり込んだ。
その衝撃で、広間全体が震える。
俺は足元の紅晶を《繋》で断ち切りながら叫ぶ。
「アージェ、ノクス!
アイツの攻撃パターンを完全に読まれてる!!
いったん――位置をズラすぞ!!」
アージェが咆哮し、
ノクスが影を四方に伸ばし、
紅晶脈を誤誘導する。
だが
クリムアーキストの“紅晶の目”が、
全員を同時に捕捉した。
赤い縦線がスッと動き、
俺たちを“記録”する。
そして仮面が、ほんのわずか
左右に揺れた。
まるで、
「次は当てる」
と告げるように。
「くそ……! こんなの、ほぼボス階層じゃねぇか!!」
「違う!!」
ミーナが叫ぶ。
「これはボス階層なんかより危険!!
こいつ、“知性体の戦闘術式”を持ってる!!」
「つまり……」
「魔族の技術よ!!」
俺は刀を握り直した。
紅晶の海が再び脈動し、
クリムアーキストが再び腕を広げる。
羽根が、十六枚、赤く光る。
顎が、僅かに上がる。
次の瞬間
紅晶の世界そのものが襲いかかってきた。
「全員!死に物狂いで突破するぞ!!!!」
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