紅晶傀儡
このまま、1日2話更新で年内走り抜けますが、更新の時刻はまちまちになります。すみません。
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紅晶の残響が消えた43層を抜けると、
階段の先で“空気が変わった”のが、誰にでも分かった。
まず――静かすぎた。
蒼晶洞のはずなのに、蒼の光がほとんどない。
代わりに、壁のあちこちで 赤い亀裂 が脈を打っている。
血管みたいに、じわじわと広がって。
「うわ……ここ、完全に空気が違う」
アリアが眉をひそめる。
「蒼晶の光がほとんど死んでるじゃない」
「紅晶の侵食が強い層ね。
……この階層、もともとこんなんじゃなかったはず」
ミーナが魔導計を展開すると、針が不規則に揺れた。
ノクスが影を低くし、アージェが小さく唸り声を上げる。
――敵がいる。しかも複数。
「気づくか?」
「わかる。音じゃない……“気配の輪郭”が変」
アリアの指先が震える。
「生き物の感じじゃない。もっと、こう……作られたみたいな」
トリスが前に出る。
刀に触れた瞬間、蒼ではなく――鈍い赤 が反射した。
その時だった。
ギ……ギ……ギ……
壁の紅晶亀裂から“何か”が抜け出した。
細い腕。
人間の腕を模したような形。
だが皮膚は無く、紅晶の光でできた骨だけが軋んでいる。
「……人型?」
アリアが弓を引き、目を細めた。
壁からズルリと落ちてきたそれは、
四つん這いで床を叩き――“立ち上がった”。
紅晶で組まれた四肢。
裂けた顔の中央で、赤い線だけがひとつ光っている。
紅晶傀儡。
「うわっ……なにこれ……!」
「蒼晶の“動力性”を利用して、人の形を模してる……!?」
ミーナの声が震える。
クリムドールが、ギ、ギギ……と首を傾けた。
「嫌な動き……っ」
アリアが息を呑む。
次の瞬間、傀儡は音もなく距離を詰めた。
殴るわけでも、飛びかかるわけでもない。
――ただ、手を伸ばしてきた。
その指先に触れただけで、蒼晶が赤へ変質する。
「触れるな!」
トリスが雷を纏い、横へ跳ぶ。
クリムドールの手が壁に触れた瞬間、
蒼晶の壁が――赤く“死んだ”。
まるで血が流れ込んでいくように。
「紅晶汚染……! この手、触れただけで蒼晶を奪うわ!」
ミーナの魔導計が真っ赤に染まる。
「じゃあ――触らせる前に壊すだけだ!」
アリアが矢を放つ。
真っ直ぐ命中した――が、
クリムドールの首が“反対方向に折れ”、避ける。
「はぁ!? そんな避け方ある!?」
傀儡が床を駆ける。速い。
だがその速度には、“意思”がない。
ただ決められた動きをなぞっているだけ。
「人工的な闘い方だな……
こいつ……命令の“再現”しかしてねえ」
トリスは理解する。
魔物の感覚じゃない。
肉も血もない。あるのは“紅晶の動きだけ”。
「ノクス、影で足を止めろ!」
「ニャッ!」
影がクリムドールの足を絡め取る――
が、その瞬間傀儡の両足が勝手に“折れ落ち”、
腕だけで走り出す。
「きもっっ!!」
アリアが叫ぶ。
「自壊も可能って……どういう構造してんのよ!」
「あれ、生き物じゃない。“工程物”よ」
ミーナが魔力の流れを読み取る。
「紅晶を繋ぎに、強制的に動かしてる。
つまり……“作ったやつ”がいる!」
「その“作ったやつ”は、どこにいる?」
トリスがクリムドールの動きを斬り払いながら問う。
ミーナは震える指で前方を指した。
「この階層の奥……
紅晶の濃度が、ここ数層とは桁違い。
――まるで“操る手”が、すぐそこにいるみたいに」
クリムドールが跳ぶ。
だがアージェが真正面からぶつかり、氷のような火花が散る。
ノクスが喉を鳴らし、影ごと傀儡の背を切り裂く。
ルメナが蒼光を帯びた風で吹き飛ばす。
そして――
「終わりだ」
トリスの雷撃がクリムドールの核を貫いた。
紅晶が砕け、細い音だけ残して消えていく。
沈黙が戻る。
「……44層でこれって、やばいんじゃない?」
アリアが肩で息をつく。
「ええ……紅晶を“操れる”存在がいるのは、確実」
ミーナが前方を見据える。
洞窟の奥から、赤黒い光がゆらりと揺れる。
それはまるで――
“呼んでいる”みたいに。
「次が45層――ここが区切りの層だ」
トリスは刀を握り直す。
「行こう。紅晶の根を断つために」
ノクスが“ニャッ”と叫び、アージェが咆哮する。
ルメナが蒼の風を纏って飛び立った。
赤い光の奥へ。
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