第39層 紅晶蛇鎧《クリムサーペント・アーマ》
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息を呑む光景だった。
壁一面の蒼晶が、淡く明滅している。
だがその合間に、異質な紅が滲んでいた。
脈のように、静かに、だが確かに這い広がっている。
「……色が、混ざってる」
アリアが呟く。
指先が触れた蒼晶は、呼吸するように光を返した。
だが、すぐ隣の紅晶は、まるで怒りを孕んだ心臓のように脈打っていた。
「蒼晶の循環を……紅晶が食ってる」
ミーナの魔導計が震え、数値が跳ね上がる。
「これ……ただの鉱脈じゃないわ。生きてる。しかも“衝動”の方が勝ってる」
その瞬間、足元の蒼晶が――鳴いた。
いや、そう“聞こえた”。
次の刹那、床が裂け、紅の光が噴き上がる。
「来るぞッ!」
トリスが叫ぶ。
地の底から這い出たそれは、蛇の形をしていた。
だが、肉ではない。全身が紅晶の鎧に覆われ、その隙間から蒼の光が漏れている。
紅晶蛇鎧。
巨体がうねるたびに、紅と蒼の光がぶつかり、爆ぜた。
洞窟全体が脈を打つ。
壁の蒼晶が共鳴し、風も音も吸い込まれていく。
「なにこれ……この層、あいつの心臓になってる……!」
「つまり、倒さなきゃこの層ごと暴走するってことか」
トリスが刀《繋》を抜いた。
雷が走る。
蛇鎧が咆哮した。
空気が震え、紅晶の破片が弾丸のように飛ぶ。
アージェが障壁を展開し、ミーナが詠唱を走らせる。
「《蒼環》展開! 衝動を抑制!」
蒼の輪が広がり、紅の波を押し返す。
トリスが前に出る。
紅と蒼が交錯する中、刃が閃く。
だが、紅晶の装甲が火花を散らして弾いた。
「硬いな……! アリア!」
「了解!」
弓が唸り、矢が蒼の尾を引く。
紅晶の隙間――蒼の光が覗く部分を狙い撃ち。
矢が突き刺さり、内部から蒼の光が溢れる。
「そこが“心臓”だ!」
トリスが踏み込み、雷とともに斬り上げる。
刀が紅と蒼を貫き、光が爆ぜた。
轟音。
紅晶の鎧が砕け、蛇体が崩れ落ちる。
残ったのは、蒼く濁った紅晶の核。
ミーナがそれを見つめ、呟く。
「生の光(蒼晶)と、衝動の核(紅晶)……まるで、世界の“呼吸”を見てるみたい」
トリスは刀を下ろし、息を吐く。
「じゃあ、俺たちは、その心臓の中を進んでるってわけだ」
ルメナが翼を揺らし、“キュルッ”と鳴いた。
その声に応えるように、壁の蒼晶が再び明滅を始める。
まるで、次の鼓動を待っているかのように。
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