蒼晶塔、起動
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完成した蒼晶塔は、朝日を浴びて淡く光っていた。
塔の表面を覆う蒼晶の板が、風を受けて波のように輝く。
高さは三十メートルほど。
けれど、その存在感は街のどの建物よりも大きかった。
「……ついに、できたんだな」
俺は広場の中央で塔を見上げながら、息を吐く。
地面の魔法陣が脈を打ち、まるで塔が心臓のように鼓動している。
「完成式の準備、整ったわ!」
ミーナが振り向く。
研究所の制服を少し汚したまま、しかしその顔は輝いていた。
「魔力循環の安定も確認済み。これなら全市域の照明と水流制御をカバーできる!」
アリアが思わず笑う。
「つまり、ハルトンは“夜でも眠らない街”になるってことね」
「うん。蒼晶が呼吸してる限り、光は絶えない」
ミーナが誇らしげに頷く。
その言葉に、ルメナが“キュルッ”と鳴いた。
塔の頂まで飛び、翼を広げる。
紅と蒼の粒子が交わり、塔の尖端で小さな光が灯った。
「ルメナが、始めるみたいね」
アリアが弓を肩にかけたまま、微笑む。
「では、蒼晶塔、起動!」
ミーナの宣言と同時に、塔の根元が光った。
蒼の波が地面を駆け抜け、街のいたるところに魔力が走る。
噴水が青白く輝き、街灯が一斉に灯る。
家々の窓が柔らかな光に包まれ、人々の歓声が広がった。
「すごい……! 本当に動いた!」
「夜が明るくなるぞ!」
「魔導都市ハルトン、ばんざい!」
広場が歓喜に包まれる。
子どもたちが蒼晶灯の下で手を取り合い、職人たちが帽子を振った。
俺は少し離れて、その光景を見つめていた。
胸の奥で、何かが温かく膨らんでいく。
――あの氷冠の封域で見た、あの光。
今は恐怖ではなく、希望の色に変わっていた。
「トリス」
ミーナが隣に立つ。
「この塔は、あなたの決断がなければ作れなかった。
……ありがとう」
「いや、みんなの力だよ」
俺は笑って返す。
「俺がやったのは、“信じた”だけだ」
ルメナが上空でくるりと旋回する。
その動きに合わせて、塔の光が脈を刻む。
呼吸のように、穏やかに。
「……まるで、生きてるみたいね」
アリアが呟いた。
「塔そのものが、街を見守ってる感じ」
「うん。でも、これで終わりじゃない」
ミーナが魔導計を見つめ、眉を寄せた。
「蒼晶の循環に、まだ“微弱な揺らぎ”がある。
安定はしてるけど……地脈の奥で、何かが動いてる」
「……何か?」
「わからない。紅晶との共鳴か、あるいは別の因子かも」
ルメナがその瞬間、塔の頂でピクリと反応した。
羽の縁が赤く染まり、微かな火花が散る。
「ルメナ?」
俺が声を上げた瞬間、塔の内部が“コンッ”と低く鳴った。
まるで、遠くで誰かが扉を叩いたような音。
すぐに静かになり、塔は再び穏やかに光を放つ。
しかしミーナは表情を引き締めたままだった。
「……今の、聞こえた?」
「ああ。気のせいじゃないな」
「起動反応とは違う波長。地脈の下層……おそらく、ダンジョンの方ね」
アリアが息を呑む。
「つまり――また、動き出した?」
「わからない。でも、放ってはおけないわ」
ルメナがゆっくりと降りてきて、俺の肩に乗る。
蒼の瞳に、紅の揺らぎが宿っていた。
――塔が呼んでいる。
そんな気がした。
⸻
夕方。
人々が帰宅し、広場の灯りだけが残る。
蒼晶塔は静かに光を放ち続けていた。
その下で、俺たちは再び集まっていた。
ミーナが地図を広げ、アリアが腕を組む。
「塔の下の地脈をたどると、ちょうど“蒼晶の眠る洞”へ繋がってる」
「つまり、次は……」
「そう。三十六層以降の再調査ね」
俺は塔を見上げた。
蒼い光が風に揺れ、静かに脈を打っている。
それはまるで、未知の鼓動
新たな冒険の、合図だった。
「よし。次の目的地は決まったな」
「また潜るのね……」
アリアが小さくため息をつく。
だがその唇の端には、笑みが浮かんでいた。
「いいよ、やってやろうじゃない」
ルメナが“キュルルッ”と鳴き、アージェが吠える。
ノクスが影を伸ばし、塔の光を反射させた。
「行こう。蒼晶の眠る洞、再開だ」
塔の光がまた脈打つ。
それは祝福のようであり、警告のようでもあった。
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