表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら孤児院育ち!? 鑑定と悪人限定チートでいきなり貴族に任命され、気付けば最強領主として国を揺るがしてました  作者: 甘い蜜蝋
蒼海に生まれた絆 ― 小さな竜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

241/287

雷の辺境伯、年に一度の日

このまま、1日2話更新で年内走り抜けますが、更新の時刻はまちまちになります。すみません。

読んでくださる方々ありがとうございます。どうか顔文字の評価ボタンか★マークを押してもらえるとありがたいです。

ハルトンの空が、やわらかい蒼に染まっていた。

 朝の風は涼しく、街の広場ではパンと果実の香りが漂っている。

 そんな中――俺は、なぜか館の扉を開けさせてもらえなかった。


「……おい、まだか?」

「ダメ、入っちゃ」

 アリアの声が扉の向こうから返ってくる。

 その後ろでミーナの声が小さく響く。

「もうちょっとだけ、光の調整が……よし、これでいい」


 ノクスが足元で“ニャ”と鳴き、アージェは鼻を鳴らす。

 ルメナだけが肩の上でそわそわしている。

 どうにも落ち着かない。


「まさかまた研究実験の準備とか言わないよな」

「そんな危ないもんじゃないわよ」

 アリアが笑う。

「危ないんじゃなくて、眩しいやつ」


 ……嫌な予感しかしない。


 が、扉が開かれた瞬間、その予感は、綺麗に裏切られた。


 目の前に広がったのは、蒼晶灯の光に包まれた食卓。

 テーブルには肉料理と温かなスープ、甘い果実のタルト。

 そして中央に、小さな蒼い炎を灯したケーキが置かれていた。


「トリス、誕生日おめでとう!」

 三人の声が重なった。


「……お、おお?」

 一瞬、言葉が出なかった。


 ミーナが微笑む。

「誕生日おめでとー」


 アリアが手を振る。

「ほんともう、忘れてたでしょ? 自分の誕生日くらい」

「まあ……毎年、ダンジョンか戦かで終わってたからな」

「でしょ。だから、今日は“戦わない日”」

「“研究もしない日”よ」ミーナが笑う。

「……あ、それは惜しい」


 ルメナが“キュルッ”と鳴き、肩の上からケーキを見つめている。

 ノクスは尻尾でリズムを取り、アージェは低く唸るようにハミングしている。

 ……お前らまで音楽隊か。


 ミーナが小さく咳払いをした。

「トリス。お祝いの言葉なんて改まって言わないけど――」

 彼女はケーキの炎を見つめながら、優しく微笑んだ。

「あなたが生きててくれて、ここにいてくれて、よかったと思う。

 私たちの出会いは偶然だったけど……運命って呼んでもいいよね」


 アリアが頷く。

「うん。あんたがいなきゃ、私たち、こんなとこまで来れなかった。

 だからさ、今日くらいは何も考えず、笑っときなさいよ」


「……ありがとう」

 胸の奥が熱くなった。

 照れくさいのに、心のどこかが、静かに満たされていく。


 俺はケーキの炎を見つめ、深く息を吸った。

「じゃあ――」

 ふっと息を吹く。

 蒼い炎がゆらめき、ひとすじの光になって消えた。


 その瞬間、ルメナが小さく羽ばたいた。

 散った光を受けて、部屋中に蒼い粒が舞う。

 まるで祝福の魔法みたいに。


「ルメナまで演出してくれるのね」ミーナが微笑む。

「うん……でも、なんか泣きそうだな」

 俺が笑うと、アリアがグラスを掲げた。

「じゃあ改めて、乾杯! 辺境伯の誕生日に!」


 グラスがぶつかり、音が響く。

 温かい光が部屋を包んだ。



 宴のあと、外は静かだった。

 街灯の下で、ノクスが丸くなって眠っている。

 アージェは警戒の姿勢を保ったまま、目を閉じていた。


 ミーナと二人、バルコニーに出る。

 夜風が頬を撫で、蒼晶塔の光が遠くで瞬いている。


「ねぇ、トリス」

「ん?」

「来年の誕生日、どこで迎えると思う?」


「そうだな……」

 少し考えてから、空を見上げた。

 星の合間に、淡い蒼光が揺れている。

「できれば、この街の上がいいな。

 戦いじゃなく、研究の成果でも見ながら笑ってたい」


 ミーナが微笑む。

「ふふ……それ、いいね」

 そして、静かに肩を寄せた。

「きっとそうなる。だって――あなたが、ここにいるから」


 夜空を見上げると、ルメナが小さく輪を描いて飛んでいた。

 その光が二人を包み、まるで未来への灯のように揺れていた。



 こうして、トリスの十九歳の誕生日は静かに終わった。

 戦いの中で生まれた絆が、確かに「生きる理由」に変わった夜だった。


 そしてこの翌日、

 王立魔道研究所ハルトン支部の最初の研究が――動き出す。

応援ありがとうございます!

皆さんのブクマや評価が更新の大きな力になっています!٩( 'ω' )و

「次話も楽しみ!」と思っていただけたら、ポチっとお星★様を押してもらえると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ