雷と蒼のあいだで
このまま、1日2話更新で年内走り抜けますが、更新の時刻はまちまちになります。すみません。
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夜のハルトンは、穏やかだった。
ダンジョン帰還の光が消えてから数刻、街はようやく落ち着きを取り戻したところだ。
蒼晶灯の光が通りを包み、露店の香ばしい匂いが風に乗る。
冒険者たちの笑い声が遠くで聞こえ、それを子どもたちが真似している――そんな、いつもの夜。
その光景を、俺は領主館のバルコニーから見下ろしていた。
杯の中の蒼晶水が、月明かりを反射して淡く光っている。
あの冷たい洞窟とはまるで別世界だった。
「……三十五層、か」
手すりを軽く叩きながら呟く。
長かった。けれど、それ以上に“まだ続いていく”感覚が胸にあった。
下の通りを、鍛冶師ギルドの面々が歩いていくのが見える。
竜核の話をもう耳に入れているのだろう。あの目の輝き、完全に「素材をどう加工するか」で盛り上がってる。
「ねぇ、考えすぎ」
背後から軽い声。
振り返ると、アリアがワインを片手にこちらへ歩いてきていた。
いつもの装備からはすっかり抜け出して、白いシャツ姿。髪を後ろでゆるく束ねている。
「珍しいな、酒なんて」
「祝いの時ぐらい、いいでしょ? だって――“雷の辺境伯”が氷亜竜を倒して帰還、だもの」
からかうように笑って、グラスを差し出してくる。
俺も軽く杯を合わせた。
“カン”と音が鳴る。蒼晶の塔が遠くで反射し、街の屋根に淡い光が散った。
「……ねぇ、トリス」
アリアの視線が少し真剣になる。
「今日、あの竜と戦ってた時、あんたの雷が違ってた」
「違ってた?」
「うん。昔より“守ろうとしてた”。
前は、ただ全部ぶっ壊してたでしょ。敵も壁も天井もの勢いで」
「おい」
「でも今日は違った。ちゃんと周りを見てた。……成長したなって、ちょっと思っただけ」
その言葉に、思わず苦笑が漏れる。
「そう見えたなら、良かったよ」
「ふふっ、何それ。素直じゃん」
アリアが楽しそうに笑う。
その笑い声に重なるように、扉がノックされた。
「入っていい?」
聞こえた声はミーナ。
書類を抱えて、部屋に入ってくる。
きっちりした服装のままだが、目元が少し柔らかい。
「おかえり、二人とも。お疲れさま」
そう言って机の上に資料を広げた。
「報告書のまとめ、もう終わったわ。ギルドにも提出済み。あとは王都への転送文だけ」
「仕事が早いな」
「本職ですからね」
そう言いながら、ミーナは俺の前にコップを置いた。
「それより、三十五層突破で、《真鑑定》が進化してる可能性があるんじゃない?」
「……進化?」
「ええ。“読み取る”から“感じ取る”へ。
つまり、鑑定対象の“心”や“意図”にまで共鳴できる段階に近づいてる。
これ、普通ならレベル50以上の識者でも到達しない領域よ」
アリアが目を丸くする。
「またチート強化?」
「本人は実感してないけどね」ミーナが小さく笑う。
確かに、氷亜竜の戦いの最中――あの核を見たとき、ただ“構造”じゃなく、“竜の意志”のようなものが伝わってきた気がした。
あれが新しい段階の“真鑑定”なのかもしれない。
「……成長してるんだな、俺」
「ええ。あなたはちゃんと“積み重ねてる”」
ミーナが頷き、少しだけ微笑んだ。
「領主としても、冒険者としてもね」
その言葉に、胸の奥が温かくなった。
外からは、夜風と蒼晶塔の光が差し込む。
広場では子どもたちがまだ遊んでいて、ルメナがその上をくるりと飛び回っていた。
翼が夜空をかすめるたび、細い蒼の線が残る。
「……あの子、また少し大きくなった?」
アリアが目を細める。
「ええ、安定期に入ってる。コアの力が馴染んでる証拠ね」ミーナが微笑む。
「今後は、ルメナの魔力を活かした航行船計画も現実になるかも」
「航行船、ね」
俺は空を見上げる。
あの氷の海よりも広い空、そこに、まだ見ぬ未知がある。
「……なら、その先まで見に行こう。
俺たちの足で」
アリアが笑い、ミーナが頷く。
外ではルメナが風に乗って鳴き、ノクスとアージェが庭で走り回っていた。
蒼晶の光が、夜空と街を照らす。
静かで、確かな夜だった。
⸻
こうして、氷の層を越えた夜は更けていく。
戦いの果てに得たものは、新しい“力”ではなく、“責任”だった。
雷と蒼の狭間で、俺はまた一歩、領主として、そして仲間のリーダーとして成長していく。
[ステータス変化]
Lv:28 → 30
HP:2100 → 2500
MP:25500 → 32000
STR:270 → 315
VIT:245 → 285
AGI:290 → 335
DEX:340 → 390
INT:380 → 440
MND:290 → 330
LUK:420 → 480
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