光の呼吸
1日2話更新ですが、時間がまちまちとなっておりすみません。年内はこんな感じで更新していきます!
蒼晶が、脈を打っていた。
最初は目の錯覚かと思った。
壁に埋まった結晶が、ぼんやりと明滅している。
ゆっくり、規則正しく。まるで息をしているように。
「……これ、見間違いじゃないわよね?」
アリアが矢筒を押さえながら、壁に近づいた。
指先で触れると、わずかに熱い。
「明滅の周期が一定。……呼吸リズムに近いわ」
ミーナが魔導計を取り出す。
針が左右に揺れ、微弱な振動を刻んでいる。
「この層、ただ魔力が溜まってるわけじゃない。
蒼晶そのものが、“動こうとしてる”」
「動こうとしてる?」
俺は足元を見下ろす。
床の結晶も、わずかに光っていた。
歩くたびに、その光が伝わっていく。
まるで俺たちの歩調に合わせて反応しているみたいだ。
「……嫌な感じだな。見られてる気がする」
「でも、敵意は感じない」
アリアの声は低いが、どこか穏やかだった。
「……不思議。警戒するほど怖くないの」
ノクスが“にゃ”と短く鳴き、影を駆けた。
アージェが前足で地面を軽く叩く。
そのたびに、足元の蒼晶が淡く脈打つ。
「……反応した」
「私たちの魔力に共鳴してるのよ」
ミーナが光を見つめながら囁く。
「トリス、《蒼環の理》の波動と似てるわ。
もしかしたら、この層の蒼晶は“理”の原型かもしれない」
「理の、原型……?」
「そう。蒼環が“理を循環させる魔法”なら、
これは自然が作った“最初の理”」
その言葉に、胸がざわついた。
まるで、ここに何かが眠っているような。
⸻
通路の奥へ進むにつれ、明滅は強くなった。
明るい瞬間には空間が広がり、
暗くなると、まるで洞窟そのものが閉じていく。
「……これ、光が消えた時、道が変わってる」
アリアが弓を構えたまま声を上げる。
「さっきまで真っ直ぐだったのに、今は左に曲がってる」
「ダンジョンが光で“地形を隠してる”……?」
ミーナの魔導計が震え、計針が止まった。
「だめ、魔力流が読めない。まるで幻術みたいに攪乱されてる」
ノクスが耳を立て、低く唸った。
アージェも視線を前方に固定する。
暗闇の奥で、かすかな音――氷の軋むような音。
アリアが囁く。
「……来る」
光が一瞬強くなり、何かが照らされた。
細く長い影。
蒼晶に覆われた獣のようなシルエット。
蒼晶獣。
体表の結晶が明滅し、リズムを刻んでいる。
俺は刀《繋》に手を添えた。
「動きは遅いけど、魔力の密度が違う。下手に斬れば爆発する」
「なら、理で鎮めるわ」
ミーナが前に出た。
「《蒼環の理》――共鳴制御!」
淡い光輪が走り、空気が静まる。
蒼晶獣の光が緩やかに弱まり、動きが止まった。
ただ、鼓動のような明滅だけが続く。
ミーナが息を吐いた。
「……大丈夫。眠らせたわ」
「助かった」
俺は刀を下ろし、獣を見つめた。
蒼の光が、まるで安堵するように穏やかに脈を打つ。
⸻
「……ねぇトリス」
アリアがぽつりと言った。
「この層、怖いけど、なんか“綺麗”ね」
「ああ。生き物みたいだ」
「ええ。“生きてる”んだと思う」
ミーナが頷いた。
「この層はきっと、ダンジョンの“記憶”よ。
誰かがここで、理を紡いだ痕跡」
ノクスが“にゃ”と鳴き、アージェが尾を振った。
ルメナが肩の上で目を閉じ、静かに息をする。
明滅する蒼の光が、まるで子守唄のように心地よい。
「……行こう」
俺は静かに言った。
「光が導いてる。奥に何かある」
明滅する蒼の回廊を抜け、
俺たちはさらに深く――まだ知らない光の向こうへ進んだ。
応援ありがとうございます!
皆さんのブクマや評価が更新の大きな力になっています!٩( 'ω' )و
「次話も楽しみ!」と思っていただけたら、ポチっとお星様を押してもらえると嬉しいです!




