封印の胎動 ――黒き心臓
評価ポイント押してもらってたり、最後に親指グッドとかの数が増えてたり、ランキング情報が日々出てきてワクワクしてます。ただ、投稿スピードが異常なのでこっそり修正もしております!ごめんなさい。
氷の裂け目から吹き出す風は、凍てついているはずなのに、熱を帯びていた。
炎のような冷気――それが封印の向こうにある“何か”の存在を示していた。
トリスたちは崩れた祭壇を背に、奥の通路へと足を踏み入れる。
壁に走る紋様が脈動し、まるで血管のように赤く光った。
「空気が変わった……」
ミーナが眉をひそめる。
「これ、ただの魔力じゃない。生命の鼓動そのもの……」
アリアが矢を番える。
「生きてるの? 封印そのものが……?」
トリスは頷いた。
「父さんと母さんが言ってた。“魔王の心臓を封じた”って。
――その意味、こういうことか。」
足元から低い震動。
洞窟の壁がひび割れ、黒い液体がにじみ出す。
それは氷を溶かしながら流れ、やがて一つの形を取った。
巨大な影――魔の残滓。
形を持たぬはずの怨嗟が、命を得たもの。
目のような光がゆらめき、空間がねじれる。
「来るぞッ!」
トリスが刀《繋》を抜く。
稲光が走り、蒼環が展開。
だが、その闇は斬っても再生する。
切られた場所から、黒い手が伸びてくる。
「っ……回復速度が異常!」
ミーナが詠唱を始める。
「封印由来の魔素体! 倒すんじゃなく、固定しなきゃ!」
アリアが矢を放つ。
矢は闇を貫き、蒼い光を炸裂させた。
だが、すぐに闇がそれを呑み込む。
ノクスが影の中から飛び出し、闇の腕を噛み裂く。
アージェが前に出て咆哮を放ち、魔障壁を張る。
雷鳴が轟き、トリスの刀に力が集う。
「封印の鍵を継ぐ者よ」
声が、闇の中から響いた。
低く、どこか悲しげな声。
それは“魔王の残響”だった。
『我は心臓。
封じられ、それでもなお生き続ける者。
王の血よ、なぜ我を縛る。
お前たちの王もまた、我と同じではないのか?』
声が洞窟を震わせる。
ミーナが耳を塞ぎ、アリアが歯を食いしばる。
ルメナが蒼光を放ち、声を打ち消そうとする。
「黙れ」
トリスが低く呟いた。
刀を構え、前へ出る。
「王も、帝も、俺も――“同じ”じゃない。
俺は、生かすために戦う。
お前とは違う!!」
雷と蒼が交わり、刃が唸る。
轟音とともに、一閃。
黒い波が裂け、封印の奥から光があふれた。
その光は、まるで長い闇の眠りを断ち切るように暖かかった。
だが、光の奥にはまだ“何か”が眠っていた。
心臓の鼓動が再び強まり、氷冠全体が震える。
「今の一撃で……封印、揺らいだ?」
ミーナが蒼ざめる。
アリアが矢を握り直した。
「まさか……中身が“起きる”ってこと?」
トリスは黙ったまま刀を下ろし、前を見据える。
そこにあったのは、封印の中心に浮かぶ巨大な“黒い結晶”。
ゆっくりと、脈を打っている。
世界の理が軋み始めた音がした。
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