封域の奥 ――凍牙の洞窟
評価ポイント押してもらってたり、最後に親指グッドとかの数が増えてたり、ランキング情報が日々出てきてワクワクしてます。ただ、投稿スピードが異常なのでこっそり修正もしております!ごめんなさい。
氷竜の光が消えてから、数分が経った。
静寂。
風も、音も、まるで凍ったまま時を止めているようだった。
「……ここが、氷壁の内側」
ミーナが小さく息を吐く。
氷の裂け目を抜けた先、広がっていたのは“白ではない白”――
氷の中に光が流れている、不思議な空間だった。
天井の氷が脈打つように淡く光り、まるで生き物の内部を歩いているみたいだ。
「空気が……違うな」
俺は指先で空気を掬い、軽く魔力を通す。
青い粒子が流れた。
「氷そのものが魔力を吸ってる。
誰かが作った結界じゃない、自然に近い“生態系”だ」
「つまり、ダンジョンってことね」
アリアが笑みを浮かべる。
「いいじゃない。久しぶりに“冒険”って感じ」
「お前は楽しそうだな」
「怖いよりマシでしょ」
ノクスが先頭に立ち、影の中を滑るように進む。
アージェは周囲を警戒しながら、氷の壁を鼻で嗅いでいる。
「……トリス、聞こえる?」
ミーナの声が低くなった。
「氷の奥で、魔力の波が――荒れてる」
「荒れてる?」
「うん、まるで獣が暴れてるみたい」
その瞬間、地面が震えた。
氷の壁が軋み、どこかで大きな裂ける音が響く。
「っ、なに!?」
アリアが弓を構える。
足元の氷が砕け、亀裂が走った。
そこから吹き上がるのは、鋭い冷気。
ただの風じゃない――魔力の暴風だ。
ルメナが翼を広げて身を守る。
金色の瞳が奥の闇を見据え、低く鳴いた。
“キュルルル……”
「嫌な感じ……」
アリアが息を呑む。
「魔物の気配が、一つや二つじゃない」
ノクスが影から飛び出し、低く唸った。
その尾が指す方向――
奥の氷洞から、無数の影が這い出してくる。
氷狼、氷晶蛇、氷甲熊。
封域の奥に棲むはずの魔物たちが、群れを成してこちらへ向かってきていた。
「数、百単位……!」
ミーナが魔導計を覗き、顔を青ざめさせる。
「スタンピード――!」
氷原に眠っていた魔物たちが、一斉に暴走を始めた。
封印の緩みに誘われ、出口を求めて押し寄せてくる。
「……封域の奥で何か起きてるな」
俺は刀《繋》に手をかけた。
刃先に蒼雷が走り、空気が震える。
「止めるか、通すか。どっちだ?」
アリアが尋ねる。
「止める」
即答だった。
「ここを抜けたら、外の大地まで雪崩のように出ていく。
封域を守るなら、今ここで抑えるしかない」
「ふふ、久々に派手な戦いね」
アリアが矢を番える。
ミーナは魔導符を展開し、蒼環の光を足元に浮かべた。
ノクスは影を広げ、アージェが前に立つ。
ルメナが高く鳴き、蒼い光を放つ。
氷の洞窟が、戦場に変わる。
「行くぞ」
俺は刀を構え、氷の嵐の中へ踏み出した。
雷と蒼が交わる閃光が、洞窟を照らす。
⸻
封域の中心では、まだ誰も知らない“何か”が動き始めていた。
氷を超えた、もっと古い気配。
その目覚めが、世界の流れを変えようとしていた。
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