新しい依頼と“本物の剣”のきっかけ
朝のギルドは、冒険者たちの話し声と紙をめくる音であふれていた。
依頼掲示板の前には列ができ、紙の端がひらめくたびに木枠が軋む。
「おはよう、坊主。今日も早いな」
ルークが笑いながら隣に立つ。
「おはようございます!」
トリスは元気に返事をし、並ぶ依頼書を真剣に眺めた。
「昨日みたいに“楽勝かと思ったら全然違った”って依頼は勘弁だぜ」
ディルが肩を回しながらぼやく。
「依頼に“楽勝”なんて書いてないもの」
ミーナがくすっと笑い、指で一枚を示した。
「『王都西の用水路の点検と害獣駆除』。危険度は低いけど、街にとっては大事な仕事よ」
「用水路か。地味だが重要だな」
ルークが頷いた。
トリスは別の紙を見つめる。
「……『市場外れの武具市の巡回』。盗難が多いから見回りを、って」
「武具市だと? 面白そうじゃねぇか」
ディルがにやりと笑う。
「掘り出し物を眺めながら仕事できるなんて最高だ」
「仕事中に買い物は禁止」
ミーナがぴしゃりと釘を刺すが、口元はわずかに緩んでいた。
「……武具市なら、木剣のことも考えられるかもしれない」
トリスは少し勇気を出して言った。
ルークは嬉しそうに笑みを浮かべる。
「ちょうどいいな。買うかどうかは別にして、見るだけでも目は肥える」
⸻
ルークが腕を組み、全員を見回した。
「よし、手分けして回ろう。まず――トリス、お前からだ」
「えっ、僕からですか?」
トリスは驚いて声を上げた。
「当たり前だ。今のところ一番経験が浅くて、力も弱いのはお前だ。仕事をおろそかにされちゃ困るからな」
ルークの言葉は厳しいが、真剣さがこもっている。
「……はい」
トリスは肩をすくめ、小さく頷いた。
するとアリアがすっと口を開いた。
「私と回る。戦いになれば私が一番対応しやすい。――それに、弱い者を放ってはおけない」
トリスがしゅんとした顔をすると、アリアはほんの一言、補足を加えた。
「……それに、私は武器のこともわかるからね。市場を回るなら、君にはちょうどいい」
「……お願いします!」
トリスは顔を上げ、力強く答えた。
「よし、決まりだ。アリアとトリスが内側、ミーナはその補佐。俺とディルで外周だ」
ルークが指示を出す。
「また俺と力仕事かよ」
ディルが肩を落とし、ミーナがくすっと笑った。
「口より腕を動かせ」
ルークが即座に切り返し、笑いが広がった。
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市場外れの広場は、鉄と油の匂いで満ちていた。
鍛冶屋の屋台、古道具の露店、革の鞘や盾の棚が並び、鉄を打つ音が響く。
「おおっ、骨の柄の短剣だ!」
ディルが目を輝かせる。
「仕事を忘れないこと」
ミーナが冷たく言うが、手は魔道具の瓶に伸びそうになっている。
ルークは腕章を袖に巻き、仲間を見渡した。
「外周は俺とディル。アリアとトリスは内側、ミーナは補佐だ」
アリアは無言で頷き、トリスは木剣を握りしめた。
(見るだけ。でも……何か、掴みたい)
⸻
「坊主、これを振ってみろ」
前掛け姿の鍛冶屋の親父が剣を見ていたトリスに鉄剣を差し出した。
「ありがとうございます」
トリスは受け取り、軽く振る。
――重い。止めようとしたとき、刃先が遅れて腕についてくる。
(止めたのに、先がふらつく……これじゃ次に繋がらない)
アリアが横で言った。
「そういう剣は、次の動きが遅れる」
「気づいたな。じゃあこっちだ」
親父が差し出したのは、地味な一本。
振った瞬間、止めた位置にすっと刃が収まる。
(……馴染む。手の延長にあるみたいだ)
「……こっちの方が、扱いやすいです」
「それが“いい剣”だ」
アリアが頷く。
親父は笑い、肩をすくめた。
「悪くねぇ目だな。だが今日は見るだけにしとけ。まだ早い」
「はい!」
トリスは頭を下げた。
⸻
ふと、小さな台に並ぶ小刀が目に入った。
料理にも使えそうだが、革鞘はしっかりしている。
「これは?」
トリスが尋ねると、女主人が答えた。
「食材も紐も薬草も切れる。大剣じゃないが、冒険者なら一本は持つべきだよ」
トリスは手に取り、抜き差しした。
――軽い。引っかからず、すぐに動ける。
「……扱いやすい」
「動きが途切れない。それは便利だ」
アリアが短く言った。
値段は小銀貨二枚。トリスは迷わず頷いた。
「……買います」
「大剣はまだ早い。でも、必要な刃からだな」
女主人が笑った。
小刀は腰のベルトにぴたりと収まり、軽く馴染んだ。
⸻
武具市を回った後、一行は用水路へ向かった。
石の縁には枯れ葉や藁が詰まり、水がよどんでいる。
依頼は―― 詰まりを取り除き、害獣を駆除し、流れを点検すること。
地味だが、放置すれば病が広がる。
ディルが棒で藁を引き上げ、ルークが大きな塊を脇へ放る。
トリスは新しい小刀で藁を小さく切り分けた。
「……軽いから、すぐ次に動ける」
小声で呟くと、ルークが感心して頷いた。
「小刀ってのは意外と役に立つんだな」
その時、暗がりから濡れた毛並みのラットが飛び出した。
牙を剥き、三匹が一斉に飛びかかる。
「来るぞ!」
ルークが剣を構える。
トリスは木剣で一匹を払い、小刀で尻尾を切って動きを鈍らせる。
ディルがすぐに短剣を突き込み、アリアが残りを仕留めた。
「被害なし。よし、続けるぞ」
ルークの声で、作業は再開された。
⸻
依頼を終え、ギルドへ戻る道。
風に洗濯物が揺れ、遠くに鍛冶場の煙が昇っている。
「トリス、その小刀、今日だけで何度使った?」
ディルが笑いながら聞く。
「数えてないけど……たぶん、たくさん」
トリスは答える。
アリアが静かに言った。
「一つの刃でできることを増やしなさい。いつか大きな剣を持つ時、それが基準になる」
「……はい!」
胸の奥で、小さな石が積み重なっていくような感覚があった。
(今日は大きな剣は手に入らなかった。でも、“必要な刃”は得られた。ここからだ!)
王都の空は高く、鍛冶場の煙がゆらゆらと立ち昇っていた。
初投稿です!みなさんおてやわらかにお願いします。
AIをとーても使いながらの執筆となっております。




