ドキドキより先にビリビリがきた
とんでもないスピードで投稿を続けております。甘い蜜蝋です。みなさんよろしくお願いします。ランキング情報が日々出てきてワクワクしてます。ただ、投稿スピードが異常なのでこっそり修正もしております!ごめんなさい。
三十層を抜けた夜
ハルトンはお祭り騒ぎだった。
露店の灯りが通りを縁取り、笛と太鼓、酒樽を叩く音。焼き鳥の匂いに混じって、飴の甘い香りが鼻をくすぐる。
「はい、まずはこれ」
アリアが俺とミーナの手に、青く透けた飴細工を一本ずつ押しつける。
「三十層突破、記念の一本。」
「ありがと、アリアちゃん。ふふ、光が揺れて綺麗」
肩までの黒髪にカチューシャをつけたミーナが微笑む。今日は淡いラベンダー色のワンピースが人混みの灯りに映えて、周りの視線をさらっていた。
「ミーナも似合ってるな」
「言い方が雑。もうちょっと“可愛い”とか言ってくれてもいいのに」
「可愛い」
「即答はずるい」
「……可愛い」
「二回目はもっとずるい」
横でアリアが咳払いする。「はいはい、そこ。私が選んだワンピなんだから、褒めるならセンスの良い私にもしなさい」
そんな他愛ないやり取りの最中
◆ ◆ ◆
「なっ……離せ!」
人混みの中、アリアの腰袋へ伸びた手を、彼女が手首からねじるように掴み取った。痩せた男の指先で、ぱちっと弱い火花が散る。
「痛かったんだけど!」
「そ、そうなんだ! ガキの頃から触れるとよくビリっとして――」
俺は男の腕を押さえ、【真鑑定】を走らせた。
―――――
対象:リース(人間・成人男性)
保有スキル:《静電気》アンコモン
効果:接触時に微弱な電流を流し、相手の動きを一瞬鈍らせる。
備考:本人は「体質」と誤解している。
潜在特性:雷適正の才(未覚醒)
詳細:高位魔法資質の萌芽。魔力不足ゆえに《静電気》として漏出。
危険度:Dランク(現状脅威なし)
―――――
(……雷の才か。魔力が少ないから魔法は持ってないんだな)
「へえ……便利そうだな」
俺はわざと感心してみせる。
「財布を抜く時に、相手が固まるんだろ?」
男は得意げに指先へ火花を走らせる。
「……悪くないな」
俺は口元だけで笑った。
「この領の子爵――甘いことで有名らしいぜ。スリみたいな小物でも、珍しい体質を見せれば登用されるかもな」
俺はリースの耳元で囁いた。
「な、なんだと……!?」
男の目がぎらつく。
(もちろん俺自身がその子爵だ。登用なんてするはずがない。ただ調子に乗せて力を出させる囮だ)
「証拠を見せてみろ。今ここで」
「へっ、見てろよ!」
――その瞬間。
《スキル詐奪》
淡い蒼光が俺の内側だけを走り、チリチリとした感覚が胸に沈む。
外からは何も変わらない。ただ、男の指先から火花が途絶えただけだった。
「……あれ? 急に……」
男は困惑する間もなく、衛兵に両腕を取られた。
「自在ってわけではないのか」
「盗みは最低。今日は祝日、見逃さない」
ミーナが俺の袖をつつく。「アリア、怪我は?」
「平気。……ほら、せっかくのデート、続きいこ」
アリアが横目でニヤリ。
「三人でだな」
「ふふ、そうだね」
◆ ◆ ◆
露店の灯りを抜けて、三人で並んで歩く。
ミーナが白い紙袋を掲げる。「ぶどうシロップのかかった揚げパン。今日だけの限定だって」
アリアが箸を差し出す。「一口交換」
「いいけど、トリスもちゃんと食べること。戦い終わると食が細くなるんだから」
「今日は食える。勝ちの味がする」
揚げたての生地がふわり、外はさく、内はもっちり。ひやりとした青いシロップがあとから追いかけてきて、舌に小さく電気が走る。
(……さっき奪った欠片が、まだ胸に残ってる)
思い出しかけたところを、アリアが肘で小突く。
「考え事しない。今は“旨い以外”禁止」
「旨い」
「素直でよろしい」
射的の台では、ミーナがきらきらした目で景品を見上げている。
「アリアちゃん、あの狼のぬいぐるみ、アージェにそっくり」
「狙う?」
「無理無理。ああいうのはトリスの役目」
「は? 俺、射手じゃないが」
「違う、根性論。外しても“もう一回”って言える顔が得意」
「どういう評価だよ」
結局、三発目で小さな狼を落とす。店主が苦笑して差し出すと、ミーナはそれを大事そうに抱いた。
「アージェに見せたら嫉妬するかな」
「尻尾が三倍速で揺れて、結局自分の匂いをつける」
「わかる」
少し外れの路地へ折れると、喧騒が薄れた。
アリアが片手を腰に当てて立ち止まる。「ミーナ勝負しよ?」
「え?」とミーナ。
「今日は“並び順”を決める権利を賭けて、わたしとミーナの勝負よ」
「勝負って?」
「早食い」
「唐突だな」
気づけば、アリアはいつの間にか蒼晶ゼリーという看板がかかった屋台から三つ買って来ていた。
ぷるぷるの青いゼリーが震える。
「いち、にの――」
「待って、冷たっ!」
「スタート!」
結果、ミーナの勝ち。
「やった……! でも頭キーンってする……」
「うう、負けた。悔しい」
「じゃあ、真ん中はミーナだな」
俺がそう言うと、アリアはあっけらかんと笑って、俺の反対側にするりと入った。
「今日は主役を真ん中に、って意味よ。……三十層を一緒に越えた“仲間代表”として」
「え、私?」
「そう。いつも裏で支えてくれた。だから今日は、真ん中がミーナで並んで歩く」
ミーナが小さく頷く。目尻に灯りが滲み、細い指が狼のぬいぐるみをぎゅっと握った。
「……うん。二人が帰ってくるの、毎回本当に嬉しいんだよ」
アリアがふっと真顔になる。「いつも、笑ってここに戻ってね」
「もちろん。……だから今は、食べて笑っておく」
俺は二人の歩幅に合わせて、ゆっくり歩く。三人分の影が石畳に寄り添って伸びた。
◆ ◆ ◆
橋の手すりにもたれて、下の運河を眺める。
水面に映った灯りが揺れて、飴を透かす青と重なる。
ミーナがぽつり。「トリス、肩」
「ん?」
「怪我、さっき矢を受けたところ。もう……平気?」
「ああ。薬を塗った。明日には忘れてる」
アリアが横目で睨む。「忘れないで。わたしが抜いたんだから」
風が少し冷たくなる。
アリアが小さく咳払いして、珍しく言いよどんだ。
「……その、ありがと。背中、預けてる」
「俺も預けてる」
「ミーナは?」
「え? 私は……、いつも“預けられてる”よ。書類と書類の間に“帰ってこい”って挟んでおくの。見えないけど、ちゃんと届いてる」
三人で笑う。
遠くで花火が上がった。小さな光の粒が夜空に咲き、遅れて乾いた音が響く。
アリアが手を伸ばし、指先で花をなぞるみたいに空を切った。
「ねえ、次は」
「みんなの為に何かしたいな」
「そう。そこでまた、何か大きいことやろ!」
「やったら、また食べ歩き」
「当然」
俺は胸の奥の微かなチリつきを確かめる。
(小さな《静電気》。なにか使えればいいな)
「……どうしたの?」
ミーナが覗き込む。
「いや、なんでも。ほら、次は何を食う?」
「蒼晶ミルクのジェラート!」
「胃が冷えるやつ」
「温かいハーブティもセットで」
「じゃあ三つ」
アリアが俺の袖をつまむ。
「手、冷たい。あっためて」
「自分で温めろ」
「はいはい、ミーナも」
「えっ、わ、わたしは――」
「三人で歩幅合わせるんだから、同罪」
結局、三人で指先を重ねて歩き出す。
賑やかな通りに戻ると、店主が声を張った。「三十層の英雄様だ! お代はいい、次も帰ってきな!」
アリアが満面の笑みで手を振る。ミーナはお礼を言って頭を下げ、俺は短く会釈する。
灯りの海の中、三つの笑い声が重なった。
次の挑戦までの、短い休戦。
この夜を、ちゃんと“勝利の味”として胸に仕舞った。
評価してくれると、とってもとっても嬉しいです!
初投稿作です!みなさんおてやわらかにお願いします。
AIをとーても使いながらの執筆となっております。
あと、AI様にお絵描きをお願いするのにハマり中です。




