都市のざわめき
とんでもないスピードで投稿を続けております。甘い蜜蝋です。みなさんよろしくお願いします。ランキング情報が日々出てきてワクワクしてます。ただ、投稿スピードが異常なのでこっそり修正もしております!ごめんなさい。
蒼晶の眠る洞・十五層の守番を落としてから、一晩だけ転送陣の小部屋で仮眠を取った。
翌朝、腕輪を起動。白い光がほどけ、俺たちはハルトンダンジョン都市の転送広場に戻ってきた。
「おかえりなさいませーっ!」
広場の屋台も宿屋も、朝から活気で沸き立っている。湯気に混じる肉とパンの香り、鍛冶場から響く槌音、子どもたちの歓声
全部が、胸の奥にすっと染み込んだ。
アージェ(銀の守護犬)が尾を大きく振り、ノクス(影猫)が俺の肩で気持ちよさそうに喉を鳴らす。
「帰ってきたな」
「うん。……いい匂い」アリアが笑って、矢筒を軽く叩く。
「市場も宿も満席ね。噂、もう回ってるわ」ミーナが周囲を一巡して目を細めた。
「ストラタタートル撃破、ってやつ?」
「そう。『初心者殺し』を正面から崩した、って見出しでね」
ふいに、屋根の上からひょいと影が落ちた。
ギルド巡回の少年が、ゼェゼェ言いながら駆け寄ってくる。
「ト、トリスさま! ギルド、新人冒険者達で満場です!」
「満場?」
「討伐報告の掲示、みんな見たくて……押し合いでして!」
顔を見合わせ、俺たちは笑って歩き出した。
◇
ギルド支部の重い扉を押すと、ざわめきが波のように寄せては返す。
「来たぞ!」
「本物だ!」
「あれが噂のアージェとノクス!」
「可愛い……いや、強そう!」
受付前まで進むと、支部長のクローヴェが腕を組んで待っていた。
四十手前の精悍な顔。目が笑っている。
「戻ったな、子爵殿。では、頼む」
「ああ」
俺は《叡記》にて、15層までに見てきたものを完全に記録した討伐報告書と、甲殻片・核片・環境記録を提出する。
アリアが淡々と補足を読み上げ、戦闘の要点を短く整理した。
「確認した。……掲示する」
クローヴェが頷くと、書記たちが一斉に動き、掲示板の一番上へ『十五層守番討伐、確認』の札が打ち付けられた。
次の瞬間、酒場スペースが沸騰する。
「うおおおお!」
「初心者殺し、落ちたぁぁ!」
「領主様の情報詳しすぎる!」
「やっぱ“我らが子爵”よ!」
誰かが叫んだ「子爵」の一言が、火に油を注いだ。
笑い声、口笛、椅子のきしみ、全部が嬉しい騒音だ。
「ワン!」アージェが胸を張って吠える。
「ニャ」ノクスが前足でちょん、と受付台を叩く。
受付嬢が目じりを下げて撫でた。「今日もおりこうさんですねぇ」
クローヴェが軽く手を挙げ、場を収める。
「静粛に。討伐の要点を、本人から」
俺は一歩進み、短く話す。
巨亀の転がり抑止は“合図の一致”で受け、傷付与は“隙の共有”で刺す。魔術無しでも落とせるが、情報の段取りが要る。最後に討伐した際の知識を《情報網》を使い共有した。
「以上。細かい戦術図と、合図表はギルド閲覧席に置いていく。新人でも読めるよう、図は大きめにしておいた。使ってくれ」
爆発したかのような拍手が起き、アリアが肩をすくめる。「優しいのよね、あなた」
「領で死人を出すより、先に知識を渡した方がいいだろ?」
ミーナが小声で付け加える。「噂は資本。いま“強い子爵の街”という物語を、みんなの口で広げさせるの」
「物語?」
「人は数字だけでは動かないわ。誇りがつくと、財布も兵も動く」
クローヴェが口角を上げた。「その通りだ」
◇
掲示が終わると、ギルド前の通りはもう祭りの空気だ。
屋台の親父が湯気の立つ肉包を差し出す。「子爵! 景気づけに!」
隣の魚屋が負けじと叫ぶ。「うちの燻製も!」
菓子屋の少女がノクスに猫用クッキーを渡して、頬を赤くした。
「ありがたく」
全部は受け取れない。代わりに組合票を数枚、その場で購入して屋台に投じる。
「組合票の買いは正義」ミーナがにっこり。
「そう言うと商売っぽい」アリアが笑う。
「商売です」
通りの向こう、湯の白い息が立ちのぼっていた。
ハルトン外れに湧いた小規模泉、テルマハルトほどではないが、疲れた冒険者が足を延ばすには十分だ。
炊き出しの湯気と混じり、街全体がほんの少し柔らかい匂いになる。
「この温泉、評判いいのよ」アリアが目を細める。
「テルマほど熱くないから、長く入れる。
ねっ!アージェ?」
「ワン」
「ノクスは湯気だけね」
「ニャ」
ふと、耳に入った会話がある。
「十五層まで子爵が開けたなら、俺たちも十層いけるかもな」
「合図表、写して練習しようぜ」
「“我らが子爵”だもんな」
我らが、か。
胸の内側で、何かがカチリとはまる音がした。
◇
午後、評議室で簡易の報告会。
クローヴェ、警邏の隊長、宿組合の長、商会の代表 顔ぶれはいつもの、でも今日の空気は少し明るい。
「まず治安。今朝から『子爵が十五層を落とした』という話が、抑止として効いてます」警邏隊長が言う。
「スリ、喧嘩、賭場の揉め事“今やると目を付けられる”と、連中が勝手に慎んでる」
「冒険者の入出、増加傾向」ギルド側。
「トリス様の情報から十五層までの安全な攻略路が見えた、という受け止め。新人パーティが“便乗”で来ています」
「宿も満室近い」宿組合。
「冬祭り前なのにこの勢い。食堂は昼の二巡目で売切れが出た」
「市場は活況。温泉卵と蒸し野菜のセットが人気」商会。
「温泉卵はテルマ産だが、“子爵の討伐祝い”の口実でハルトンでも出る。物語は物を動かす。ミーナ嬢の言う通りだ」
ミーナが淡く笑う。「ありがとうございます。数字は夕刻に集約します」
俺はうなずき、短く締めた。
「浮かれすぎは禁物だ。噂は味方にも敵にもなる。今日は、味方にした。それでいい」
席が立ち始める。クローヴェが近づき、声を落とした。
「正直に言うぞ。十五層でここまで街が沸くとは思わなかった。
お前が“自分で降りている”こと自体が、最大のセールスポイントだ」
「領主が現場にいる、ってこと?」
「ああ。『椅子に座らない領主』は、口伝で広がる。抑止力だ」
彼は肩を叩いた。「明日、掲示板に“十五層の読み方”講座を出せ。若いのが群がる」
「了解」
◇
夕方。領主邸の庭先で、軽い打ち上げ。
焼いた肉に温泉卵、焼きたてのパン。素朴だが、こういう食事が一番うまい。
「ワン!」
「ニャ」
アージェとノクスにも味の薄い分を少しだけ。こいつらは戦友だ。
「で、アリア」ミーナがニヤリ。
「喉射、とんでもない精度だったようね。絵を見たけど、あの角度、普通は怖くて打てない」
「ノクスの足癖がいいのよ。あの“半歩のずらし”が見えたら、射線は取れるわ」
アリアがナイフで肉を押さえながら、さらりと言う。
「トリスも覇剣術の冴えが増したんじゃないか?」
「よく甲羅なんて切れたもんだ」カインが笑う。
「よく言う」
「いや本気だ。鍛冶で言えば、“地金の目”を読んで割った仕事だ」
話題は自然に街の話へ滑っていく。
「明日から鍛冶場は悲鳴よ」ミーナが帳をぱらぱら。
「盾と槍と軽弓、発注が跳ねる。『十五層対応』って言葉に、人は弱いの」
「弱いねぇ」フレイアが杯を傾ける。「じゃ、火の通り道は私が整える。炉が怒鳴っても落ちつく火にしてあげる」
「助かる」カインが手を合わせた。「俺は“受け止め盾”の芯材、試してみる。アージェの二重障壁、再現できるかも」
アリアがアージェの首元をぎゅっと抱く。
「ダメ、アージェの方が可愛いから」
「ワン!(胸を張る)」
「ニャ(肩で得意顔)」
笑いが広がる。
その時、門番が駆け込んできた。
「子爵! 広場で“我らが子爵”の合唱が――」
「合唱?」
「いや、その、子どもたちが歌を……」
アリアとミーナが同時に吹き出した。
フレイアが肩をすくめる。「物語は歌になる。いい兆候よ」
「恥ずかしい」俺は額を押さえた。
「誇れ」ミーナが真顔で言う。「噂は盾。今夜の歌は、明日の無用な揉め事を一つ減らすわ」
……そうか。
強さをひけらかすためじゃない。守るために、強いという物語が要る。
「明日、ギルドで講習をやる。“受け止め”“刻み”“射線”の三点だけは、街中に広げよう」
「了解」
「任せて」
「ワン」
「ニャ」
◇
夜。
屋敷の窓を開けると、街のあちこちから、かすかな歌声が重なって届く。
十五の門を 越えて帰る
銀の盾と 猫の道
弓の星と 剣の輝
おかえり、我らの子爵さま〜
上手い歌じゃない。音程も外れてる。
でも、どうしようもなく良い。
「……戻ってきて、よかったな」
独りごとのように呟くと、肩のノクスが「ニャ」と短く返し、足元のアージェが「ワン」と喉を鳴らした。
明日はまた、街の仕事と、冒険の準備。
噂は盾に。数字は背骨に。鍛冶の火は心臓に。
(守る。進む。その両方をやる)
静かな決意を、胸の中で一度、確かめた。
評価してくれると、とってもとっても嬉しいです!
初投稿作です!みなさんおてやわらかにお願いします。
AIをとーても使いながらの執筆となっております。
あと、AI様にお絵描きをお願いするのにハマり中です。




