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第九話

書き溜め部分です。


 ベンジャミンは懐から…ごそごそごそ…ゴム紐を取り出した。


 正直もう嫌な予感しかしない。


 「このゴムを噛んで二人で引っ張り合う。そして最初にゴムを離した方が負けという斬新かつ紳士的なゲームで勝負を決めてやろう。さあ、しのぶ。まずはお前が噛んでみろ」


 「了解」


 ぱくっ。しのぶは馬鹿みたいにデカい口でゴムを噛んだ。


 おいおい!ちょっとは警戒しろよ。それさっきまでベンジャミンの腹のところに入っていたヤツだぞ?


 「流石はしのぶよ。どこかの貧弱な坊やとは違うな。(なぜか俺を見るベンジャミン)次は俺が噛むぞ。んぐぐぐッ‼」


 ベンジャミンもゴムを噛む。俺はもうこの時点で最悪の結果しか予想できなかった。


 「しのぶー‼やったれー‼」


 「しのぶー、ファイトだニャー‼」


 ガンドーとユーリはしのぶを応援していた。

 あれ?ベンジャミンの部下のレイとかいうヤツはどうした?


 「すげえ…ッ‼これがS級冒険者の真剣バトル…ッ‼為になるぜッ‼」


 ハイ。コイツ、馬鹿決定。


 その間、しのぶとベンジャミンはゴム紐の端を加えて後退する。

 もともと不細工なしのぶはともかく容姿の整ったベンジャミンがやってはいけない行為だと俺は思うのだが…。


 ああ、取り返しのつかないくらいすごい顔になっている…。


 「ひのふ、ふぃふぇるもはふぁひまのふふぃふぁふぇ?」


 多分「しのぶ、逃げるなら今のうちだぜ?」とか言ってるんだろう…。

 ベンジャミン、お前36歳にもなって何やってんだよ‼奥さんと子供が泣くぞ‼


 「真の勝利とは勝負を越えた場所にこそある。ベンジャミン、この辺で手打ちにしよう、とおならで言っています」


 しのぶはおならで会話していた‼お前も何やってんだよ‼


 バツン‼その時、一方の口からゴムが外れてしまう。俺は少しだけ気になって現場を見るとベンジャミンが大声で笑い出してしまった様子。

 流石におならで会話を成立させたら笑っちゃうよな。


 「ぎゃははははははは‼手打ちってそばやうどんじゃあるめえし‼ぎゃははははッ‼」


 …ってお前は笑いのツボがよくわからねえんだよ‼


 俺が心の中で盛大に突っ込んだのも束の間、ベンジャミンはゴム紐を放してしまいしのぶの顔面に直撃する。


 ビチンッ‼かくしてしのぶの顔には鞭で叩かれたような痕が出来てしまった。


 「ふん。口ほどにもないな、ベンジャミン。俺に勝ちたければ、まず笑う癖を治して来い」


 ニヤリ。しのぶの顔には勝利の赤い傷痕が残っていた。


 「流石だニャー、しのぶー」


 「まあ褒めてあげてもいいわよ」


 エリザとユーリは一声かけようとしのぶの近くまで言ってから立ち止まる。


 しのぶは…白目になったまま笑っていたのだ。

 おそらくゴムパッチンを食らった後、痛みが原因で気絶してしまったのだろう。


 「クソが‼例えルールの上で引き分けでもこのままじゃ俺のプライドが許さねえ…。ヨシ、今度は”卑猥ワードしりとり”で勝負だ‼レイ、お前も加われ‼」


 「うええッ⁉ここ他にお客さんいますよ‼」


 レイはベンジャミンの無茶ぶりに狼狽していた。


 「へッ、”卑猥ワードしりとり”だと?とうとう狂戦士である俺様の出番だな。行くぜ…フィ〇ト〇ァック‼」


 「ク〇トリス連続責め‼」


 ベンジャミンとガンドーが次々と伏字にしなければならない単語を連発する。


 だが神秘の宝玉リア・ファルの力でイヴリンや俺では止める事は出来ない。


 (イヴとエリザは最大攻撃をしかけています)


 このままじゃウチのパーティーが店を出禁になっちゃうじゃないか‼


 「退きなさい。役立たず兄貴」


 がんッ‼後ろからユージニーの陰気な声が聞こえてきた。


 俺は急いで通路の隅に後退する。そして…。


 「竜王ドラゴン一撃ストライク


 後方に大きく突撃槍ランスを構えて”溜め”を作ってから前に突き出した。


 ”龍種”の血を引く者でも限られた人間しかなることが出来ない幻の職業”竜騎士”、生まれ持った才能の差がここまで大きい何て泣くしかない。


 (転べ、転べ、お前なんか転んじまえ)


 俺はユージニーの背中に邪念を送り込んだ。


 「スケベ椅子‼」


 「ス〇トロ‼」


 目標の二人は同時に消し飛んだ…。


 だだんッ‼壁に二人の姿をかたどった穴が出来た。


 いやこれでいいんだ…。


 「フン。神器の力も制御できない未熟者が、私に勝てる道理など無いのです」


 ユージニーは突撃槍を振り上げ、二人の埋まっている壁を殴る。


 ドガシャン‼瓦礫と一緒に全身打撲のガンドーとベンジャミンが姿を現した。


 「相変わらず手加減しないのね、ユージニー。アンタんとこのリーダー虫の息よ?」


 イヴリンは魔法障壁、氷のカーテン、さらに氷のゴーレムの三段構えで”竜王の一撃”をガードしていた。

 ユーリとリンナとエリザも守られている。


 「はあはあ…、ロウソク責め…」


 「メイドさん主従逆転亀甲縛り責め」


 ガンドーとベンジャミンは死の間際でも例のゲームを続けている。


 馬鹿だろ、こいつら…。

 

 やがて二人ともうつ伏せになったままピクピクしているだけになった。


 「問題ありませんよ、負け犬おばさん。ベンジャミンは何度死んでもリア・ファルの力で復活しますから。あなたの仲間のガンドーは…、この程度の戦士いくらでもいるでしょう?」


 「ぬぎぎぎぎぎッ‼誰がおばさんですって…ッッ‼‼」 ← 25歳。


 「お前ですよ、イヴリン。私とてもう若くはありませんがいつまでもそんなヒラヒラのついたドレス姿で街中を歩くのは止めた方がいいですよ?」 ← 21歳。


 「待て。イヴ、ジニー。…お店の人が店内の惨状に驚いて死にかけているぞ」


 しのぶが復活していた。

 顔の傷はまだ治ってはいないが他は大丈夫みたいだ。

 しのぶは変色して端っこが黄色くなった「世界樹っぽい樹の葉っぱ」を瀕死のベンジャミンとガンドーに食べさせている。

 アレってこの前、「異世界ツルハドラッグ」の棚卸しセールで買ったヤツだよな…。


 「賞味期限がとっくに切れているからな。未使用のまま失うわけにはいかん」


 「もぐもぐ…。何か変な味がするぜ、しのぶ」


 「ああ。コンビニで売ってる白菜漬けみたいな味だ。うええ…」


 二人はどうにか復活した。


 「あわわ…‼しのぶ、どうしてくれるんだよ‼店が大変な事になっちまったって‼」


 ケーキ店の主人が酷く怯えた表情で駆け込んで来る。


 あれ?どっかで見た顔だな…。


 俺が冒険者になって間もない頃、入れ替わりで引退したカーチスさんだっけ?

 そうか、だからしのぶの知り合いだったんだな。


 しのぶはカーチスの登場とほぼ同時に得意の土下座スタイルに移行している。


 困ったら土下座。しのぶ、だからお前は誠意が無いって陰口叩かれるんだよ…。


 「すまん、カーチス。弁償とかお金の話は週末でいいか?」


 「いや、そうじゃなくて…」


 カーチスは俺たちにも現状を説明する。

 どうやら店内で始まったベンジャミンの一方的な嫌がらせを他の客は何かのイベントと勘違いしてしまったらしい。

 ああ、なるほど。ベンジャミンとジニーは冒険者御用達の雑誌「週刊クエスト‼」からインタビューされるくらいの有名人だからな。


 ははは…。俺?ゼロだよ。くやしいいいいいいいいいいいいいっっ‼


 「何言ってんだ、しのぶ。こうなったら完全決着しかねえだろ。俺とお前のどっちが本当の変態キングか‼ここで決めようぜ‼」


 ベンジャミンは顔色がエメラルドグリーンの状態で復活した。


 お世辞にも調子が良いようには見えない。


 「うえぇぇっ‼」


 だから賞味期限の切れた復活アイテムなんか使うから…。


 「あのな、ベンジャミン。もう俺の負けでいいから病院に行ってくれ。このまま続けてもお前にはデメリットしか無いぞ?」


 「ゲロゲロゲロ…。お前はいつもそうやって俺を見下していやがる。あの時も、俺が”異世界ココイチ”で福神漬けを取り忘れた時もお前は何食わぬ顔で俺にらっきょう漬けを持ってきやがった‼…俺がラッキョウの方が好きだって何で知っていたんだよ‼」


 「それは…お前のお母さんとお父さんが宿舎に尋ねてきた時に教えてもらったんだよ」


 「ぐおおおおおおッ‼あいつら、あれだけ来るなって言ったのにやっぱ来ていやがったのか‼がああああああ‼」


 ベンジャミンは大声で叫びながら地面を転がっている。

 これで36歳というのだから、別の意味で大物だと思う。


 「不味いな」


 しのぶはギャラリーがさらに集まっている事に気がついていた。

 早くベンジャミンを焼却炉にでもぶち込まなければ騒ぎが大きくなりすぎて「チームレスター」がギルドから除名処分を受けるかもしれない。

 さらに付け加えるならベンジャミンが自分の敗北を認めるはずはないので勝負を受ければエンドレスで戦う事になるだろう。


 どうする。八方塞がりってヤツだ。


 「フハハハハハッ‼お悩みのようだな、勇者殿‼」


 店内に響く「銀さん」によく似た杉田風ボイス‼


 キャプテンワカモト対ドクターシリスギタは僕の宝物です‼


 全裸の男が足を組んでそこに座っていた。


 あれれ?あんなところに椅子があったっけ?

 いや違う、よく見るんだ。

 アレは脚の長い椅子じゃない、ヤツの体を支えている”アレ”は剣の柄だ‼


 そうお尻から生えた剣に腰を下ろしているのだ‼


 「お前は…お尻に聖剣が刺さった男⁉どうして町の中にいるんだ‼」


 この町を覆う壁にはモンスターを追い払う魔術を使っているので魔王クラスのモンスターの力でも入ることはおろか近づく事さえ出来ない…そういう仕様だから‼


 「若いな、勇者レスター。この私の瞳を見たまえ‼」


 キラキラキラ…。


 夏の夜空の星のように煌めいていらっしゃる‼


 まさかこれは仲間になる可能性のあるモンスターの瞳では‼


 「そう私はもう野良の聖女系モンスター”お尻に剣が刺さった男”ではない‼勇者の仲魔ブロンディ・ジャクソンだ‼ハーッハッハッハ‼」


 そう言って力いっぱい笑うブロンディ・ジャクソン。


 突如として現れた仲魔、俺たちの戦いは一体どうなってしまうんだ⁉


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