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南洋の決闘 〜日米海軍の一騎打ち〜  作者: 扶桑かつみ


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第三章「始動」(三)

一九四四年七月五日 呉



(局地戦、紛争、事変。いや、今回の場合に限り、本来の意味での戦争行為と考えてはいかん。そう、将棋というより駒の取り合いの西洋将棋、チェスに近い感覚が必要かもしれんな。極論、相手の手を封じ込めて、逃げ切ってしまえば勝ちなのだ)


 金城次郎大佐は、目の前に積み上げられた膨大な紙束と、情報を整理した数枚の報告書を前に、椅子に大きく背を預けつつ物思いに耽っていた。


 彼の仕草は、第三者から見れば書類の前にちょっとした現実逃避をしているようにも見える。

 幸いと言うべきか、先任参謀として個室をもらっているので誰も見ていないが、決して海軍のエリートらしい仕草とは言えない。


 この点に限り、先代の先任参謀黒島亀人に通じるところがあるのかもしれない。


 しかし、金城が今身体の大半をリラックスさせ、余力のすべてを回している頭脳が導き出した答えは、彼なりの堅実さから外れるものではなかった。


 金城が思考を玩んでいると、そこにノック音がした。


 どうぞ、と言うと参謀長の福留繁が入ってきた。


「なんだ、まだ拗ねているのかね」

「はい、拗ねてはいません。ただ、」

「ただ?」互いに今の役職に就任以来、半年以上のつきあいで親密さも増した福留が、柔らかな口調で問い返す。

 福留が出した金城への宿題はいまだに解かれていないが、福留は気にする事もなく持論を曲げてまで金城を支持してくれている。


 そこまでされては、金城も変人と揶揄されがちな行動に気を付けなくてはならない。


「はい、気になります」

「気になるね。どうとでも取れる言い方だぞ。じゃあ、私がしばし雑談に付き合ってやろう。従兵、紅茶と何か甘い物だ」


 福留は一人で話を進めると、扉近くにある来客用の椅子とテーブルに陣取ってしまった。

 金城も取りあえず必要そうなものを掴むと、向かい側に座り込み、机の上を豪快にどけると話の種を並べ始めた。


 金城は馴れた手つきで、これが最初でないことを行動が示していた。


「お、今日はトランプか」


 福留が面白げに、机の上のものを見つめる。

 机の上には、さっきまで金城の机の上にあった数枚の報告書と、机の中にしまってあったトランプがおかれていた。


 福留は、金城のこうした型にはまらない点が気に入っているらしい。

 組み始めてから二ヶ月ほど経った頃に例によって唐突に問いかけてみると、軍令畑一直線は真面目すぎる者ばかり。

 それに引き替え、武官経験のある金城は視点が違っている上に、視野が広いので飽きないのだそうだった。

 そして福留自身も二度目の参謀長拝命に際して、自身もこれまでのように杓子定規ではいけないと思い、こうして金城君に教えを請うているわけだ、と笑って答えた。


 もちろん言葉通りではないだろうが、真面目一本と思いこんでいた福留のそうした姿勢と努力に金城も感じ入り、むしろ面白がるように色々手を変え品を代えて、福留との「雑談」を楽しんだ。


 今回の作戦案も、福留との交流がなければ出てこなかっただろう。

 たとえ、完全に報われない作戦案であったとしても。


「よろしいですか福留さん。今日は世界の海軍兵力を、大上段から見てみたいと思います」


 金城はトランプを大雑把に二組に分けて、一定の規則に則った風においていく。

 そして並べ終えると、これが日本、これがアメリカ、こちらが太平洋、そっちが大西洋という風に指さしていく。



 太平洋

日本:黒カード三枚 赤カード一枚 伏せカード三枚

米:黒カード二枚 赤カード三枚


 大西洋

米:黒カード二枚 赤カード一枚

独仏:黒カード一枚 赤カード一枚

伊:赤カード一枚


 大西洋(中立)

英:黒カード二枚 赤カード二枚


「よろしいですか、黒が空母機動部隊、赤が戦艦の打撃艦隊、裏札が洋上攻撃可能な基地航空隊です。大雑把ですが、現状こんなところでしょう。ああ数字や印は気にしないでください」


「ほんとに大雑把だな。だが、基地航空隊が日本しかないのはナゼだ」笑いながら、福留が相づちを打つ。


「帝国海軍以外は、遠距離進出して雷撃する能力が、大規模に存在しません。アメリカは陸軍が大量の重爆を持っていますが、水平爆撃以上できないのでは、艦隊に対して脅威とは言い切れないでしょう。実際、第二次世界大戦で投入された重爆は、戦力に対して評価できないほどの戦果しか挙げておりません」


「確かに、我が海軍以外は、まともに戦闘艦艇に対する攻撃など行っていないな」

「はい、ドイツも航空雷撃はしましたが、成功したのは相手が単独の輸送船であった場合だけです」

「よし、まあ基地航空隊の事はいいだろう。さっそく始めてくれ」


「では、これは昭和十九年から二十年にかけての半年間の戦力バランスです。日本が基地航空隊の分だけ突出していますが、総力戦でもしない限り攻め札には使えません。誰も使えるのは、艦隊としての札だけです。

 そして、札は相殺しあいますが、札の差が二枚以上に開かねば攻められないと想定します。

 つまり現状は、ほぼ拮抗しています。

 アメリカがどちらかの海を一時的に棄てるか、イギリスが突然アメリカと軍事同盟を組むかしなければ拮抗は崩れません。

 そして本土を人質に取られたも同然のイギリスは、アメリカにもいい顔をしておきたいので、アクシズ寄りの中立を維持するでしょう。

 そして、この大西洋にいるカードの半数が太平洋に回ってきて、日本に対する圧力となります」


 太平洋

日本:黒カード三枚 赤カード一枚 裏カード三枚

米:黒カード三枚 赤カード三枚


 大西洋

米:黒カード一枚 赤カード一枚



 うむ。福留は唸るように頷くに止まった。


 単純に数値に直すと金城の言う通りだ。


 確かにアメリカが現在の対日批判を物理的に実行するには、大西洋の有力な戦力を回すしかない。

 しかし、金城の説明ではアメリカはすべてのカードを失っても日本に勝つことはできなくなる。


「お察しの通り、普通にぶつかれば味方の勝利です。犠牲は少なくないでしょうが、余程の間違いを犯さないかぎり一度は勝利できます。追従ではありませんが、この点閣下の作戦案には非の打ち所はありません」

「しかし、というわけだな」

「はい。私が演習で示した案だと、アメリカは状況を逆転できる可能性があるのです。もちろん、アメリカに私と同じ発想と実行力、そして何より強い意志が必要になります」

「敵は三つとも持っている可能性が高いというわけか」


 福留が届けられた栗羊羹をゆっくりと切りながら、独白するように口にした。


 その間金城は、栗羊羹を一口に放り込んで豪快に咀嚼して飲み込み、同じ事を二度繰り返した。

 しかも、食べ終えた後に紅茶で人心地ついている。

 おかげで、上品な食べ方となった福留も、しばしお茶と茶菓子を堪能する事になる。


 待ちきれなくなった福留が切り出した。


「君にそこまで思わせる何かがあるのかね?」

「軍令部は、現在の太平洋艦隊のスタッフの略歴を見る限り、ハルゼー提督ぐらいしか見るべき人材はいないと見ています」

「司令長官が閑職出身では、という論調だな」

「はい。ですが、切れ者と評判の高い作戦部長アーネスト・キング大将による抜擢人事です。しかもニミッツ提督は、経歴と実績から判断して人事方面強く人心掌握能力も高いと判断できます」

「ニミッツ提督は部下を扱うのが巧く、配下の抜擢人事も行うかもしれない、といったところか。抜擢人事だけは羨ましくもあるな」


 自分自身が、ある種の抜擢人事である事を忘れたかのように福留が呟いた。

 が、金城がまだ話し足りないと言いたげな表情をしているので静かに頷いた。


 それを受けた金城が、少し恥ずかしげに続ける。


「あ〜、その太平洋艦隊の抜擢人事ですが、空母指揮官として有名なハルゼー提督が代表的ですが、私は一人の人物を押したいのです」

「その人物が、君にあの無茶な演習をさせたというわけか。誰だ? 参謀長のスプルアンスか、部隊指揮官になったキャラハン提督も気になるところだが」


 金城は静かに首を静かに横に振った。


「いいえ、作戦参謀のアンダーソン大佐です。実は彼とは一度会っただけのペンフレンドというやつなんですが、私とは妙に馬の合うところがあるのです」

「だから同じ発想を持つ可能性があると」

「はい。しかも馬が合うだけでなく、頭の切れる男です。私が彼の立場なら、間違いなくニミッツ提督に例の作戦案を提出しているでしょう」


 根拠は薄いが、無視もできないか。福留は呟くとさらに続けた。


「だが、我が軍が奇襲を受ける可能性は極めて低いだろう。君の作戦案に従って偵察態勢はさらに強化したし、重要拠点には、ドイツやイギリスから直輸入した電探を中心にした最新の警戒網も構築してある」

「確かに、私の案で採用されたのは、哨戒網の強化ぐらいですね」

「不満か? 潜水艦、電探哨戒船、長距離哨戒機による三重の哨戒線を千島列島から西部ニューギニアギリギリまで引いてある。

 ハワイと西海岸、それにパナマ運河にまで常時伊号潜水艦が張り付いている。内地を中心に、いまだ工事中だが電探網も構築される。アリ一匹とは言わないが、大艦隊の動きを見逃すことはあり得まい」


 福留が何が不満なのかと言いたげに、よどみなく専門用語を並べていく。

 そして福留自身は金城の作戦案よりも、彼の偵察と生の情報を徹底的に重視する姿勢を高く買っていた。

 日本海軍では仮想敵との戦力差からとかく攻撃ばかりが重視されがちだが、彼が何年も前に出した研究書には、偵察をまず第一に置くべきだとする他者にはない合理性と冷静さがあった。

 金城に答えを言ってやる気はなかったが、金城のそうした冷静さと合理性、視点の正しさを福留は買っていたのだ。

 どんな見事な戦術、作戦であっても敵を見つけなければ確かに意味はない。


 だから、二ヶ月ほど前に実施された破天荒と言うべき演習の方が意外なぐらいだった。

 しかし、演習にしても金城の操った米軍は一にも二にも偵察を徹底して聯合艦隊のスキを付いてきており、福留の金城を買う姿勢に変化はなかった。


 福留のそうした思いを込めた言葉に、どこか抜けたところのある金城も気付いた。


「申し訳ありません参謀長。しかし、偵察を徹底する以上、兵力の集中態勢も徹底しておかなくては、広大な洋上での作戦は難しくなります。

 なにしろ、私の案を採用したために偵察のためだけに、五〇隻の潜水艦と七〇隻の電探哨戒艦、そして三〇〇機の偵察機が投入されているのです。しかもこの数は交代用を含めれば、短期的に見ても倍の数に達します」


 いつになく真剣な言葉なので、福留は金城の二の腕を軽く二三度たたく。


「だからこそ、マーシャル諸島には偵察機能以外持たせていないじゃないか。我が基地航空隊の三分の二はサイパン、テニアンに集結中。硫黄島、沖縄に整備した航空基地と備蓄物資によって、台湾や本土待機の残りの部隊も数日で決戦場に赴ける。

 そして我らが聯合艦隊は、内地で訓練に励み、一騎当千の搭乗員の新型機に対する習熟度は味方すら恐れさせるほどだぞ」


 あえて軽口を叩く福留に、金城もいつものニヤリとした笑みを浮かべて応えた。

 確かに最高ではないが最善は尽くした。

 自分の案が通らないのも、時間と予算の制限が一番大きな足かせだったからだ。

 新米大佐の作戦参謀ごとき意見を、司令長官と参謀長は可能な限り聞き入れてくれたのだから、今はよしと考えねばならない。


 海軍は巨大組織であり、盤の上で好き勝手に操れる将棋の駒ではないのだ。



 空気が明るいものに戻ったところで、金城は報告書の方を手に取ると、福留に見せたいところだけ渡した。


 渡したのは、聯合艦隊の編成表と、予測されうる最大級の場合のアメリカ太平洋艦隊の布陣だ。


 アメリカの方は、世界中から収集した情報を可能な限り反映しているので、確度は九〇%以上と判断できるものだ。


 渡された福留は、それぞれと違った感嘆と感慨で表現した。

 聯合艦隊の方は、日本がこれほどの艦隊を編成できるとはという感慨であり、アメリカ太平洋艦隊に対しては、全軍の七割でこれほどの戦力なのかという感嘆だった。


 以下が紙面上の編成になる。



日本海軍 聯合艦隊


 ・第一艦隊 古賀峰一大将聯合艦隊司令長官直率

戦艦:大和、武蔵(旗艦)、信濃

戦艦:長門、陸奥

重巡洋艦:八隻 軽巡洋艦:一隻 駆逐艦:十六隻


 ・第一機動艦隊(第一機動群) 小沢治三郎中将

空母:大鳳(旗艦)、翔鶴、瑞鶴

空母:瑞鳳、祥鳳

戦艦:金剛、比叡

指揮空母:瑞穂

重巡洋艦:二隻 軽巡洋艦:一隻 駆逐艦:十六隻


 (第二機動群)

空母:赤城、飛龍、蒼龍

空母:龍鳳、龍驤

戦艦:伊勢、日向

重巡洋艦:二隻 軽巡洋艦:一隻 駆逐艦:十四隻


 (第三機動群)

空母:加賀、飛鷹、隼鷹

空母:千歳、千代田

戦艦:扶桑、山城

重巡洋艦:二隻 軽巡洋艦:一隻 駆逐艦:十五隻


 (第四機動群)

空母:雲龍、天城、葛城

空母:日進、伊吹

戦艦:榛名、霧島

軽巡洋艦:三隻 駆逐艦:十六隻


付属

軽巡洋艦:一隻 駆逐艦:六隻

給油艦・給油船:八隻


※一 潜水艦隊、第二〜第五艦隊は割愛。




アメリカ合衆国海軍(予測)

太平洋艦隊配備


 戦艦:(十五隻)

アイオワ級:アイオワ、ニュージャージ

サウスダコタ級:サウスダコタ、アラバマ、インディアナ、マサチューセッツ

コロラド級三隻、テネシー級二隻、ペンシルヴァニア級二隻、ネヴァダ級二隻


 空母:(十隻)

エセックス級:エセックス、イントレピット、フランクリン、タイコンデロガ、ハンコック

ヨークタウン級:

エンタープライズ、ホーネット、ヨークタウン

サラトガ級:

サラトガ、レキシントン


 軽空母:(十三隻)

ラングレー、ロングアイランド、アーチャー


 大西洋艦隊配備


 戦艦:(八隻)

ノースカロライナ級二隻、

ニューメキシコ級三隻、他旧式戦艦三隻


 空母:(七隻)

エセックス級:ランドルフ、バンカー・ヒル

他:ワスプ、レンジャー


 軽空母:アヴェンジャー、バイター、ダッシャー


※二 巡洋艦、駆逐艦、潜水艦は詳細不明も多く割愛。



「いや、どちらも豪勢なものだ」

「まあ、互いに一回きりの戦闘しか考えていない装備と編成という想定ですから、否応なく先端部に戦力を集中せざるをえません」

「ハっ、金城君は流石に冷静だな。しかしこの上、それぞれの空母艦載機と基地航空隊が加わるのだろう」


「はい。日本が空母艦載機が約一〇〇〇機、基地航空隊が約一五〇〇機。基地機の方は、三分の二をサイパン、テニアンに置き、残りの半数が純粋な偵察部隊で、半数が内地と台湾です。他は、未動員部隊と教導部隊を除けば基地機能のみ。

 アメリカの方は、ハワイから続々とグァムに航空機が運ばれていると言う情報があります。数は推定で三〇〇機。ほとんどが海軍所属です。フィリピンには、外交を考えフィリピン国旗を付けたアメリカ陸軍の大規模な戦闘機隊と重爆が見られますが、防空と偵察部隊を出るものではありません。それ以上置けば日本とアメリカは全面戦争で、喜ぶのはドイツぐらいです」


「どちらも、限定的な洋上決戦のみを指向しているというわけか。絵に描いたような漸減邀撃ができそうだな。しかし、がっぷり四つに組めば攻める側の米国が不利なのは動かないな。どう出ると思う」


 福留が報告書を机に置いて、視線を金城に据えた。


「そうですね。アメリカ政府の方針に正面から従うなら、支那のどこか主要都市を目指さねばなりません。しかし、イギリスが中立を維持する以上、香港には入れません。となると、フィリピン周りのルートを取る可能性は低いでしょう。それに、危険極まりない任務であり正面玄関から行けと言われたら、私なら断固反対します。それよりも」

「それよりも?」福留が、金城の茫洋とした表情の顔から淡々と漏れる言葉を促す。


「はい。それよりも、聯合艦隊主力がパラオなり日本本土なりから来援するまでに、可能な限りこっそり近づいて後先考えずにマーシャルからマリアナ諸島にかけて殴りかかって、後は勝ち逃げします」

「ハっ、勝ち逃げか。で、後はどうする。航空隊を補充して再度来援するか。米国は五分以上の戦いができそうだが」


「それも手ですが、私が大統領ならアメリカが軍事力で何かをできるか示した時点で満足します。何度も襲来しては戦闘が長引いて、やはり全面戦争になります。あとは、強気の外交で押せばいいでしょう。恐らく近衛内閣なら弱腰になる可能性大です。太平洋を守る楯の方が半壊するのは確実ですからね」


「そこまで分かっていて、なぜ航空隊主力をマーシャルに置かず、聯合艦隊主力をトラック諸島に配しない。短期決戦いや一回きりの局地戦を目指すなら、前に置く方が合理的ではないか」


「トラックなどに置いたら、一番大事なものを最初に壊してくれと言っているようなものです。アメリカは最悪太平洋艦隊と聯合艦隊が相打ちでもいいのです。それなら戦力差に相対的変化はなく、日米の国力差から軍事力の回復には五倍以上の差がありアメリカ有利です。しかも、トラックでは、最悪奇襲攻撃を受けて戦う前に勝負が付いてしまいます」


「演習で君がやった事の一つだったな。しかし、国家で語るならドイツの事も考えるべきでは。米国海軍が壊滅すれば、ヒットラー総統なら積極的に動くのではないか」

「英国も動くでしょう。日本海軍が壊滅すれば天秤を揺らす可能性が大です。英国がアメリカ寄りの声明を発表するだけで、欧州は動けなくなります。日米相打ちはアメリカに利益があり、日本との正面決戦にも意味が出てきます」

「けっきょくは、何度も論じられた事の繰り返しだな」

「う〜む」ああ言えばこう言う状態の問答に、福留が少し間を入れる。


「しかし、本当にマーシャルとトラックに主力を配していては、戦略的な奇襲を受けた場合、我々は完全な道化と化してしまいます」

「北太平洋周りで米太平洋艦隊が日本近海に出現したら、か。可能性は本当にあると思うか。夏でも北太平洋は時化やすいし波も荒いぞ。我々ですら苦労しているのだ、米国艦隊が航路の面だけで危険を冒すと思うかね」

「危険を冒す価値はあります。いや、あったでしょう。もし従来の方針通りマーシャルとトラックに兵力を置いていたら、海軍は為す術がありませんでした」

「海軍はそうかもしれないが、内地の特に関東地方には陸軍航空隊の主力が配備されている。一度の空襲ぐらいしのげるだろう」


「では、艦砲射撃は? 帝都は丸焼けですよ」

「それこそ全面戦争だ」

「しかし、開戦初日で敵国の首都を攻撃し、軍事力と工業力、経済力に極めて大きな打撃を与えられます。さらに、政治的なアドバンテージすら得られると言うのならば、全面戦争の可能性があっても奇襲攻撃する価値はあるでしょう。蛇を倒すには、牙を剥く前に頭を砕くのが一番です」

「金城君は、そこまで考えていたのか」

「あくまで可能性の一つです。しかし、もし今言った事をされたら、日本はそのまま降伏するかもしれません。御上すら人質に取られたようなものですからね」

「まさに、第二の黒船だな。そこまで考えて艦隊を内地に置いたのか」

「はい。それもありますが、もう一つ危惧する点があるのです」


 福留は首を少し傾げるだけで答えを促した。


「もしアメリカが、聯合艦隊も日本本土も無視した場合、いったい我々はどうするべきでしょうか」


 金城は淡々と言い切ると、最後の栗羊羹を丸ごと口の中に放り込んだ。


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