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勇者転生ライブリンガー  作者: 尉ヶ峰タスク
第四章:分かたれた者
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98:魔王、出陣!!

 私、ライブリンガーが見上げる中、先頭を切って上昇するセージオウルから光がこぼれ、輝く気流を受けたファイトライオから炎が溢れ出す。輝く風に踊る炎を浴びたガードドラゴは燃え盛るエネルギーを水で包む。

 熱せられた水が風の巡りを生み出し、その気流がまたも炎をうねらせる。この循環がそれを生み出す三体の聖獣を包む。


 ガードドラゴは分厚く頑健な体を大きく二つに割って巨大な足と腰に。ファイトライオもまたライオンヘッドを肩アーマーとした右腕と、左腕に分離変形。そして翼を上に伸ばした形で体を折り曲げたセージオウルが腰から下を成すドラゴボディと重なり、ライオの両腕に挟み込まれる。

 続けて胸を竜の顔の浮かぶブレストアーマーが覆えば、頭に翼を生やした細面が現れ、周囲を巡る循環エネルギーを吸収。その目を輝かせる。


三聖合体(ライズアップ)! ミクスドセントッ!!」


 そして梟の杖に竜の盾を継ぎ、獅子の斧を刃とした大斧を手に、高らかと名乗りをあげるのだった。


「おお、勇者ライブリンガーと三聖獣の合体巨神の揃い踏みだッ!」


「それに新たな鋼の勇士も加わったのだ。勝てる、我々は勝てるんだッ!」


 ディーラバン、そしてクァールズと対峙する私たちの姿を見上げて、ヤゴーナ連合軍の人々から期待の声が上がる。


 ああ。勝利を願ってもらえるというのは、いつでもいいものだな。


 そうだね、グリフィーヌ。皆の願いを背負った以上は負けられないと私の心もキミに劣らぬほどに燃えている!


「突撃だ! 門が破れた今こそ鋼魔の居城に乗り込み、征する時……」


「フッハハハハハ……随分と威勢のいい声が聞こえているが、もう勝ったつもりでいるか?」


 自分達の戦意を煽り立て、私たちを後押しする声を遮って、ズシリと響く声が火山から。

 開け放たれた城門を口にして、山そのものが喋っているのか。そんな錯覚をしかねない程の威圧感を持った声の主が、重々しい足音を伴って(おもむろ)にその姿を現す。


 フルメタルの白銀の巨体と、それに輝く毒々しい緑色の結晶体。合体した私よりもいくらか大きな巨体は、その実態以上の大きさと密度をもって配下たちを足元に従えている。他でもない、鋼魔王ネガティオンが、自ら城を出て出陣してきたのだ。


「自分達の力でない勝利で我が居城にたどり着いただけでこの思い上がり。どうやら我の与えた恐怖がよほど温かったと見える」


 ネガティオンは言いながら攻め手として寄せる連合軍の人々を悠々と眺め、そして足元に侍る黒の片割れにその目を留める。


「お前はまた今回も随分と煮え湯を飲まされたようだな、クァールズよ」


「お、仰るとおりでー……ゆ、許してください」


「ふん、構わん。元々この門など破れようが破れまいが、どちらでも同じことなのだからな」


 平伏し、許しを乞うクァールズに、ネガティオンは叱咤するほどの失点ですらないと流す。そんな、あの門を破るために、私たちをその奥へ通すためにどれだけの犠牲が出たと……!


「どういう意味だよ! どっちでもおんなじだって! ボクらがムダなことしたって言うのか!?」


「ほう? 勇者の友の筆頭、ビブリオだったか。我を前に怯まずにいるとは、勇猛なことだ」


 私の先を越して問い詰めるビブリオに、ネガティオンは支えになっているホリィと一緒に見下ろして、人間にしては気骨のあることだと、その目を悠然と瞬かせる。

 高みからの拍手でも贈るかのようなそのリズムに、ビブリオは押し潰すような圧力を反感で押し退けて前に。


「そんな言い方で誉められたって嬉しくなんかあるもんか! そんなことよりボクが聞いたことに答えてよッ!?」


「……幼いために怖さを知らんのか、いや、怖いと震えながらなお噛みつくか……どちらにせよ少年、お前への答えは簡単なことだ」


 ビブリオの剣幕に肩をすくめて見せて、ネガティオンは左腕を変形させて砲口を露に。とっさにビブリオを庇いに前に出た私だが、鋼魔王は半身に振り返ってアームカノンを後ろへ、自分の出てきた城門へ向けて放った。

 火山内部に注がれた破壊力はその内部で爆発。洞窟を崩落させ、瓦礫で出入り口を塞ぐ。もちろんそれだけで済むわけもなく。その後も足にじわじわと長く伝わり続け、さらに徐々に強くなってゆく地響きに、私の感じた嫌な予感は確信になる!


「ネガティオン、貴様、なんてことをッ!!」


 これから確実に起こる大惨事に、私はその引き金を引いた者を非難しつつ急上昇。併せて、ダブルのシールドストームを帯びたロルフカリバーを振り上げる! そして大きく伸びた守りの嵐が、爆発的な勢いで山頂から吐き出されたマグマを切り裂き吹き飛ばす。


「スプラッシュプロテクションッ!!」


 同時に同じく危機を察していたミクスドセントも大斧を地に突きドラゴ由来の防御技を展開。波紋の如く広がった守護の力がヤゴーナ連合の軍勢を保護する。

 これで降り注ぐ火山弾の猛威はとりあえず凌いだ。だが虚を突かれたとはいえ、こんな惨事を起こさせてしまうとは、悔やんでも悔やみきれない!


「お前、何をするんだッ!? お前らが城に、家に使ってたんだろ!? あんなことしたら、全部溶岩で埋まって……」


「そんなこと、お前に言われずとも分かっているぞ少年。だからこそ片付けの手間が省けて丁度いいというものではないか」


「何を、言って……」


「だから簡単なことだと言っただろう? もはや用済みであるのだから、最後に有効活用した。それだけのことだ。ライブリンガーと人間どもの主力を引きつけ、一網打尽にするためにな」


 信じられないと、ビブリオがよろめいたところで、ネガティオンは全てが手のひらの上なのだとばかりに畳みかけてくる。


「つまり我々は貴様に誘われるまま、人々と共に自ら死地に飛び込んだと、そう言いたいのか!?」


 絶句するビブリオに代わって踏み出し問い詰めるミクスドセントに対して、ネガティオンはようやく気付いたかと肩を揺らす。


「負けが込んでいれば、それはそれで活かしようがあるということだ。もっとも、予感があったところでお前らには止められなかっただろうがな。人間どもにその力を利用されているお前らには、な」


 この言葉にミクスドセントは痛みをこらえるかのように呻く。たしかに快進撃の中で慎重論を唱えて士気を落とすわけにはいかなかったのは事実だ。だが一点、どうしても訂正しておかねばならないところがあるぞ。


「利用されているだなどと、そんなことはない! 私たちは自分の意思で人々を守るために、戦っているんだ!」


 そうだ。魔獣を操り、人々を蹂躙するネガティオンの行いを許すことができないから立ち向かっているのだ。その結果外からどう見えようと、私の意思であることには変わりない!


「なるほど……ならばその意思のままに人間どもを守って見せるがいい」


 この一言を合図としたかのように、連合軍の外周で爆発が起こる。

 軍勢とぶつかっていた魔獣すらも吹き飛ばした爆発。その中から伸び上がるようにして現れたのは鋼の壁だ。高く、大きく、分厚く。とても人間業では破れそうにないそれらは、互いに伸びて隣の壁との隙間を埋めて、連合軍を包囲、閉じ込める。ただ唯一開いている箇所、山頂から流れてくる溶岩を迎える山道を除いて。


「さて、このまま流れる溶岩が壁の内に溜まれば、人間などひとたまりも無いだろうな」


 この言葉を受けて、爆発に固まっていた連合軍の兵士さんたちは、我先にと転がるように散らばって壁を破るなり乗り越えるなりを試し始める。

 その混乱の様に一笑いするも、山を肌を伝い流れてくる溶岩を一瞥し、山裾の自分の塞いだ出入り口に今一度砲口を向けた。

 まさか、ネガティオンめ! なんということを思いつくのだ!?


 溶岩流をほど近くからも吹き出させるつもりなのだと悟った私は、マキシマムウイングのパワーを全開に急降下。交差する反作用エネルギーを纏わせた(ロルフカリバー)で斬りかかる。


「ネガティオンッ!!」


「そう来るだろう。そうするしかないだろうな、ライブリンガーッ!!」


 私の急降下クロスブレイドに対して、ネガティオンは待ち構えていたように毒々しい緑に輝くイルネスメタルブレードを抜き打ちに合わせてくる。

 こちらもまた破壊と守り、反発する力を合わせたケイオスストリームを帯びた、言わばネガティオン式クロスブレイド。

 同質の力を乗せた刃がぶつかり、グリフィーヌ、そしてロルフカリバーのパワーの上乗せによって拮抗、つばぜり合いとなる。


「さらに力を増したか、ライブリンガー!? それほどの力、人間などを守るのに使うとはもったいないことをッ!?」


「そんなことはない! 貴様こそ、強大な力を殺戮と破壊のために振るうばかりでッ!!」


 同じ力と相反する言葉をぶつけ合った私はこの均衡を破るため、さらに身体ごとに刃を押し込む。しかしその動きはネガティオンも同時に。そのために私たちは互いにその額を、対になる石と金属を叩きつけ合うことに。

 その瞬間私の視界は、朝焼けと濁った緑の光を捻り合わせたかのような輝きの濁流が埋め尽くされてしまった。

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