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勇者転生ライブリンガー  作者: 尉ヶ峰タスク
第四章:分かたれた者
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87:からくり仕掛けの封印

「また随分と派手に掘り進めたものだね」


 私たちがロルフカリバーと斥候コンビの案内を受けて向かった先。それはキゴッソ城の軸である大樹の根。マックスの私と並ぶほどの高さにまで至ったモノ二つの間にある穴だ。

 調査のためスロープ状に整えられたそれは一度目に取り戻した時には無かったものだ。ディーラバンらを退去させたのちに発見されたこれを調べた方が良いとセージオウルたちが特に力を入れて調べていた場所だ。

 そうして整備された地下への道を下って行った先に、目的の場所があるのだ。


「なるほど、これはたしかに凄そうだ」


「だろう? そうだろうとも!?」


 それを見上げたグリフィーヌの一言に、ウェッジはどうだとばかりに胸を張ってみせる。

 凄い遺跡だと見せられたのは巨大な扉だ。人型の私たち程度の背丈が適正サイズと言うだけあって、常人が扱うことはまるで想定されていない風の代物である。

 金属のようにも石材のようにも見える扉板の表面には意味ありげな紋様が刻み込まれている。たしかに、この大仰なサイズといい紋様といいこれはいかにもな、なにかありそうな雰囲気だ。

 この発見物に感心しながら近づいていくと、扉を調べていた白い賢者風の鉄巨人が気づいて梟の杖で地面を突き鳴らして振り返る。


「ホッホウ、ライブリンガーか。呼び出しご苦労だ皆の衆」


 人型モードのセージオウルが、ロルフカリバーと斥候のコンビを労いつつ私たちを迎えてくれるのに、私もまたチェンジ。片手をあげて応じる。


「やあ。またすごい扉を見つけたものだね」


「ホッホウ。いやまだ中を調べられていないので、物々しい雰囲気だというだけなのだがな」


「では、もう開けてしまえばいいのかな? 私は開けて何かあった場合の備えなのだろうし」


 この扉に対する自分の役割を察した私は、グリフィーヌとうなずき合って扉に向かおうとする。


「ああ、いや待った。それはその通りだが、ちょっと待ってくれ」


 だがいざ取り掛かろうというところでかかった待ったの声に、出ばなをくじかれたような気分になって振り返る。……と、グリフィーヌ、目の点滅以外でも表情が出るようになっているんだから、その顔はやめよう。気持ちはわかるけれども迫力がひどいことになってるから。


「いや、見るからに貴重だろうから力任せに破るつもりは無かったけれども?」


「ホッホウまあそうだろうが、ちょいとその真ん中あたりを見てくれ」


 グリフィーヌをなだめつつ理由を尋ねて示された点を見てみる。

 周囲の紋様に紛れて見落としてしまっていたが、そこは四つの輪が年輪のように広がり連なる形で配置されている。中央は三方向を向いた犬か、狼の顔の彫刻のみであるが、その他三層の輪は紋様がとぎれとぎれになっている。


「扉に描かれた文字によると、その部分がからくり錠になっているようでな、この奥へ進もうとするならばこれを解かねばならんのだよ」


「文字!? これが?」


 戸を開くからくりであるというのはそうだろうと思っていた。なので彫りこみの壁画だとばかり思っていたのが文字で取説なのだということに驚かされた。

 だってそうだろう。ヤゴーナに属する諸国で使われている文字は一通り見せてもらって覚えたが、こんな絵同然の文字は無かった。簡略化し、派生しただろうものを含めてだ。


「へぇ古代の遺失文字、ということなのね」


「わっほい! なんかそんなの聞いたらワクワクしちゃうな!」


「ホッホウ、そう言うことだな。ほら、ソコとソコ、あとソコのは見えるか? この古代文字の一字はおよそ三つのパーツで構成されていてな。今指したのは「天」という意味のものが共通して使われているのだよ」


 ホリィとビブリオに向けて古代文字を写し取った光の玉を浮かべて解説するセージオウルが言う通り、例に出したものには確かに、フクロウの横顔と見える共通のパーツがある。

 意味を持つ絵をパズル的に組み合わせたもの。そう言われればなるほど、文字として認識もできるし、意味さえ掴めれば文章のニュアンスも大体は掴めるかもしれない。


「でもなんでセージオウルはコレが古代文字だって分かったの? そりゃ一定間隔で並んでるし、同じ組み合わせのも出てくるからよく調べれば文章かも? とは思うかもだけど」


「分かった、というよりは知っていたから、だな。これはかつての大災厄の時代、私たちが石の眠りに着く以前の時代に用いられていた文字でな。だからドラゴもライオも読めるぞ。むしろあの二人は、まだ現代の字よりもこちらの方が読みやすいくらいかもしれんが」


 ホッホウと笑い飛ばしながら、また軽く聞き流せはしないことを言う。


「ということはつまり、この遺跡は現在伝説になっている時代に造られたものだということか?」


「ホッホウ、まあ近い年代のものであることは間違いないな。戦いの後、私たちが眠りについたあとのモノなのだろうが……」


「はっきりしないな。どういうことだ?」


 明言を避けるような物言いが引っ掛かったのか、グリフィーヌがビブリオたちとそろって首をかしげる。この疑問符にセージオウルは申し訳なさそうにうつむく。


「この遺跡のことを私は知らないからな。しかし、永い年月と分身作りの間に欠落した知識の中に無かったとも限らない。正直なところ断言できんのだよ」


「知ったかぶりで語られるよりはいい。が、やはりと言うべきか知らないこともあるものなのだな」


「ホッホウ、見てくれと称号はそれらしいだろうが。これでいて戦って生き足掻くことを尊び、選ぶ程度には愚者なのでね。知ってることしか知らぬよ」


 そうして翼持ちたちは軽口を交わし合う。


「そう言うからには、セージオウルもこの扉に書かれてる内容以上のことは知らないということか」


「あいにくとな。こればかりは開けてみないことには推測することしかできんよ。この奥にあるものが鋼魔が……ネガティオンが、大樹を破壊しなかった理由なのだろうということくらいしかな」


 仮に扉の奥にあるものを欲していたのだとすれば、ネガティオンに捜索する時間は充分にあったはず。この場所が私たちに見つかるまで手付かずである理由はない。であればこの扉そのものがあること、壊れず、開かずに保存し続けることかといえば、私たちに奪還させていること自体がおかしい。ディーラバンにも理由を明かすかまではともかく、明け渡さないように厳命するはずだからだ。

 なるほど、分からん。セージオウルならもっと別に見えているものもあるのかもしれないが、ここでいくら推測を捏ねていたところではっきりしたことは何も分からないな。


「ともかく、これ以上の情報が欲しいなら錠前のからくりを解いてこの奥を調べてみるしか無いようだね」


 ならば解くしかないだろう。というわけで、私は三つの輪に挑む。しかし伝説の時代に近いものなのだから、どれだけ朽ちているか知れたものではない慎重な力加減で、ゆっくりと輪を回していく。

 この私の動きは力加減は繊細ながら、端から見ればずいぶんといきなりに見えただろう。ホリィやビブリオはぎょっとなってしまっている。


「もう分かったの?」


「試してみてもいいだろうと思った、その程度の見当だけれどもね」


 驚かせてしまったのはすまないと思うが、ちょっとこの気づきには自信がある。

 中央の三つ首犬の彫られた円を含め、四つの輪には一面絵のような文字がビッシリだ。その中には円の境界で引き裂かれているモノも多く、正しい位置に合わせることで本来の意味を示すものになるのだろう。それもヒントではあるのだろうが、しかし私の閃きの決め手は別だ。

 数多の絵のような文字の中には、三つのパーツでなく単独の絵のみのものが混じっているのである。


「内側からドラゴと、獅子ライオと、オウル! これでどう、かな?」


 三聖獣を象ったらしい彫り込みを、三つ首犬を一番下にして縦一列に。するとからくり錠の奥から、何かが噛み合ったような重く鈍い音が鳴る。


 一発で見当通りに正解を引き当てたらしいこの反応に、この場の仲間たちからは感嘆の声と拍手が。これには私も鼻が高くなるような、一方で面映ゆいような気持ちになる。


「……で、もう押したりしていいの?」


 しかし噛み合ったことを知らせる音だけで、あとは一向に動かない扉に、ビブリオが首をかしげる。

 これには私も自信が持てずに首を捻って返し、グリフィーヌやホリィ、ロルフカリバーとも顔を見合わせ首傾げ。そして首捻った仲間たちで一斉にセージオウルを見る。

 自分以外の全員から、いいの? と尋ねる視線を受けて、シロフクロウの鉄巨人はその目をゆったりと点滅させる。


「まあ待て待て、出来上がった円も読んでみてからで遅くはない……ふむ、欠けはあるが、おそらくは命の輝きを、夜明けの光を注ぐべし、とあるか」


 夜明けの輝き、となると、この状態で日の出の光を当てればいいと?

 時間までに鏡を用意しないといけないのか?


「いやいや、ライブリンガー。ここまで来てそれはないでしょ」


 呆れたように言うビブリオだが、私には何が違うのか分からない。そんなピンとこない私の顔に、ビブリオもホリィもセージオウルもしょうがないなコイツという風に顔を見合わせる。


「素直なのは良いことなんだけれど、ちょっと文言をストレートに聞きすぎじゃない?」


 そしてそれぞれに持つバースストーンを示して見せてくる。

 なるほどたしかに朝焼けのオレンジ色。夜明けの光と呼んでも間違いないか。それにセージオウルたち三聖獣を象った彫刻もある。彼らの力と命の根源である石の力が関係するのも道理だ。

 すっかり感心してしまったが、ふとグリフィーヌやロルフカリバーが気まずそうに目を逸らしているのを見つけてしまう。つまりは日の出の光が必要だと、用いようと思っていたのは私だけだということだ。


「ンンッ! ……バースストーンの光が鍵になる、というのは充分にあり得そうだ。試してみることにしよう」


 やってみようと私が促すのが、誤魔化しも兼ねているというのを見抜いているのだろう。仲間たちは苦笑交じりに賛成してくれる。

 見透かされている感に気まずさはある。けれどもその辺りは押し通して仲間たちと息を揃えてバースストーンの輝きを高め、からくり錠に浴びせてみる。

 するとどうか、年輪のように重ねられた円は互い違いに回転。そのままネジを進めるように中央から奥へ奥へとずれていく。やがてその動きを止めると、扉奥に沈んだ円の部分のみが重々しい音と共に下へ沈んでいく。そうしてぽっかりとからくり部分の抜けた扉も、また重々しい音を立てて左右に割れて両脇の壁の中へ。

 封を解かれて現れた道は下り坂。より深く、より暗きへと導く道だ。

 このものものしい雰囲気に、ホリィとビブリオばかりか、私も機体の奥が冷えるような感覚に震える。それはグリフィーヌやロルフカリバー、セージオウルたちも同じようで、皆光の絞った目を暗い坂の奥へ向けている。


「……さて、行こうか」


 しかし戦慄してばかりもいられない。この遺跡の奥に、鋼魔が大樹を伐らぬ理由があるのか、それははっきりさせておきたい。

 そのために私は夜闇を払うように強めた光を下り坂の奥へと注いで、足を踏み出すのであった。

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