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勇者転生ライブリンガー  作者: 尉ヶ峰タスク
第四章:分かたれた者
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83:思いがけない提案

「流石に出し惜しみなしで来るかッ!?」


 合体ライズアップしてライブリンガーマックスとなった私の前には、巨大化した私をして見上げるほどの壁が。

 それは象やサイ、イノシシらしい魔獣を各種ごと複数体メタルコーティングした合体バンガードたちだ。

 各個体をピースに強引に噛み合わせ、溶接。そうして形作られた歪な人型のシルエットたちはその全てが私の顔の高さに胸部を置くほどに大きい。

 この立体パズルめいた巨体たちは、その胸に当たる部位についた頭の両目をギラつかせると、雄叫びを上げ一斉に私へ踏み込んでくる。


 ビリビリと叩きつけてくるような叫び声と地響きとともに、稲妻や火炎などの無数の魔力弾が迫る。私はこの段幕をプラズマショットで相殺、打ち落としながら、破壊の左回転をまとった右のアッパー。拳として落ちてきた象の顔面を打ち砕く!

 これに跳ね返るようにバタバタと後退りするのに、畳み掛けの左拳を。

 しかしそこへ割り込んできたサイの寄せ集めに左腕を使わされ、追い撃ちはならず。おまけにめり込んだ左腕を、サイの塊は繋ぎ目に挟み込むようにして捕まえにくる。


「バスタートルネード!」


 これを持ち上げ、左ローラーの左回転を全開。爆発的に広がった破壊竜巻で強引に振りほどく!

 だが拳を突き上げたことでがら空きの胴へ、強烈な水圧弾と象の蹴りが撃ち込まれる。


「はっはっはー! いいぞいいぞー!」


 私が声の漏れるのを堪えきれずに踏ん張る一方、ご機嫌な笑い声を上げるのは青い戦士にチェンジしたグランガルトだ。

 厚みのある力強いボディをトゲトゲと飾った厳つい風貌……であるのに毒気を抜かれるはしゃぎ声を上げながら、ワニの戦士は私でも重く感じる水圧を浴びせてくる。

 これに私が足を鈍らせた間に、修復を済ませたバンガードの巨体がその質量に任せて私のマックスボディを殴り付け、押さえ込みに。


「クッ……せめてグランガルトも近づいてきてくれたのなら……!?」


 ライブリンガーマックスである今の私なら掴み倒すなどして隙を作り、その間に大技で合体バンガードの核を壊すこともできるだろうに。

 しかし今の彼は、私を的にした水鉄砲遊び――と言うには少々物騒にすぎる威力ではあるが――を楽しんでいて、いつもの調子で食らいつこうとはしてこない。少なくとも、飽きるまでは合体バンガードの大質量に苦心する私を的にして遊び続けそうな様子だ。


 しかし援軍は望めない。

 こじ開け、マキシマムウイングに合体しようにも空のグリフィーヌもまた飛行型の合体バンガードを相手にドッグファイトの真っ最中。

 では三聖獣はと言えば、相手がクァールズがフォローに回っているという違いはあれど、同じような状況だ。

 加えてロルフカリバーも、ビブリオたちの守りに回しているのでとても呼び出せたものではない。


「クッソ! あの牛野郎め、なにが手柄争いで連携も何もないだ! バッチリじゃねえかよ!」


 完全に抑え込まれてしまった現状への苛立ちに、ファイトライオの吠える声が聞こえる。

 嘆いてどうなるものでもない。が、この情報の食い違いには叫びたくもなるだろう。


 捕虜にしたクレタオスから聞き出した情報から、役割分担程度でも連携し始める前にと、私たちは奪還の手を早めた。

 それで大物バンガードの登場に私たちの仕事だと勇んで取りかかったところ、人間軍に向かうクァールズとバンガード、空から人間たちを狙う大物、さらに人間軍を襲う魔獣の群れがおかわりと、あれよあれよという間に戦力を分断させられてこの有り様だ。

 私もどうしてこうなったと叫びたいくらいだ。


 いや、どうしてこの状況に至ったのかは分かっている。結局私は慢心していたのだ。警戒を口にしながらクレタオスからの情報を正確無比だと疑いもせず、大勢の命とともに敵地へ進んだ。

 そんな浮わつきのツケがコレだ。情報の裏取りも不十分なままにして、キゴッソ城へ向けた連戦連勝の快進撃に浮かれていたから!


 だが現状を嘆いていてもどうなるものではないと私自身が思ったことだ。今やるべきは反省にかこつけて過去の自分を責めることではない。いかに味方の犠牲を抑えて現状を打ち破るかだ!


「邪魔をするなッ! ダブルバスターッ!!」


 腹を決めた私は左右から押し潰しに来た寄せ集めの巨体を左右の破壊竜巻をかち上げ、吹き飛ばす。

 砕けて朽ちるイルネスメタルを渦巻き散らせて怪物たちが天にきりもみに舞い上がる一方、腕を振り上げた私を羽交い締めにするものが!?

 それは象型魔獣の固められたバンガードだ。破壊竜巻の余波で削れた腕部分をイルネスメタルの拡大増殖で補いながら、自在にしなりうねる鼻を私のマックスボディに絡ませ縛り上げる。


「しまったッ!?」


 足を浮かせるこれを、私は強引に振りほどこうと力を込める。が、その瞬間を狙い済ましたかのように水流が私の機体を軋ませ、同時に節を連ねたような象の鼻から電撃が流し込まれる。


「いいぞー! そのままなー!」


 視界が弾ける中、はしゃぎ声に続いて繰り返し水圧が叩き込まれる。その度にまるで射的の命中エフェクトのように合体象のバンガードの電撃が発動、私の目の中を弾けさせる。


「があッ!? グランガルト、教えてくれ……こんなことをして、何が楽しいッ?」


 水圧と電撃とで声が飛ばされ、途切れさせられてしまう有り様ながら、私はグランガルトに問いかける。

 するとグランガルトは圧縮水球を放つ手を止めて首をかしげる。


「なにが楽しいって? それはーうーん……聞かれるとむずかしいなー。グワーって鳴るから? ビカって光るからかー?」


 グランガルトはそのまま攻撃するのも忘れて、うんうんとうなり悩み始める。隙だらけのチャンスじゃないかと言われてしまいそうだが、このタイミングで説得続行以外はしてはいけない。そんな気がする。


「他に楽しみ方を知らないのか? たとえば物を作ってみたりとか、声を出させるのも笑い声にするとか」


「モノつくるのはむずかしいぞー。それよりこわすのが楽しいなー! グシャーッバキバキーってハデにふっとぶとおもしろいぞー!」


「壊すのが面白いならそれでもいい。壊すことで作れるものだってあるんだから。それで聞こえるのが泣き声になるのと、ありがとうって言葉になるの、グランガルトにはどっちがいい?」


 新しい何かを作るため、今あるものを壊さなければならない。それは往々にしてあることだ。まずは感謝される喜びを知り、そのために得意分野を活かすことを知ってもらおう。

 グランガルトになら、そんな楽しみを知れば殺戮の先鋒に立つことは無くなるはず。そう信じての説得の言葉である。

 グリフィーヌも、バースストーンをコアに生まれ変わる前から人々と共にあることはできたんだ。鋼魔だから人と共存、もしくは平穏な住み分けができないと言うことはないはずだ。


「それはおもしろそう、だけどなー……ネガティオン様がコワイからなー……それに、うらぎるのはいけないことだろー?」


「そうだね。裏切るのは良くないことだ」


 グランガルトの大いに揺らいだ言葉に、私はうなずくしかなかった。

 そして同時に思ったのだ。鋼魔族の殺戮を止めるためには、まずネガティオンを心変わりさせるか、その権威を消し去ってしまわなければならないのだと。


 しかし私がそう決意した瞬間、私を締め上げる象の鼻の数々がその力を強め、電撃を流し込んでくる。

 これに私が声を上げると、グランガルトは我に返って圧縮した水の玉を構える。


「ッ! これまでか!」


 とは言ったが、私の命の話ではない。

 私はマックスボディ腰部のプラズマショット砲口を後ろへ向け連射!

 これに象バンガードの鼻がわずかに緩んだ瞬間を逃さず、アームローラーを全力回転。腕を縛るものを破壊竜巻でバラバラに。


「おおおッ!!」


 地を踏むと同時に反転、その勢いをのせた拳に合わせ、象バンガードへバスタートルネード!

 この打撃の勢いで象の寄せ集めは吹き飛んでいく。その巨体から合体の核であるイルネスメタルの破片が飛び散るのを尻目にバックナックル。グランガルトの水の砲弾を殴り散らす。

 その勢いのまま私はグランガルトへと踏み込んで――。

 唐突に現れた黒いモノにグランガルトの姿を遮られてしまった。


「なんだ!?」


 割り込んできたこれに私は急ブレーキ。しかし急に止まれるはずもなく体当たりにぶち当たる。すると黒いモノとぶつかった瞬間、その威力がまるごとそのままに跳ね返ってくる。

 反動も加えて真っ向から殴り付けるその威力に押し戻されて、私はたたらを踏みつつも倒れずに構え直す。


 そんな私の目の前にあったのは黒い一枚板、いやサイズからして壁と呼ぶべきものだった。


「うあー!? はねかえりだー!? ディーラバン、いきなりヒドイじゃないかよー!」


 深く光を吸い込むような黒の向こうからは、私と同じように反射を受けてしまったのだろうグランガルトの声が。

 その中には聞き捨てならない名前が含まれている。


「ディーラバン? 鋼魔の近衛というあの……」


 グランガルトの口ぶりからするに、目の前の黒い壁はディーラバンの能力なのだろう。つまりはこの近くにまで来ているということになる。

 いるとして何処に。

 そう思って私が警戒の構えを取っていると、不意に黒い壁の表面が波打つ。


 すわ攻撃か。

 先の反射もあって、私はとっさにアームローラーの回転を上げる。だが波打った黒い壁から出てきたのは私が警戒したものではなかった。


「……こちらはネガティオン様より大樹の城を預かったディーラバンである」


 静かな名乗りの声。それは正面ばかりでなく、上に後ろに左右とそこかしこから聞こえてくる。

 これに見上げて見れば、上空のグリフィーヌとバンガードの間にも私の前にあるのと同じ黒の壁が。おそらくは戦場のそこかしこに、両陣の衝突点のことごとくを引き裂く形で、この黒い壁が現れているのだろう。


 そんな私の思案をよそに、黒い壁は使い手からのメッセージの続きを伝えてくる。


「……ライブリンガー及び人間の連合軍に告ぐ。そちらが捕虜とした鋼魔破将クレタオスの返還を求める。この要求に応じるならば、当方には大樹の城を明け渡す用意がある。しかし仮に受け入れられぬのであれば、相応の戦力でもって奪還に向かうものである」


 ディーラバンから提示された交換条件に、戦場は水を打ったように静まり返るのであった。

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