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勇者転生ライブリンガー  作者: 尉ヶ峰タスク
第三章:三聖獣集結、そして飛翔
75/168

75:目覚めた炎はパワフルで

「わっほぉい! すっごい怪力ッ!」


「おうよッ! こんな魔獣程度、多少数がいたところでオレ様の相手にはならんぜ!」


 寝起きでバンガード魔獣を吹っ飛ばした活躍にボクらが拍手すると、炎のライオン戦士ファイトライオは得意になって力強いポージングを取って見せる。

 だけど自慢の腕力を見せつけてきたライオは、すぐに不審げに瞬かせたその目をある方向に向ける。


「……と言いたいところだが、妙な手応えの魔獣だな。オレ様が寝てる間にいったいぜんたい何があったってんだ?」


 ライオが首を傾げながら構えた先には、チェンジしながらに殴り飛ばした虎とジャガーのバンガード魔獣たちが立ち上がろうとしてる。


「昔は斧を叩き込むまでも無かったんだが……オレ様が鈍ったってことじゃあ、無いよな? わけわからん禍々しい鎧が生えちまってるからよ」


 ファイトライオを睨みながら低くうなるバンガード魔獣に、鋼鉄巨人の戦士は胸の獅子顔横のタテガミから片手斧を左右それぞれに取り出して握る。


「アイツらはバンガード。鋼魔族って鋼鉄巨人の連中が魔獣やらなんやらをパワーアップさせて手先にしてるんだ」


「ほーう鋼魔? 知らん奴らだな。それがこの時代の、生きとし生けるものの驚異と、そういうわけかい?」


 ボクの説明になるほどなーと返しながら、斧を両手に構えたファイトライオの目は魔獣たちから外れてない。

 隙が見えず、さっき見せつけられた力にビビってるのか、二体のバンガードは体勢を立て直しても飛びかかるでもなく、ただジリジリと立ち位置を整えている。


「チックショウがッ!? 最前線に引き付けて手柄と手駒ゲットって作戦だったってのに、なんでこうなるッ!?」


「ホッホウ。その別動隊の動きを私に見抜かれていた段階で、お前さんの策の失敗は決まったようなものだったからな。私たちの追撃を少数と侮って強行してしまった飛竜参謀殿の失策だよ」


「失策!? このオレが、オレが見誤った、オレがやらかしたと。このオレがぁッ!?」


 そんなファイトライオとバンガードのにらみ合いの上で、ウィバーンの苛立ちと八つ当たりをセージオウルがピシャリと叩き落としてる。


「ほう。あの金属のワイバーン、アレが鋼魔か? それにありゃあセージオウルか。懐かしいヤツを見たもんだ」


「ガードドラゴもいますよ。今はこの都を守る壁の外で、もう一枚の城壁をやってくれているのですけれど」


「なんだ。じゃあオレ様が起きたの最後かよッ!? カタブツのドラゴに遅れるならともかく、よりにもよってオウルよりも後とはなぁ」


 まさかと目の瞬きにも驚きを見せるファイトライオだけど、今回一番最初に目覚めて働きだしてたのがセージオウルだって知ったらどんな反応するんだろう?


「チィッ! プランBでもかっさらえなかったならもうしょうがない、プランCで行くしかないか!」


 自分に言い聞かせて頭を切り替えようっていうのか。ウィバーンは大声で動き方を宣言すると、翼を振り回して嵐を起こした!


「うっわッ!?」


「きゃああッ!?」


 辺り一面の石造りの建物を吹き飛ばす嵐に、ボクと姉ちゃんは体を丸めて小さくなる。

 そんなボクたちを、ファイトライオとセージオウルがかばって、守ってくれている。


「ホッホウ……この暴風をいつまでも吹かせていてはならんな!」


 石やレンガや材木、屋根の破片を巻き散らし続けるこの暴風を、セージオウルは風を制して静めてくれる。


 けれどオウルがすぐにやり過ごすのから打ち消しに切り替えてくれていても、このほんのちょっとの間にウィバーンも、バンガードたちもいなくなってる!?


 隠れてボクらの隙をつこうっていうの?

 お城の王さまを襲うの?

 どうするつもりでどこに行ったのか。早く見つけなきゃって慌てて探したおかげで、壁の外へ逃げようって離れてくウィバーンを見つけられた。


「あっちに行くってことは、一人で別行動してるガードドラゴを狙うつもり?」


「大変だおいかけなきゃ!?」


「ホッホウ。ちょいと待った」


 助けに行かなきゃって走り出そうとしたところに、セージオウルが待ったをかけてくる。

 つまづかされちゃったことに文句を言いたくて、その気持ちを込めてジトリと。

 もちろんボクだけじゃなくて、姉ちゃんもライオも強い弱いはあるけどおんなじような気持ちを入れた目線を向ける。


 対してセージオウルは杖を持ってるのとは逆の手で抑えろ、落ち着けって仕草でなだめようってやってくる。


「ホッホウ、まあ待て落ち着け。アレが本命隠しの動きでないとも限らん。だから私が空から都を見張ると、そう言いたかっただけだ」


「だったら待ったをかけずに別行動するって一声かけて飛び立つだけでよかったろうがよ」


「そうさな。しかしあの動きでお前たちを伏兵のところへ釣り出す気でないとも限らん。充分気を付けるようにと、な」


 ライオの文句に軽く返したら、セージオウルはフクロウモードにチェンジして空へ。


 逃げるウィバーンばっかりしか見てない。そんなのから切り替えさせたかったのかもしれないけれど、それでつまづかされたことは変わらないからなんかモヤモヤする。


「とにかく壁を守ってるドラゴのところに行こうよ!」


 でも襲いに行ってるヤツを追いかけようって言うんだから早くしないと。


「……だな。よっしゃ、オレ様に乗ってけ!」


 それでウィバーンの飛んでった方を指さすと、ファイトライオはライオン形態にチェンジ。ボクらを背に乗せてから走り出した。


 家やらを蹴散らしてーなんてできないから、なるべく広い道を走るフルメタルな炎のライオン。

 忍び込んでたのはあのバンガード二匹だけだったみたいで、ファイトライオの走りを止めようって出てくるのはいない。


「グオッ!?」


 と思っていたのに、いきなりファイトライオが足を取られてひっくり返っちゃう。

 背中にいたボクたちは、その勢いでもちろんいっしょに放り出されちゃう。

 いきなりだったから、とっさにマジックバリアで身を守るのでいっぱいいっぱいだ。けれどボクらが地面にぶつかるよりも早く、柔らかく受け止めてくれるのが。


「すまねえ、けつまづいちまった いったいなんだってんだ!?」


 チェンジして受け止めてくれたライオはボクらを抱えたのとは逆の手に斧を構えて振り返る。

 すると正面にはドロドロにとろけて崩れた石だたみが。

 どうしてそんなことになったのか。なんて誰かに聞くまでも無く、崩れた石畳からその答えが飛び出した。


 それはねばねばとべとべとの塊だ。

 吹き出してあふれ出したそれは、石を含んだままぐるぐるともがいてる。


「スライムッ!? それも大きいッ!?」


 石だたみの割れ目から溺れてるみたいに動き回ってるそれはスライムって魔獣だ。

 魔「獣」っていうにはねばねばのかたまりにしか見えないけれど、触ったのをなんでも溶かして食べちゃうすごく怖い怪物だ。

 実際ねばねばの中に入ってた石だたみのガレキは、もうどんどん小さくなってて、ほとんど消えてなくなりそうになってる。

 そうやって中が片付いたから、小さい欠片だけど緑色の金属だけが、目玉みたいな核の近くで溶けずに残ってるのが分かる。

 つまりアレもウィバーンが仕込んでた伏兵だってことだ。


「……って、ファイトライオは無事なの? つまづいてアレに突っ込んだトコッ!?」


「む? まったく問題ないぞ。たしかに獣形態の前足を突っ込んでちとピリピリしたダメージはあるが、この程度、少しばかり時間を置けば元通りだ!」


 そうは言うけれど、なんでも溶かして食べちゃうスライムのバンガードだよ?

 ライブリンガーや聖獣のフルメタルな体だって、どんな引きずり方をするか分からないよ。

 だから水属性の魔法で洗い流しておきたい……けれど属性の問題で良くなさそうだから、炎で清める方向の治癒魔法をかけとくことにする。


「おお? サンキューな。しかしこりゃ心配いらんかったぜって所を見せたやらんと、か!?」


 そんな風に軽く気合を込めて斧を一撃。

 すると火がついて熱をたっぷりと含んでいた刃はバンガードスライムをイルネスメタルの欠片とコアを真っ二つにする。

 これで立ち上がってこっちに飛びかかろうとしてた大スライムは、まるで柱が抜かれた家みたいにぐしゃりとつぶれた。


「どんなもんだいッ!?」


「すごい、けれど……」


 スライムを一撃必殺にした腕を曲げて、ファイトライオが自慢のパワーをアピールする。

 ボクも姉ちゃんもそれにはお見事って拍手したいところだけど、それどころじゃない。


 だって進むべき方向、道のそこかしこから石だたみを下から割って、さっきのとおんなじ、イルネスメタルの欠片を持ってるのまで変わんない大きなスライムが飛び出してきたんだから。


「って、やってる場合じゃねえってか!?」


 ボクらからあれこれ言うまでもなく、ファイトライオはボクらを肩の上に掴まらせると、二丁斧を手にスライムがブロックしようとしてる道へ突っ込んだ!


 それで右左って燃える斧を振るたびに、スライムの核が割れて獅子の戦士に食いつこうとしたのが崩れてく。

 意外って言ったら失礼かしれないけれど、この連続攻撃で、ボクらに来る揺さぶりは小さい。

 身体強化を使ってれば、必死にしがみついてなくても振り落とされたりはしなさそうってくらいに。

 豪快で力任せな風なファイトライオだけど、そのパワーのコントロールはすごく繊細だ。


 そんな繊細さを秘めたラッシュにさらされても、スライムには逃げて体勢を立て直す頭もないから、イルネスメタルを植え付けたウィバーンの命令と、その断片を共有している同族の心に突き動かされてファイトライオに返り討ちにされていく。

 薄くて腐った木の板っぺらみたいに一方的に倒されてくから、敵とはいえちょっとかわいそうになってくる。


 でもボクがやめてなんて言えるわけ無くて、ファイトライオはちょっと町中や森の中では遠慮が欲しくなる炎の力で突き破り続けて、都を囲う城壁、その大門の近くにまで。

 そこで急に空から落ちてくるみたいな風のかたまりが。


「そのまま飛び出ては待ち伏せに合うぞ、ホッホウ」


 風の中に込められていたセージオウルの警告。これにボクと姉ちゃんが動き出すのに、ファイトライオはまるで聞こえてなかったみたいに走る勢いをまるで緩めないで、門を飛び越えて外へ飛び出しちゃう。


 そうなったらもちろんいるって知らされてた待ち伏せが、虎のとジャガーのバンガード魔獣たちが待ってましたってはさみうちに飛びかかってくる。


「お知らせされてるようじゃあ、不意打ちになんかならねえんだよ!」


 けどファイトライオは慌てずに両手の斧それぞれで、緑や黒の炎を灯した獣の爪を迎え撃った。

 鮮やかな赤の炎が、魔獣の体を包んでるのをあっさりと塗りつぶして、タテガミの斧をその前足に通す。

 そして足に刃を食い込ませたまま獅子の戦士は回転。飛びかかってきた魔獣たちの勢いを受けてそれはもうすごい早さで!


「しっかり掴まってろよ!」


 言うのが遅いよ!

 って文句はあったけど言う間はなく、バンガード魔獣たちの勢いを体全体で受け流してねじ曲げたファイトライオは、受け止めた巨体を放り投げた。


 猫がこれでもかってくらいに大きくなった魔獣なだけあって、二匹とも空中で体を捻って足から着地する。

 その足に斧が食い込んでたダメージもあって踏ん張りきれずに崩れたけれども。


「二匹がかりでざまあない。多少タフなようだがそれだけみてえだな?」


 そんなバンガード魔獣に、ファイトライオはかかっておいでって感じに斧であおぐ。

 この間にボクたちはライオの体から飛び降りて、邪魔にならないように門前のバリケードの陰に。


 その一方バカにされたと思ったのか、魔獣たちは傷ついた体を寄せ合うと、いっぺんに金属部分を広げて包まれちゃった。

 そのままひとりでに粘土二つを合わせたみたいにこね合わせて、見上げるほどに巨大なフルメタルの巨人になる。


 大きさはマックスのライブリンガーと同じくらいかな?

 その大きな体を支えるのは、鋭い爪を地面に食い込ませた四本足。

 足と同じで四本ある前足は、地面からはなれた高さで斜め十字を書くかたちで広がってる。

 その前足の交差点には虎の頭とジャガーの頭が。でもその真ん中には不自然なくらいにキレイな空間がある。それはファイトライオのライオンヘッドがちょうどピッタリとはまりそうなサイズのが。

 たぶん、ウィバーンの予定どおりだったなら、あそこに収まってたってことなんだろうな。


「なんだ、オレ様の首をソコんとこに納めるつもりだってのか? ソイツはちょいとばかり趣味が悪くないか?」


 ライオもおんなじ風に思ったのか、ドン引きした感じに合体バンガードの、というかウィバーンの趣味の悪さをバッサリと。


 これが癇にさわったのかどうか、虎ジャガーバンガードは踏み込んできた。


「はやッ!?」


 思っていたのの上を行かれたのか、ライオはどうにか爪に斧をぶつけるも、押し負けたのを支えるのに足が後ろに。

 そこへ四本足で大きな体を素早くステップさせた虎ジャガーがまた突っ込んで来る。


「ふぅんぬッ!!」


 でもこの突撃は、横合いからの水流とそれに乗ってきたシールドチャージが止めてくれる。


「ガードドラゴッ!?」


「無事目覚めたはいいが、迂闊だぞファイトライオ。我々の背後には多くの命があるのだということを……」


「ああもう、悪かったよ、助かった。だから勘弁してくれって」


「そうは言うがな……」


「ドラゴ危ないッ!?」


 言うべきことはその場ではっきり言っておこうってガードドラゴだったけど、ボクらの警告を待たないで竜の盾を前に。それが虎ジャガーバンガードのファイアブレスと、それを後押しするウィバーンのエアロミサイルを受け止める。

 その威力はガードドラゴに受け流しをさせずに後退りさせて、ファイトライオの支えを必要とさせてしまう。


「フハハハッ! このまままとめて押し潰して、残骸はバンガードの部品にしてやる! そして新しい鋼魔王になるこのオレ、ウィバーンの手足として使ってやるぞッ!」


 バンガードとの連携で聖獣二人を押してるからか、メタルの飛竜はいい気になって野望を大声で聞かせてくる。

 けれど忘れてないかな。大事なことをさ。

 そんな調子にのったウィバーンとバンガードの頭にに、強烈な雷が落ちる。

 悲鳴を上げるためののども痺れさせるそのゲンコツは、一気に広がってウィバーンたちを縛る網になった。

 合わせてボクたちはガードドラゴとファイトライオへ魔力をトランスファー!

 ウィバーンたちの攻撃を押し返させる手助けをする。


「ホッホウ。二人とももっと視野を広く持たねば、足元をすくわれるぞ?」


「……うむ、面目ない」


「確かにオレ様、勢いに乗って油断しちまってたしな。悪かったよ」


 空から降りてきたセージオウルの一言に、ドラゴもライオも素直に反省の気持ちを言葉と仕草に表してる。


「ホッホウ。頼むぞ、これからが本番のようだからな」


 そう言ってセージオウルが見るのは遠い空。そこにはぐんぐんと大きくなってくる、飛行魔獣っぽいのが!

 でもまさか、羽ばたきもせずに飛んできてるあの方向は……。


「ね、ネガティオン様ぁあッ!?」


 ウィバーンが叫んだけど、そんなわけないよ!

 ライブリンガーが負けてネガティオンが来るだなんて、そんなことあるわけがないのに!

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