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勇者転生ライブリンガー  作者: 尉ヶ峰タスク
第三章:三聖獣集結、そして飛翔
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63:荒ぶる波に揉まれて

「やっほー、ライブリンガー遊ぼうぜー」


 咥えた私と一緒に海中深くへ沈みながら、グランガルトは朗らかに挨拶の言葉をかけてくる。

 口を動かさずになんとも、器用なことだ。

 いや、やろうと思えば私もできないでもないか。


「やあ。こんにちは。しかしすまないが、のんびりと遊んでいられる暇は無いんだ!」


 ともあれ挨拶にはキチンと返しつつ、振りほどくべく私は彼の口に挟み込まれた状態をよじり、スパイクとプラズマショットを叩き込みに。


「ぐおわッ!?」


 しかしそれを、私の足に食いついた別の牙が遮ってくる。


「あードラゴ。お前もまざるのか? まざりたいのかー?」


 足に食いついたのはなんとと言うべきか、やはりと言うべきか、バンガードに寄生されて二首竜になったガードドラゴ、らしい。

 グランガルトの大鰐口に上体からモグモグとやられたままでは、どうしても足の側は見えないのだ。

 しかし見えないことは見えないが、おとなしくされるがままでいる理由はない。というわけで私はスパイクシューターを使う。もちろん両腕両足の四つ全部をだ!


「あがーッ!? 痛いじゃないかよー

ッ!?」


 このダメージに、しかしグランガルトは怯んで緩めるどころか逆上して圧力を上げてくる。

 一方の足側には手応えと言うか、当たったらしい感触はない。やはり食いつき方に多少の工夫くらいはするか。


 だが、ここで抵抗をやめるわけにはいかない。私は軋むボディにも空振り感にも構わず、スパイクの連射を続ける。


「もうおこったぞうッ!?」


 これにグランガルトは本格的に顎のパワーを全開。さらに二首竜と息を合わせて、私の体をそれぞれ後ろへ引っ張り始める。


「つなひき遊びだ! つなはライブリンガーなッ!?」


「ぐぉおあぁあーッ!? ち、千切れるぅうッ!?」


 強引に引き伸ばされた腰からの危険信号が大音量で頭脳に響く。

 さらに間の悪いことに抵抗しようにもアームスパイクが強まる圧力に負けて曲がり、シューターの機構を塞いでジャムを起こす。


 このままでは私は海中で上半身と下半身に分断させられてしまう!?

 そんな真っ二つになった私を前に、膝つき嘆く仲間たちの声が聞こえるようだ。


「せ、せめて……この手に……ッ!」


 脱出の手段に、私はこの場にいないロルフカリバーを求めて手を開く。

 すると手の中に輝きが灯り、鰐の口中を明るく照らして――。


「んもがぁあーッ!?!」


 夜明けの如き輝きの中から現れたロルフカリバーが、つっかえ棒にグランガルトの顎をこじ開けた。


「殿ッ! ご無事でッ!? 駆けつけるのが遅れて申し訳ないッ!!」


「いや、いいタイミングだった!」


 意図せず駆けつけてくれた救援だが、戸惑って機を逃すわけにはいかない!

 手元に飛び込んでくれた剣を捻って大顎をこじ開け、綱引きを続けていた二首竜に引き抜かせる。


 さらに脱出させてくれた二首竜の頭もロルフカリバーで殴って、そちらの牙からも逃れる。


 これでボディが腰から二つへ泣き別れになる危うい所からは脱出できた。

 が、手の中にあるそのきっかけとなってくれた剣を見て、安心している場合ではないことを思い知らされる。


 ロルフカリバーを手元に呼び寄せてしまったと言うことは洋上が、ビブリオたちの側が手薄だと言うことだ!


「頼む、ロルフカリバーッ!!」


「承知!」


 そんな私の危機感を受けてロルフカリバーは水面目掛けて上昇。その直後に立ち直ったグランガルトと二首竜が噛みつきにかかり、私の真下で正面衝突する。


「あー! くそぉ待てーッ!!」


「悪いがそんな暇は、無いと言っているッ!!」


 なおもしつこく大口を開けて追いすがってくるグランガルトへ、私は振り向きざまにロルフカリバーを投擲!

 私の手から離れるやマックスサイズに巨大化したロルフカリバーは周囲の海水を押しのけつつ突撃。海水もろともにグランガルトらを吹き飛ばす。


 荒れた海流にもみくちゃにされながらも、私は手足を振り回して水をかき光の差す方、水上を目指す。


 そんなもがきあがく私へ、轟と水をかき鳴らし迫るものが!


「殿、御免ッ!!」


「うぉおおッ!?」


 すわ、敵か!?

 と思ったが、突っ込んできたのはなんとロルフカリバー。

 Uターンに突っ込んできたその切っ先に引っかけられて、私はそのまま運ばれていく。


 そうして持っていかれた先は海面を突き破ったその向こう、釣りの拠点にしていた島近くの洋上だ。

 これで打ち上げられた空から見たのは、砂浜から飛び出た触腕にビブリオとホリィが追われ、グリフィーヌと合流しようにもできずにいる様子であった。


「マキシビークルッ!!」


 追い詰められた仲間たちの様子に、私は号令をひとつ。これに陸地に待機していたマキシビークルたちが動き出す。

 光の轍を刻み、合体フォーメーションに入るローラーとローリー。

 その軌道上にあったメタルテンタクルたちは轢き弾かれて、光の柱の中から排除される。

 合体中に身を守るバリア、その内に仲間たちが入っているのを認めた私は、スラスターを全開にマックスボディ上半身と下半身が待つバリアの中へ飛び込む。


「ライブリンガー……マックスッ!!」


 そして巨大戦闘形態を完成させた私はビブリオたちを背後にかばう形で、ロルフカリバーを構える。


「ライブリンガー!? 来てくれたんだッ!」


「ああ。遅くなってすまなかった。後は任せてくれッ!!」


 仲間たちに応えつつ私はその場に足踏み。島を揺るがす。

 これに引っ張られるようにマシンテンタクルの根っこが砂浜を割って飛び出す。


「キャアアン! エッチーッ!?」


 そんな緊張感の削がれる悲鳴と共に現れたのは鋼鉄の頭足類だ。

 浜に落ちた彼女は、まさに陸に上がった魚といった風にいくつもの触腕を振り回してもがく。


「やだもー! こんな荒っぽい釣り上げかたして太陽の下にさらけ出すだなんて! 助けてーグランガルト様ーッ!!」


「……なんとも人聞きの悪い……」


 そのまま彼女の上げる抗議と言うか、非難の声に、私は何となく斬りかかる気を奪われて踏み込めずに立ち尽くしてしまう。


「ラケル、貴様! この程度で大袈裟な! それもその物言いではライブリンガーがまるで変質者のようではないかッ!?」


 雷を落とす勢いのグリフィーヌの怒鳴り声を受けて、ラケルはその場でチェンジ。

 ほぼそのままのタコ足たちを下半身に、丸みを帯びた女性型ボディの上半身で浜に寝そべるその姿は、オクトパスマーメイドとでも言うべきか。

 その顔も、目元はグリフィーヌのようなバイザー型ながら、鼻や口などは人間の女性を模したものだ。しかし私のように声と連動して動くわけではなく、そういうデザインのメタルマスクとなっているらしい。


「あらグリフィーヌ、久しぶり。ホントに人間方に寝返ってたのね。それにしてもやっぱり、惚れ込んだ勇者様の名誉にケチがつくのは我慢ならないのねー分かるわー」


「な、何を言うかッ!? ライブリンガーの強さ、大きさに。それらに敬意を抱いているのは間違いないが……ほ、惚れたのなんだのと……!」


 直属の上官と同じくの朗らかな挨拶からの、うんうんとうなずいての納得と共感。

 そんなラケルの言葉と仕草に、グリフィーヌはどぎまぎと訂正を入れる。


「あらあら? 私はただ、そういう敬意を含めて戦士として惚れ込んだーって言っただけのつもりなんだけれど?」


「クゥッ!? ウゥヌゥ……ッ!?」


 くすぐるような返しの言葉に、返す言葉も出ずに呻き悶えるグリフィーヌ。

 これにラケルはカワイイカワイイと愉快げに眺めている。

 これは、舌戦では翻弄されるばかりか。


 慌てて逃げるでもなく、悠々とグリフィーヌをからかって見せるラケル。その口先に私も口を挟めずにいると、彼女の背後から高波が。


「ラケルー! だいじょうぶかー!? エッチなことをされたのかー!?」


「あら、間一髪間に合ったわー! ナイスタイミングだわグランガルト様」


「よーし! それならオレがラケルを守るからなー!」


 波に乗ったグランガルトが陸に乗り上げたのと入れ替わりに、波に浚われる形で海中へ。

 そうして前衛をグランガルト、海中に後衛のラケルという布陣が整うや、大鰐の戦士は腕を振り回して私へ突っ込んでくる。

 これを私は守りの嵐を纏わせた拳で迎撃。さらに海から飛んでくる、レーザーじみた高圧水流も弾いて散らす。


「殿、ここは一息に大技でもって叩き切り、片を付けてはいかがか?」


 守りを固めて受けた私に、ロルフカリバーから決着を急ぐ進言が。

 それは一理ある。

 私がここでグランガルトたちと戦うと選んだのは、海上補給路の安全確保のため。そして本拠地の守りを固めに急ぐためだ。

 そのためには、この場の決着は一分一秒でも早い方がいい。さらに、手早くグランガルトたちを倒せたのならば、イルネスメタルに操られたドラゴを救出する間も得られるかもしれない。


「グランガルト! お前までそんな……ライブリンガーがそんな破廉恥な真似をするはずがないだろう! そんな調子でウィバーンごときにも乗せられてるのだろうが、恥ずかしくはないのかッ!?」


「あ、グリフィーヌ。ひさしぶりー、元気にしてたかー?」


「あ、ああ。幸い鋼魔を追われてから、周りに恵まれて、な……」


「それはよかったなー」


 だがこれである。

 攻撃性も強いし、決して人命を尊重してくれている訳でもない。

 だがこうも邪気のない様を見せつけられてしまうと、やりにくくてしかたがないのだ。

 しかし、いくらやりにくかろうと、グランガルトに人命を危うくさせる遊びをさせておくわけにはいかない。


「グランガルト、船を沈めるのは止めてくれないか!? アレに乗っている人たちの命も危ないし、他にもたくさんの人たちが迷惑をしている。ウィバーンにやらされているだけなら、どうかやめてはもらえないか?」


 これで退いてくれたなら儲けもの。

 そんな気持ちでダメもとに説得を試みる。


「えー、イヤだー! 人間の船を壊してしずめるのはおもしろいしー遊んでるだけでネガティオンさまに怒られなくなるんだぞー!?」


「破壊と殺戮が楽しいだなどと……!」


 子どもが積み木を崩すように、無邪気にただ楽しみのために命を奪う。その言葉は私にはショックだ。

 しかし許せないのはグランガルト自身よりも、それが良しとまかり通る鋼魔の価値観だ。

 その思いから守りの嵐を刃にまとわせ踏み込む。すると示し合わせたかのように、グランガルトの尻を蹴り上げる形で砂浜が持ち上がる。

 砂を自在に操って見せるこの力、この場にいてこんなことができるのは限られている。


「今だよライブリンガーッ!!」


 やはりビブリオ。ホリィの助けを受けた冥精霊の魔法で足元を救ったその合図に合わせ、私はグランガルトへストームスマッシュ!


「うぎゃあああッ!?」


 この一撃は足の浮いたグランガルトを直撃。隆起する砂浜へ、青の機体を深々と埋め込む。


「い、いたいぞー!? それに、砂がからまってくるー!?」


「グランガルト様ッ!?」


 首だけを地上に出してもがく上官の危機に、ラケルは水圧レーザーとマシンテンタクルたちを、私とそのすぐ傍で魔法をコントロールするビブリオたちへ。

 しかしこのことごとくは、私のシールドストームのカリバーとグリフィーヌのサンダーソードによる網を抜けられずに海へ戻される。


「さあどうする!? 物騒な船遊びはここまでにするのか、このまま続けるのか!?」


 ここまで追い詰められて退かない。そうであればもう容赦はしない。

 この場での最後通告のつもりで放ったこの言葉に、ラケルは無言で海中へ。


 するとその直後、海を割って私に迫るものが!

 とっさに守りの嵐を纏わせた刃で打ち返せば、それはドラゴに取りついている二首竜の頭の片割れだ。

 打点からひしゃげ、首半ばからもげて跳ね返ろうとしたそれはしかし、瞬時に千切れた部位を繋いで引き留める。

 目を疑うこの再生力に気をとられたところで、別の首が私の腰に食らいつきに。


「させるものかッ!!」


 これはグリフィーヌが稲妻の刃で切り伏せてくれるも、その彼女を狙ってさらに竜の首が。

 バカな!?

 ガードドラゴに寄生し、鋼魔の意のままにしているバンガードは二つ首のはず。

 そんな疑問に、グリフィーヌも目をチカチカとさせながら高度と距離を取ろうと。その足に追いすがるものを、私はバスタースラッシュで両断する。


 だがグリフィーヌの救援に気をとられた私の手足に、鋼の竜の牙が突き刺さる。

 それも片手片腕ではない。両手両足、四肢全部にだ!?

 さらに食いついた竜の頭たちはそのサイズを大きく増して、私のマックスボディよりも太い首を柱として私を持ち上げる。


「ライブリンガーッ!?」


「今援護をッ!」


 そんな私の有り様にビブリオたちが救助に回ろうとしてくれる。だがそれどころではない。竜の頭は私に食いついている四つが全てではない。今まさに海から二人を食い殺そうと迫っているのだから!


「ロルフカリバー頼むッ!」


「承知ッ!」


 食いつかれた腕ローラーを無理矢理に回転数アップ。そうして作ったバスタートルネードのエネルギーを預けてロルフカリバーを手放せば、彼は脇目も振らずにビブリオとホリィの救助へ一直線。切り離した刃でもって二人を襲う竜の頭を真っ二つに私の望みを叶えてくれる。


 私も私を食いつき捕らえる牙を振り払うべく、ダブルバスタートルネードに額のプラズマショットと駆使して無理矢理にねじ切り取り除く。

 だが竜の頭は潰したと思いきやに再生を果たし、次々と私の体へ食らいついていく。


「今助けるぞライブリンガー!」


「殿、しばしの辛抱をッ!」


 グリフィーヌやロルフカリバーも私の脱出を助けようと竜の首を斬りつける。が、その高速修復と八つにまで増えたその数に、自分達が捕まらずにいるので精一杯だ。


「わ、私のことはいい……それよりもとにかく自分達と、ホリィやビブリオが捕まらないことを……!」


「そんなことできないよッ!?」


「そうだとも! ライブリンガーを見捨ててなど、出来るわけがないッ!」


「私たちが必ず助けるから、だからライブリンガーも自分自身を諦めないで!」


 仲間たちの温かな情に、目の洗浄液が溢れてしまいそうになる。

 だが、このままでは全滅だ。


 下に見える荒れた海、竜の首八つが突き出て渦巻くその海面にはラケルと、彼女に引っこ抜かれていたらしいグランガルトさえもが流れに巻かれてされるがままでいるのだから。


「そ、そんな……話が違う……ッ! もっとパワーが欲しかったら、アレにイルネスメタルを使えって……渡されていた、けど……ここまでとは聞いてないこれじゃ逃げることも出来ないわ……ッ!?」


「うあー……ぐるぐるー」


 こんなはずではなかったと流され嘆く彼らの下、荒れた海面の奥には朧な毒緑の光が瞬いている。

 それを見た私はこの事態に至った経緯と、打ち破るべきポイントを悟った。


 これはウィバーン辺りに預けられていたのだろうイルネスメタルの追加を受けた、ガードドラゴの暴走に違いない!


 打開策の見えた私は、とにかく動けなくては始まらないと腕の回転やプラズマショットなど放出できる端からエネルギーを全開!

 それをさせじと八首竜が抑え込むにも構わず高めたエネルギーは、やがて私のマックスボディを二つに割って溢れるのであった。

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