59:グリフィーヌ、怒りのサンダーブレード
「クッソッ!? 煙に紛れてタイミングを見計らうつもりがもう見つかるとはッ!?」
煙の隠れ蓑を剥がれたウィバーンは、焦り交じりの言葉と共にサンダーボールを吐く。
空気を焦がして迫るそれを、私はロルフカリバーを振り下ろし、エネルギーブレードを飛ばす。
真っ向から雷球を二つに叩き割ったエネルギーブレードは、そのままフルメタルの飛竜へ迫る。が、これをウィバーンは羽ばたきとスラスターの噴射でもっての急上昇で飛び越えて見せる。
「ハッハァッ!? 飛べないお前らと陸上で撃ち合いに付き合うわけがないだろうがッ!?」
私たちは逃がすまいとすかさずにプラズマショットや魔法で撃ち落としに。しかし一度飛び立ったウィバーンの上昇に追い付けずに振り切られてしまった。
「逃がしちゃったッ!?」
「ああ、逃げない方が良かっただろうに……」
「ハッハァーッ! ここで飛ぶ以外の選択肢なんぞが……」
私の同情の声を苦し紛れの戯れ言と取ってか、空高くに上がったウィバーンは翼を大きく広げてこちらを悠々と見下ろしてくる。
しかしその翼影の向こう。さらに高くにはグングンと大きさを増す別の翼影がある。
その正体はもちろん――。
「ウィイイバァアアアアアアンンッ!!?」
「グワァーッ!? グリフィーヌッ!?」
怒り心頭のグリフィーヌだ。
激情に任せて急降下からの変形斬撃。この瞬間のために研ぎ澄まし、冴えに冴えた得意技を受けたウィバーンはスパークを散らしながらきりもみ回転。バランスを崩して落ちてくる。
「捕まえよう姉ちゃん!」
「ええ!」
これを好機とビブリオとホリィの魔法の手が伸びる。
私も逃がすまいと、ロルフカリバーからのエネルギーブレードを飛ばして援護に加わる。
しかしウィバーンも伊達にかつての空将を担っていないということか、翼や尾を振り回して強引ながら私たちの攻撃から逃れて見せる。
同時に笛のような声を上げ、これがビブリオたちの耳を突いて悶えさせる。
しかし黙らせようにも、混乱から立ち直った魔獣たちが私たち、特にビブリオたちを狙ってくるのでこれを叩かなければならない。
「号令のラッパも兼ねていると!?」
ウィバーンの放つ独特の波長の音波。これが人間を攻撃するばかりか、魔獣にとっては犬笛のような効果をもっているようだ。
これはなおのこと黙らせなくてはならない。が、高らかに喉を鳴らしたウィバーンはまた空の高くへ昇って――
「その音を止めろォオッ!!」
再びグリフィーヌに斬りつけられる。
「クッ! 来ると分かっていればなぁッ!?」
が、流石に二度もまともに奇襲を受けるほどウィバーンも戦闘レベルが低いわけもなく。人形に変形してグリフィーヌの剣をエネルギーブレードで受け止める。
「私の怒りを……見くびるなぁあッ!?」
しかしグリフィーヌは折り込み済みとばかりに身を翻すやさらに斬撃を。それも一度や二度ではない。稲光が嵐のごとく閃き重ねる連撃でだ。
力も技にも勝るグリフィーヌのラッシュはウィバーンのキャパをあっさりと凌駕!
捌きそこねから稲妻の剣でバサリと守りもろともに断ち切る。
そして振り抜いた勢いのままの回し蹴りに地上へ叩き落とす。
さらにダメ押しを突き刺しに追いかけるが、悲鳴交じりの音波に突き動かされた魔獣に割り込まれてしまう。
そのわずかに鈍った瞬間、群がった飛行魔獣を打ち払うのに手を取られた事で、ウィバーンは報復の刃から急所を隠してしまう。
しかしみすみす落ち着かせるつもりはない。再び鳴こうとする彼を狙って、私はロルフカリバーを投擲。が、それは飛竜の鼻先を削るだけで終わる。
だがひとつ投げただけで終わりではない。スパイクシューターも立て続けでだ!
「グゥ……こんなところに居られるか……ッ!」
さらに踏み込む私との接近戦などやってられるかと飛竜参謀は飛び上がりかけて、その身を固まらせる。
そう。上空には恨み心頭にその目を輝かせたグリフォンの女騎士が。
迂闊に飛び上がれば抑えの魔獣を振り切った彼女に切りかかられるのは必然。
それが分かれば離陸するにもつまづいてしまうことだろう。
そして生じた隙に私に組み付かれるのだ!
「グオワッ!? しまった、離せッ!?」
「敵に言われて、誰が素直に離すものかッ!」
グリフィーヌに頭を抑えられ、思い切って飛び立つことも出来ずにいる飛竜に、私は例の如くスパイクとプラズマを叩き込みながら重心を低く、地面に叩きつける形で投げる。
地響き鳴らして転がる彼へ私は手元に戻したロルフカリバーを叩きつけに。
これにウィバーンは拳に添って伸びる短く太いスパイクを迎撃に突き出す。
その見た目通りに頑丈な爪は、苦し紛れながら私の分厚い刃でも割り切れずに半ばで止めてくれる。
これを私は強引に戻して振りかぶりもう一撃!
これをウィバーンは片腕のクロ―を犠牲に受け流しながら飛び退きつつエネルギー弾を連射。
これを私は額のプラズマショットで相殺しながら追撃の踏み込みを躊躇しない。
「言え! 新顔のドラゴン型の鋼魔とは何者だッ!?」
そして弾幕をこじ開けつつ、肉厚の刃とともに問いをぶつけていく。
鋼魔の参謀であり、前線指揮を担うウィバーンを討ち取るのは重要だ。
それは早ければ早いほどにいい。が、今この場でなくともよい。
今必要なのは謎のドラゴン型鋼魔の情報の方だ。
戦うことになったとして、何も情報の無い相手と、ゼロから探りながらになるのは避けるべきところだ。
「フン! 敵の言葉に素直に応じるものか、とはお前が言ったことだぞ!?」
しかしエネルギー弾を添えての返事は案の定。
ハッタリか威圧目的でもない限り、自分達の情報をベラベラと話してしまうような者はまずいないだろう。
いや、一人だけいることにはいるか。
「では、正直に話してくれそうなグランガルトにでも尋ねてみることにしよう。お前が海の補給線を潰させに、この辺りによこしているのだろう?」
「グッ!? それを聞いてやってみろなんて言えるか!? 話していいことと悪いことの区別がついてるのかも怪しいってのに!」
ウィバーンも彼なら素直に話してしまいそうだと思っているのか、手足のクローを私へ振り回す。
「例えば聖獣のガードドラゴ、彼をイルネスメタルで強引に動かしているのだということとか、かな?」
「……さて、なんのことだかな。オレたちの心臓部と勇者の輝石、相性最悪なのはそっちも先刻承知のはずだが?」
私のカマかけに出来るわけが無いとウィバーンはとぼける。が、飛竜参謀も仲間にとやかく言えるほどポーカーフェイスが達者ではないな。
一瞬言葉を詰まらせてしまったのは正解だと、少なくとも遠からぬところを突いたと言ってしまっているようなものだぞ。
「あいにくと、私とグリフィーヌではそんな激しい反発はないのでね!」
同胞でありながら反発され続け、挙句に切り捨てて関係を最悪化させることでしか変えられなかった。
そんなグリフィーヌの仲間としてぶつけてやりたかった気持ちを込めて鈍器じみた刃を掬い上げに叩きつける!
この一撃にウィバーンは両腕を交差してブロック。しかし朝焼けを灯した分厚い刃はそんな防御をものともせず、飛竜参謀の機体をホームラン。
「素晴らしいぞライブリンガーッ!!」
そして悲鳴を上げて高々と放物線を描くウィバーン目掛けて、グリフィーヌがまっしぐら。幻獣形態で飛行魔獣の壁を貫き、その勢いを全て込めた報復の刃を叩き込みに――。
「た、タンマ、タイム、ストップ! お前らあれを見ろおッ!?」
しかしこの苦し紛れの命乞いに、グリフィーヌは雷刃を消してすれ違い、私も共にウィバーンが指した方向を振り返る。
するとそこには水の玉に閉じ込められたビブリオとホリィ。そして二人を捕らえた水球を抱える青い二首竜の姿があった。




