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勇者転生ライブリンガー  作者: 尉ヶ峰タスク
第二章:集結・天
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48:思いを酌んでくれる仲間がいることの幸せ

 鋼魔からの奪還に成功したキゴッソ王城。


 今後の奪還作戦の主拠点と目されている大樹を軸とした鳥人の城は、現在急ピッチで修復作業を進められている。


 奪還に攻め入った時には急行していてろくに見る暇もなかったが、修理にと改めてじっくり見回って見れば酷いものだった。

 鋼魔の占領下では半ばほったらかしに近隣の魔獣の巣にされていたらしく、餌の食べ残しや食べれば出るものなど、巨大な獣の生活痕がもうそれはいたるところのそこかしこに。


 侵入路も作られ放題で、よく見た目だけは形を残せていたものだといった風体であった。


 そんな有り様のお城をまともに拠点として機能させるために、動けるものを総動員しての清掃と修復の真っ最中なのだ。

 キレイにするまでが奪還作戦です。と言ったところだろうか。


 もちろん私ライブリンガーも、大樹の根元を囲う植木鉢じみた城壁の修復作業を主に、重機がわりに働いている。


「ねえ、こんなお城の修理ばっかりしてていいのライブリンガー?」


 大穴を塞ぐために石を組んでいる私の足元から、ビブリオの不安げな声が上がる。


「そうだね。私も先を急ぎたい気持ちはあるから、ビブリオの言いたいことは分かるよ」


 実際のところ、私たちはキゴッソ王城の奪還作戦で目的の半分程度しか達成できていない。


 せっかく見つけたガードドラゴの像は復活させることもできずに鋼魔の手に落ちたまま。

 私とならんで、あるいは分担して対鋼魔の矢面に立てるだろう仲間は得られてないのだ。


 だが連れ去られた先はすでに鋼魔の本拠地。

 ネガティオンの玉座のあるところだ。さすがに一朝一夕に攻め上れる場所ではない。

 単機で最大戦力となれる私単独での潜入作戦、というのも考えなかったわけではない。

 が、荒らされた城の防衛設備が不十分な状態ではいくらセージオウルが軍師をやってくれていても守りきれるか怪しい。


「こうも魔獣を引き連れた鋼魔の襲撃があってはね」


「遠出なんかできっこない、かー」


 ビブリオがうなずき見るのは、兵士の皆さんに解体されつつある魔獣の亡骸たちと、それを率いたクレタオスによって破られた壁だ。


 キゴッソ王城を奪還してからほどなく、鋼魔による襲撃が散発的に行われ続けてきているのだ。

 挑発のつもりか、あるいは時間稼ぎのつもりなのか。こちらが本腰をいれて迎撃にかかるなりすぐに撤退するという調子で。


 今回破られた壁も作り直したばかりのところで、急ピッチで進めているにも関わらず思うように進ませてもらえないこの状況はもどかしく、口惜しい。


「どうにか城周辺の安全確保をして、もうひとつ外側に砦による防衛線が築ければ……」


 本拠地にして最前線基地がこの王城である現状から一歩進める。それさえできれば私たちにも動きようはあるのだ。


 少数精鋭チームによる奪還作戦に動くなり、獅子像の探索に出るなり。

 合わせてグリフィーヌの安否を確かめることだって出来るはずであるのに。


 ウィバーンによって私たちに与した疑いをかけられたグリフィーヌは、何らかの処罰を受けているはず。

 しかし、今日までの我が方への襲撃作戦にはまったく姿を見せていないし、後方から鋼魔空将の目撃情報は途絶えている。


 クレタオスもグリフィーヌの状況そのままを語るような口の滑らせ方はしてくれないし、グランガルトもこちらには来ていない。


 監禁されてしまっているのか。それとも極刑に処されてしまったのか。

 夢で見た様子から後者はないと信じたい。しかしはっきりと分からない内はどうしても不安な気持ちが晴れない。


「苦しいのね、ライブリンガー」


 思いきり顔に出てしまっていたか。

 心配して声をかけてくれたのは、首からライブシンボルを下げた神官娘のホリィだ。


「姉ちゃんも手当て終わったの?」


「ええ。私が受け持った方々は、もうばっちりに癒しの術で治療できたわ」


 防衛設備を利用し、数の優位でもってあたる。

 これが出来れば人間のみであっても、魔獣相手なら被害を抑えて打ち勝つこともできる。

 だがお膳立てを整えても全員無傷で完勝とはいかないもの。


 今回のみならず、拠点防衛に当たった人たちの治療の度に、こうしてホリィやビブリオたちが駆り出されているのだ。


 そんな一仕事終えてきたホリィに、私は苦笑しつつ頭を下げる。


「皆の支えにならないといけないというのに、心配させてしまってすまない」


「そんな水臭いことを言わないで。私たちは同じ仲間で、友達でしょう?」


「そうだよライブリンガー! 水臭いぞー!」


「ああ、そうだね。すまな……いや、ありがとう」


 二人からの温かい言葉に、ちょっとカメラアイの洗浄液が暴発してしまった。

 それを見たビブリオには大げさだと笑われてしまった。


「心配な人がいて、でも連絡が取れなくて。そんな状況になったら誰だって晴れない顔になるものよ。勇者様って頼られてるからってやせ我慢することはないわ」


「そういうのは見ててつらいよ。ボクらやマッシュの兄ちゃんには吐き出してくれたっていいじゃないか」


「ああ。その通りだ。二人の言う通りだよ」


 懐深く私を受け止め支えようとしてくれる友たちに、私は素直な感謝を告げる。

 これに二人は満足げにうなずき返してくれる。


「だからお城は私たちがしっかり守り切るから、ライブリンガーは遠慮なく潜入遠征に行って……と、言いたいところなのだけれど……」


「どうかしたの? そりゃあいくらライブリンガーでも敵本拠地に乗り込むって言うのは、そりゃあんまりかなって思うけど……」


 ホリィが胸を張って出撃どうぞと後押ししようとしてしきれず言いよどむのに、ビブリオも難しい顔でうなずく。

 だがホリィはその同意に違う、そうじゃないとばかりに首を横に振る。


「それもそうだけれど、別方向にも問題があるのよ……」


「ほかに何かやっかいごとなんてあるの?」


 ホリィの言う別方向の問題とやらがまるで思いつかずに、私はビブリオと一緒に首を捻る。


 そんな私たちの反応に、ホリィは言うべきかにわずかな逡巡を見せるも、意を決して口を開く。


「……今ライブリンガーは、鋼魔と通じてるんじゃないかって疑いがかけられているのよ」


「なんだよそれー!」


 ひそひそと抑えた声で告げられた驚きの事実に、私は虚を突かれてビブリオの抗議の声に先回りされてしまう。


「ライブリンガーはボクらのために前に前にって鋼魔と戦ってくれてるって言うのにッ!!」


「まあまあ。ビブリオの気持ちは嬉しい。嬉しいが一度落ち着いて、そんなにカッカしていてはホリィも説明したくてもできないよ」


 私は完全にヒートアップしているビブリオをなだめつつ、目配せにホリィへ説明の続きを求める。


「うん。本当にその通りだからビブリオが怒るのは無理はないわ。私にだって気分のいい話じゃないし、出来ればしたくない話だもの……」


「ゴメン、ホリィ姉ちゃん……」


 苦しげなホリィの様子にビブリオが怒りを収めて謝ると、神官娘は良いのだと少年の赤毛頭を撫でる。


「しかし、私も内通の疑いをかけられているとは……」


 鋼魔側ではグリフィーヌが、そして人類側では私が。

 両方揃って敵に通じていると疑われるとは悲しい話だ。


「言いたくはないけれど、やっぱり撤退するグリフィーヌを庇ってしまったのが大きいみたいで……」


 チラリとホリィが目をやった先には、魔獣からの獲得物を運ぶ兵士さんたちの姿が。

 遠巻きに城へ戻る彼らは、会釈をして私たちに敬意を払っているようではある。

 だが私を見てはいない。彼らが敬意と仲間意識を向けているのは、聖者と称えられているホリィとビブリオにだ。


 このように阻害される原因に何一つ身に覚えがない。

 そんなとぼけたことを言うつもりはない。

 とっさの事とはいえ、私の誠意を通すために、地響きを起こしてまで追撃を止めさせたのは他ならぬ私なのだから。

 後悔はないが、荒っぽくなったことは申し訳なく思っている。


「私たちは分かり合えるかも知れないならっていうライブリンガーの気持ちも、グリフィーヌならっていうのも知っているけれど……」


 近しい仲間だけのことならばともかく、そうでない相手の前でというのは確かに軽率だとしか言い様はないか。

 しかし、はるか後方で報告だけを聞いた人々に誤解されるというのはまだ分かるが、同じ戦場を駆け回った人々からも遠巻きにされるというのは少々堪えるな。


 救いなのは信じてくれるのがライブリンガー隊でくくられる仲間だけに限らない、ということだろうか。

 それ以外の全員から白眼視されていると言うわけでもないのだ。


 それもマッシュやホリィ、ビブリオの人望があってのことだろうが。


「拠点も整っていないばかりか、大勢からの信頼も揺らいでいる。これはなおさら軽率に潜入調査に踏み切るわけにはいかない、というわけだね」


「ごめんなさい、ライブリンガー。貴方がもっと自由に、力を尽くして戦えるように支えるのが私たちのやらねばならないことなのに……」


 沈んだ顔で詫びるホリィと、それにつられてうつむくビブリオ。

 私はそんな二人へ頭を振りながら両手でそっと包む。


「二人が謝ることは何もないさ。色々と重なってしまって、今は動く機ではなくなってしまっているだけだから。それに謝るのなら、その色々の大半を作ってしまった私の方だ」


「そんな!? ライブリンガーが謝ることなんてッ!?」


「そうだよ! そんなのおかしいって!?」


 私の手もろともに言葉を押しのけようとする二人の友に、私は笑みを返す。


「ああ。だからこれくらいにしておこう。フォステラルダさんとやったみたいにキリがなくなってしまいそうだからね」


「それを言われちゃうと……」


「ねえ?」


 仲間だからこそ素直な気持ちを伝えあうのは大事だ。

 だが、いつまでも頭を下げあうよりは、本当に現状に添った行動がなんなのかの議論をする方が建設的というものだろう。


 一先ず、チャンスが訪れるまでは後顧の憂いなく遠征できるように拠点と人々の回復に努めるべきか。と、私は思う。

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