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勇者転生ライブリンガー  作者: 尉ヶ峰タスク
第二章:集結・天
35/168

35:ニュー参謀と反目の空将

「ハハハハハッ!? 凄い、凄いな!? 気流が乱れてうまく飛べないぞッ!? アハ! ハハハッ!?」


「そう言う割には素早く正確だなッ!?」


 盾の嵐を纏わせた拳を振るうも、グリフィーヌは易々とこれをすり抜け、今また私の背中に雷撃を走らせる。

 これを払おうと私が嵐の腕ごとに振り返るも、グリフィーヌはすでに私に稲妻を叩きつけて回り込んでいる。

 ならばとロルフカリバーにも纏わせて全身をシールドストームに包んで見れば、膨らむ旋風に乗って離脱し、また風が緩むのに乗じて斬り込んでのヒットアンドアウェイ。


 しかも誘い込んでカウンターに嵐の繭を張って見ても見え見えだとばかりに逃げられてしまう。


「これのどこがうまく飛べていないのだとッ!?」


 叫びながら高くへ飛び去って翼を広げた彼女へプラズマショットを四門斉射。しかし案の定、これもヒラリとかわされてしまう。


「飛べていないとも! 少なくとも、空中変形の強襲技を披露する余裕のない程度にはな!」


 そして急降下に迫った稲妻の刃を受け流して、私は剣持つ腕を左回転に破壊竜巻を発動。これを纏わせた刃を空に流れたグリフィーヌへバスタースラッシュ一閃!

 だが女騎士は翼を巧みに暴風にその身を流して避けて見せてくれる。


「今のは危なかった! だがこれがいい! 一刀一撃で打ち倒されてしまうかもしれないこの緊張感……私はこれが、これが欲しかったのだッ!!」


 叫びと共に放たれる小さな雷刃。

 雨あられと降り注ぐこれを、私が嵐の刃で打ち払うと、太く鋭い稲光が懐へ飛び込んで――!


「やはり私の目に狂いはなかった! 全力の、マックス形態の貴公こそが、私を満たしてくれる最高の敵だった!?」


 辛うじてロルフカリバーで受けた私に、グリフィーヌは自分の雷剣が自身を焼き切るのも構わずに迫る。


「さあその剣で、その拳で、力で満たしてくれ……私自身の、貴公の喪失さえも正しかったと胸を張れるような戦いを……ッ!!」


 まるで口づけするかのような距離からの、うっとりとした言葉。

 これに私の心には、なにやら熱く眩しい何かが走る。


 しかしそれを認めるのとほぼ同時に、激しい地鳴りとそれに伴った土煙が鋼魔の征服域方向の遠くに。


「何事だッ!?」


 グリフィーヌにとっても奇襲だったのか、彼女は仕切り直しだとばかりに密着状態から飛び退って土煙を睨む。


 闘争に心を躍らせていたところに水を差された怒りの目が向いたその先で、立て続けの土煙と、空中で翼を広げたシルエットが近づいてくる。


「おのれウィバーンッ! また邪魔をしに来たかッ!?」


 この怒鳴り声に、飛来した飛竜・鋼魔の空将ウィバーンは翼を翻してのホバリングに私たちを見下ろしてくる。


「おいおい。邪魔とは随分な御挨拶じゃないか。抜け駆けに飛び出した部下に援護が必要ではないかとやってきた上官に対して」


「それが余計な世話だというのにッ!!」


 悠々と見下ろすウィバーンに、今にも切りかかりそうな勢いで食ってかかるグリフィーヌ。


「ウマの合わない相手の副官につけられるのは……辛いものだね、グリフィーヌ」


「おおっと? もうオレとコイツは空将とその副官じゃあないぜ、ライブリンガー」


 思わずこぼしてしまった同情の言葉に、ウィバーンがすかさず訂正を入れてくる。

 これにどういうことかと疑問に目を瞬かせていると、上空の飛竜は大きく翼を広げて言葉を続ける。


「それじゃ改めて名乗らせてもらおうか。鋼魔空将改め、ニュー参謀のウィバーンだ。先代のバルフォット殿の跡を継いでな」


「私が打ち破った参謀の後釜に収まったとッ!?」


「その通りでございますー! 貴様たちの活躍のおかげで昇進させてくれてありがとう!」


 ご機嫌に翼を上下させたウィバーンは、一頻り声を上げて笑った後に、その目をグリフィーヌへ。


「で、オレの昇進に引っ張られて、グリフィーヌが空将に繰り上げになったワケだが、まあ見ての通り将としちゃ脳筋クレタオス以下の以下でな。元直属の上官としちゃあ心配で目が離せないってワケさ」


「何をッ!? 私には私のやり方というものがあるッ! 貴様の胸くそ悪い手口をなぞる気など毛頭ないぞッ!」


 反発のままグリフィーヌは、鉄仮面のバイザーを明滅させて新参謀へ怒鳴り返す。

 しかし怒気に突き上げられた飛竜はまるで動じた様子もなくこちらを見下ろしてくる。


「それはいい。いいさ。だがな、将たるものがむやみやたらに単騎駆けするのは良くないぜ? 空の魔獣を働かせるのもお前の仕事なんだからよ」


 先頭を切って戦い鼓舞する。

 グリフィーヌは武将とするならそういうタイプだろう。だがだとしても、率いる配下も伴わずの単騎駆けをやってしまうのは匹夫の戦働きであって、私としてもフォローしきれない。


「だからといって、いったい何をしに来たというのだッ!? 今彼と戦っているのはこの私なんだぞッ!? たとえネガティオン様の命令であってもこれは譲らん! 邪魔も許さんぞ! 断じてだッ!?」


 開き直り半分にサンダーブレードの切っ先を突き付け、戦士同士に割って入るなと叫ぶグリフィーヌ。

 この堂々とした命令無視宣言に、しかし対するウィバーンは「怖い怖い」とわざとらしく翼を上下させて見せる。


「邪魔もなにも、お前はそのまま好きにしていればいいさ。存分に戦いを楽しんでいればな」


 自由を許すこの言葉だが、グリフィーヌは警戒を緩めない。


「やれやれ、信用の無いこったな。オレはオレで仕事をさせるだけだってのに」


 長い首をフリフリに呟くや、ウィバーンはその顎を強く噛み鳴らす。

 これを合図に彼の真下で地面が爆ぜる。


 立ち込める土煙の中に浮かぶのは、長い角を持つシルエットだ。

 煙幕を切り裂くようにして突き出したその長いものは、鋭く太い金属の円錐。

 それに続いて、丸みを帯びた装甲が円錐の支えとなって現れる。

 さらに土煙を蹴散らすのは、見るからに安定感に秀でた太い鎧脚。

 ウィバーンが引き連れてきたこの魔獣は、メタルの外骨格の甲虫カブトムシであった。


「ウィバーン貴様!? 尖兵バンガード化させたナイトビートルをッ!?」


 グリフィーヌが批判めいた声を投げたように、巨大なカブトムシのランスホーンにはたしかに、緑色の金属塊が根を張るように埋め込まれている。


「ちょっとした実験のつもりでメタルの欠片で作ってみたヤツだったんだが、メタルも埋め込んだのも想像以上に育ってくれてな。パワーが不足したら数で補うつもりだったが、その必要もなさそうで嬉しい誤算というやつだ!」


 言うやウィバーンは追い立てるように歯を噛み鳴らす。

 これを受けて鋼魔の先兵として強化された虫型魔獣は、六本の脚を重々しく響かせてこちらへ迫る。


「やはりウィバーン! 私たちの戦いに横槍を入れさせるつもりでこれをよこしたのかッ!?」


 これにカッとなって叫ぶのはやはりグリフィーヌだ。

 しかし空の新参謀は、女騎士が本気で飛びかかってくることはないと高をくくっているのか、涼しい顔で見下ろしている。


「おいおい。紛らわしいとは思うが、ちょいと落ち着いて見ていろよ」


 なだめているのか、それとも挑発か。どちらつかずなセリフが降ってきた直後、ナイトビートルの角から熱線が放たれる!

 大地を切り裂く勢いで迸ったそれはしかし、身構えた私とグリフィーヌの間をすり抜ける。


「なッ!?」


 外れたッ!?


 その驚きとともに弾道を辿れば、それはあってはならない方向へと向かっていて――!


「おおおおおッ!?」


 それを認識した瞬間に私は脚力とスラスターを全開にダッシュジャンプ。熱線を追い越して背中で受ける!


「ライブリンガーッ!? 大丈夫なの!?」


「ああ問題ない。任せてくれ」


 安心させるためにそう答えたが、マックス形態であっても強烈に焼かれた。だがそれでいい!

 ビブリオたち、皆が詰めている拠点部分が焼かれるよりは億倍いい!


「ウィバーン! 貴様、よくもッ!?」


「オイオイオイ!? オレはライブリンガーは狙わせてないぞ? そいつのお仲間や拠点を削りにかかっただけだ。それをライブリンガーがお前との勝負を投げだして割って入った。そうだろ?」


 一方、ますます燃え上がったグリフィーヌの怒りに、ウィバーンはわざとじゃない、そういう結果に転んだだけだと主張する。


「ってわけでオレとオレのバンガードは引き続き、お前の嫌いな拠点破壊と人間の蹂躙をやってくから。ライブリンガーが射線に割り込んでも止める気はないからそのつもりでよろしくな!」


 そして一方的に宣言して第二射を指示。

 これに私はシールドストームを起動し、振り返る。


 だが私の盾が放たれた熱線を受けるよりも早く、熱線は散されていた。


「オイオイ、なんのつもりだグリフィーヌ?」


 そう。私の前にあった翼持つ背中。それは熱線を切り裂き散らした誇り高き女騎士グリフィーヌのものであった。

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