152:それぞれの為すべきことを
最短距離を突っ切って取り戻す。
そのつもりでの急降下突撃はしかし、横合いから襲う衝撃に阻まれた!
「なんのッ!?」
これに大きく流されながらも、グリフィーヌは私を手放し、邪魔をした白い鋼の蛇へ斬りかかる!
「行け! ライブリンガーッ!!」
「任せてくれ!!」
邪魔者は自分が引き受ける。と、ホリィの救出を託してくれたグリフィーヌに応えるためにも、私は地面を噛んだタイヤを高速回転。ホリィ奪還の突撃を続ける!
「ホリィは返してもらうぞ!!」
「きゃー! やだやだ暑苦しいー!」
しかしそんな白髪黒目の少女、インバルティアの声と合わせて足元が爆発。私の車体は宙を舞う。
「グゥッ!? チェーンジッ!!」
吹き飛ばされながらも私は人型へ変形。車内にいたビブリオを抱えて着地……するも早々に抱えたビブリオを突き飛ばすように放り出す。
何故ならば待ち構えていたようにまた私の足元が弾け、グリフィーヌを襲ったのと同じ鋼の大蛇の口に挟まれたからだ!
「ライブリンガーッ!?」
「私のことは気にしないで! ビブリオは自分のすべきことをッ!?」
と、心配無用だと友には言った。だが私をあっさりと空高くに運んだ大蛇のアゴは、突っ張った私の腕を押し潰してしまおうと圧を強めてくる。スパイクシューターも打ち込んだが、まるで歯が立たない! かくなる上は!
「マキシローラーッ! マキシローリーッ!!」
修復完了した二機のマキシビークルを真上にコール!
自由落下する二台は、私を襲う大蛇の鼻とアゴを直撃してこじ開けてくれる。
「ライズアップ! ライブリンガーマックス!!」
マキシローラーを上半身、マキシローリーを下半身とした巨大戦闘形態。しばらくぶりの調子を確かめるべく、両腕のローラーを左回転にダブルバスタートルネード!!
「グリフィーヌ! 来てくれ!!」
「おお!? 待ちかねたぞッ!!」
食いついてきた大蛇の頭を吹き飛ばしながら呼び寄せたなら、翼ある女騎士は声を弾ませて落下する私のもとへ。
置き土産の稲妻の剣をものともせず、彼女を追いかける金属の大蛇に、私は四連プラズマショットの斉射からのバスタートルネードを見舞う。
そうして時を作ったところで、グリフィーヌは大型のウイングへ変形しつつ私の背後へドッキング。ライブリンガーマキシマムウイングとして完成する!
「我らが友を!」「返してもらうぞッ!!」
機体をひとつとした私たちは、再びスラスターを全開にホリィの横たわった寝台へ!
「イーヤーよっと」
しかし少女姿のインバルティアが軽く手をかざせば、私の真正面に巨大な鋼の壁が割り込むのだ。
激突の勢いのまま、私は雷電破壊竜巻を纏った両腕を障害物へ叩き込む。装甲を抉ったこの一撃に、壁は容易く折れ始める。このあまりにも呆気ない違和感に、私はとっさにアームローラーを反転。弾く守りの嵐のパワーも加えて急速離脱する。
果たしてその判断は正しかった。壁と思っていたのは五つ首の大蛇の胴体で、折れると見せかけて私の離脱に遅れて取り囲んできた首たちが、私の背中に殺到していたのだ。わずかにでも判断が遅れていたら隙間をロール回転にすり抜けられずに巻き取られていた事だろう。
「あーらら。つれないんだー」
インバルティアがわざとらしく残念ぶってみせると、ひと塊に丸まった鋼の大蛇がそのままに私たちへ迫る。
「ロルフカリバーッ!!」
ちょうど握り拳を作るように固まったそれを引きつけつつ、私は己の剣をコール。相反するエネルギーの螺旋を肉厚の刃に纏わせるや、翼の向きを反転させて前進。クロスブレイドを叩き込む!
必殺の刃を受けた塊は、まるで果実に鉈を入れるように割れて、私とすれ違っていく。そして背後で爆発四散。その余波を追い風にグリフィーヌの翼は私を友を捕らえた邪神のもとへと。
「受けてみろッ!!」
その勢いのままに見舞うのは剣……ではなく、バースストーンの輝きだ。私とグリフィーヌ、ロルフカリバーも共鳴させたその輝きは、この場に夜明けを作る!
「うーわ、相変わらずうるさい光してくれてさ! うっとうしいったら!」
その苛立ちの声に続いて、邪神少女の影から瘴気が噴き出す。私たちがこれまでに見たどれよりも濃密なこの邪気は瞬く間に私たちの産み出した朝を夜に塗り直してしまう。そして深く濃い闇は私たちの視界をも塞ぐのだ。
「しまった!?」
「こっちの手駒を散々潰してくれてさ。ホント、めんどくさい奴らよねー」
聴覚系の感度を上げた私は、その声に続いて風を切り裂くような音を捕らえる。
鋭く迫ったそれはかろうじてかわしたものの、立て続けの四方八方からくるものは避け損ねて組みつかれてしまった!
強引に邪気を振りほどいて視界を開けば、絡み付いたそれらの正体が明らかになる。
「ウィバーンッ!?」
鋭角な装甲と翼を備えたその人型は、紛れもなく飛竜参謀だ。それが一体だけでなく、何体もの群れをなして私に組み付いて来ているのだ!
だがこれはおかしい。ウィバーンの魂は確かに冥界に送られたはず。冥府を管理するエウブレシア様がまさか間違うはずが!?
「お前たちに潰されたせいで、わたしがコントロールしなくちゃならないのよね。分不相応な野望を無駄にこね回してるのが可愛くて、けっこうお気に入りだったのにねー」
その嘲笑を添えた一言に、私はアームローラーを中心に全身からエネルギーを放出。まとわりつくものを吹き飛ばす!
「貴様! 死者を、命を愚弄するかッ!?」
憤りのままに振り下ろした剣はしかし、割って入った操り人形を叩き割るに終わる。
少女邪神たちを、儀式台ごと五つ首の大蛇が持ち上げたのだ。
地面を振り払う首たちに弾かれ、私たちは地面へ。そうして落下する私たちを待ち構えて、魂なきウィバーンたちが電撃を構えて――
「マキシアームッ!!」
その足元に私はラヒノスの変じた双腕仕様機をコール。ダブルドリルでもって掘り返しにひっくり返す!
そして飛んできた鋼の人型を蹴飛ばし叩き切って単独でグランデとなるその巨体に降り立つ。
「突撃!!」
バスタースラッシュと共に発した号令に、マキシアームは四つのクローラーの全力で前進。飛びかかるウィバーンもどきの雑兵をその巨体とダブルパワーアームで蹴散らしていく。
「ビブリオどこだいッ!? 今助けに行く!」
同時に激しい戦いではぐれた友にも呼びかける。だがライブブレスを通した返事はまさかのものだった。
「ボクのことはいいよ! いまいっしょに飛ばされて、姉ちゃんのトコまで歩いて行けそうなんだ。だから姉ちゃんはボクに任せて!」
「蛇の上だと? その上一人でインバルティアに立ち向かうつもりか!? 無茶な!?」
居場所もそうだが、ホリィ奪還を引き受けるという提案にはグリフィーヌのみならず、私も声を上げてしまいそうになった。
「怖いし、無茶だって分かってるよ。でもやらなくちゃ! それに、ライブリンガーたちがいてくれるんだから、ひとりでやるんじゃないんだから!」
「……分かった」
こう言われては了解するしか無いじゃないか。ロルフカリバーからはとがめるように声が上がるが、ビブリオの気持ちを考えれば信じる他無いだろう。
「状況に合わせて私たちが何とかする。だから必ず二人とも生きていてくれ。約束だ」
「もちろんだよ! 任せてって!」
力強い友の返事に応じて、私たちは私たちのなすべきことへ。友に手の届く場所へ向かうために!
そんな私たちの行く手にウィバーンもどきたちが集まる。しかしただ隊列を組んで固まるのではない。鋼の身を寄せ合い、ドロドロと溶け合って更なる巨体へ変じていくのだ!
「ほーら。お前の命を奪った勇者様よー命の仇は体で討たせてあげるからねー」
邪気を帯びてより強大に再創造されたウィバーン。光無き眼でこちらを睨んで、私たちを丸ごとに噛み砕けそうな口からは落雷めいた咆哮が放たれる。
だがビリビリと大気の波を叩きつけてくるその横っ面に、白と毒々しい緑色のモノが突き刺さるのであった。




