141:落ちる雷みたいに飛び込んで!
「グリフィーヌ、もっとスピード出して!!」
「無茶を言うなッ! 魔法での保護があるとはいえ、生身で剥き身の人間を抱えてこれ以上の速度で飛べるものかッ!?」
あせるボクをグリフィーヌがしかり飛ばす。
ライブリンガーとグランガルト、ラケルと別れて三人だけでラヒーノ村に急ぐことになったボク達だけれど、あんまり速くなれてないんだ。
だからついもっと急いでって急かしちゃったんだ。
たしかにグリフィーヌが無理だって言うくらいに、今でも天魔法で風を逸らしていても辛いのがある。だけどさ!
「そんなこと言ってられないよ! もっとボクたちも魔力を出すから!」
「ええ、だからかまわないでやって!」
「……ええい! どうなっても知らんぞッ!!」
ボクらふたりがかりで頼み込むと、グリフィーヌは一瞬の迷いを見せたけれど、力を込めて翼を振ってくれる。
グンと体にかかった重みに、ボクは思わず目をつむりそうになる。けれどそれもグリフィーヌがバリアを張ってボクらを守ってくれてるのが見えたから意地でも目をつむったりなんかするもんかってこらえられた。
そうやって姉ちゃんとふたりで歯を食い縛って堪えてると、前の方で炎の光が見えた。
「そんな!?」
「いや、まだだッ!!」
ショックで体から力が抜けそうになるのを、グリフィーヌの声がふんばらせてくれる。でもまだってなにがって聞くよりも前に、村を囲む森から飛び出してくる人たちがいる。
でもその後ろからは木々をなぎ倒してきた機兵が追いかけてきてて!
「させるものかよぉおッ!!」
そんな機兵の注意を引くためか、グリフィーヌは大声を張り上げながら電撃弾をばらまいて急降下!
その勢いをワシのクチバシから機兵の肩にぶち当てて吹き飛ばした!
もちろん一体吹っ飛ばしたくらいじゃ止まれなくて、後に着いてきてたのにもどんどんと突っ込んでっちゃう。
そんなグリフィーヌがいきなりに翼をひねって宙返り。弾ける冥の魔力の渦を置き去りに。そのままグルグルと景色が振り回されたかと思ったら、急にふわっと勢い緩んで、鼻の中いっぱいに草と土の匂いで埋まる。
地面に下ろされたんだって、振り回された頭の中身の揺れを払おうとしながら自分の居場所を確かめてると、耳にいきなりカミナリの音が何発分も。
「させるものかと言ったはずだぁッ!!」
このカミナリがグリフィーヌの剣が出した音だって分かったのは、グリフィーヌの勇ましい声が続いたからだ。
ボクらには翼ある女騎士が着いてくれてる。その安心を受けて、ボクだってなんかしなくちゃって回る目を押さえて立ち上がれたんだ。
「ビブリオにホリィも!? アンタたち無事かい!?」
「フォス母さん!?」
「先生、そっちこそ!!」
後ろから駆けてきた足音と声。ボクも姉ちゃんもよく知ってるこれに振り返ったら、フォス母さんがいた!
着てる神官服は泥やススに汚れてるし、破けてもいる。けれどちゃんと生きていてくれてたんだ!
そんなフォス母さんが連れてるのは、村に残ってたボクらの孤児仲間のきょうだいたち。それに若い女の人やよその家の子たちだ。
「ああ。いきなり村を攻められてね。アタシも残るつもりだったんだが、女子供を任されちまってね……」
じゃあ、母さんとにいっしょにいるみんなが村の生き残り全員で、爺ちゃんや婆ちゃんたちはみんな……!
胸が締め付けられて、目の奥が痛くて熱くなるこの気持ち!
全身が煮えるようなこの気持ちは魔力になってボクの体から噴き出した!
オレンジに光る四色の獣。今のボクと同じように歯を剥き出しにした竜と獅子とフクロウ、そして三首の番犬は、大声をあげてグリフィーヌに襲いかかろうとする機兵に組みついた!
メチャクチャに爪や牙をぶつける聖獣姿の魔法たち。これといっしょにボクも叫んでたのかもしれない。
だから聖獣の形をした魔力に食いつかれた機兵はボクに振り返って武器をかまえて
――
「危ないビブリオッ!!」
その武器が振り下ろされたのといっしょに、ボクは柔らかいのに包まれながら横へ飛ばされる。
「ね、姉ちゃん? 母さんも?」
「良かった。無事ね」
「怪我はないね? なら良し!」
ボクが無事なことに笑ってくれたふたりだけど、ふたりとも無傷じゃない。機兵の攻撃で飛び散った石に当たったのか、腕や足にキズができてる!
「ご、ごめん、ごめんよ! ボクが、ボクが……!」
自分を見失って機兵にぶつかったりしたから。そのせいで大事なふたりにケガをさせたことに謝るボクを、姉ちゃんも母さんも笑って包んでくれる。
「無理もないわ。ビブリオが怒ってくれてなかったら、私がきっとそうなってたもの」
「ここで謝れるくらいに頭が冷えたのなら上出来さね。あとは今なにするかってことに頭回しなよ」
「ありがとう!」
そうだよね。ウジウジしてるヒマなんか無いんだ! 母さんが抱えてるみんなを守らなきゃだ!
だからボクはキズに魔法をかける姉ちゃんたちよりも前に出る。
これにボクらを襲った機兵を叩きのめしたグリフィーヌが、激しく目をチカチカさせる。
「ここは私が食い止める!! だから戦えない者を連れて離れろッ!!」
「ボクだってやれるさ!」
別に意地になってたからじゃない。戦えないきょうだいたちを守るために何ができるのか。何の魔法を使ったら良いのか。それが見えたから!
「エウブレシアさま! 大地の力をお貸しくださーいッ!!」
詠唱でも何でもない、冥の精霊の母への呼びかけ。
何をどうするのかもボクの頭にあるだけのこのお願いに、だけど大地はしっかりと答えてくれた。
目の前にいる機兵たちがみんな残らず、地響き立てていっぺんに転んだんだ。
それはそうだよね。アイツらが踏みつけてる地面が、急にズルズルの泥になったりしたらまともにふんばってなんかいられるもんか!
「いまだよグリフィーヌ、やっちゃって!」
「お、おうとも!」
呆気にとられてたグリフィーヌも、ボクの合図で隙だらけな連中が転がってるのに気づいて羽ばたく。
「私は、手向かう相手にライブリンガーのように優しくは出来んからなーッ!?」
叫びながらグリフィーヌは、空を滑りながら次々に泥に足を取られた機兵たちを斬りつけてく!
でもそのカミナリの剣が斬ったのは足や武器、それを持つ手ばかりで、乗り手が死んでしまうようなところに当てたりはしてない。
「わっほい! さっすがグリフィーヌッ!!」
「正確で鋭い剣の冴えね!」
「ええい! おだてるのはいいからやることをやれと!」
グリフィーヌったら照れちゃって。
もちろんやることだって忘れてないやい。
ライブリンガーには場所も今どうなってるかも伝えたし。森の中から出てきたヤツも転ばしたし。
姉ちゃんと母さんも、戦いの場から離れようって、グリフィーヌとボクが食い止めてる間に少しでもって移動してくれてる。
もちろんボクだって機兵たちからは離れていってる。
守んなきゃなのは母さんが逃がしてきた村の生き残りたちで、ボクがグリフィーヌの足手まといになるわけにはいかないんだから!
「火炎槍、放て!」
だけどそんな声の後に、いきなりボクたちの逃げ道が火の壁でとおせんぼに。
この声、聞き覚えがあるイヤな声は!
「我が主に捧げるにはまだまだ足りないんだ。祖父母と同じところへいかせてやるんだから、逃げるほどの悪い話じゃないだろう?」
森の中から槍を突き出してこっちをのぞいてる機兵たち。その一機の肩に乗ってるのは!
「メレテの仮面軍師!!」
そう叫ぶボクに、仮面軍師は軽く手を振って、また機兵の槍に炎を出させたんだ!




