139:持ち帰ったお告げの中身
「ホッホウ!? なんとゲートべロスの出陣があるとッ!?」
「うん。冥の精霊神エウブレシアさま直接のお知らせだから、まちがいないよ」
「そうかよ!? いやあいつも久しぶりだな!? いや、石になって寝こけてたから実際のところどれくらいかは分らんがな!? ガハハッ!」
「実感が湧かんというのは分かるが。それよりも三人が冥界に門の前まで行ってきて無事に帰ってきたことの方が大事だろうが」
「心配してくれてありがとう。ガードドラゴ」
そうなんだ。話しておきたいことがあるからってエウブレシアさまに門の前まで呼ばれたボクたちだったけれど、話が終わったらホントにすぐ無事に現世に返してもらえたんだ。
それで無事の報告をしながら、エウブレシアさまからのお話も三聖獣にって繋いでるんだ。
でもその話は援軍みたいな良い話ばっかじゃなくって、全然安心できない話もあったんだけど、ね。
「まあそちらも話すことはまだあるんだけれど、とりあえずこっちは港を襲ってたのは倒せたから」
「その被害の応急処置的な修復の休憩時間に一つしっかりと、というわけでね」
姉ちゃんがボクの隣で、それでボクらを包んだライブリンガーが補ってくれたとおり、戻ってきたボクたちを待ってたのは心配するグリフィーヌと、攻撃を受けた港町だった。
最後の大物の爆発のダメージは、ライブリンガーがかき消してくれたおかげで思ったほどでもなかった。けれど、建物も船も燃えたり壊されたりで、人を狙った攻撃もしつこいくらいでひどい被害が出てて、人まわりの被害は鋼魔が魔獣をけしかけてやってた時より酷いくらいだ。
操られてのことだからって、人がやった方が鋼魔よりもむごいことになるだなんて……つらいな。
そんなバカにならない被害だったけど助かった人だっている。そんな人たちのためにボクらみんな出発を遅らせて修理や手当を頑張ってるってわけなんだ。
それでその間にボクたちは、ライブリンガーの中から遠くの仲間たちと連絡してるんだ。
近くにはもちろんグリフィーヌがいて、グランガルトとラケルもすぐそばでボクたちの話を聞いてる。
「ホッホウ。後手に回って動いた以上、出てしまった被害は仕方がない。倒せたのならば結構。修理も治療も良いが消耗しすぎない程度にな」
「冷たいようだけどよ。どれもこれもってわけには行かないからよ」
「我々も腕は大きく広くなったが、それでも抱えられる分に限りはあるからな」
「オウルにフォレストも、スノーもありがとう。それで、大事な話なんだけど、メレテの太子を操ってるのは鋼魔の残党に間違いないけど、さらにその裏に本物の黒幕がいるんだって」
「その裏の黒幕……だと?」
「なんだ? 冥界でパワーアップして脱走したスーパーネガティオンだーとか?」
真剣なガードドラゴと、ちゃかした風なファイトライオ。調子は違うけれど、もったいぶらないでくれよって先を欲しがってる二人に。ボクは重たい気分になりながら言葉にする心を決める。
「……邪悪なる創造主」
エウブレシアさまから聞かされたその言葉を伝えたとたんに、三聖獣が息を呑んだのが分かる。
「マジかよ、なんかの間違いじゃねえのか?」
「しかしエウブレシア様が言うことだぞ? そう思いたいのは我輩も同じだが……」
「ホッホウ。私たちが石の眠りについてでも封じた邪神……なるほど、代理を立てられるようになったとはいえ、もはやゲートベロスまで来るほどのことかと思っていたが、それで合点がいったぞ」
大昔に命がけで戦った邪神の存在に三聖獣の声も沈んじゃう。
「何を弱気になっている。らしくもない! 以前の戦いではお前たちと人間たちで共に戦い封じるしかなかったのだろうが。今は勇者ライブリンガーと私が、それだけでなく多くの勇士がいるのだぞ! さらに第四の聖獣も加わるのだというのに!」
「奥方!? 拙者たちのまとめ方が雑ですぞ!?」
何を臆することがあると発破をかけるグリフィーヌに、ロルフカリバーとハイドツインズからはひどいじゃないかって声が出る。
「ホッホウ……かつてよりも戦力が充実している。それはそうなのだが……な」
これには三聖獣も和んじゃう……かと思ったら、向こうから返ってきたのは歯切れの悪い声だった。
「なにか心配事があるのかい?」
「いや、ロルフカリバー……その前身であるかつての勇者の剣、天狼剣。その使い手であった勇者がどうなったのか。なぜかそこが今もぼやけているのが引っ掛かってな……」
ライブリンガーが何を心配してるのか聞いて出てきた言葉に、ボクらはハッとなる。
そうだよ。勇者の剣って伝説はあったけれど、その勇者がどんな姿をしてたとか、その辺りはあやふやなんだ。サイズの自在なロルフカリバーだから、人間だったのかライブリンガーみたいな鋼の巨人だったのか。どっちでもおかしくないんだよね。
「拙者もその辺りはなんとも……この体を得るまではハッキリとした意識があったわけではありませんから。ただ……」
「ただ? どうしたんだい?」
「殿と共にあることは自然なことであるように感じております。殿の剣であること、それが拙者にとって当たり前であると」
そうなんだ。なら昔の勇者もライブリンガーそっくりだったのかもしれないね。見た目とかじゃなくて、心とかそういうのがさ。
「しかし先代勇者が石の眠りについていないということは……そういうことか。手合わせ願えないのは残念だ」
「ホッホウ。案外、巡り巡ってライブリンガーに生まれ変わっておるのかもしれんな?」
「それではネガティオンも大昔の勇者の生まれ変わりだということになってしまうぞ?」
その辺りは別にいいかな。それならそれでって思うけど、生まれ変わりがどうとか関係なしにライブリンガーはライブリンガーなんだからさ。
そう言ったらライブリンガーは、優しい声で「ありがとう」だって。ボクは別に当たり前のことを言っただけなのにね。
「そうそうネガティオンって言えばどうなんだよ。向こうでちゃんと大人しくしてるのか?」
なんとか明るくなりかけた話だったけれど、このハイドフォレストの一言で、まだ悪いニュースが残ってたのを思い出しちゃった。
それでボクたち三人が苦い気持ちになって黙っちゃったからか、ハイドフォレストからもなんかやっちゃった、って感じの気まずい気配が伝わってくる。
この最悪のニュースも伝えなきゃだけど、いったいどう伝えたらいいのさ。
そんな風にボクが迷っていたら、ライブリンガーが先に心を決めて。
「……ネガティオンは冥府には行っていない」
「どういうことだライブリンガー?」
「ネガティオンは死んでいないということだよ。それどころか、バルフォット以外の鋼魔は誰ひとりとして冥府に行っていない」
ライブリンガーがハッキリと言葉にして伝えた事実に仲間たちと繋がったバースストーンから稲妻みたいな驚きが伝わってくる。
「なんと……!? 拙者は確かに決定的なものを貫いたかと思ったのにッ!?」
「しかしエウブレシア様もバルフォットも、門番であるゲートベロスも、他の鋼魔の魂を迎えてはいないと。たしかに、まだ地上で彷徨っている可能性も否定はできないが……」
「死んだはずだと決めつけるよりは、生きていると見て心構えをした方がよかろうな。ホッホウ」
セージオウルの意見にライブリンガーは苦しそうな声でその通りだって返事する。
ライブリンガーは辛いよね。ただでさえネガティオンを分身だって、魔王のやったことに重たく責任を感じてる。なのにやっとの思いでやっつけて悪行を止めたと思ってたらそんなことはなかっただなんてさ。あんまりじゃないか!
「うあー……そうなんだよなーネガティオンさまは生きてるんだよなー」
「でもグランガルト様。私たちはもうライブリンガーに助けられて協力もしてしまったのだから、探して駆けつけても今さらじゃない? きっとひどい罰を受けるわ」
「そうなんだよなー! なんども助けてくれたライブリンガーとのやくそくもやぶりたくないしなー!! ネガティオンさま相手はかくれてていいか? いいよな!?」
「そうだね。無理強いはしないよ。ネガティオンを助けないでいてくれるだけで充分だ」
「そうか!? いいんだなー!?」
ライブリンガーから戦わないでいいって聞いて、グランガルトが安心するばかりにその場で転げ回る。
ネガティオンにびびってたグランガルトが、魔王が生きてるって聞いたらどうするのかは心配だったけど、とりあえず大丈夫そうでよかったよ。
だけれど、安心してられたのはホントに一瞬だけのことだった。
「……すまない。こちらからも悪い報せだ。騎兵の軍団がイナクト領に侵攻を始めた。それも大軍団でだ」
「そんな、それじゃあ村は!? 先生のいる私たちの故郷は!?」
「ラヒーノ村にも村人を逃がす兵を送ったが、俺たちでも領地全体を守れるかっていうとな」
「こちらで圧力をかけていてなおその兵力を出せると!?」
姉ちゃんの悲鳴みたいな声への返事を聞いて、ボクたちはグリフィーヌの翼で飛び上がったんだ。
母さんの、みんなのいる村を守らなきゃってさ!




