137:港町に火種を蒔く鉄クジラを見た
「火の手が……ッ!?」
「船やら家やらで盛大に狼煙を焚いてくれて!」
近付いてくる戦場の景色に、グリフィーヌは翼の力とスラスターを全開に空を走る。この加速のなか、私は燃えて沈む木造船に煙る鉄の巨体を認めることに。
「わっほい、ナニあれッ!?」
「島? 鉄のッ!?」
ビブリオとホリィが目を剥くのも無理はない。港を襲い、燃える船を踏み潰すように沈めていく鉄の船はあまりにも巨大だ。
合体状態の私たちが全員乗れてしまえそうなくらいの大きさなのだ。
鉄の島と形容されたこの巨大船舶は、私たちの接近に気づいたのか、長い大砲の数々や、船員として走る機兵の槍をこちらに向けてくる。
「上がるぞ!!」
言うが早いか、グリフィーヌは急上昇!
ほぼ直角にさらなる上空を目指すその動きの真下で炎の塊が通りすぎる。
さらに追いかけてくる熱量の濁流に煽られながら、私たちはグリフィーヌの巧みな機動に導かれるままさらに高くへ。
そしてバレルロールに炎を振り払った我々は鉄の島の真上に。
「行くぞ! グリフィーヌ、二人を頼むッ!!」
「ああ! 任された!」
グリフィーヌの返事を皆まで待たずに私はチェンジ。同時に車体から放り出された友を翼持つ女騎士に預けてのフリーフォールだ!
「マキシアームッ! ライズアップだッ!!」
迎撃の炎が雲を貫き吹き飛ばす中を、私は大の字にグランデのボディを成すマキシビークルをコール。門から出てくるなりに展開して受け入れ態勢を作ってくれる熊の重機へと飛び込む!
そして私は巨大な機体の隅々にまで意思が通ったのを確かめ、肩慣らしに両肩から伸びた一対のパワーアームを一振り。一際大きな炎の塊を薙ぎ払う!
私を驚異とにらみ、文字通りに全火力を一点収束させたのだろう炎。それを削り取るように散らしたバゲットを振り抜くままにチェンジ。
「ダブルサークルソーッ!!」
そのままアームを振る勢いとスラスターでもって宙返りに回転ノコを真下へ突き出した私は、切り裂いた炎を帯びて真っ赤に染まったノコの刃を機械船の甲板に叩き込む!!
質量と高度が重力によって乗算を受けて産み出した圧倒的破壊力!
それは島のごとき船体であっても深く海をたわませ、波しぶきを私のグランデボディにまで届かせる。この降り注ぐ塩水の雨の中、私は船体の歪みの中心点からノコを振り抜く。
この深い裂け目から巨大な船体はめきめきと軋み音をあげてさらにひしゃげていく。
だが明らかに沈み行く船に乗りながら、機兵たちは濡れて歪んだ甲板を滑って私へ槍を突き出してくるのだ。
事ここに至って未だに敵に集中していられるなど、明らかに異常ではないか!
「ラヒノスクローッ!!」
乗り手が完全に操られていると悟った私は迫る穂先を展開したクローでからめとって放り投げて水柱にする。
そして水柱が次々と上がるその合間に、ソー、ドリル、チェーンハンマー、クラッシャーと次々に切り替えたアームの先端とプラズマバスターを巨大船に叩き込んでいく。
「ライブリンガー! もうはじめてるなんてずるいぞー!」
「すまない! 私に引き付けていないと戦うどころですらなさそうだったのでね! すまないが海に落とした機兵の事を任せても!?」
「わかったー!」
「もう、グランガルト様ったら! とにかく中身が死なないように、それで無力化してしまえばいいのでしょう? 前の王様とは違う方向でこき使ってくれるんだから!」
私の指示にぼやきながらも、ラケルは私が投げ落とした機兵たちをメカタコ足で締め上げながら陸地へ連れていってくれている。
グランガルトも深くに沈んでしまっていたのだろうものを次々と水上に放り出してくれている。遊び半分にも見えなくはないが、私の頼みたいところから外れている訳ではないので、良し!
一方の、上空で分散したグリフィーヌとビブリオたちも機械船の狙いが私に集中したためか、着陸して攻撃を受けた港町の被害軽減に勤しんでいるのだとメッセージをくれた。
ここまで順調……と言いたいが、そうでもない、
最初の痛撃で大きく歪んだ巨大船だが、それからもダメージを与えているにも関わらず、火を吹いていながらも未だその船体を水上に浮かべている。
事実、アームによる解体が船の内部にまで届いていないのだ。まるで捌いたはしから刃を入れたところが塞がってしまっているかのように。
「ならば今出せる全力を込めてもう一度!」
出力を高めるタメに入ったその瞬間、私を乗せた船体が大きく歪む。
不味いぞこれは!
そんな予感から私はスラスターを全開にとっさのジャンプ! だがそれはうねる船体に半ば弾かれてのもの。予定外の飛距離に、私は出力任せにどうにか姿勢を制御しようとする。
そしてどうにか浅いところへ着地しようとした私を火球が狙撃してーー
「気をつけなきゃダメだぞライブリンガー!」
「ああ、助かったよグランガルト!」
足場を背負って泳ぐグランガルトが着地点から滑らせてくれたお陰で、スナイプは回避できた。
後に続く火炎弾も、そのまま水面下から私を運んでくれたから、払うなり叩き落とすなりで直撃弾をもらわずにすんだ。
しかしその一方で、私を放り出した船はその姿を大きく様変わりさせていた。
水落から未だ無力化と救出ならずだった機兵や船倉に残っていたものを小判鮫のように張り付けた機体をうねらせ泳いでいる。
ギラギラと燃えた眼で私をにらみ、スクリューに尾びれも合わせて水を蹴る姿はクジラか。
山のように盛り上がった甲板からモノを吹き出すのも相まってその印象はなおのこと。
しかし潮のように吹いたそれは水ではなく火炎弾であったのだが。
「プラズマバスターッ!!」
油と、取り込んだ船乗りたちの精神エネルギーを核としているのか、着水後も湯気を起こして燃え続ける火炎弾の雨。これを私は遠間のものは額からのプラズマバスター、降りかかるものはチェーンハンマーアームの回転を傘に跳ね返していく。
グランガルトの助けもあって、避けも防御も出来ている私に被害はない。だが仲間たちの尽力があっても炎の雨にさらされている港や、今もなお怪物の中で生命を吸われ続けている人々は無事ではない。
「どうするんだライブリンガー! ラケルをつかまえたあのデカブツはやっつけてやりたいけどー!」
「そう言ってくれるのなら、ひとつ私に任せてくれ! 代わりにキミにもひとつ任せたい!」
長引かせることはできない。だから私はグランガルトに少しばかりの無茶をお願いした。これにグランガルトは「がってんだ」と元気良く返して私の頼みを引き受けてくれた。それはーー
「とつげきだぁーッ!! はやくかまえないとはながなくなるぞーッ!!」
真正面からの突進だ。無論足場に乗せた私を前に、盾にする形でだ。このまま行けば私はグランガルトに押されるまま超巨大メカクジラと正面衝突することになる。
だが私もただ真っ向からぶち当たることを狙っているわけではない。
燃える目の下、炎がちらつく口が見えているのだ。装甲の内側をさらすその部位による攻撃を誘い、そこから一気に核と機体を切り離しに飛び込むのだ!
グランガルトが挑発しながら私を運んで突っ込むのに、怪物メカクジラは近づけまいと牽制してくる。だがそんなものは私が切り開く!
怯まない私たちに、クジラも有効打になりうる切り札を使う他ないと上顎を持ち上げる。
「今だグランガルト! やってくれぇえーッ!!」
「うおぉおー!!」
狙い通りに開いた砲口。グラグラと炎の燃え盛るそこへ、私はグランガルトの水流に発射されて足場ごとに突っ込む。
「ダブルドリルッ!!」
ライトアームドリルを左回転。レフトアームドリルを右回転!
相反する回転の生み出す擬似フュージョンスパイラルの破壊力は、迎撃に吐き出された火炎砲を真っ向から引き裂きこじ開ける!
その勢いのまま私は巨大バンガードの腹の中を目指して突き進む!
ほどなく正面に毒々しい緑に輝いた心臓部、イルネスメタル結晶の塊を掘り出す。
素早く八の字にダブルドリルを離し、ぶちかます勢いのまま腕で抱える。さらにグラップルクローに瞬間換装したパワーアームでも掴み、機体から一気に引き剥がしにかかる!
バースストーンのエネルギーを浴びせながらの分割行程に、バンガードの機体が激しく揺れる。
だが私は暴れる足場に杭を打ち付け、そのまま力づくにコアをひっぺがした!
しかし怪物クジラの機体は崩壊を始めながらもその動きを止めない。
熱のこもった機体の中から、私は何をするつもりなのかと後ろの入り口を確かめる。その瞬間、私の胸が冷たいものに締め付けられる。
「いかん! 分離ッ!!」
怪物クジラの目指す方向。港町を守るビブリオとホリィ。友を守るために私ははまってしまったグランデボディから分離。こじ開けた穴の中を車で駆け戻る!
そして飛び出した勢いのまま人型へチェンジ! 正面の友たちへ飛びかかる。
「ビブリオ、ホリィ!!」
「ライブリンガーッ!?」
二人を私の機体で覆ったその瞬間、私の意識は閃光に飲み込まれてしまった。




