126:王都を襲った災い
「……なんてこと、なぁんてこったぁ……ッ!!」
ボクの前で頭を抱えてるのは、先代イコーメ王さま……外には商会のご隠居さまで通してるおジイちゃん竜人だ。
でもボクの目の前で苦しそうにうなってるのは、なにもボクらのせいじゃない。いや、原因になってるお話を運んできたのを連れてきたのはボクらだけども。
「……ここで挙兵とメレテの都の制圧をやるとは……あの王子殿、まさかそこまでとは……ッ!!」
メレテ王都。機兵を率いる王太子に制圧される。
ボク、ビブリオがライブリンガーについてって助けた馬車で逃げてた人たち。その人たちが持ってたお知らせっていうのがコレだった。
「はい。兄はもうそれは躊躇なく。先にほとんど都に集まっていたものたちを抱き込んでいたのか、あっさりと父上を、陛下を捕らえて城と都を我が物に……」
そう苦しそうにご隠居さまに話すのも王子さまだ。メレテ王の息子で王太子の弟になるリカルド王子さまだ。
姉ちゃんより一コ上の十六歳。金色髪に青目の、細身で優しそうなお兄さんだ。
「それで、リカルド殿下、ファイトライオは火の聖獣はどうなりましたか? 彼はメレテにいたはずですが、一緒ではないのですか?」
「はい。獅子聖獣様は私たちを……いえ、機兵らに追われる人々逃がそうと、奮戦してくださっていました。ですが殿と残ったところで人の操る機兵を攻めきれず、ひとまわり大きな新型に……捕らえられてしまいましたッ! 救出しようにも我々では機兵には手も足も出ず……追手から逃げるのに精一杯で……ッ!」
「そうでしたか、知らせてくださってありがとうございます」
拳を震わせて悔しそうに話してくれるリカルドさまに、ライブリンガーはボクらに伝えてくれたことにお礼を言う。
これに王子さまは「かたじけない」って何度も何度もライブリンガーに。
その一方でグリフィーヌが勢いよく翼を広げて立ち上がった。
「囚われたファイトライオを一刻も早く救出しなくてはならんな。ここはひとつ私がひとっ飛びに襲撃をかけてくるか!」
「おおっと、ソイツはちょいと待った!」
「なんだハイドフォレスト!? 味方の窮地に駆けつけずして、何が勇士かッ!?」
けれど羽ばたこうとしたのをつまずかされて、引き止めるメタルフォックスをにらむ。
でもハイドツインズはグリフィーヌの刺さりそうなくらいに光る目を受け止めて首を横に振るんだ。
「何も駆けつけちゃダメだとは言ってないでしょうがよ。ここはまずオレたち兄弟が探ってきてからでしょうがよ!」
「急いては事を仕損じる、急がば回れ、との言葉もあるもちろん間に合わなくては意味がないが、まずは情報を集めてからの方が良いだろう」
自信満々に自分を指すフォレストに、冷静に調査からってすすめるスノー。キツネの双子の言葉に、グリフィーヌはうなりながらだけれど翼をたたんで座る。
「分かった。二人の言うことも一理ある。まずは二人が偵察してからでもいいだろう」
「そうだね。ではハイドツインズ。任されてくれるかい?」
しぶしぶって感じでうなずいたグリフィーヌに続いてライブリンガーがまとめたら、赤茶のフォレストは胸をガンッて鳴らす。
「おうともさ! 任せておくんなよ大将! あ、偵察っても、やれそうなら別に助けて来ちまっても構わないだろ? 殿下も、よろしいですよね?」
「え、ええ。もちろんです。太子は……兄は謀反人です。野心のままに乱を招こうとする彼は留めなくてはなりません。たとえ討つことになったとしても……どうか聖獣様と民を、それに父上を救ってください。お願いします」
そこで急に話をふられたリカルドさまだけれど、すぐに心を決めてうなずいて、頭を下げてくれる。これにフォレストはニマッて感じに目を光らせてうなずき返す。
人助けなんだし、言われなくてもってボクは思った。けれど軍で制圧したのもされたのもメレテ王国内のことなんだから、王子さまの了解はあった方がいいんだろうって姉ちゃんが。家族のゴタゴタを勝手に上がり込んで仲裁するようなものだろうからって。なるほどなー。
「はい。了解いただきました!」
「調子づくな。しかもなにやら不吉な……」
「いや。必要な場合もあるだろうし、そこはもちろん瞬間の判断に任せるよ。ただ合流地点を動かす連絡は頼むよ?」
「オッケーオッケー、分かってるって! オレらだってせっかく転がり込んだ第二の命を手放したいワケじゃないからよ。な、アニキ?」
「その態度がいまいち分かっているのか分からん風になってるというのに……まあ、俺も着いているので。では!」
どこまでも軽いフォレストだけれど、スノーが合図をすると、とたんに目の光をお兄さんそっくりなのにしてここからいなくなっちゃった。
そうやって足音も無く偵察に駆けてった仲間たちを見送るみたいに、ボクたちは都のある方向を見つめるんだ。
「では我々はリカルド殿下をお送りするとしよう」
それでよろしいですねってクルマに変身したライブリンガーが光る目を向けたなら、頭を抱えてたご隠居さまは咳ばらいを一つ。難しい顔してうなりながらだけどオッケーしてくれる。
「まあそれしかあるまいな。幸い殿下の目的地も我々と同じネイド侯爵のもとであることだし、このまま同道し続けてもらうよりは協力を取り付けられそうなところにまで護送するのが良いだろう」
ハイ決定ってことでライブリンガーがドアを開けたら、ボクと姉ちゃんが前、ご隠居さまが後ろって形で乗り込むんだ。
これにリカルドさまがギョッとなって目を大びらきにする。
「へ、陛下ッ!? 勇者殿に乗り込むのですかッ!?」
「もう陛下じゃないもんねー。あと乗るのってそりゃあ乗るよ。故国で作らせた、いやどこ製の馬車よりも乗り心地が良くて安全なんだから、乗るしかない。この勇者カーにってなもんじゃろ? うひょひょひょひょ!」
なに言ってんのって勢いでケタケタ笑うご隠居さまに、リカルドさまは口を開けてまばたきしてる。
ご隠居さまって偉い人たちが集まってるとこでもいつでもこんな感じだから、うひょひょ笑いするのはじめて聞いたってワケ無いと思うんだけど?
「殿下もいかがかな? 余の……イヤイヤワシのとなり、空いておるぞ? 実際に乗って見ればもう馬車には戻れぬて」
そんな呆然って感じのリカルドさまに、ご隠居さまが手招きして見せたら、王子さまはハッとなってせき払いする。
「そ、そうですね。へい……いや御隠居のお誘いとあれば。それに……」
乗り気なリカルドさまの目は、ハンドル席に座る姉ちゃんに向いてる。
姉ちゃんもこれに気がついて、座席に隠れるみたいに背中を押し込むから、ボクも盾になりにいく。
リカルドさまも姉ちゃんを妹だってウワサを信じてて、言いたいことがあるのかも。姉ちゃんを苦しめた太子とは違うふんいきだけど、いざとなったら……!
「いえ。せっかくのお誘いでしたがやはりこの場は遠慮しておきましょう。勇者殿御一行に対する王太子の態度は聞き知っておりますので」
「そうなのかね? 勇者殿はそこで一緒くたにするような御仁ではないぞ?」
「それはそうでしょうから、道中我々の安全については頼らせていただきますね。窮地になるなりに頼ってしまって申し訳ありませんが、どうぞよろしくお願いいたします」
だけどリカルドさまはやっぱりやめたって自分の馬車に乗り込んでく。
決めつけて構えちゃったのは、いくらなんでも失礼すぎだったかな?
「まあ仕方なかろう。メレテ王家とは今複雑な距離だからのう」
そういうものなのかな?
ご隠居さまのつぶやきにうなずいて、ボクたちを乗せたライブリンガーは王子さまの馬車に先だって走り出すんだ。




