105:燃える山から
「ライブリンガーッ!?」
山が、弾けた。
激しく咳き込むみたいに炎を噴き出したアジマの山を見上げて、ボクはそこで戦っているはずの友達の名前を呼んだ。
「グリフィーヌ? ロルフカリバー? ライブリンガー!? お願い、返事をして……!」
ホリィ姉ちゃんも首からさげたライブシンボルを握って、祈りながら呼び掛けてる。それで直接しゃべる方法がボクの腕に着いてることを思い出して、ライブブレスに向かって三人の名前を呼ぶ。けれどブレスレットからは返事がない。
「ビブリオ、ホリィも! まだ火山に近すぎる! 噴火も続いているからには離れなくては!」
「でも、ライブリンガーが! ライブリンガーたちはボクらよりもよっぽど近く……っていうか、噴火のすぐそばに行ってるのに!」
「だからといって、ここで待つのはダメだ! 探しに行こうにも、ここで待たれては安心して飛び立つことも出来ん!」
置いてくなんてできないって、そんなのイヤだって思った。だけどボクたちが残ったって、ミクスドセントたちに心配と負担をかけるだけだ。そんなボクの力の無さが悔しくて、それでも友達のために何もできないっていうのが、自分でそうだってみとめちゃうのがイヤで、たまらなくてさ……!
それで動けないでいるボクの肩に、ホリィ姉ちゃんの手が乗っかる。
「……行きましょう、ビブリオ。ライブリンガーはこのシンボルを、ビブリオのブレスレットを目印に必ず戻ってきてくれる。三人ともが無事なのはこれまでも、今だって、返事がなくったって感じられてるでしょ?」
そうだ。姉ちゃんが言うとおり、ライブリンガーも、グリフィーヌも、ロルフカリバーだって、その命の輝きは消えてない。だから無事を信じて、安全なところで待ってた方がいい。それは分かる。分かるけどさ!
「だからって、何もしないで大人しく待ってるだけなんて、イヤなんだ!」
「ビブリオッ!?」
姉ちゃんに言うことを聞かずに飛び出したボクに、みんなびっくりして固まってる。らしくない、聞き分けがないって、自分でも分かってる。だけど、任せてくれって、そんなライブリンガーの言葉に、優しさに寄りかかりきりなのは……それを当たり前みたいに平気な顔しているなんて、したくないんだ!!
「ホッホウ! 考えなしに動くような真似を教えた覚えは無いぞ?」
だけどそんなボクの前を、セージオウルが回り込んで塞いでくる。いつの間に合体を説いてきたっていうのさ!?
「行かせてよ! ライブリンガーたちは生きてるのは分かる。でも助けが必要ないとは限らないじゃない!」
「だから、ビブリオ。その手助けには私たちがいくから。だから我々が安心して行けるために、安全圏にだな……」
「だから、ありがたいけど! そうやって皆に頼りっぱなしなのがイヤなんだって!」
「その気持ちは俺様も分からんでもないが……」
前を塞いだ聖獣トリオはボクのストレートな気持ちにどうしたもんかなって顔を見合わせてる。
いっしょに連れてくか、いやいやって感じに目をチカチカさせてる間に、姉ちゃんが追い付いてきてボクの腕をつかむ。
「気持ちは分かるけれど、一人で行っちゃダメよ! ライブリンガー達もだけど、ビブリオだって戦い続きで万全じゃないんだから!?」
「そんなのは分かってるけど、けどさぁ!? だからって理由になんかしたら……」
「慌てないで、どうしても迎えに行くのなら、私も一緒に行くわ」
「姉ちゃん!?」
ホントにいいの? って目で見てると、姉ちゃんはニッコリとうなずいてくれる。
それで二人がかりで聖獣トリオを見つめたら、三人は困った感じで見合わせた目をますます激しくチカチカさせ合う。なんか、ボクらに分かんないやり方で内緒話を堂々とされてるみたいでちょとムカつく。
そんな風に思ってたら、噴火の勢いで飛んできた真っ赤な岩がボクたちの方に。これにガードドラゴが小さな水の壁と盾を使って防御。その他の危ない感じののもオウルやライオが叩き落してくれる。おかげでボクたちの近くにも破片は飛んできても小石が転がってくるくらいだ。
でもその必要最低限に限った守りに、ミクスドセントになってた間の疲れが見える。
散々聞き分けないこと言ってたボクが言うのもなんだけど、三人を苦しめたいわけじゃないんだ。
「仕方ない。しかしビブリオにもホリィにも疲れたなどと言える余裕はないかもしれんぞ? ホッホウ」
「……望むところだよ!」
「分っています」
でもここで引いたらただの駄々っ子だから。行くぞといってくれたなら行かなくちゃ!
そんなボクらの決心をへし折ろうって言うのか、また大きな燃える岩が飛んでくる。
出発前にもう一度って迎え撃とうって聖獣たちがそれぞれの武器を構える。けどちょっと待って。あの形、この気配って!?
「ダメ、避けてッ!?」
「攻撃はしないで、柔らかく受け止める感じでッ!?」
「お、おおッ!?」
ボクと姉ちゃんからの慌てての待ったに、三聖獣は出しかけの攻撃を止めながら飛んでくる火の玉から横っ飛びに。そこで聖獣のみんなも迎え撃とうとした火の玉がなんなのかに気づいたみたいで、目をチカチカさせてる。そう、飛んできた羽根つきの火の玉っていうのは――
「ライブリンガーに、グリフィーヌッ!?」
「ロルフカリバーもよ! 三人とも、みんなよ!」
ひと塊になって決戦から帰ってきた勇者たちだったんだから!
真っ赤っかになっちゃってるけどそれにも負けないくらいに輝いた朝焼け色の目と目があったボクは、気配だけじゃなくて目でも無事を確認できたことに、姉ちゃんと手を繋いでステップを踏んじゃう。
「って、やってる場合じゃないや!」
つい浮かれちゃったけれど、ライブリンガーたちはまだ火だるまも同然、それも山から落っこちてきたところだったんだ。柔らかく受け止めて、それで冷やしたあげなきゃだ!
「冥の精よ、傷ついた勇士に安らぎの床を!」
「水の精霊様は冷やし癒す水のお恵みを……」
ボクと姉ちゃんの魔力は、ライブリンガーたちの着地点を柔らかく潤った地面に変えて、落ちてきた衝撃を弱めたんだ。
ほぐした上で癒しの水でぬかるんだ土が、三人の着地の衝撃で溢れだして、ボクらに泥の津波になって押し寄せてくる。けれどそれはガードドラゴが受け止めて、元の場所へ押し返してくれる。
「ホッホウ、よい判断だ。しかし冷やすはいいが、あんまり一息に冷たくしてやるなよ? 温度の急変は金属の体とはいえ驚いてしまうからな?」
「あ、はい。癒しの水ですし急ぎだったのでそこまで冷えてはないはずなので、大丈夫です。たぶん……」
セージオウルの一言に、姉ちゃんは追加でおくりかけた癒しの水を止める。そこへボクが活性効果も足すついでに火の精の魔法で暖める。
そうして整えた魔法のぬるま湯を三人のいるぬかるみに注いでいると、泥をかき分けて立ち上がるのが。
「助かったよ。ありがとうみんな」
「おかげで翼を折らずにすんだ。ライブリンガーが下になってくれたのもあるが」
「いやはや、噴き上がる溶岩に吹き飛ばされた時はどうなることかと」
「三人とも、無事で良かった!」
泥まみれの傷だらけ。だけどしっかりと立ち上がったライブリンガーたちに、ボクは駆け寄る。
「お、おいおいビブリオ、私たちはまだまだ熱を持ってるし、足元の泥だって、結構な温度で……」
ライブリンガーの待ったに、ボクは慌てて足を突っ張ってブレーキ。湯気の立つ泥の縁ギリギリにまで足は行ったけど、頭から飛び込んじゃう前に崩れる足場から後ずさりに逃げられた。
「やれやれ、五体満足このとおりなのを見れば落ち着くかと思ったが、そんなことはないか、ホッホウ」
「悪かったよセージオウル……みんなも」
ボクの失敗にセージオウルが首を左右に回すのに、みんながドッと笑う。すなおに謝ったら余計に勢いが上がるくらいだ。それにムッとなってみんなを見回しても、笑うのを止めずに謝るだけなんだから余計にイラッと来る。
「フフッ……それで、三人ともが無事に帰ってこれたっていうことは」
「ああ、勝ったぞ。ライブリンガーが、私たちが鋼魔王を討ち取ったのだ」
「あいにくと、火口の中に落ちてしまいましたので、首級もなにもありませんがな」
「いいんだよ、そんなの! ライブリンガーが、みんなが帰ってきたのが何よりの印じゃない! ありがとう、みんな!!」
グリフィーヌとロルフカリバーの勝利宣言に、ボクが首を振って返すと、ライブリンガーはくたびれた感じで、でもたしかに微笑みながらうなずき返してくれる。
こうして勇者の生還と、勝利の知らせは浮かれるボクたちから連合軍全体に広まって、辺りを揺るがす歓声に。もちろんその広がりはそこで終わりじゃなくて、大陸の人々に伝わっていくんだ!




