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カラフル×ドロップ  作者: 水嶋陸


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第十三話 真夏の夜の夢。(中編)



「わぁ……!」

「気に入った?」


加瀬に連れてこられたのは遠浅のビーチに用意された特等席。

テントのように白い幕が張られ、その下にテーブルセットが。

夕暮れのビーチは風もなく、凪いだ海の潮騒だけが響く。


「素敵です。というか素敵すぎてもったいないです」

「えー、そこは素直に喜んでほしーなぁ」

「喜んでますよ、とても」

「ほんと?」

「見て分かりませんか?」


椅子を引いてくれた加瀬に満面の笑顔を向けた。

すると一瞬、固まったあとで加瀬の頬にみるみる赤みが差していく。

もしかして熱中症、とか? 


「大丈夫ですか? 顔が赤いです」

「え!? い、いや大丈夫大丈夫!」

「うそ。だってすごく赤いし平気とは思えません。よく見せて下さい」

「ちょ、玲――」


抵抗する加瀬を遮って両頬を手で包み込む。

思い切り顔を近付けてコツンと額を合わせた。どうやら熱はないみたい。よかった。

安心した後でハッと我に返る。これじゃあまるでわたしが加瀬に迫ってるみたい……!


「す、すすすすみません! あっ……!?」


慌てて離れようとしたけど遅かった。

背中に腕を回されれば簡単に捕まってしまう。

引っ込めようとした手を片方握られ、そのまま胸に抱き寄せられた。


「学ばないね玲菜。今の、俺じゃなかったら確実にキスされてるよ」

「……っ」

「こんなに隙だらけじゃ目が離せないんだけど。責任取ってくれる?」

「ま、待って下さ」

「待てない。つーか待たない」

「!!」


耳元に唇を寄せた加瀬が熱い吐息を零して身震いした。

そのまま戸惑うわたしの唇ギリギリのところにキスを落とす。

一瞬、軽く触れて離れたけれど、唇の端に柔らかな感触が。


「……ぁっ」


掴まれた手が熱い――

背中に回された腕の力強さに目眩がする。心臓がパンクしてしまいそう。

焦げるような感覚が込みあげて、わたしは真近に迫った加瀬の美しすぎる顔から目を逸らした。


「そーだ。玲菜にプレゼントがあるんだ」


腰を抜かしかけたとき、片腕できちんと立たせてくれた加瀬はいつものテンションに戻っていた。

まったく、こんなことが続いたら心臓がいくつあっても足りない。

くらくらするわたしのてのひらを優しく開き、何かをころんと転がす加瀬。

そこには淡いピンクの貝殻が。


「さっき玲菜のとこ行く途中で見つけんだ。きれーだろ?」

「……」

「あれ、外した? ごめん。気に入らなかったら捨ててい――」

「ありがとう」

「へ?」

「すごく、すごく嬉しいです。宝物にします……!」


嬉しい。嬉しすぎて何かが弾けそう。笑顔が止まらない。

貝殻をぎゅっと胸に抱いてまっすぐ加瀬を見つめた。なぜか驚いて目を丸くしてる。


「はは、気難しいなーこのお姫様は」

「え?」

「高価なブランド品には見向きもしないのに、こんなささやかな贈り物で幸せそうに笑ってくれるんだから」

「あ……」

「よかった。実は、さ。無理やり連れてきたこと少し後悔してたんだ。玲菜がイヤな思いしてないかなって」

「そんなことは」

「玲菜はそう言うと思ったよ。でも、考え出したらキリがなくて」

「何をですか?」

「んー? たとえばね。俺はできるだけ側にいるけどさ、どうしてもひとりの時間ができるだろ? 慣れない場所で心細い思いしてないかなーとか、もしかして困ってるんじゃないかなーとか。つまんないって失望されてないかなーとか」

「そんなふうに思ってくれたんですか?」

「当たり前だろー? 玲菜にはいつも笑顔でいてほしいもん。あ、無理に笑ってほしいとかじゃなくて」

「分かります。幸せでいてほしいんですよね。わたしも同じことを考えていますから」

「ぶっぶー。それはちょっと違うよ」

「へ?」

「玲菜が思うよりずっとね。玲菜のこと考えてる」

「加瀬……」


小波が砂の上で引いていく音が聞こえる。さらさらと、すぐ近くで。

黄金色に輝いていたオレンジの夕焼けは赤く染まって地平線へ消えていく。

テーブルで揺れるキャンドルがエキゾチックな夜の雰囲気を増していた。


――ぐーきゅるる。きゅるる。

静寂を破ったのはお腹の虫。は、恥ずかしい。

そういえば緊張しすぎて飛行機ではほとんど食べれなかったんだっけ。


「え、えっと。そろそろご飯にしませんか? 実はお腹が空いてたまりません」

「そーいうオチ!? うう、またお預けなのね」

「??」

「いーよ玲菜は分かんなくて。ほら、冷めないうちに食べよう」


残念そうな加瀬と向かい合ってテーブルに着く。首を傾げると苦笑いされてしまった。

これはほんのプレリュード。

数えきれない星が瞬く甘い夜の始まりだった。





次回は葵視点のお話をお届けします。


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