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勇者召喚に巻き込まれたけれど、勇者じゃなかったアラサーおじさん。暗殺者(アサシン)が見ただけでドン引きするような回復魔法の使い手になっていた。  作者: はらくろ
第4部 エンズガルドの向こう側。

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第173話 亡命ツアー始まり始まり。

 城下の人たちが『朝まで生活していた』感を演出するため、貴重品のみ持って出るようにレジライデさんにはお願いしてたんだ。だから馬車じゃなく、皆さん徒歩。獣人さんだけあって、この程度の距離なら散歩同様らしいね。俺は無理、といいたいところだけどそんなことを言ったら笑われるんだろうな……。


「お、きたきた」

「本当にきましたね」


 ジャムさんが驚いてる。なにせ初めての光景だろうから。こんなに沢山の人が、エドナ湖の湖畔を歩いてるんだからね。

 先頭を切って歩くのはなんと、レジライデ子爵夫人。とても活動的な姿をしてる。ドレスはドレスだけどその下にズボンに似たのを履いてるんだね。


「えっと、先頭の女性はレジライデ子爵夫人で名前がたしか……」

「いらっしゃいませ、冒険者ギルドエドナ湖出張所――げっ」


 下品な方向性で言葉に詰まるクメイさん。珍しいなおい。


「く、く、く、クメイリアーナ王女殿下っ?」


 言葉に詰まる、レジライデ子爵夫人。


「あなたは亡くなったと聞いているのですが? 生きていらしたんですね?」

「あー、ヒストゼイラその。……てへっ」


 子爵夫人の名はヒストゼイラ。なんでも二人は幼なじみらしい。ついでに、クメイさんは死んでいたはずなんだってさ。


 ちなみにどうやって城下の人たちを説得したかというと、簡単なことだったらしい。今日は伯爵家で水を売りに出す日。その日しか売らず、他の日だと数倍の価格になるから並んででも我先に買いに来るのが普通だったって。

 俺はあらかじめ、本当に綺麗な解毒済みの水を沢山用意しておいた。それをレジライデ子爵に渡しておいたんだ。水を配りながら一人一人説得にあたったらしい。水を売らない伯爵家を見て彼女の話が本当だと知った城下の人たちは、貴重品だけ持って飛び出してきたというわけだったらしい。


 千人程度なら小規模のイベント程度の人数。それほど混乱はなく、門を出ることもできたんだろうね。湖畔の街道を歩きつつ、やっと到着して今に至る感じ。

 出てくる千人はそうでもないけど、亡命申請受付は死に物狂い。ついでに症状の重い人を、ヒストゼイラさん自らチェックして選別してくれた。

 症状の軽い人は我らが麻夜ちゃんと神殿長のジェフィリオーナさんが担当。重い人は俺が担当。治療が終わった人からテント村状態な臨時亡命村へ移ってもらった。


『経験値うまうま』


 ジェフィさんには、麻夜ちゃんが何を口走ってるのかわからないだろうね。


「麻夜ちゃん」

「はい、ごめんなさい。でも真面目に治療はしてます」


 地獄の悪素毒治療ロードになるのがわかっていた。それでも麻夜ちゃんがやりたいっていうから許可したんだよ。

 疲れが出たら『フル・リカバー』。これはまじで効く。それこそエナジードリンクどころか、テレビで有名な強精剤よりも効く。麻夜ちゃんは自分の気持ちがハイになっているのに気づかないのかもしれないな。


「もう駄目です」


 そう根を上げる人が出たら俺はそっと近づいて『フル・リカバー』をかける。そのまま肩に手をぽんと置いて『がんばれ』と声をかける。嫌でも頑張らなければならない状況に陥って、仕事を再開してくれる。

 これがあの、俺がダイオラーデンからワッターヒルズまで七日かけて歩いたときの精神状態だったのかもしれないな。


 ▼


 『個人情報表示謎システム』の時間は午前零時。日が変わっちゃったよ。やっと終わったよ。途中食事交代をしつつ、それでも皆休みなしで頑張ってくれた。


「タツマ様、お疲れ様でした」


 レジライデ子爵さんも、ゲーネアスさんも事務仕事を頑張ってくれた。もちろん俺の強制的不休状態に巻き込まれてね。


「レジライデさんも、ゲーネアスさんもお疲れ様。うちでかけた例の魔法はおおよそ一日持つらしいから、そろそろ目を覚ましてるはずなんだよね」

「そうなんですね。そうすると、……まだ気づいていないでしょう」

「えぇ。間違いなく寝ているでしょう。おそらくは明日の朝が山場かと」


 混乱の状況は、ベルベリーグルさんに確認してもらうことになってるんだ。麻夜ちゃんも俺も、彼の報告が楽しみで仕方がない。

 千人分の雨露凌ぐ方法は、ギルドに土属性の使い手がいるから大丈夫らしい。彼らに開いている土地を地ならしをあらかじめしてもらっていた。そこに天井壁をおおまかに作ってもらい、仮説のプレハブのような大雑把な建物を作ったんだってさ。

 いかんせん、レベルが低いから緻密なものが作れない。だからあの伝声管みたいな細かなものは作れるかどうかわからなかったんだってさ。暖を取るのは魔道具があるから、それを貸与。暖を取る魔道具は一般的に売られていて意外と安いんだって。

 我が国は肉のストックが売るほどあるとのことで、千人くらい増えたところで焦ることはないらしい。主食だもんね、そりゃ普通にあるわけだ。でもパンが好きな人もいるんだよ、ジャムさんみたいにね。


「それじゃ、休んでもらってください」

「はい。お先に失礼致します」


 彼らも特別待遇されているわけではない。元貴族とはいえ、城下の人たちを牽引するリーダー的存在なだけ。だから仮設住宅地区に彼らの家がある。明日からは、住宅の微調整や仕事の手配など、生活をしていくための準備などが待っているだろう。

 クメイリアーナさんはレジライデさんのところに寝泊まりするってさ。というより、幼なじみのヒストゼイラさんにとっ捕まったらしいよ。色々あったんだろうけど、仕方ないよね。頑張ってくださいな。


 ジャムさんを初めとした、こちらのギルド職員さんたちも撤収済み。身体的には疲れていなくても、精神的にはかなりきていると思うよ。それでも明日は仕事。まぁしばらくしたら、オオマスが普通に食べられるようになると知ると、嬉しそうにしてたからいいよね。


 俺は麻夜ちゃんと一緒にプライヴィア母さんの部屋にいる。もちろん、ダンナ母さんもいる。麻夜ちゃんの後ろには、レナさんとベルベさんが控えてる。マイラ陛下はロザリエールさんが連れて行った。さすがに夜更かしさせられないんだろうね。


「あのときは例え話で終わってしまったけどね、まさか本当に実行に移すことになるとは思わなかったよ」

「協力者があって初めて可能だったわけですから。俺や麻夜ちゃんだけじゃ、こうは簡単にいかなかったと思いますよ」

「そうなのですよ。お母さん」


 麻夜ちゃんもうんうん。経験値のためとはいえ頑張ったよね、治療活動。


「私もね、明日が楽しみで仕方がないよ。今夜は軽く飲んで眠ろうと思うね」


 プライヴィア母さん、すっごい笑顔。ダンナ母さんも嬉しそうだわ。そりゃそうだよね、敵対する国民をまるごと誘拐しちゃおうってのが今回の作戦だったわけだから。



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