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勇者召喚に巻き込まれたけれど、勇者じゃなかったアラサーおじさん。暗殺者(アサシン)が見ただけでドン引きするような回復魔法の使い手になっていた。  作者: はらくろ
第4部 エンズガルドの向こう側。

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第164話 どうやって切り崩そうか?

 犬人族のゲーネアスさんは男爵で、入国審査の責任者もしているということだ。彼の家臣3人もおそらく、同じ仕事についているのだろう。

 もしかしたら、あれこれ雑用なども強要されていて、こちらの冒険者さんたちをどうにかしろって言われたのかもしれないと思うとなんだか気の毒に思えてくるんだ。

 ゲーネアスさんがそう言ってたわけじゃないけど、俺たちはそういう判断をすることになったんだ。もしくは、ウェアエルズ(あちらさん)では、男爵って使い走りみたいな、立場の低い扱いを受けてるのかも。そんな物語を読んだことがあるからこそ思うんだ。なんていうか、闇は深い(ブラックだ)な、……と。


 どちらにしても犬人族の人たちは俺たちに、全面的に協力してくれるとのこと。それなら彼らは捕虜ではなく協力者だ。あまり長い期間こちらへいさせると、ウェアエルズ(あちらさん)もおかしいと思うだろう。

 事故が起きたのか、それとも思いも寄らない反撃にあったとか、ね。ただもしかしたらなんだけど、彼らに何かがあっても、探しにくることすらないんじゃないかって……。それは思いたくはないけど、男爵にこんな仕事させるような国だから、案外わからないかもしれないんだ。


「そうだね。あれだけ大きな湖なんだ。我々にみつかって、海側へ逃げていた。それで帰還が遅れてしまった。そう、報告するのはどうだろう?」


 プライヴィア母さんの提案。まだ何か企んでる感が否めない。なにせほら、口角がちょいと上がってて、牙がね、見え隠れしてるんだもの。

 彼らがエンズガルド(こちらがわ)に捕らえられて数時間。まだ時間的に違和感を覚えないだろうね。


「少なくともですね。私なら寝返ります。ほら、家族が一番大事ですから。まぁ私には、姉と姉しかいませんけどね」


 ジャムさんは『やれやれ』という感じに肩を上げてみせる。そっかまだ独身なんだね。それならお仲間だ。


「おや、件の令嬢とはどうなったのかな?」

「え? いえ、その。げ、確かに現在この国は、タツマ様のおかげで情勢は一変いたしました。ですが以前はその、色々と大変でしたので、来年か再来年あたりにという話はありはしましたが」


 婚約者いたのね。リア充爆発しろよ……。ジャムさんもセテアスさんも、全く。


「ほらほら兄さん。顔に出てるよ? 兄さんには麻夜がいるんだから。それにロザリエールさんだってマイラ陛下だって、お母さんもダンナお母さんもいるってばさ?」

「あ、ありがとう……」


 そうじゃないんだ、そうじゃないんだよ麻夜ちゃん……。家族であって、ま、いいや。


 ▼


 潜入作戦は決まった。ウェアエルズは基本、犬人族と狼人族だけしかいない。だが人族もわずかに出入りしているとのこと。その理由は、交易商人が年に数人行き来しているらしい。なるほど、完全に閉鎖的な国ではないということなんだな。


 ゲーネアスさんたちが先に帰ってから、安全に俺たちを入国させる。彼の屋敷を拠点として色々と準備を始める。彼らは絶対に裏切らないだろうね。なにせ俺が『家族の健康』という人質のようなものを握っているんだから。


「コンビ組むのは久しぶりだねー」

「そうだなー」


 俺たちはMMOでコンビを組んで暴れ回っていた。暴れるといっても、レイドイベントや、中小のイベント、ダンジョン攻略などで遊んでいただけ。それでも勝手知ったる互いの手腕。


「暴れ回るの楽しみだねー」

「いやそれ今回ないから」

「えー」


 本気で不満そうにしてる。そりゃさ、ダイオラーデンのときは好き勝手にやらせたよ? あれはある意味麻夜ちゃんのストレス解消も兼ねてたからさ。でも今回はダメ。


「あたくしはさすがに混ざることはできませんので、無事を祈らせていただきますね。……無事という言葉自体、タツマ様にはナンセンスかもしれませんが」

「な、ナンセンスって言葉伝わってたの?」

「ヤマなしオチなしナンセンス、あはははは」


 麻夜ちゃんそれ微妙に違うから。てか本当に古い言葉、知ってるね。


 俺たちは商人が使うような馬車を用意してもらった。本来ならここでロザリエールさんに操縦をお願いするところ。でも聞いた話によると、犬人族、狼人族、人族以外いないから、ロザリエールさんは目立ってしまう。

 護衛だと押し通して一緒に来てもらうこともできるんだろうけど、彼女はあのころの姿に戻りたくないらしいんだよね。

 馬車の操縦どうずべと思ったんだけどなんと、麻夜ちゃんがロザリエールさんに教わったらしいんだ。これには俺も驚いたわ。


「異世界なんだから馬車くらいはできなきゃでしょ?」

「ごめんなさい。他力本願でございました」


 今回のミッションは、セントレナとアレシヲンを連れて行けない。だから昨晩ぐずったぐずった。セントレナは腕にかみついたまま離れないし、アレシヲンも顎を乗せたまま彼女に助力するし。麻夜ちゃんは見ていて笑ってるし。


「危険はないのですか?」


 ダンナ母さんは少し心配してくれている。それをプライヴィア母さんは一蹴するんだ。


「少なくともタツマくんは化け物の類いだからね」

「しどい……」

「それに麻夜くんも、それに近いと報告を受けているから、心配はいらないと思うよ」

「あははは。バレてるんですねー」

「それならいいのですが……」


 おそらく、攻撃力的な意味でだろうね。ダイオラーデンでのスプラッターな展開のことだと思うよ。絶対に麻夜ちゃんを死なせはしないけどさ。


 早ければ一泊二日くらい。おそくとも二泊三日の予定。ゲーネアスさんたちをこちらに長居させると捕縛されたと思われる。そうプライヴィア母さんも言ってた。だから急いで戻ってもらうことになったんだ。

 こうして翌日の朝、ウェアエルズに向かうことになったというわけ。


「ではでは、しゅっぱーつ」

「はいはい」


 そういえば俺、こうしてエンズガルドの城下町に出るの初めてだったりするんだよね。いつもならジェフィリオーナさんがいるし、最近はセントレナの背中だったから。


「麻夜ちゃんはもう、町へ遊びに出ていたんだっけ?」

「そだよ。みーちゃん連れて買い物出たりねー」

「ずるいな、それ」

「だって兄さんは、有名人じゃないのさー」

「それは麻夜ちゃんだって同じでしょ?」

「そこはそれ。変装してるからだいじょぶ」

「なんだかなぁ……」


 そんな雑残をしつつ、気がつけばあっさりと城下町を抜けていたんだよね。もちろん護衛はなし。あーそれでも連絡係と情報収集係として、ジャムさんところのベルベリーグルさんたち数名がこっそりついてくるんだって。彼らはほら、忍者みたいな存在だから、獣人の嗅覚を誤魔化す方法を持ってるんだってさ。凄いよね、実際。



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