第68話 そして、三年後
「・・・・・・・しゃく・・・・・・しゃくさま、・・・・・・だんしゃくさま」
ん? だれかよんでいるのか?
う~ん、多分、マイちゃんだな。
お願いだから、後五分寝かせて~。
「男爵様、起きて下さい。男爵様」
「う~、後三十五分寝かせて、マイちゃん」
「はい? 寝ぼけているのか。男爵様、起きて下さい」
今度を身体を揺すられた。
「男爵様、起きて下さい」
う~、仕方がない起きるか。
身体を起こして、目をこする。
「うぁ~、・・・・・・・・・おはよう~」
「おはようございます。男爵様」
・・・・・・・あれ? マイちゃんじゃないぞ。
誰だっけ? この人。
「男爵様、起きていますか?」
「えっと、・・・・・・・・はい」
「・・・・・・今、カーテンを開けますね。太陽に当たれば、目が覚めるでしょう」
そう言って僕を起こしてくれた人が部屋のカーテンを開けてくれた。
陽光が部屋に差し込み、部屋を照らす。
僕はその光に当たった事で、徐々に目を覚ましてきた。
「目が覚めましたか? 男爵様」
「はい。おはようざいます。クレタさん」
僕は身の周りの世話をしてくれる侍女さんに挨拶した。
この人は、この領が豊かになって人を雇用する余裕が出来たので、人を雇う事にした。
ミルチャさんが自分の親戚達を僕の侍女として雇ったのだ。
クレタさんは一番偉い侍女頭という役職についているそうだ。
ぶっちゃけ、ミルチャさんとこの人は似ていないよな。
ミルチャさんはクール美人のような人だったけど、クレタさんはおっとりとしたお姉さんみたいな人だ。
(まぁ、僕としてはお世話をしてくれるから、別に良いのだけど)
僕は寝間着を脱いで、いつも着ている制服に着替える。
そして寝癖とかは、クレタさんが直してくれる。
「じゃあ、行きますか」
「はい、行ってらっしゃいませ。男爵様」
クレタさんの声を背に受けて、僕は部屋を出た。
僕は寝室を出て、執務室に行くまでの道のりを歩きながら、今日までにあった事を昨日のように思い出していた。
この領の領主になって、物質錬成の魔法で金を造って、それを元手にこの領地を復興させようとしたけど、その資源を採掘したら、岩塩は出るは魔法銀と神鋼と神金剛の鉱脈が出るはで、この領地は一気に活性化しだした。
今もこの領の何処かの鉱山では、金を造る為の資源を掘ったり、魔法銀又は神鋼、神金剛のどれかの鉱脈を採掘しているだろう。
採掘作業により、川に鉱毒が流れるかも知れなかったので、鉱山の開発が始まる前に対策を練ったお蔭で鉱山の下流にある川は今の所、水俣病のような公害病に掛かった人達は居ないと報告を受けている。
なので、今の所は安全だ。
正直、ここまで豊かになるとは思わなかったな。
国王陛下も、僕がこの領地に赴任して半年ほど経ったので、この領地で採れた物を持って謁見したら、顔が引きつっていたからな。
まさか、一年も経たない内に、ここまで領地を活性させるとは僕でも予想できなかったし。
エリザさんだけ胸を張って「流石はわたくしの子豚ね」と鼻高々に言っていたな。
最も、それを聞いたマイちゃんが食って掛かって行ったそうだけど、まぁ喧嘩にならなかったそうだから大丈夫だと思う。多分。
(そう言えば、ここの所、皆と会ってないけど元気にしてるのかな?)
最後に会ったのは、確か去年、王都に新年の挨拶に行った時だな。
軽く一年近く会ってないんだなと、今更ながら思った。
(でも、急激に豊かになったから、その弊害で本当の意味で豊かなのは、この都市と第二都市のイノービタスと近くの村々だけなんだよな)
ちなみに、この第二都市は元々ビタスという名前だったが、僕がこの領地の領主になって豊かになったので、感謝を込めて、僕の名前の一部を取ってイノービタスと名前に変わったそうだ。
止めてくれと頼んだのだけど、その都市の住民達が嘆願書を送って来たので、仕方がなくその名前にさせた。
豊かになったの良い事なのだがその分、土地によって税収に格差が生まれてしまった。
勿論、差が生まれるのは仕方がない事だ。
しかし、その差が激しすぎるので、その調整に時間が掛かった。そのお蔭で、今はそれほど酷い格差はない。
(魔物対策に各村には、屯田兵を何人も配備しているから、大抵の魔物には対処できるようにしたし、後はそのまま開拓させていけば、もっと豊かになるだろうな)
いやぁ、学校の勉強もこうゆう時に役立つんだなと、しみじみ思った。
そう考えながら、歩いていると執務室の前に着いた。
僕はノックをしないで、部屋に入った。
前にノックして入ったら、部屋で僕を待っていたミルチャさんが「御自分の執務室にノックをする方がおりますかっ」と怒られたので、ノックをしないで入る様にした。
「おはよう」
「おはようございます。男爵様」
ミルチャさんが既に部屋に入っていた。
僕が自分の椅子に座ると、ミルチャさんは今日の分の書類を机に置いた。
「これが今日の分の仕事になります。ご確認を」
僕は頷き、書類を一つ一つ確認した。
書類に書かれている字を見て、ふと思った事を聞いた。
「そう言えば、例の案件は上手くいっていますか?」
「ああ、あれですか。今の所、問題ないそうです」
「そうか。良かった」
僕は安堵の息を吐いた。
例の案件と言うのは、この領地に学び舎を作ったのでそこが上手くいっているかどうかを聞いたのだ。
この世界の人達は識字率が低く、その上計算が出来ない人が多い。
なので、今はこの都市に学び舎を作りそこに小さい子供達を通わせている。
無論、無料だ。
大人の人でも学びたい人向けに、ちゃんと学び舎を作っている。周囲の目を気にして行くのを躊躇させないように、夜間に行ける様にしておいた。
教師には十分と言える給料を支払っているので、今の所問題ないそうだ(相場が分からなかったので一人金貨五枚で応募したら、応募者が殺到したのには驚いたけど)いずれは、村にも青空教室みたいなものを作って、識字率をさらに上げる計画を立てている。
(その為にも、今は仕事を頑張らないとな)
僕は書類仕事をしていたら、執務室のドアがノックされた。
「どうぞ」
「失礼します。男爵様、王都より文が届きました」
「文? 持って来てください」
「はっ」
役人の人が、恭しく紙を僕の机に置いた。
封蝋された手紙だ。
ミルチャさんがペーパーナイフをくれたので、僕はそれで開封した。
「何々、至急王都に来られたし・・・・・・」
王都に何かあったのかな?




