第16話 仕方がないね。うん
翌日。
出立の準備を終えた僕達は副都の門の所で姉上達の見送りを受けていた。
「じゃあ、行ってきます。姉様」
「うむ。気を付けて行くのじゃぞ」
「はい」
「水を飲むときは気を付ける様に。腹を下す場合もあるからの。十分に注意する様のじゃ」
「はい」
「あと、見知らぬ人に声を掛けられたからと言って軽々しく応えるでないぞ。変に応えて面倒な目に遭うかもしれんからの」
「……はい」
「それから、落ちている物を食べる出ないぞ。汚い上に、何が入っておるか分からんからな」
「…………はい」
「それからそれから」
「もういい。もう良いから、姉様」
何か最近思うけど、この人もこの人で過保護じゃないかと思えて来た。
話を打ち切ると、ヘル姉さんが近づいて来た。
「・・・・・・ちゃんと帰って来てね」
「うん」
「ん」
僕が返事をすると、姉さんはぎゅーっと抱き締めて来た。
抱き締められた事で顔全体に柔らかい物が押し付けられるのだが、同時に万力の様に姉さんの腕が僕をギリギリと締め付ける。
あまりに力強く締め付けるが、フェル姉が声を掛ける。
「はい。それぐらいにしなさいよ。ウ~ちゃんが潰れるわ」
「むっ。そうか」
自覚してないだろう。かなり力を入れていた。
しかし、同時に顔全体に柔らかい物を押し付けられたのは悪くはないと思った。
「暫く会えなくなるから、ウ~ちゃん。ギュ」
フェル姉は優しく抱き締める。
程よい力加減で抱き締めてくれるので、正直悪くないと思う。
思う存分、抱き締めるとフェル姉が離れて姉上が近づいた。
「リウイ。貴方にはこれを与えます」
そう言って姉上が僕に渡したのは、貝殻であった。
巻き貝の形をしており、巻き終わりの所が押すようになっていた。
「この巻き貝を押せば、何時でも何処でもわたしが駆け付けますからね。安心しなさい」
「安心って、別に護衛も居るから大丈夫だよ」
マイちゃん、ユエ、椎名さん、村松さん、リリムにミリア姉ちゃん六人だ。
正直、ちょっとやそっとの状況で姉上を呼ぶとは思えないな。
「い~え、わたし達の目がない事に浮かれて、其処の泥棒猫達がミリアの目を盗んで、貴方に何かするかも知れませんよ」
「ははは、そんな馬鹿な」
マイちゃん達がそんな事をする訳無いだろうと思いながら、マイちゃん達を見ると。
村松さん以外、思いっきり目を反らしていた。
ユエに至っては目を反らしながら「今日は暑いな~」と言いながら扇を煽いでいた。
思っている事を言い当てられると、扇を出して煽ぐ癖まだ直っていなかったのか。
っと、そんな懐かしい事を思いだしはしたが、多分、大丈夫だろう。
「大丈夫だよ。姉上が思っている事は起きないって」
起きても他の五人が妨害する。
寧ろ、姉上達の目がないからと言って浮かれて纏まる事が出来るのなら、もうしている筈だ。
「ふむ。リウイがそう言うのであれば。ああ、そうだ。ミリア」
僕と話していた姉上は何か思い出したのかミリア姉ちゃんを呼んだ。
「はい? どうしたの?」
呼ばれたミリア姉ちゃんも不思議そうな顔をしていた。
「リウイに万が一な事が起こらない様にくれぐれも、くれぐれも注意しなさいね」
「はいは~い」
「それと」
姉上はそう言って手を翳すと、小さなバックパックが出て来た。
「はい。この中にはお弁当が入っています、わたしが作った特製シチューをこの間食べれなかったでしょう。特別に取り分けた物です。味わって食べなさい」
「ほえっ?」
姉上の口から出た言葉が信じられないのか、呆けた顔をするミリア姉ちゃん。
「……え、ええっと、イザ姉が作ったシチュー。まだのこっていたんだ?」
「ええ、妹の貴方だけ食べれなかったんですからね。仲間外れは可哀そうだと思い、貴方の分を取り分けて置きましたよ」
「……ええっと、り、りういにあげるね」
「リウイはもう美味しく食べました、それは、貴方の分なのですから、貴方が食べなさい」
「美味しく……?」
ミリア姉ちゃんが僕を見て来たが、僕は目を反らした。
他の姉さん達を見るが、姉さん達も顔を反らした。
「…………わ、わたし、自分専用の料理人の料理しか食べないから」
「貴方、この前、祭りの露店の食べ物を腹いっぱい食べたと言っていたでしょう。料理に拘りはないでしょう」
「…………あっ、お腹の調子が悪いから、今度食べるね」
「それは、お腹を出して寝ていたからでしょう。でも、大丈夫ですよ。このシチューには身体に良い薬草を大量に入れています。それに加えて貴方は皆よりもだらしない生活をしていますから、皆が食べたよりも、身体に良い物を大量に入れて味も変えていますよ」
「…………」
逃げ道を悉く潰されるミリア姉ちゃん。
「帰って来たら味の感想を聞かせて頂戴ね」
笑顔で言う姉上。
しかし、それはミリア姉ちゃんからしたら悪魔の宣告に等しかった。
「はい。おいしく、いただきます……」
ミリア姉ちゃんは今まで見せた事がない絶望に染まった顔をしていた。
……ごめんなさい。助ける事は出来ないあ不甲斐ない弟を許して下さい。
そう心の中で謝った。




