第39話 出来る事は全てしよう。できたら
魔法契約も無事? に終り、僕とマイちゃんを除いた皆は、契約して使えるようになった魔法の効果を見る為、訓練場に向かった。
「ノッ君、明日の件はどうする?」
「う~ん、そうだね。ちょっと相談したい人がいるから、その人の話を聞いてから考えよう」
「相談したい人? だれ?」
「アスクレイ侯爵だよ」
「・・・・・・・・・・・・ああ、あの人っ」
今少し間があったけど、もしかして忘れていた訳じゃないよね?
まぁ、今はそんな事よりも、侯爵が何処に居るか聞かないと。
とりあえず、カドモスさんに訊いてみよう。
「カドモスさん、ちょっと話」
「あ、いたいた。ここに居たのね」
カドモスさんに話し掛けようとしたら、聞き覚えがある女性の声が聞こえてきた。
誰だろうと振り返ると、そこに居たのは。
「どう、魔法契約は出来た? 子豚」
そこに居たのはエリザさんだった。
カドモスさんはエリザさんを見るなり、ギョッとした顔を一瞬した。
一瞬だったので、直ぐに表情を戻し頭を下げる。
「これは、師団長閣下、お疲れ様です」
「貴方もお疲れ様。カドモス」
何で、エリザさんがここに居るんだ?
と言うよりも、今聞き逃せないこと聞いた様な。
「あの、カドモスさん」
「はい、何でしょうか?」
「今、エリザさんを〝師団長閣下〟と言いましたよね?」
「そうですが。何か?」
「エリザさんって魔法師団師団長だったのですかっ‼」
「ええ、その通りです」
し、知らなかった。この間話をした時はそんな事少しも言ってなかったし、てっきり、侯爵の娘なんだとしか思ってなかった。
「そんな事よりも、異世界人達の魔法契約は終わったの?」
自分の事なのに、どうでもいいように言うとは凄いな。普通なら、もっと威張ると思うけど。
「イノータ殿とサナダ殿以外は終わりました」
「? 二人の契約はまだ終わってないの?」
「いえ、少々特殊な状況になりまして」
カドモスさんが腰を曲げて、エリザさんの耳元に話し出す。
二人は何事か話しながら、時折エリザさんが頷いていた。
「・・・・・・成程、そうゆう状況ね」
「はい。これはかなり特殊です」
「で、その女神様達の使いは何時頃来るの?」
「明日の正午だと思われます」
「そう、・・・・・・ねぇ、子豚」
「はい」
「何か対策は考えているの?」
「これから侯爵の所に行って相談しようと思いまして」
「ふ~ん、なら、丁度良いわ」
エリザさんは僕の腕を掴みだした。
「「「なっ⁉」」」
「お父様が貴方の事を呼んでいたの。丁度いいから、行くわよ。子豚」
「ああ、はい。分かりました」
僕はエリザさんに連れられて、侯爵が居る所に向かおうとしたら。
「「ちょっと、待った(って)」」
マイちゃんと椎名さんがエリザさんの前に立ちはだかる。
そこから先は通さないと言わんばかりに、両手を広げる。
「貴方達、何か用かしら?」
「色々と言いたい事があるけど、まず言いたいのは一つ!」
「猪田君を『子豚』と言うのは、失礼でしょう!」
マイちゃんと椎名さんが、犬の様にガルルルルルと言わんばかりに威嚇する。
エリザさんはマイちゃん達を見て、首を傾げる。
「わたくしが子豚のことどう呼ぼうが、わたくしの勝手でしょう? それに止めてと言うなら子豚でしょう。なのに、何故貴方達が言うのかしら?」
「ノッ君は優しいから、酷い事を言われても我慢するのっ! だから、あたしが言わないと駄目なの!」
「そうよ。猪田君は優しいし普段からのほほんとしているから、誰かが代わりに言わないと言わないといけないのよ」
二人共、僕の事をそんな風に見ていたんだ。まぁ、分かるけどさ。
それを聞いて、エリザさんは僕を見る。
「ねぇ、子豚」
「はい。何でしょうか?」
こんな見た目だが、年上らしいので敬語を使う。
「貴方、子豚と言われるのは嫌?」
「う~ん、別に嫌なわけではないですよ」
正直、この人が言うと悪口と言うよりも、渾名をつけて呼んでいる感じがする。
本人としては渾名感覚だろうけど、言われている人や周りからしたら、悪口に聞こえるだけだろう。
あの有名な織田信長の人に渾名をつけるのが好きで、豊臣秀吉の事を「サル」とか「ハゲネズミ」とか呼んでいたし、加賀百万石を築いた前田利家の事を「犬」と呼んでいたらしいし、日本史に残る謀反人で有名な明智光秀の事も「キンカン頭」と呼んでいたらしい。
ちなみに、自分の息子の幼名にも奇抜な名前をつけていたそうだ。奇妙丸とか茶筅丸とか少し変わった幼名だ。
なので、僕は気にしていない。
「なら良いわね」
「「良くない‼」」
二人は僕をジッと見る。
「ノッ君っ、ノッ君がそんな事を言うから、この女がつけ上がるんだよ!」
「その通りだよ。猪田君」
う~ん、そうかな?
良く分からないけど、二人がそう言うならそうなのかな?
「まったく、自分の名前を名乗らないで、わたくしにケチをつけるなんて、随分と無礼な人達ね」
「「何ですって!」」
すると、二人の背後から大きな虎と刀を持った般若が現れた。
エリザさんの背中からも、口から白い息を吐く鬼が見える。
(疲れているのかな? 三人の背中から、何かスタ〇ドらしきものが見えるなんて・・・・・・)
僕は何も言えず、三人の睨み合いを見る。
何とか、何とか|(重要なので二回言います)三人を説得して、僕らは侯爵の元に向かう。
エリザさんに案内してもらいながら、僕達は王宮を歩く。
僕の他についてきたのは、マイちゃんと何故か椎名さんだ。
椎名さんは魔法を使えるので、僕達についてくる必要はないのだが「わたしもついていく」と言ってきかないので、仕方がなくついていく事になった。
契約を行なった部屋から出て歩く事数十分。
着いたのは、この前侯爵に案内された研究室だ。
「ここは研究室だよね」
「そうよ。ここにお父様が居られるわ」
「じゃあ、入りましょうか」
僕は扉を開けようとしたら、マイちゃんが僕の襟首をつままれた。
「マイちゃん、そんな事をされたら、前に進めないよ」
「ノッ君、入る前に聞きたいのだけど、何でここが研究室だって知っているの?」
マイちゃんは不審な目で見てくる。
そんな目で見られる理由は分からないが、僕は知っている理由を話す。
「少し前に、侯爵がここに連れてきてくれたから、覚えていたんだよ」
「あ、そうなの」
マイちゃんはそう言って、僕の襟首をつまむのを止めた。
僕は扉を開けて、皆が通れるように少しずれた。
「皆、お先にどうぞ」
そう言うと、マイちゃん達より先にエリザさんが歩き出す。
僕の横を通り抜けようとしたら、手を伸ばして頭を撫でてきた。
「ちゃんと礼儀は出来ているわね。子豚は良い子ね」
そう言って先に入って行く。
僕は女性に頭を撫でられる事はなかったので、少々新鮮で嬉しかった。
ちょっと顔を緩ませていると、横から凄い冷たい視線を感じた。
(み、見たら絶対に後悔するけど、でも見ないともっと怖い事になりそうな気がする!)
僕は壊れたゼンマイのように、首をぎちぎちと動かした。
その視線の先には、凄い怖い顔をしているマイちゃんと光を宿さない目をしている椎名さんが、僕を見ている。
正直、ちびりそうな位怖い。
「ふ、ふたりとも、なかに入ったら・・・・・・」
足をがくがく震わせながら言う。
「「・・・・・・ふんっ!」」
二人は入る前に、僕の足を思いっきり踏んで入って行った。
あまりの痛みで、僕はその場で膝を抱えた。
その痛みに悶えていると、マイちゃんは声を掛ける。
「ノッ君、そんな所にいないで来なよ」
マイちゃん達が踏むから、こうなったんだよ!
そう言いたかったが、僕は痛みに耐えながら部屋に入る。
部屋に入って少し進むと、お目当ての人を見つけた。
「御機嫌よう。侯爵様」
「おお、イノータ殿、お元気そうで何よりです」
侯爵エリザさんと話していたが、僕が挨拶をするため割り込んだ。
少し、失礼かと思ったが、侯爵とエリザさんは何とも思っていない。
「それで侯爵、僕に何か用があると伺ったのですが」
「はい、例の件の物が出来たので、お見せしようと思いまして」
「おお、この前話したのにもう出来たのですか⁉」
そうだ。これを使えば、明日の件はどうにかなるかもしれない。
その頃、健康管理室のベッドでは。
ユエ「はっ、ノブの近くに女の気配がっ⁉」
先生「はい。チャンさん、もう少し休みましょね」
ユエがベッドから出ようとしたら、先生に止められていた。




