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第28話 ああ、またか

 翌朝。

 自分の部屋で起きた僕は、いつも起きる時間よりも早く起きた。

 何故、そんな事をしたのかと言うと、椎名さんがいつ僕の部屋に侵入するか分からないからだ。

 と言うよりも、起きたら椎名さんが居る恐怖で朝日が出ると目が覚めたのだ。

 起きて直ぐに寝間着から制服に着替えた僕は、直ぐに部屋を出て鍵を掛ける。

(今度、チェーンを付けてくれるように頼むかな。何重にしてくれるように)

 あの恐怖は体験した人しか分からないだろう。鍵を掛けたのに、ピッキングして開けて部屋の中に入り、自分の横に居るという恐怖は。

「起きたのは良いけど、何処で時間潰そう・・・・・・・」

 この時間なら食堂もやってないだろう。

 訓練場も開いてないだろう。どっか行くとこないかなと考えた。

「ああ、そうだ。あそこだったら、何かしろ時間を潰せる筈だ」

 僕は手を叩いて、思った所に向かう。

 この王宮に来て、それなりに経つので何処なにがあるかなんとなくだが分かる。

 少し歩き、ようやく着いた。

「おお、やってるやってる」

 着いたのは厩舎だ。

 ここには王女様の愛馬に連れて込まれたという事があった思い入れがある場所だ。

 厩舎では既に働いている人が居た。

 馬を外に出して身体を洗ったり、厩舎の中にある馬房を掃除していた。

「う~ん、今後の為にも馬に乗れるようになった方が良いだろうけど、こんなに忙しいなら無理か」

 この世界の移動手段は馬か魔物だ。

 調教した魔物に鞍を着けて乗る人も居れば、車に繋いで使用する人も居ると聞いている。

 なので、動物に乗る事なるかもしれない。

 動物に乗る方法を教えて欲しいと思ったのだが、皆忙しそうに動き回っているので、話しかけるのも無理そうだ。

 仕方がないので、次の機会にしようと思い、別の場所で時間を潰そうと踵を返そうとしたら。

 ドンッと何かに体当たりされた。

 突然の事なので、倒れそうになったが何とか堪えた。

 何で押されたんだろうと振り返ると。

「ギュルルルルルルルルルッ」

 鷹のような顔をしている動物が僕を睨んでいる。

 僕はその場で仰向けに倒れ込む。犬で言うと服従のポーズみたいな格好だ。

 何か、そうしないと食われると思ったのでした。

 それを見て、その動物は首を傾げながら僕を見る。

 僕はその動物をジッと観察した。

 その動物は上半身が鷹で、下半身がライオンの姿をしていた。

(グ、グリフォンだよな?)

 この王宮では、グリフォンを飼育しているのか?

 生まれて初めて見たけど、こんな生物なんだ。

 グリフォンは僕をジッと見て、嘴で僕の頬を突っつく。

 僕は何も反応しないので、突っつくの止めた。

 何の反応も無いので、飽きたのだろう。

 そのままどっか行ってくれと祈る。

 だが、その祈りは届かなかった。

 グリフォンは僕の制服の襟を咥えだした。

「え、ええええええっ‼」

 僕の声とグリフォンが僕を咥える姿を見て、作業をしていた人達も手を止めてこっちを見る。

「まずい。急いで、兵士を呼んで来いっ」

「あのグリフォンだと、俺らの手に負えないぞ!」

「しかも、異世界人が咥えられているぞ。大変だ」

「誰か、グリフォン用の餌を持って来い」

 作業をしていた人達は、ジリジリと僕達に近づいて来る。

「ギュリリリリリリリッ!!」

 グリフォンが威嚇すると、作業員達は身をすくませる。

 それを見たグリフォンは翼を広げてはためかせる。

「こ、これって、もしかして・・・・・・」

 翼をはためかせたグリフォンはそのまま飛んでしまった。

「また、このパターンかあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ⁉」

 僕はグリフォンに咥えられて、不本意ながら青空へと旅立つ。


  グリフォンに咥えられ、僕は今蒼穹の空を飛んでいます。

「ギイイイイイイイィィィィッ!」

 王都を旋回しながら、楽しそうに飛ぶグリフォン。

 飛ぶのは構わないのだけど、僕を咥えて飛ぶのは止めて欲しい。

 だからと言って、今放されたら僕はパラシュートを持たないスカイダイブをするだろう。

 まず間違いなく死ぬ。

 とりあえず、このグリフォンを刺激させないで飽きるまで飛んでもらおう。

 飽きたら地面に下りるだろう、その時に放してくれるように頼む。

 現状そうするしかない。

 そう考えて、僕は周囲の光景に目を向ける。

 決して現実逃避しているのではない。今はそうするしかないから、しているだけだ。

 改めて、王都を空から見てみた。

 王城の周りに堀や石垣があり、それを囲みように三重の城壁があった。

 城壁と城壁の間には町が幾つもあった。

 外国のバザールみたいに市場があったり、色々な店が立ち並んでいる所があった。

「・・・・・・・・ふ~ん、流石は王都だ。空から見ているだけで活気があるのが分かる」

 空から見て分かったのはそれだけではなく、王都の区画がどう分けられているのか分かった。

 どうやら、城壁で暮らす人を分けているようだ。

 王城の近くにある城壁には富裕層が住んでおり、二番目の城壁には平民が多く住んでおり、最後の城壁には貧困層が住んでいるようだ。

 何で分かるかと言うと、王城の近くの人達は皆着ている服に金が掛かっているのが分かるし、その区画はゴミ一つ落ちてないし、土埃もたっていない。

 次の城壁だと、商人や職人のひとがちらほら歩き回っている。この区画はそれなりに綺麗だ。

 それなりに掃除はされているようだ。 

 最後の城壁はと言うと、そこに住んでいる人の服は破けていたり、ボロボロなっていても着ている人がいる。その上、喧嘩が起きているのに、皆それを見ながら野次を飛ばしている。

 区画自体が土埃やゴミが散乱していた。

(日頃の鬱憤を喧嘩に野次を飛ばして発散しているのかな?)

 そう考えていたら、段々高度が下がって行く。

 グリフォンは飽きたのか疲れたのか、少しずつ地面へと降りて行く。

(しめた。地面に降りたら、ちゃんと話しをして解放してもらおう)

 地面へと降りるのを待ち焦がれた。

(そう言えば、どこに降りるのだろう?)

 さっきは王城の厩舎に居たが、そこに降りるとは限らない。

 せめて、地面が有る所に降りてくれよ祈る。

 その祈りが届いたのか、グリフォンは王城の厩舎へと降りようとしていた。

(へぇ、僕を咥えて飛ぶから躾けられてないと思ったけど、違うようだ)

 グリフォンが地面すれすれの所で、一度翼をはためかせて降りた。

 そして、咥えていた僕を地面に下ろした。

「グリイイイイィッ」

 グリフォンは顔を近づけ頬ずりしてきた。

 何かよく分からないけど懐かれた?

 どうしようと思っていたら、飼育員の人が着てくれた。

「申し訳ありません。この子がとんでも無い事をっ」

 謝っている所を見るとこのグリフォンの飼育員だと分った。

 少々、怖い体験をしたが怪我らしい怪我はしていない。

「そう畏まらないでください。別に怪我はしてないので大丈夫です」

「ですが。怪我でもさせたら問題が」

「特にないと思いますよ。多分」

 致命傷を負わせるほどなら別だが、今回は咥えられて飛び回っただけだから問題ない。

 だが、飼育員の人は納得してくれず、お詫びに何でもしますと言う始末。

 要らないと言っても聞き入れてもらえない。

 その為、その人の説得に時間が掛かった。

 結局聞き入れてもらえた。お腹が減ったので食堂に向かった。

 朝食を食べようと食堂に向かうと、光を宿さない目で僕を見る椎名さんと拗ねたように頬を膨らませるマイちゃんに遭遇した。

 僕は今まで何処に行っていたのか、二人に問い詰められた。

 遭った事を全て話し終え、朝ご飯を食べようとしたら、両肩を掴まれた。

 これから、西園寺君が昨日僕達が話した事を全員に話すので、朝食は後だそうだ。

 そんなぁと思いながら、僕は二人に引きずられて行く。

 





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