第57話 前にもこれと似たような事があったような。
館に帰ると、僕は姉さん達と別れて、執務室に行き、リッシュモンドを呼んだ。
部屋にリッシュモンドに来ると、ユエと話した事を話して、後の事はリッシュモンドに任せる事にした。
「ああ、それと『ブルーファルコン』と『クレイジーベア』の検挙の方は?」
「それでしたら、今夜にでもアイゼンブルート族の部隊を中心にした部隊で、両チームの拠点、支配下の店に突入させて捕まえます」
「そうか。分かった。他には、何か報告は?」
「言われていた二人の件ですが、明日までには吐かせますのでご安心を」
「分かった」
リッシュモンドは一礼して、部屋を出て行った。
僕は私室に戻り、一休みした。
その夜。
僕はティナを連れて『プゼルセイレーン』のたまり場となっている店に向かう。
また、新しい情報が入っているかもしれないし、ユエが『ビアンコ・ピピストレロ』の使者が来ているかもしれないからだ。
一応、顔だけは出しておかないとね。
兵士達に見送られ、いつも通りルーティ達を影から護衛させながら店に向かう。
店に入ると、既に店内には『プゼルセイレーン』のメンバー達がテーブル席の一つを占領して、酒を飲んでいた。
僕が入って来たのが見えたのか、メンバーの何人かが、僕を見るなり、手を挙げる。
返礼に頭を下げて、僕はいつも座っているカウンター席に座る。
そこではマスターが、何時もの様にコップを磨いていた。
「注文は?」
「「ミルクで」」
僕達は同じ物を注文した。
マスターも分かっているのか、二つのコップにミルクを注いで、僕達の前に置いた。
コップを手に取り、ミルクを喉に流し込む。
そして、飲みながら周囲の話しに耳を傾ける。
「おい、聞いたか。今夜、北地区で大規模な大捕り物をするそうだぞ」
「ああ、何でも『ブルーファルコン』と『クレイジーベア』の両チームが領主に槍を突き付けたからだそうだぜ」
「違うだろう。領主から金を巻き上げようとして嘘をついたからだろう」
「そうなのか? おれが聞いた話だと、何か領主の愛人に手を出そうとしたから、それで怒りを買ったかと聞いたぞ」
・・・・・・色々な情報が出回っているな。
でも、大捕り物か。
リッシュモンドから話を聞いた限りだと、それなりの規模の兵を出しているようだから、大捕り物と言えばそうなんだろうな。
まぁ、僕には事後報告でどれだけ捕まえたか聞くだけだからな。
問題が起こったら、報告が来るだろう。
今はそれよりも『ビアンコ・ピピストレロ』の使者が来るのを待つだけだ。
そう思いながら、ミルクを飲んでいると。
ドアに付いているベルが鳴りだした。
来たかなと思いつつ、肩越しに振り返ると、ギョッとした。
そこに居たのは、ヘル姉さんだった。
店に入って来たヘル姉さんは、丁度空いているカウンター席に座る。
僕からかなり離れているので、見つかる心配は無い。
ないのだが、心配になりティナとちょっと話す。
「ど、どうして、此処にヘル姉さんが居るんだ?」
「あ、あたしが分かる訳ないでしょう。ヘルミーネ様はあんたの姉さん達の中じゃあ、天然だけど、目つきが悪くて怖いっていう感じが、あたし達の中で通っているんだから」
う~ん。確かに、どれも反論できる所がない。
時々、天然みたいな行動や言動するし、物をよく見ようと目を凝らしただけで、失神レベルの睨みつけに様に見えるわという感じだからな。
でも、常識人ではある。
「別に悪い人ではないし、それに何かしら迷惑行為をする事はないだろうから、このまま何もしないでいた方が良いと思う」
「そうね。そうしましょう」
僕達はとりあえず、干渉しない様にした。
マスターはやってきたヘル姉さんに注文を取ろうと前に出る。
「いらっしゃい。ご注文は?」
「・・・・・・この店で一番強い酒を」
「あいよ」
注文を受けたマスターは、店の棚からグラスと酒瓶を持った。
それらを、ヘル姉さんの前まで持ってくる。
「はい。ご注文の酒だ」
サービスなのか。グラスに酒を注ぐ。
酒を注いでいるグラスは小さいので、ショットグラスのようだ。
注がれている酒の色は透明であった。
透明で酒精が強い酒か。僕が知っている感じだと、白酒かと思った。
飲んだ事はないが、見た事はある。
ある組織の構成員に薬を飲まされて主人公の身体が小さくなるというアニメで、その主人公が飲んで、元の姿に戻る様になった白乾児という酒もこれと同じだ。
ヘル姉さんはそのグラスを手に取ると、一気に喉に流し込んだ。
「・・・ふぅ」
息をついて、グラスにまた注いで飲みだした。
まるで、水を飲むかのようにカパカパ飲んでいる。
その飲んでいる姿を見て、周りの客達は驚いている。
「おい。あの酒って、この店で一番強い酒だよな?」
「ああ、酒豪が舐めただけで、ぶっ倒れたって話を聞いた事があるぜ」
「マジかよ。そんな酒を、あの姉ちゃん。何で、ストレートであんなに飲んでいるんだ?」
うちの家族って、何だかんだ言って酒豪が多いんだよな。
ソアヴィゴ兄上なんて、赤ワインが好きだし。ロゼティータ姉様なんて、あの姿で樽で直に飲んでいるを見た事がある。
イザドラ姉上も、よくロゼティータ姉様と飲み比べしているそうだ。
フェル姉もヘル姉さんも酒に強いと聞いている。
ミリア姉ちゃんは本人曰く、人並みだそうだ。
僕はまだどれくらい酒に強いのか分からないが、母さんが酒に強いので僕も強いんじゃないのかな? 分からないけど。
「・・・・・・マスター。同じ酒でお代わり」
「お、おう」
マスター的には、一瓶だけで十分だろうと思っていたら、お代わりと言われて驚いていた。
倉庫から持ってこようと向かった。
その間、手持ち無沙汰だったので、ヘル姉さんは周りを見ていた。
「うん?」
やべ、目があった。
ヘル姉さんは、僕を見つけるなり、立ち上がった。
不味い。入り口は一つだから逃げれない。
こ、此処は取るべき手段は一つだ。
そうしている間にも、ヘル姉さんは僕の傍に来た。
「何をしているの。リウイ?」
「エ、リウイ? ダレノコトデスカ。ボクハウイルフレッドトイイマス」
誤魔化す! しかない。
「? 何を言っているの?」
首を傾げるヘル姉さん。
くっ、流石に騙されないか。
しかし、一度したのだから、此処は押し通すしかない。
「それに人違いじゃない。ティナもいるのだから」
ヘル姉さんはティナを指差しながら言う。
「「あっ」」
思わず、間抜けな声を出す僕達。
「子供が、こんな所にきちゃあ駄目」
ヘル姉さんは僕達の襟首を掴んで、店から出そうとした。
「ああ、ち、ちょっと待って。姉さんっ」
「駄目」
「そこを何とかっ」
「駄目」
取り付く島もないな。どうしよう。
そう思っていると『プゼルセイレーン』のメンバー、ヘル姉さんの下にやってきた。
「おい、姉ちゃん。何処のもんかは知らねえが。その二人は、うちのチームのもんなんだが」
「そいつらを何処に連れて行くつもりだ?」
メンバーの人達がそう尋ねると、ヘル姉さんは僕を見る。
「知り合い?」
「あ、ああ、うん」
まさか『プゼルセイレーン』に入っているとは言えない。
どう言ったものかな。
「この子は、わたしの弟。こっちの子は妹当然の子。だから、連れて行く権利はある」
「お、おとうと? するっていうと、この姉ちゃんは、ウィルの姉ちゃんか?」
「前に来た、あの赤髪の子と似てねえし、ウィルにも似てねえな」
「というか、ウィル。本当か?」
「はい。そうなんです。腹違いですけど、姉です」
「お前、いったい何人兄弟だよ」
上に十五人いますとは、流石に言えないな。
「ウイル? この子はリウイだけど?」
やべ、このままでは不味い。
どう言い訳しようとしたら。
ドアの鈴が鳴りだした。
「あら、何の騒ぎ?」
店に入って来たのは『プゼルセイレーン』のリーダーであるモルべさんだった。
「・・・・・・」
何か、モルべさんが現れると、ヘル姉さんがジッと見る。
僕から見たらそうだけど、他の人から見たら。
「ひっ、何て目だ・・・・・・・」
「ありゃ、戦場に出て数えきれない程の人を殺してこないと出来ない目だ」
「やべえ、あの目を見てから、足の震えが止まらねえ」
だいたい、こんな反応を取る。
話してみると、良い人なんだけどね。
「・・・・・・ちょっと待ってて」
そう言って、ヘル姉さんは僕達を床に下ろした。
そして、モルべさんの元に行く。
ヘル姉さんを囲んでいた『プゼルセイレーン』のメンバー達は、モルべさんの下に行くヘル姉さんを止めようとしたのだけど。
「・・・・・・(ギロリ)」
「「「「っっっっ⁉」」」」
ヘル姉さんの目力に押されて、腰が引けていた。
難なく、ヘル姉さんはモルべさんの下に着いた。
「「…………」」
両者、共に互いの目を見る。
何かしても、行動を取る事が出来る様に。
そうして見合う中、先に動いたのは、ヘル姉さんだった。
ヘル姉さんは空間に黒い穴を生み出して、その穴に手を入れた。
良いな。あれって、空間魔法だよな。僕は会得してないので出来ないので羨ましいな。
「っ⁈」
モルべさんは、ヘル姉さんがその黒い穴に手を入れたので、自分も腰に下げている何かを抜こうとしていた。
一瞬即発になるかと思われたが。
「この度は妹が、大変失礼な事をしたとの事で、お詫びに参りました」
その黒い穴から手を出した。黒い穴から出した手には、箱を持っていた。
その箱を両手で持って、頭を深々と下げてモルべさんに渡すヘル姉さん。
「「「「・・・・・・・へ?」」」」
皆、目を点にしていた。
まぁ、ヘル姉さんを知らない人からしたら驚くのは無理ないよな。
昔から、フェル姉が問題を起こすと、後始末に駆り出されたのは、ロゼティータ姉様とヘル姉さんだったからな。
ミリア姉ちゃんの場合は、偶にストッパー役だったり偶にトラブルメーカーだったりところころと変わるからな。
ちなみに、イザドラ姉上の場合は問題自体起こさない。
何せ、その問題というものが起こる前から、処理をしているのだ。
どんな手段かは知らない。
「妹が、貴女にした事は大変失礼な事をしたのは重々承知していますが、此処は、これでご容赦を」
頭を下げながら言うヘル姉さん。
この現場、ヘル姉さんの部下達が見たら不味い事になるな。
なので、さっさと貰って欲しいなと思いつつ見る僕。
「え、えっと、その、妹と言うのは、どなたの事かしら?」
「赤い髪をしており、そしてあそこに居る、弟の姉の一人です」
「赤い髪。ああ、……という事は、あの子のお姉さんかしら?」
「はい。ご迷惑を掛けましたので、こうしてお詫びに」
「い、いえ、そこまでしてもらう事では」
「どうか。お受け取りを」
「で、ですけど」
「どうか」
ヘル姉さんは顔をあげて、モルべさんを見る。
その目力に押されて、モルべさんは手を伸ばした。
「で、では、い、いただきます・・・・・・」
手を震わせながら、その箱を持つモルべさん。
箱を持ったのを見たヘル姉さんは、ホッと安堵の息を漏らした。
「ありがとうございます。では、わたしは、これで」
そう言って、ヘル姉さんはモルべさんに一礼し、頭をあげると、カウンター席のマスターに金貨を渡して「釣りはいらない」と言って、僕を見る。
やべ、逃げるのを忘れてた。
僕は背を向けて、逃げ出そうとしたら、襟首を掴まれた。
身長差もある所為か、こうされていると、前世で見たテレビのドキュメンタリー番組に出ていた母ライオンに首元を咥えられた子ライオンみたいだ。
「逃げちゃ、駄目」
「え、ええええ、き、今日だけは御見逃しをっ」
「駄目」
ヘル姉さんは僕の襟を掴んだまま、首を動かして周りを見る。
それを見て、ヘル姉さんは何か探していると分かり、僕は店のある所を指差した。
「あっ、ほら、姉さん。あそこに、ティナが居るよっ。あそこに隠れているよ」
僕が指差した所に、ティナは身を屈めて隠れていた。
「ち、ちょっと、あんた、あたしを売る気っ⁉」
「一蓮托生って言葉があるじゃないかっ」
「そんな言葉は聞いた事ないわよっ⁈」
言われてみれば、前世の世界の諺だったな。
とそう言い合っていると、ヘル姉さんはティナの襟首を掴んだ。
ヘル姉さんは、僕達を掴んだまま店を出た。
店を出るなり、館への道すがら、説教される僕達。
「ああいう店は、もっと大きくなってから、だよ」
「「はい」」
「もしかして、何度か行ってた?」
「「…………」」
「めっ」
「「ごめんなさい」」
ヘル姉さんは僕達に怒る時は「めっ」という。
そして、それを言う時は、本当に駄目と言う時だけだ。
当分、あの店に行けないな。
リウイ達が店から出て行った後の店。
「「「・・・・・・・・・・・・」」」
モルべは貰った箱を見る。
「と、とりあえず、中身を見るわね」
モルべは箱を開けてみた。
箱の中身は酒瓶であった。
「これって、酒よね?」
モルべはガイウスに見せる。
「・・・・・・これはっ⁉」
ガイウスはモルべが持っている酒瓶を見て、目を見開らかせた。
「どうかしたの?」
「これは、向こうの大陸で大昔の大賢者が作ったという酒精が強く、それでいて芳醇な味わいを持つ酒じゃねえかっ⁉」
「そうなの。へぇ、それは凄いわね」
モルべはあまり凄いと思っていないようだ。
「お前。この酒がどれだけ貴重なのか分からないのかっ⁉」
「そんなに酒の事を詳しくないから、知らないわ」
「~~~~~~‼」
ガイウスは声にならない悲鳴をあげた。
「この酒はな、生産量が少ないから、この国では手に入れるのも難しいんだぞっ! 買うとしてもべらぼうに高いんだからなっ」
「へぇ、ちなみにお値段は?」
「この酒を売れば家一つ建つぞ」
ガイウスがそう言うのを聞いて、皆ギョッした。
「ゴクン。この酒瓶一つで、家が……」
店に居る者達は驚愕していた。
「ど、どうする?」
モルべはそう尋ねると、ガイウスは。
「……くれたんだから、飲んでも良いじゃないのか」
「そうね。じゃあ、皆で頂きましょうか」
モルべはマスターに言って、店に居る全員分のコップを出してもらい、皆に行き渡る様に約一口分の量をコップに注いだ。
「じゃあ、乾杯」
モルベが音頭を取って、皆コップに口をつけた。
「‼‼⁈⁉」
一口分の量の酒しか飲んでいないのに、飲んだ者達は皆、声にならない悲鳴をあげた。
その後も、皆、お代わりを要求したので、モルべは貰った酒を飲んでも、味が好きではないのか、酒が無くなるまでチームメンバーに酒を振舞った。
余談だが、ガイウスは涙を流しながら喜んで飲んでいるのを見て、皆、ドン引きしていた。




