第52話 その夜
ダミアン達と『ブルーファルコン』と『クレイジーベア』のメンバーが引ったてられるので、僕達も一緒に、館に戻った。
館に戻るなり、フェル姉さんは。
「疲れたから、少し眠るわ~」
と言って、呼び止める間も無い位の速さで、用意されている部屋に向かってしまった。
「「…………逃げたな」」
その背を見送ると、僕達はほぼ同時に同じ言葉を呟いた。
どうしてああなったのかの説明はして欲しかったのだけど。
「…仕方がない。わたしがしよう」
「お願いします」
僕は頭を下げた。
「いい、気にするな」
ヘル姉さんはそう言って、僕の頭を撫でる。
僕の頭を撫でて、目を細める。
本人的には、嬉しいのだろうけど、他の人から見ると。
「ひっ」
ああ、ヘル姉さんの顔を見て、メイドさんが気を失った。
う~ん。悪い人じゃないんだけど、どうにかならないかなこの笑顔は。
「・・・・・・(ニイイ)」
本人は笑っているつもりなんだろうけど、傍から見たら口が三日月になって歯を見せて笑っているから、何か悪い事を考えているか、まるで龍が笑っているみたいな顔をしているんだよな。
それからは、ヘル姉さんから事情を聞いて、後のリッシュモンドと共に、ダミアン達を締め上げて話を聞いた。
結果。ダミアンは六年前まで、その官吏管理官とかいう役職だったそうだが、不正と賄賂がばれて領地から逃げ出したそうだ。
そして、去年、この都市が好景気になったと風の噂で聞いて、この都市に戻ってきて、詐欺師みたいな事をしていたそうだ。
騙された事に気付きそうになった者ら『ブルーファルコン』に手を回して、その者の強引に借金を負わせて『ブルーファルコン』が経営する店に働かせるそうだ。
ダミアンと『ブルーファルコン』が儲かるのを見て『クレイジーベア』も乗ってきたそうだ。
その話を聞くなり、僕は領主の権限で両チームが経営している店に強制捜査と資産没収を命じた。
ダミアンの方は財産没収に加えて、領地からの強制退去を命じた。
無一文で叩きだされるのだ。餓死か魔獣に襲われるかもしれないが、そこまでは知らない。
死刑にしないだけマシだと思って欲しい。
で、そこまで仕事をして、僕は一息ついた。
「お疲れ様です」
リッシュモンドから労いの言葉を掛けられた。
「ああ、これで北区のチームは芋づる式で摘発できるな」
「はい。摘発した者達は如何なさいますか?」
「‥…ちょっと考える時間をくれ」
「分かりました」
リッシュモンドは一礼して、部屋から出て行った。
ふぅ。とりあえず、今日の分の仕事が終わったら『プゼルセイレーン』の所にも顔を出す事にしよう。
そう思い、僕は仕事を再開した。
で、その夜。
堂々と正面玄関から、ティナを連れて出掛ける。
ルーティ達を護衛につけて、僕達は店に向か事にした。
館を出て 店に向かう道すがらを、ティナと少し話をしていた。
「へぇ、そんな事があったんだ」
「そうなんだよ。最初の報告を聞いた時は、フェル姉さんとヘル姉さんが酒でも飲んで暴れたのかと思ったよ」
「あ、ああ、ヘルミーネ様はそんな事はないわよ」
つまり、フェル姉さんはあり得ると。
今度、ティナがフェル姉さんにそんなイメージを持っていると教えておこう。
話しながら歩いていると、目的の店に着いたので入った。
で、入ると、僕達を出迎えたのは。
「あれ? リウじゃない。どうしたの?」
ミリア姉ちゃん達であった。
な、何で此処にミリア姉ちゃんが⁉
うん? よく見ると、部下の人達も居るぞ。
もしかして、魔獣を狩った帰りにこの店に来たという感じかな?
「リウ。何の用?」
「え、えっと、ちょっと社会勉強に」
無理があるかなと思いつつ、そう言うと。
「そっか~。おいで。一緒に酒を飲もう」
ミリア姉ちゃんはニコニコしながら手招きする。
よしっ! 何とか誤魔化せた。
僕はその手招きに応じて、ミリア姉ちゃんの下に行く。
ミリア姉ちゃんの傍に行き、その隣の椅子に座る。
ティナは僕が座ったのを見て、少し離れた所に座りだした。
「しかし、リウもそういう事をする年頃になったんだねえ~」
ミリア姉ちゃんは、笑いながら頼んだ飲み物を喉に流し込んでいる。
僕は何を飲もうかなと思っていると。
「マスター。ミルク一つねっ」
「あいよ」
マスターは用意していたのか、ミルクが入っているコップを僕の前に置いた。
「リウはまだ子供なんだから、お酒はまだ早いからね~」
笑顔で言う。
まぁ、流石に無理か。
僕はコップを手に取って、ミルクを飲んだ。
飲みながら、周りにいる客の話しに耳を傾ける。
「おい。聞いたか。『デッドリースネイク』が領主の軍に編入されたって?」
「お前のその話は古いぜ。それに、編入じゃなくて『デッドリースネイク』は領主の下に付いたんだよ」
「というと、『デッドリースネイク』はのシマはどうなるんだ?」
「さあな。他のチームの支配下に入るか。それとも、新しいチームが出来てシマにするかだろう」
そう言えば、西地区はどうなるのだろうか。明日にでも、ユエと相談するか。
そう思いながら『デッドリースネイク』の事を話していた人達の話しに耳を傾けた。
「そういや『デッドリースネイク』のリーダーがよ。この前の西地区のマーケット見世物試合で、領主に負けたって話あるけど、あれって、マジか?」
「ああ、本当らしいぜ。おれの知り合いが、領主の館で働いているんだが、その見世物の試合に出たのは本物の領主だって言ってたぞ」
「へぇ~、あれが。この土地の領主だったのか。初めて見たぜ」
「あんまり、館から出ないからな。それでいて、男と思えないくらいに可愛いからな」
「ついた渾名が『深窓の姫』だったか?」
「ちげえよ。『蒼銀の獅子』だよ」
なに、その渾名? 後者は良いけど前者は嫌なんだけど。
というか、その渾名の由来は?
「何で獅子って渾名なんだ?」
「聞いた話だと、館に領地の有力土豪の娘達を愛妾にして、夜な夜な楽しんでいるからだそうだ」
「はぁ、ようは好色って事か?」
「そうだ。獅子の群れは殆どが雌だから。沢山の愛妾がいるからそういう渾名がついたんだろうぜ」
その話しを聞いて、僕はテーブルに顔を突っ伏した。
ああ、確かに十二氏族とか『奥地』の有力部族の娘達を館に住まわせているけど、別にそんな関係になってないよ。というか、何でそんな話になっているんだよ!
そんな関係には、全然なっていないのに‼
この誤解はどう解くべきか?
と考えていると、ドアに付いている鈴が鳴りだした。
その音で振り返ると、其処には『プゼルセイレーン』のメンバー達が入って来た。
メンバーの一人が、カウンターに座っている僕を見て、手を挙げた。
「おう、ウィル。久しぶりだな」
「はい。そうですね」
「お前が副リーダーの命令で色々な所に行っているから、此処にも久しぶりに来たんだろう?」
そうかな。ロゼ姉様が来た時に、店に来たけど、あの騒動に居ない事になっているのようだ。
「リウ。この人は?」
ミリア姉ちゃんは、僕に訊ねて来た。
やっべ、どう言ったら良いのかな。
「あ~、シリアイデス」
そうとしか言えなかった。
「ふ~ん。そうなんだ」
ミリア姉ちゃんは、メンバーの人を見る。
「……リウ」
「なに? ミリア姉ちゃん」
「この人弱そうだけど、大丈夫?」
「あん⁉」
「おうおうっ、今のはどう意味だお嬢ちゃん?」
やばい。青筋を立てて怒っているぞ。
ここは、僕がフォローせねばと思っていると。
「だってね。どう見ても弱そうにしか見えないのだもん。あんた」
もう~~、この姉はああああああっ‼
フェル姉さんの上をいくトラブルメーカーなんだから‼
「すいません‼ 姉は思った事を直ぐに口を出す素直な性格なので、どうか許してくださいっ」
「あん? お前の姉ちゃんなのか?」
メンバーの人は、ミリア姉ちゃんをジロジロ見る。
ああ、何か嫌な予感がする。
「……胸はちぃとばかりねえが。可愛い顔じゃねえか、そうだな一晩俺に付き合うなら、ウイルの顔を立てて、さっきの暴言は許してやるぜ」
にやりと笑うメンバー。
あ、あああ。この人。禁句を言ってしまうとはっ。
僕は思わず合掌した。
「あん? どうした。ウイル」
僕の事よりも、目の前の姉ちゃんに集中した方が。
「……今、胸がちいさいって言ったよね? 言ったよね? ね?」
「ああ、そうだぜ」
「ふ~ん。そうなんだ。……よし、殺すっ」
「は? なにを言って……hgうふひzbshcすにんkfん⁉」
メンバーが言っている最中に、姉ちゃんは足を蹴り上げる。
狙いは股間の間にある男性の急所。狙い違わず、その蹴りは急所に命中した。
其処に当たったメンバーの人は身体をくの字に曲げて、両手で股間を抑えて、顔から床に倒れて、身体をピクピク震わせた。
男性の急所を攻撃するのを見て、僕は顔を青ざめて思わず股間を抑える。
それは周りの男性達も同じの様で、皆一様に同じ行動を取る。
いち早く気を取り戻したメンバーが立ち上がる。
「や、やりやがったな!」
「てめえ、よくも仲間をっ」
「やっちまえ‼」
一緒に店に入った『プゼルセイレーン』メンバーが、ミリア姉ちゃんに向かって来るが。
「ふぅ、どいつもこいつも弱そうね。みんな、やっていいわよ」
「「「アイ、コピー」」」
ミリア姉ちゃんと一緒に店に入った部下の人達が、姉ちゃんに向かって来る『プゼルセイレーン』メンバーに襲い掛かる。
そして、瞬く間に店の中が乱闘場になった。
幸いと言うべきか、怪我の功名と言うべきか、皆武器を抜かないで、素手なので怪我人は出ても、死人は出ないだろう。多分。
「あ~、どうして、こうなるのかな~」
思わず、溜め息を吐いた。
「どうしたの? リウ。溜め息ついて?」
カウンターの席で座りながら酒を飲んでいるミリア姉ちゃん。
酒を飲みながら、乱闘を楽しそうに見て笑っている。
「……誰の所為でついていると?」
「う~ん。あたし?」
僕は即頷いた。
「あっはは、ごめんってば、許してよ~」
ミリア姉ちゃんは僕に抱き付き頬ずりする。
そんな事をされても、嬉しいとは思わないよ。胸も他の姉さん達に比べると寂しいし。
「今、何か変な事を考えなかった?」
「ぜんぜん」
くっ、相変わらず勘が良いな。
そうこうしていると、乱闘は収束していき『プゼルセイレーン』メンバーが皆、床に倒れていた。
「ほら、弱かったでしょう。嘘はついてないわ」
確かにそうだけど。
と、そこで。
ドアの鈴が鳴りだした。
そして、入って来たのはガイウスとモルべさんだ。
「何だ? この騒ぎは?」
「カチコミではなさそうだけど、喧嘩かしら?」
二人は店内の様子を見て、首を傾げる。
二人の声が聞こえたのか、ミリア姉ちゃんがそちらに顔を向ける。
「んんんっ」
ガイウスの隣にいるモルべさんをジッと見て、そして。煙の様に姿を消した。
「消えた⁉」
「何処に行った⁉」
店に居る人達は驚いている。そうして驚いているモルべさんの胸に背後から手が忍び寄る。
「やん、こ、こら、やめなさい……」
そんな声が聞こえたかと思うと、皆、モルべさんの方を見る。
見ると、どうしてそんな声をあげたか分かった。
ミリア姉ちゃんがモルべさんの背後から胸を揉んでいたのだ。
モルべさんの両胸を、両手で鷲掴みにしながら揉みしだいている。
「ううん。お姉さん。意外に胸大きいね。もしかして、着痩せするタイプ?」
「だ、だったら、どうなの、よ……」
「むう、このマシュマロの様に柔らかいのに、これだけ大きいなんて、姉さん達よりは小さいけど、これはこれで結構、大きい方かもしれないな」
真面目な顔で胸を揉むミリア姉ちゃん。
女の人の胸を揉む悪癖やめようって言っているのに、どうしてするかな。
まったく、困った姉だな。
そろそろ離した方良いなと思い、ミリア姉ちゃんに声を掛けようとしたら。
「ちょ、だ、だめ、そこは……あん……」
「う~ん? もしかして、ここかな? ここが弱いのかな?」
まるで、セクハラ親父の様な手つきで、モルべさんの胸を弄ぶミリア姉ちゃん。
モルべさんは感じているのか、頬を上気させて、切なそうな顔をする。
普段は、クールな表情を浮かべるモルべさんなので、あられのない声を聞いて、僕達は生唾を飲み込んだ。
ガイウスも同じなのか、だらしない顔でモルべさんを見ている。
で、そんなモルべさんを見ていると。
「ふんっ」
「いったあああああっ⁉‼」
足が誰かに思いっきり踏まれた。
痛みのあまり、足を持ってぴょんぴょん跳ねた。
誰が踏んだんだと思い見ると、ティナが傍にいた。
「て、ていな?」
「…………」
ティナは顔を背けて、何も言わない。
「も、もしかして、怒っている?」
「……べつに~」
あっ。これは怒っているな。
同じ女性として、胸を揉まれている所を見るのは嫌なんだろうな。
此処は僕が止めないとな。
「ミリア姉ちゃん。そろそろ止めてよ」
「ええ~、もうちょっとだけ~」
「お願いしますっ」
僕は頭を下げて頼む。
それを見て「むぅ、仕方がないな~」と言って、ミリア姉ちゃんは胸から手を離した。
手が離れたので、モルべさんは地面に座り込んだ。
「ん~、楽しめたし、そろそろ帰るか~」
身体を伸ばして、目を細めるミリア姉ちゃん。
まるで、猫が欠伸をしているようだ。
ミリア姉ちゃんがそう言うと、部下の人達も立ち上がる。
「じゃあ、リウ。あまり遅くならない内に帰って来てね~」
ミリア姉ちゃんは僕に手を振る。
そして、店を出る直前に、ミリア姉ちゃんはマスターに何かをコイントスして渡した。
マスターはそれを受け取ると、手の中の物を見る。
「釣りはいらないから~」
そう言って、ミリア姉ちゃんは店から出て行った。部下の人達もその後に付いて行った。
姉ちゃん達が出て行くと、僕はモルべさんにかけよる。
「大丈夫ですか?」
「……え、ええ……」
「すいません。姉がご迷惑を掛けてしまって」
「あ、あなたの、おねえさん、なの?」
「ええ、腹違いですけど」
「そう、なのね……」
やっば、すっごい色っぽい。
そのまま見惚れていると、僕の耳が引っ張られた。
「いたたっ」
「何を見ているのよ」
ティナが僕の耳を引っ張る。
僕が目を背けると、ようやくティナは耳を離した。
「…………」
荒く息を吐くモルべさんは、近くの席に座る。
ガイウスもモルべさんに気遣い、その隣の席に座る。
僕達もカウンターに座る。まだ、店の客が居るので、会議は行われないようだ。
その間、僕はミルクを飲んで時間を潰す事にした。




