第45話 古人曰く 勝てば官軍
試合開始十分前。
僕達は待機所で、ストレッチをして呼び出されるのを待っている。
服装に関しては、前世で見たテレビみたいに上半身裸にならなくていいようだ。
その代わり袖が短い道着みたいな服を着て試合をするそうだ。下の服は何でも良いそうなので、僕は今穿いているズボンのままにした。
僕は椅子に座りながら持ってきた飲み物で喉を潤す。
待機所には一応、軽食と飲み物はあるのだが、ロンチュンのあの性格ならあり得ないかもしれないが、一応警戒してだ。
僕は平然として椅子に座っているに、何故かルーティ達がオロオロしだした。
試合をするのは、僕なんだけど?
「三人共、少しは落ち着いたら」
「しかし、我が君」
「あの相手に勝てるのですか?」
アルトリアとルーティはそこが心配のようだ。
「大丈夫。ちゃんと作戦は考えているから」
「作戦と言われても」
「その作戦が、どんなのかは知りませんが、上手く行くのですか?」
「そこは大丈夫だよ。ねぇ、ランシュエ」
僕がソワソワしているランシュエに声を掛ける。
「え、ええ、その通りです」
ランシュエは顔を引きつらせながら頷く。
二人はランシュエの態度に違和感を感じたようで、不審そうな目でランシュエを見る。
ランシュエは顔を背けて、二人に目を合わせない。
それを見て、二人は余計に疑っていだす。
二人は目を合わせると、ランシュエに訊ねようとしたら。
「そろそろ、試合開始の時間ですので、準備お願いします」
テントの外から声を掛けられた。
「じゃあ、僕は行くけど、ランシュエ。後は任せたよ」
「は、はい。分かりました」
僕はテントを出る。
さて、頑張りますか。
僕が誘導する人の指示に従い、試合会場から少し離れた所で、これからどうするか話しを聞いた。
もう少ししたら、司会が口上を言って、僕達を呼ぶので、それと共に試合会場に行けばいいそうだ。
そして、試合をするという流れだそうだ。
そんな話を聞きながら、係の人が僕の手を測る。
計測して、僕の手に合う手袋を、僕の手に嵌める。
その手袋を見ると、流石に赤くはないか。
この色って、どちらかと言うと、青色だな。
だとしたら、向こうは赤色のグローブか。
そう思いながら、僕は司会の人が呼び出すのを待った。
そして、待つ事数十分。
「この場に集まった紳士淑女の皆様方。大変、長くお待たせしました。本日のメインイベントをこれより開催いたしますっ‼」
司会の声が聞こえだした。
「では、選手の入場ですっ」
司会の声が聞こえたので、僕は試合会場に向かう。
誘導する人のと一緒に僕は試合会場に向かう。
向かう道を歩いていると、その道を挟むように観客席があった。
観客席からは歓声と期待を込めて、何かを鳴らしている。
そんな喧騒を浴びながら、僕は試合会場を仕切っているロープを潜り、会場に立つ。
僕が会場に立つと、ロンチュンさんも試合会場に入る。
「それでは試合開始の前に、両選手の紹介をいたしますっ」
司会は何かの道具で声を拡散させているようだな。
恐らく、ユエの商会の商品だろう。
そう言えば、ユエは何処だ?
首を動かさないで、周りを見ていると、貴賓席みたいな所で座っているのが見えた。
目が合うと、ユエは小さく手を振った。
僕は返礼に頭を軽く下げる。
「赤コーナー、十二氏族『タゼブル』族の次期族長候補の一人にして、部族の中では一~二を争う剛勇を誇る武人。ロンンンンンンンン、チュンンンンンンンンンンッッッ‼」
「おおおおおおっ」
司会の紹介に合わせて、大声をあげるロンチュン。
そして、シャドウボクシングしだした。
やる気満々だな。
「蒼コーナー、現魔王の十六子にして『オウエ』領主でもあり、老若男女問わず誑し込む甘いマスクの下にどのような実力があるのか、眠れる獅子⁉ リリリリリリリウウウウウウウウウイイイイイイイイイイイ⁉」
「誰だ、この紹介文書いた奴⁉」
本気でそう思った。合っているのは前半だけじゃないか!
誰が老若男女問わず誑し込む甘いマスクだっ⁉
そんなマスクなんか持ってないわ‼
今度、スイレンに頼んでこの紹介文書いた奴を探させて、賠償金を払わせてやるっ。
「選手の紹介が済みましたので、ルール説明と参ります。ルールは簡単、相手を地面に倒して十秒以内に立ち上がれなかった者が負けです。魔法は使用できますが、相手を直接攻撃する魔法は不可です。足技も使用不可です。もし、攻撃魔法又は足技を使用すれば、その選手は即刻失格となります!」
そこは聞いているルール通りだな。
ちょっと安心した。試合になって別なルールという事はないようだ。
「では、両選手。構えてください」
司会に言われて、僕達は司会の人を挟む位置に向かい合う。
ロンチュンさんの身体から殺気を発しだした。
それを感じて、僕も本気を出す。
「それでは、ボクシング、ファイトッ!」
「え、えっと……」
「レデイー、ゴー‼」
ロンチュンがそう言って駈け出した。
そして、繰り出される攻撃を躱しながら、僕は思った。
ここは何か鳴らすとかじゃないのか?
というか、何で「レデイー、ゴー」なんだよ!
〇ンダムファイトじゃないんだぞ!
……もしかして。
僕は攻撃を避けながら、ユエを見る。
ユエと目が合うと、ユエは口をパクパク動かせた。
こ、つ、ち、の、ほ、う、が、お、も、し、ろ、い、だ、ろ、うっだって⁉
やるなら、もっとまじめにしろよっ⁉
そう思いながら、僕はロンチュンの攻撃を躱し続けた。
余談だが、この試合自体は人気はあったそうだが『ボクシングファイト』と言うのは、音が悪いのか、それとも言いずらいのか、別な言葉にしようという事になった。
なので、魔法を使いながら殴る競技という事で『マジック&フラッぺ』略して『マジフラ』と名付けられた。
誰が付けたか知らないがネーミングセンスは悪いと思った。
「どうしたどうした? 避けてばかりでは、俺には勝てんぞっ⁉」
ロンチュンが連打を繰り出すが、僕は避け続ける。
何かの格闘漫画みたいに紙一重で躱すみたいな事はせず、大きく体を動かして避ける。
観客達も顔が分からないのを良い事に、好き勝手に「男ならよけるな~」とか「逃げるな、戦え!」とか言っているが、無視だ無視。
そんな野次をいちいち聞いていたら、キリがない。
そうして避けていると、僕はとうとうポストに追い詰められた。
「ふふふ、追い詰めたぞ」
ロンチュンは笑みを浮かべる。
その笑みは、舌なめずりしている獣のようであった。
さしずめ、僕は今にも狩られそうな兎という所かな?
「さて、後はお前が立ち上がれなくなるまで、殴るだけ、だっ」
ロンチュンは拳を打ち出す。
腰が乗った良い一撃だ。
その攻撃は避ける事は出来ないなので。
「『旋風の盾』」
僕は魔法を発動させた。
ふふ、仕事の合間で訓練した成果を見せてやる。
「なにっ⁉」
風が盾となって、ロンチュンの攻撃を防いだ。
よし、これで何とかなるな。
内心で安堵していると、観客席から歓声があがる。
「小賢しい事をっ」
ロンチュンは防がれるの覚悟で、連打をしてきた。
狙いを定めていない力強い猛打が、僕の魔法を壊そうと襲い掛かる。
「ふんふんふん。このまま防いでいても、ジリ貧なるだけだぞ。さっさと、魔法を解いて殴られた方が、早く終るぞっ?」
ロンチュンが言う事も間違ってはいない。魔法で防いでも、その内、魔力が尽きる。
そうなったら、負けだ。
ロンチュンもそれが分かっているのか、早く魔法を解こうと攻撃を続けている。
このままでは不味いのだが、僕は全然焦っていない。
時間的には、そろそろだな。
そう思っていると、観客席の一箇所から、鳴り物が聞こえだした。
よし。良いタイミングだ。
「何だ?」
この試合会場に居る僕以外の人は、その音がした方を見る。其処には。
「フレー、フレー、リ・ウ・イ。フレー、フレー、リ・ウ・イ」
僕を応援する人達が居た。
試合に邪魔しないような物で、音を出してと言ったけど、それでも結構うるさいな。
そんな中で、応援する女性達が、周囲の観客の目を釘付けにした。
「ふれ~、ふれ~ り、り、うい。ふれ~、ふれ~、り、う、い……」
「こらこら、ラン。そんな小さい声じゃあ、応援にならないわよ?」
「だ、だって、ボノビビさん……」
「もっと。元気な声で応援しないと。フレー、フレー、リ・ウ・イ。フレー、フレー、リ・ウ・イ」
「はぅぅぅ……承諾はしましたけど、かなりはずかしいです」
応援している女性達の衣装が結構過激だからだ。
身体の線がもろに出るピッチリとした白のへそ出しノースリーブ。膝までしかないミニスカート。
手にはカラフルなポンポンを振っている。
鳴り物も、女性達の応援に合わせて鳴っている。
踊っている人達が動く度に、胸が揺れ、スカートが舞いスカートの中身が見える。
試合を観戦している客の半分が、その踊っている人達に目を奪われる。
ちなみに、その半分と言うのは男性だ。
残り半分は女性で、隣にいる自分のパートナーの耳を引っ張ったりしていた。
ロンチュンもその踊り子たちに目を奪われていると、ある子の顔を見て、ギョッとした。
「あ、あれは、ら、らららららら、ランじゃないかっ⁉」
そう、実は踊っている人達は、僕の所に人質という事で送られた人達だ。
まず、有志を募って、それで踊りを教えたのだ。
可愛い妹があんな所で踊っている所を見て、衝撃を受けているロンチュン。
そして、ロンチュンは僕を親の仇を見るかのような顔をする。
「おのれ、リウイ。妹にあんな破廉恥な格好をさせるとは、何という恥知らずなっ」
いや、そちらの部族が着ている民族衣装も結構過激だと思うよ。
ランシュエから聞いたけど、膝丈をしかないミニスカのチャイナドレスをズボンも穿かないで着ている人が多いって言ってたぞ。
「おのれ、貴様にはこの怒りをとことん当てねばならないようだっ‼」
ロンチュンは先程よりも、激しい連打を打ち込んできた。
それを見て、僕は笑みを浮かべた。
これで計画通り。後は、僕が耐えれば良いだけだ。
ロンチュンの猛攻が始まって、数十分後。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………」
「ふー、ふー、ふー。……」
僕達は息を吐いていた。
ロンチュンも最初は猛打を打っていたのだが、時間が経つ事に、打ち出す威力が弱くなっていくのが分かった。
最後の方になると、打ち出す拳の数も減っていった。
疲れてきたという事だろう。
僕は好機とみて、魔法を解除して、前に出る。
ロンチュンもその動きを見て、攻撃が来ると分かったのだろう。防御しようと構える。
僕は拳を下から上へと打ち上げる、所謂アッパーカットという奴だ、
だが、動きが読まれていたのか、その攻撃は顎を反る事で避けた。
しかし、そこまでは僕も予想していたので、すかさず次の攻撃をする。
「ぐえっ⁉‼」
放った攻撃は狙い違わず、ロンチュンの喉仏に当たる。
そこは竜人族にとって弱点である『逆鱗』がある所だ。
竜人族は其処を攻撃されると、暫く身体が痺れて動けなくなるそうだ。
其処に攻撃を受けて、動けなくなるロンチュン。
僕は追撃の右ストレートをを繰り出した。
「ぐぶっ」
放たれたストレートは顔に直撃して、ロンチュンは後ろに吹っ飛んだ。
試合会場の敷物に倒れると、鞠の様にバウンドした。
そして、仰向けに倒れた。
「ワン、トゥ、スリー、フォー」
カウントは向こうに合わせているのか。
そのカウントを聞きながら、僕は荒く息を吐いた。
「……エイト、ナイン、テン! 勝者、リウイイイイイイイイイイッ‼」
司会がそう宣言すると、観客席から歓声があがった。




