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第44話 では試合開始といきますか

 一週間という時間は瞬く間に過ぎていった。

 その間、僕は何をしていたのかというと。

 ユエと話して、何処に市を開くか話し合い、ユエはその話しを西地区にある商人達の中でも大きな商会に持っていき、西地区に市を開く許諾を受ける。

 既に『鳳凰商会』は領主である僕の快諾は受けているので、特に支障なく市を開く事が出来るとユエは言っていた。

 で、その準備でリッシュモンドやスイレン達を動かして、ユエの補佐をさせて、後はユエの指示に従うようにと言う。

 その後はちょっとした特訓をして、仕事のするの繰り返しの毎日であった。

 そして、今日。その特訓の成果が分かる。

 僕は護衛として、アルトリアとルーティ達を連れて、西地区の市に向かう。

 午前中には出たけど、もう既に市は賑わっていた。

 露店が沢山並んでいた。

「思っていたよりも多いな」

「そうですね。商品も魔国で出回っている物だけではなく、我らの部族の交易品と『奥地』の交易で得られた品も並んでいますね」

「それに、他の大陸の品も混じっているようです」

 流石はユエだな。

 ここまでの品を用意するとは、これが『鳳凰商会』の資金力か。

 輸送にどんな方法を使っているんだろうか。今度訊いてみよう。

 そう思いながら、アルトリアの背に揺られていると、僕達は市に隅にある試合会場に着いた。

 その試合会場は何かの敷物が敷かれて、それを丈夫そうなロープで区切られている。

 ふむ。前世で見た通りに作られているな。

 その試合会場を見ていると、僕達に近付いてくる人がいる。

「はっはははは、よくぞ。逃げずにここまで来た。それだけは褒めてやろうっ」

 ロンチュンさんが腕を組んで、僕を見るなり大きな声で言う。

「どうも。こんにちは、ランシュエのお兄さん」

「誰が、お義兄さんだ!」

 いや、そのネタはもう良いんで。

 とりあえず、僕はアルトリアから降りて、ロンチュンさんと向き合う。

「本日は手紙のお呼び出しにより参りました。で、どのような方法で決闘するのですか?」

 まぁ、知っているけど。ここは訊こう。

 僕がそう訊ねると、ロンチュンさんは胸を張って答えた。

「ふふん。お前と決闘する方法だが、その方法とはこれだっ!」

 ロンチュンさんは指を差した。

「あの〝ぼくしんぐ〟で決闘するのだっ」

 ロンチュンさんがそう言うと、僕を連れて来た二人は首を傾げた。

「ぼく、しんぐ?」

「何かの道具を使った勝負方法か? それとも、寝具で撲殺する勝負なのか?」

 ルーティ。それは斬新な勝負だね。

「違うわいっ。良いか、ぼくしんぐとは…………」

 ロンチュンさんは言葉を区切ったので、二人は生唾を飲み込む。

 僕は、何で区切るのかな? と思いつつ、黙って聞いている。

「ぼくしんぐとは」

「「とは?」」

「…………なんだっけ?」

 僕達はずっこけそうになった。

 ここまで伸ばして、そう言う人は、今世で初めて見たかも知れない!

 これはこれで逸材かも知れない。

「知らないなら知らないと言ったらどうだ!」

「もしかして、知らないで、この決闘方法にした訳ではないだろうな?」

「ば、馬鹿言えっ。そんな訳なかろうっ」

 ユエから貴方にボクシングの説明はしたと聞いているのだけど。

 それで忘れるとは、なんだかな。

「大将~、ちょっと待って下さいよ」

 そんな男の声が聞こえたので、ロンチュンさんは周囲を見回す。

「お、おお、リュウキか。良い所に来たっ」

 ロンチュンさんが手を振る。

 その先には、竜人族の男性が居た。

 恐らくだが、ロンチュンさんの同族の人のようだ。

「大将っ。勝手に行かないでくださいよっ。って、こちらの方々は?」

「おう。この男がリウイだ。そっちの二人は護衛だっ」

 護衛と言ったのは名前を知らないからだろうな。

「そうですかい。初めまして、俺はリュウキと言います。見ての通り、ロンチュンとランシュエの同族です。どうぞ、よろしく」

 丁寧に頭を下げるリュウキ。

 こちらの人は、まだ話が分かりそうな気がする。

「リュウキ。ぼくしんぐの説明をしろっ」

「へ? 別に大将がしても」

「い・い・か・ら、しろっ」

「は、はぁ、分かりました」

 今の言葉から、ロンチュンさんは忘れたようだ。

「それじゃあ、説明させいただきますぜ」

 リュウキが説明しだした。


「ボクシングと言うのはですね。手袋を着用して、相手と殴り合う競技ですよ」

 ふむ。概ね合っている説明だな。

「きょうぎ? 何かの宗教の教えなのか?」

「違うわ。アルトリア。そっちの教義じゃなくて、儀式などで行う供犠(きょうぎ)の方よ」

「成程。つまり、相手と殴り合い、勝者には軍神に願いを叶える様にお願いする儀式の方か」

「二人共。それは違うよ」

 何で殴り合う競技が、聖杯を求めて戦うみたいなものになっているんだよ。

「それで、そのボクシングのルールは?」

「倒れたら十秒以内に立ち上がらなかったら、負けです。後は今回の試合はワンラウンド制です。魔法は使用しても良いですが。相手に直接、攻撃する魔法は不可。足技も使用不可です。もし、使用したら即刻失格です」

 成程。こっちの世界風に合わせているという事か。

「試合の時間は?」

「ええっと、後二時間後ですね」

 二時間後か。それなりに時間があるな。

「待機する所は何処かな?」

「あそこに仮部屋があるのですが。見えますか?」

 リュウキが指差した先には、大きなテントがあった。

 アソコで待機すれば良いのか。

「じゃあ、アソコに行くか」

 僕達はその場所に行こうとしたら。

「うん? 試合開始まで、まだ時間があるのだから、このマーケットを楽しんだらどうだ?」

 そう言うなり、ロンチェンさんは買った物を食べている。

 見た所、串に刺さった肉を短冊状に切って焼いているようだ。って、もしかして、その話を聞いている間に買ったのか、五本ばかりの串を指で挟みながら持っている。

「大将。話を聞いていたんですか?」

「勿論だ。ようは、あれだ。相手が立ち上がれる無くなるまで殴れば良いんだろう」

 串に刺された肉を頬張りながら言う、ロンチュンさん。

 簡単に言えばそうだな。

「というか、試合開始前にそんなに食べて動けるの?」

「はっはは、竜人族の胃袋はそんなに小さくないわっ! こんな串焼きの肉など、後千本食べても問題なしだっ」

「はぁ、そうですか」

 流石は竜人族というべきかな。

「じゃあな。後で、試合会場でな」

 そう言って、ロンチュンさんは何処かの向かう。

 恐らくだが、露店に言って、また何か買い食いするのだろうな。

 その背を見送ると、今度はリュウキが話しかけて来た。

「ええっと、リウイ殿と呼んだ方が良いのかな?」

 少しどう言ったら良いか悩みながら言うリュウキ。

 多分、僕の身分を考えてだろう。こんな往来の所で「領主様」と呼んだら、流石に人が寄ってきそうだからな。

「ああ、それで良いよ。僕もリュウキと呼んでも良いかな?」

「ええ、それは構いません。それと済みませんね。うちの大将が面倒な事をして」

「いやぁ、何というか、妹が大切だというのが良く分かります」

 何かあの人を見ていると、イザドラ姉さんも僕が結婚するという話になったら。

『ふっふふ、良いでしょう。そんなにリウイと結婚したいのですね。でしたら、わたしを屍を越えていきなさいっ‼』

 とか言って、龍の姿になって、その結婚相手と戦う姿が目に浮かぶ。

「はぁ、随分と話が分かるお方ですな」

 リュウキは感心しながら、僕を見る。

「ところで、リュウキ殿はランシュエとは付き合いが長いのかな?」

「ええ、子供の頃から知っています」

「そうなんだ。そちらでは、ランシュエはどんな子だったのかな?」

「そうですな。何というか、真面目過ぎる子って感じでしたな。どちらかと言うと、親父さんに似でしたな。正直、お袋さんに似ないで良かったと思いますよ」

「……そんなに凄い性格なんだ」

「ロンチェンの性格の数十倍ぶっ飛んだ性格の女傑です」

「はぁ、そうなんだ」

 その説明でどんな人なのか分かった気がする。

「リウイ様~」

 そう呼ばれたので、振り返ると其処にはランシュエが居た。

「お待たせしました。リウイ様」

「いや、それほど待ってないから大丈夫だよ」

「そうですか」

 ランシュエはほっとした顔をした。

「久しぶりだな。ラン」

「あら、リュウキじゃない。久しぶり」

「族長に言われて、お前が部族を出てだから五年ぶりか」

「そうなるのね。部族のみんなは元気?」

「おう、元気元気。まぁ、元気すぎる筆頭が、この都市に来ているんだよな」

「はぁ~、リュウキでも止めれてなかったの?」

「あいつがこうと決めたら、誰が何と言っても聞かない事は、妹のお前ならよ~く知っているだろう」

「確かに」

 二人は溜め息を吐いた。

 大変そうだな。

「まぁ、お前が『逆鱗』を捧げるって事なんだから、それなりに出来るんだろう」

「え、ええ、そうね」

「じゃあ、後は、リウイ殿に任せろよ」

 そう話していると、遠くから「リュウキ~、ちょっと手に荷物がいっぱいだから来てくれ~」という声が聞こえて来た。

「おっと呼び出しだ。ほんじゃあ、俺はこれで」

 リュウキは一礼して、声が聞こえた方向に向かった。

「……これからどうしようか?」

「わたしはリウイ様の試合会場に入るまで、護衛いたします」

「アルトリアに同じく」

 二人がそう言うので、僕はランシュエを見る。

「あ、あの、でしたら、露店を見回りしませんか?」

「良いね。食べ物は流石にきついけど飲み物は良いだろう」

「そうですか! で、でしたら」

 ランシュエはおずおずと手を伸ばそうとしたが、直ぐに引っ込めた。

 手を繋ぎたいのだと思い、僕は手を伸ばした。

「あっ……」

「人が多いから、はぐれない様にね」

「……はい」

 ランシュエは嬉しそうな顔を緩ませて、僕の手を取った。

 それから、僕達は試合開始の三十分前まで露店巡りをした。








 

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