第23話 椎名さんが僕に執着する理由を知る
椎名さんから逃げれた僕は、少し西園寺君の部屋に居る事にした。
と言うよりも、椎名さんのあれを思い出しただけで背筋が凍りそうなくらいに怖かった。
今は自分の部屋に戻らない方が良いと西園寺君が言うので、お言葉に甘える事にした。
「どうだ。雪奈の本性を見た気分は?」
「あれは本当に椎名さんなのと思ったよ」
ううっ、思い出すと体に寒気が。
「まぁ、そんなに好かれるような事をしたんだろう。お前は」
「僕が? 何かしたかな?」
椎名さんとは中学の頃に編入してきて、同じくクラスの隣の席になる事が多いので、よく話すくらいだと思う。
「そう言えば、西園寺君と椎名さんとは親しいの?」
椎名さんが部屋に入った時、西園寺君が『俺とお前との仲』とか言っていたので、親しいのだろう。
二人は良く一緒に行動しているのを見るので、僕の中では二人は付き合っていると思っていた。
「ああ、雪奈の家と俺の家は昔から付き合いがあってな。だから、あいつの事は昔から知っている」
「へぇ、じゃあ、椎名さんって昔はどうだったの?」
興味が湧いたので訊いてみた。
「今と比べたら、あんなに思い込みが激しくはなかったな」
「じゃあ、深窓の令嬢みたいな感じだったの?」
「そんな感じだな。自己主張はしないし、温厚な性格だった」
僕は頭の中で、昔の椎名さんを想像してみた。
温厚で自己主張しなくて、思い込みが激しくなくて幼い椎名さん。
(多分、天使みたいだったんだろうなぁ)
それが何故、今はあんな風になったんだろう?
不思議に思っていると、西園寺君がニヤニヤと笑っているのが見えた。
「うん? 何で笑っているの?」
「いや、お前にとっては些細な事でも、その人からして見たらとても嬉しい事だったんだろな」
「? どうゆう意味?」
「そうだな、ある一人の女子の昔話をしてやろう。それを聞いたら分かる」
「昔話? どんな話?」
「昔、ある所に名家と言われる家に一人の少女が居ました。その少女は性格も優しく誰からも慕われる素晴らしい子でした」
「ふむふむ、それで?」
「その少女の家は厳格な所がありまして、手で掴んで食べる食べ物所謂ファーストフードと言われる食べ物を食べさしてくれませんでした」
「何で?」
「手で掴んで食べるなどはしたない事とか、野蛮なことだからだそうだ」
いつの時代の人だよ。今どき、そんな事を言う人は居ないぞ。
寿司だってファーストフードの一種だったけど、今では高級な寿司屋とか有るんだぞ。
更にファーストフード代名詞であるハンバーガーだって、ミシュランに乗る程の店も有るんだぞ。
「娘もその家の教えに従い、そんな食べ物を食べる事はありませんでした。しかし、娘の友人がファーストフード食べた事を少女に自慢気に言ってきたのです」
「それでそれで?」
「友人の話を聞いて、少女も食べたくなってしまいました。ある時、娘は家の教えに背いて、そこら辺にあるクレープ屋さんにクレープを頼みました」
「そこまで行ったら、普通に食べれるんじゃないの?」
「ところがそうはいかなかった。なんとその少女は買い物はカードでしていたので、カードを渡したら買えると思ったのだが、その店はカードの読み取りは出来なかった」
「まぁ、そうなるよね」
そこら辺にあると言う事は移動販売車か小さい店だろうな。そんな店でカードを読み取れる機械があるとは思えない。
「少女は途方にくれました。店の方も困りました。何せクレープはも出来てしまったのですから、仕方がなく店は娘の家に事情を説明しようと、少女の家の電話番号を訊きました。ですが、少女は答える事ができませんでした」
「まぁ、そうだよね。家の教えで食べたら駄目と言われている物を食べようとしたんだから、怒られるのは目に見えているね」
「少女は困りました。そんな時、一人の少年がクレープ屋さんに来てクレープを頼みました。三人分」
「クレープ屋さんに来たんだから、頼むのは当然だね。三人分と言う事だから、友達二人の分も買ってくるように頼まれたんだね」
「少年は財布からお金を出しました。そしてこう言ったそうです『この子の分もお願いします』とそれを聞いた少女は驚きました、見も知らない自分の為にお金を出す人が居るとは思わなかったからです。店の方も、お金さえ出してくれたら特に問題ないので、少年から貰ったお金で精算して、少女にクレープを渡しました」
良い事としたね。その子。
「少女は少年にこう言った『今は御礼できませんが、後日お礼をしたいのでお名前を教えてもらえませんか?』と少年は『大した事をしてないから、気にしないでいいよ』と言ってお礼を受け取ろうとしませんでした。それでも少女は言い募ろうとしたら、丁度クレープが三人分出来てしまいました。少年は『じゃあ、僕友達を待たせているからっ』と言って少女の前から去って行きました」
おおっ、何か少女漫画みたいだ。
「少女はせめて名前だけでも聞こうとしたら、少年の友達が少年に向かってこう言いました『ノッ君、あたしが頼んだ。ミックスベリー生クリーム増し増しあった?』と」
「うん? ノッ君?」
「更にもう一人居た友人も少年に『ノブ、わたしが頼んだ。キャラメルナッツチョコレートバナナのカスタードクリームトッピングは』と言ったのを聞いたそうだ」
「えっ⁉ ノブ?」
もしかして、そのクレープを奢ったのって。
「ちなみに少年達が着ていた制服は修秀大付属高校の小学校の制服だったそうだ」
「やっつぱり、僕っ⁉」
今の話を聞いて、小学六年の時に、マイちゃん達にじゃんけんして負けてクレープを奢らされた時、店の前でカードで精算しようとしていた子が居たのを思いだした。
カード以外持っていなそうだったから、僕が立て替えてあげたんだ。
顔をよく見ていなかったので覚えていなかったが、まさかそれが。
「その少女が椎名さん?」
「正解。家に帰って来て俺に電話かけてきて、何事かと思っていたら興奮しながら今の話を話してきた」
「は、はははは」
笑うしかなかった。
「しかも、制服から学校が分かると、その学校をデータベースを閲覧してお前の事を調べたそうだ」
「小学生で、もうやっている事が犯罪レベルっ!」
「学校には裏から手を回しているから、捕まる事はないだろう」
「ひいいいっ、もう小学生のする事じゃない」
「いや、最初はあいつも御礼をしようとしただけらしいが、何時の間にかあんな風になっていた」
「何故、ああなった⁉」
「俺もそれが分からない」
結局、部屋を出るのが怖くなり、僕は西園寺君の部屋で一晩明かした。
ああ、ご飯はメイドさんに言って、西園寺君の部屋に届けてもらったよ。




