第36話 子供の頃を知っている人は厄介だ。
「それで、リィンはその『鳳凰商会』に一人で乗り込んだのじゃな?」
「はい。その通りです。リウイ様は捕まったフリをし、其処から部下達を呼んで『鳳凰商会』の者達を捕縛したのです」
「ふむ。流石は妾の弟と言いたいところじゃな」
ロゼ姉さんが胸を張る。
元々ないので、揺れる物がない胸を見て可哀そうとしか思えない。
そして、この声から話をしているのは、アルネブだな。
通路で何を話しているのかと思ったら、この前の一件を話しているようだ。
「しかし、領主たる者、自分の命を粗末にするような事をするのは問題じゃな」
「そうですね。わたし達も反対はしたのですが、リウイ様は耳を傾けてくれず」
アルネブは首を横に振る。
あの時、最終的には皆納得したと思ったのだけど?
「ときに話しに出た『鳳凰商会』というのは、どうなったのじゃ?」
「本来は領主に無礼を働いたという事で、資産没収の上に領地追放なのですが、其処にディアーネ会長が現れて、話し合いになったんです」
「ふむ。それで?」
「話し合いの結果。領地にある商会の支店の支店長を魔眼の能力を封じて、開発中の鉱山で刑期が明けるまで、強制労働で他は御咎めなしという処分になりました」
「ほぅ。そうか」
ロゼ姉さんは感心しながら頷く。
「妾が来る前に、そのような事をあったとはな」
「はい」
「まぁ、リィンらしいと言えばらしいな」
「そうなのですか?」
「うむ。子供の頃から、突拍子のない行動をする子でな。何せ、歩ける歳になると、部屋を飛び出しては住んでいた城の中を歩き回っておったからな」
うぐっ。
昔の事を知っている親戚は質が悪いと、前世よく聞いたけど本当だな。
まして、姉とくれば、詳しく知っていてもおかしくない。
「あやつが小さい時はな、手が掛かる子じゃったぞ。何せ、あ奴の兄に連れて行かれたとは言え、幼い頃から魔獣退治に参加するぐらいじゃったからな」
ちょっと待ってっ。
それは、アドラ兄貴に無理矢理連れて行かれただけだからっ。
「その上、あ奴は天性の女たらしでな、あ奴がここまで連れて来たメイド達はベタ惚れじゃし、妾の妹達もあ奴にはデレデレでな。特にイザドラという者が居るのじゃが。姉妹の中で一番、リィンにデレデレじゃ」
「どれくらい、デレデレなんですか?」
アルネブは興味本位で訊ねる。
「そうじゃな。どれくらいデレデレだと言うと、どんなに仕事が忙しい中でも赤ん坊のあ奴の顔を見に行ったぞ」
そんな事があったな。
「更に言えば、仮にも王子であるリィンじゃからな、許嫁が出来る筈があ奴の一存で一人も出来ない始末じゃ」
成程。それで、僕に許嫁が居ないのか。
「家臣達の中にも、王子であるリィンと繋がりを持とうと、自分の親族を行儀見習いという名目で送り込もうとしたが、そんな話があがる度にあ奴が端から潰している」
それで、僕付きのメイドが少ないのか。
ソフィーは乳母だし、ティナは僕の乳母姉弟だし、シャリュも元はヘルミーネ姉さんの部下と聞いている。そう考えると、僕には貴族との付き合いがないんだな。
「更に凄いのが、あ奴はなリィンを自分の後釜に据えようとしているようなのじゃ」
「後釜? というと」
「宰相じゃ」
「は、はぁ? 宰相ですか」
「うむ。あ奴は、誰が魔王になってもリィンを宰相にさせる様に考えているようじゃ」
「はぁ」
「んで、リィンを宰相にさせた後は、花嫁になるそうじゃ」
「は、はなよめ、ですか⁉ という事は、お相手がおありで?」
「リィンの下に嫁ぐつもりじゃよ」
ぶっ⁉ マジで⁉
確かに、寝言でそんな事を言っていたけど、本当かよ!
「まぁ、他にもあるぞ。聞くか」
「はい。是非っ。……まさか、リウイ様と一緒になるには、一番の障害が姉君とは」
「何か言ったか?」
「いえ、別に」
ま、まずい。そろそろ、ロゼ姉さんに話し掛けないと、僕の黒歴史が掘り返される。
「ああ、ロゼねえさん、こんなところにいたのですか?」
ちょっと、棒読み感は否めないが、ここは通そう。
「うん? どうかしたのか。リィン」
「こうして来たのですから、この都市を案内してあげようと思いまして」
「うん? 仕事は良いのか?」
「部下に任せてきました」
正直、仕事の殆どはリッシュモンド達に任せているから大丈夫だ。
「ふむ。仕事を部下任せにするのは、どうかと思うぞ。人の上に立つ者として、自身の仕事を部下に任せるはどうかと思うのじゃが」
「そうだね」
「全く、お主は変な所で手を抜きおる。良いか、お主は……」
ロゼ姉さんの説教が始まった。久しぶりに聞くのも悪くないな。
そう思いながら、僕は姉さんの説教を聞いていた。




