第31話 衝撃がとまらない
「……という事なんだ」
「ふん。成程、つまりは一夜の過ちが見事に一発的中してデキたという事か」
「はい。その通りです」
前世の事とはいえ、したのは確かだったので、ここは大人しくするしかない。
「ふぅ。そうか」
溜め息を吐くユエ。
これは許してくれるかな?
「許してもいいが、一つ聞きたい」
「なに、かな?」
「エリゼヴィアを覚えているか?」
ああ、あのエゼキエル侯爵の娘さん。
僕の事を「子豚」と呼んで、良く相手してくれたな。
「エリザさんがどうかしたの?」
どう考えても、もう死んでいるのでは?
「あいつな。わたし達がこの世界に来て、二年後ぐらいにな、王国と鬼人族との戦争が起こってな」
「へぇ。そうなんだ」
僕が交渉しに行った時も思ったけど、どうも好戦的な人が多かったらな。
「戦争の原因は?」
「うむ。お前との交渉で手に入る物であった『魔法銀』と『神鋼』と『神金剛』が手に入らなかったそうだ」
「あれ? 可笑しいな。その三つの鉱物は僕が生きていた頃は、他国に輸出できる位に量はあったはずだけど」
「詳しい話を聞いた所だと、王国の上層部が鉱物をやるのが惜しくなって、採れなくなったと嘘をついたそうだぞ」
「はい?」
有り得ない。鬼人族にそれらを与える事で、魔国を攻め込む際の軍の一部を貸し与えてくれたのに。
他にも見返りとして、確か鬼人族の領地にしか出てこない貴重な魔鉄をくれるのに。
この魔鉄は魔弾銃に重要な砲身とその砲身と銃本体を繋ぐネジにはうってつけの鉱物だ。
「しかも、凄いのが。どうしても欲しいなら、魔鉄の輸出量を五倍にしろと言ったそうだ」
「馬鹿げてる」
「ああ、その通りだ。それにより、王国と鬼人族と戦争が起こった」
「結果は?」
「半年に及ぶ戦争だったが、第三国の仲介で両国は和解した。表向きは」
「ふむふむ。それで、それがどうやってエリザさんと係わるの?」
「そう焦るな。今から言うから、で、その戦争はな、当初は王国側が劣勢だったんだが、エリゼヴィアがその劣勢を覆すために禁忌の魔法を使ったんだ」
「禁忌の魔法?」
もしかして、時を巻き戻すとか? それともクトゥルフ神話に出て来る邪神でも召喚したの?
「エリゼヴィアはな、あれだ。昔、よく遊んだゲームにでた魔法で龍に姿を変える魔法があっただろう」
「ああ、ドラ〇ラムね」
「そうだ。あの魔法を使ったのだ」
「なんとっ⁉」
つまり、龍に変化したという事か。
ちょっと見て見たかったな。
「まぁ、その戦争の後、エリゼヴィアは王都から姿を消したがな」
「どうして?」
「その魔法が禁忌の魔法だといっただろう。それで、お前なら分かると思うぞ」
「……ああ、そう言う事か。つまり、人間に戻れなくなったって事か‼」
「正解だ」
成程、それで禁忌の魔法か。
「そこで分からないのが、何故かお前の領地にある山に棲み着いたんだ」
「はぁ?」
山って、確かにあるけど。採掘終ってない所じゃないよな?
「ちなみに、その山の名前は?」
「ブリトン山とか言っていたな」
何だ。そこか。
あそこはぼたとクズ鉄しか採れないから、僕が死んでからは廃坑になっただろうな。
「ああ、そうだ。良い忘れていたが、お前の元領地には、二匹の龍と六匹の魔獣が棲み着いているそうだ」
「二匹の龍と六匹の魔獣? よく討伐されないね」
魔獣って討伐対象になる事もあるのに。
「知能も高く言葉も話す上に、自分達の縄張りを出てこない上に、公国に攻め込んできた他国に攻撃するから、公国も手をださないようだ」
「成程。防衛手段の一つにしているのか」
それにしても、魔獣か。
六匹ね。何か、頭に引っかかるな。
何か、こう思い出せそうで思い出せないこの感じ、何と言えばいいのかな。
「どうかしたか?」
「いや、それでエリザさんはその龍になってブリトン山に棲みついているのか」
「ああ、そうだ。で、お前、こいつには何をしたんだ?」
「……さ、さぁ、知らないな」
「本当か?」
正直に言って思い出せないので、何とも言えない。
それで、良く名前を覚えていたな。僕。
「ふん。まぁいい」
「ところでさ、そのもう一匹の龍はいつから居るんだい?」
「さぁな。それこそ、わたしも知らん。わたし達がこの世界に来た時から、公都『ザェクセールズ』の近くにあるブリテン山に棲みついていたからな」
「そうなんだ。あれ? 公都はザクセンじゃあないのかい?」
「ああ、すまん。お前に分かりやすくするために、ザクセンと言ったが、公国を建国する際に名称を変えたんだ。今は『ザェクセールズ』というんだ」
「成程。で、その龍の討伐はしたの?」
「討伐をしようと話し合っていると、その龍がやってきて、こう言ったそうだ。『わたしにあの山に棲む事を許可したら、汝らには何も求めない。代わりに、汝らを脅かす者を滅ぼそう』と言ったそうだ」
「ほうほう」
「で、領地を攻め込んできた鬼人族をその言葉通りに殲滅したそうだ」
「へぇ、凄いな」
「エリゼヴィアもその山に棲み付いてからは、その龍と同じ事をしているそうだ」
「はっはは、何か対抗しているみたいだね」
「まるで公都を守護するみたいだから『公都を守護する二大守護龍』と称えられているぞ」
「へぇ。それは、また、ところで、その二龍の鱗の色は?」
「エリゼヴィアが赤で、もう一匹は白だそうだが、何か気になるのか?」
「いや、別に」
白い龍と赤い龍に六匹の魔獣ね。
もしかして、その魔獣は僕が昔飼っていた魔獣とかいうオチなわけないよな。
騎獣にしていたのも含めて、丁度六匹いた気がするけど。
「ところでさ、王国は何で滅んだんだい?」
「分からん。わたしも詳しくは知らない。だが、わたしが調べた限りだと、王位が第一王女ではなく、当時の国王の甥に継がせた事が原因とか言われている」
「甥って、第一王女のアウラ様は?」
「アウラ義姉様と呼ばないのか?」
ちょ、そこ食いつくね。
結婚した訳じゃあないから、そんな事言える訳ないだろう。
「コホン。ともかく、アウラ王女はどうしたんだい?」
「分からん。わたし達は見聞を広めるために旅をしていたから、どうして王国が滅んだかもサッパリだ」
「そうか」
まぁ、前世の僕の子孫が国を作った事にくらべたら、どうでもいいか。
非常に気になるが、聞いても無駄だと思い、僕はそれ以上訊くのは止めた。
「コホン。とりあえず、ユエ」
「何だ?」
「御用商人の件、受けてくれるよね?」
「当然だな。儲け話に乗るのは商人が成り上がる為に必要なものだ」
「確かに」
僕は微笑む。
「ああ、それと、今度、大陸の事について教えてくれるかい」
「別に構わないが、大陸で何かするのか?」
「ああ、うん。隠す事ではないし、ユエだから言うけど」
僕は区切り、深く息を吸う。
「そう遠くない内に、僕は大陸で一旗あげようと思うんだ」
「ほぅ、何でまた」
「この領地の領主で収まりたくないというのもあるけど、そろそろ、王位争いが起こりそうだからね」
「王位争いか。順当にいけば、長男がなるのが道理だが。その長男は無能なのか?」
「いや、ソア兄上、じゃなくてソアヴィゴ兄さんは優秀だよ。何というか氷の様にクールな性格って感じだね。その分、切り捨てる時はバッサリと切り捨てるね」
「ふむ。有能で冷徹な男か。成程、その者に殺されるかもしれないという事か?」
「う~ん。僕としては、ソア兄上よりも側近かな。自分の地位をあげる為に、僕達に罪を着せて功績を立てる者が居てもおかしくないから」
まぁ、ソア兄上の側近にどんな人が居るか知らないけど。
「成程な。それを警戒して、大陸で一旗あげたいと、そうなると王位継承権はどうするんだ?」
「破棄するよ。十六位だから、下から数えた方が良い継承権なんて、破棄した方が良い」
腹違いとは言えに兄姉達と王位争いをしたいと思わないからね。
「ついでだ。今のノブの家族構成を聞かせてもらおうか」
「ああ、良いよ」
僕はユエに家族構成を話す。
「ふむ全部で十六男五女か。正室や側室がいるからと言っても子沢山だな」
「そう言われたら、そうだね」
言われるまで、そんな事思いもしなかった。
「そう言えば、魔人族は腹違いだと兄弟でも結婚できると聞いているが、まさか、姉達も誑し込んでいないだろうな?」
「はっはは、まさか。…………ソンナワケナイダロウ?」
「? 何か片言になってないか?」
「気のせい気のせい」
「そうか。まぁいい。明日、正式に御用商人なる契約する為に、そっちの屋敷に行くからな」
「ああ、分かった」
「それで『ビアンコ・ピピストレロ』の方はどうする?」
「そっちは、後で誰か人をやって『プゼルセイレーン』と同盟を結ぶって事にして」
「了解した」
「じゃあ、そろそろ。帰るね」
「うむ。そうだな。今宵は良い時間だったぞ」
「こちらこそ」
僕は立ち上がり、ドアの所までいく。
ユエが後ろから抱き締めてきた。
「んっ。どうかしたの?」
「別に、ちゅ」
何か首筋に柔らかい物が押し当てられた。
そして、ユエは離れた。
「じゃあ、明日。そっちに行くからな」
「うん。待ってる」
僕はドアノブを回して、部屋を出た。
部屋を出ると、ティナとアルネブが何とも言えない顔で待っていた。
「どうかしたの?」
「別に」
「何でもありません」
二人は顔を背けるけど、何かあったのかな?
「とりあえず、話は終わったから帰ろうか」
「分かったわ」
「じゃあ、帰りますか」
僕達は『鳳凰商会』の建物を後にした。
僕は館に戻る道すがら思った。
また、こうしてユエに会えるとは正直にいってないと思った。
その所為か心の底から嬉しいと思った。
大陸に行く事が出来たら、マイちゃん達と会ってみるか。
――――――させませんよ。
何か、今、イザドラ姉上の声が聞こえた気がする。
気のせいか?
……うん。気のせい気のせいだ。
今日は早く寝よう。
リウイとユエが話している頃。
部屋の前にいるアルティナとアルネブ。
「ねぇ、何って言っているか分かる?」
「駄目ね。この部屋、徹底的に防音対策されているから、全く聞こえないわ」
アルネブは首を横に振る。
二人は、心の中で思った。
部屋の中で何を話しているのだろうと。
時折、楽しそうな話し声が聞こえたり、どちらかが怒っているかのような声を聞こえてくる。
二人はどんな会話がされているか、非常に気になっていた。
しかし、部屋に入れば、リウイの命令を破る事になるので入れない。
二人は部屋の前で悶々していた。




