第30話 まさか、もう一度会えるとは
ヨットエルフ達が落ちて来たので、所々穴が空いていた。
そんな中で、奇跡的に無事だった応接間に僕達は居る。
僕とディアーネしか、この部屋には居ない。
ティナとアルネブの二人には、部屋の外を警備して貰っている。
「済まないな。流石に茶は用意できないわ」
「お気遣いなく」
茶よりも、話しをする方が大事だ。
「さて、こうして来てもらって感謝する。領主殿」
「いえいえ、こちらとしても、今後の為に話ぐらいはしても良いと思いますので」
表向きはにこやかに話す僕達。
「しかし、会長という割にはお若いので驚きです。失礼ですが、もっと御年配の方を想像していました」
「はっはは、良く言われます。とはいえ、この商会を作ったのはもう、千年ほど経っていますよ」
千年か。結構古くあるという事か。
老舗だな。だとしたら、他の国にもコネクションを持っていると考えるべきだな。
そうだったら、このまま追放するのは惜しいな。
「それは随分と老舗ですね。会長は何代目ですか?」
「ふっふふ、それについて秘密とさせて頂きます」
笑うディアーネ。
これは意外と強敵と見た方が良いか。
女性に歳の事を聞くのはNGだから、別の事を聞くか。
「失礼ですが、会長は何の種族なのですか?」
「わたしですか? わたしは鬼人族の吸血鬼ですよ」
鬼人族か。角が見えないから、吸血鬼かそれとも角がない種かと思った。
いや、本当に鬼人族かどうかも分からないな。嘘を言っている可能性もあるからな。
「鬼人族ですか。僕の母も鬼人族なんです。それもある所為か、正直鬼人族の方が会長と知って、驚いています」
驚いているのは嘘じゃない。
何せ、母さんは、飲む、暴れる、寝るの毎日だからな。
だからか、どうも商人が出来る人と思えなかった。
「ふふふ、それは偏見と言えますね。別に鬼人族の者でも商人として立派な者はおりますよ。わたしみたいに」
「はっはは、確かに」
ふむ。向こうはなかなか本題に入らないな。
こちらから話を持って行くか? それとも、向こうの出方を見るか。
どうしたものかな。
僕がそう悩んでいると、ディアーネは席を立つ。
そして、僕の傍に座る。
「ふふふ」
ディアーネは僕の顎を撫でて来る。
く、くすぐったい。
「あ、あの、くすぐったいのですが?」
「あらあら、そうなの」
何か、口調が突然砕けてないか?
このくすぐり方、ユエそっくりだな。
「ちょ、ちょっとやめてよ。ユエ」
僕は思わず言ってしまうと、ディアーネは僕の喉に手を掛ける。
いきなりの事で、判断が遅れた。
「喋るな。一言で発すれば、喉の骨を折るぞ」
ディアーネがそう言うので、僕は頭を縦に振る。
すると、ディアーネは顔を僕の耳元に寄せる。
『お前は誰だ?』
これは、日本語⁉
どうして、ディアーネが日本語を話せるんだ⁉
ま、まさか、本当に?
『もう一度聞くぞ。お前は誰だ?』
「……すいません。意味が分からないのですが?」
此処は惚けたフリをしよう。
僕の予想通りとは限らないのだから。
『わたしの事をユエと呼ぶ事を許したのは、一族以外で許したのは二人だけだ』
「へぇ、そうなんですか」
『……その内の一人はもう死んだ。だから、もう一人しか居ない』
やっべ、これは完全にバレたかも。
でも、今更僕の事を言うのは、何か恥ずかしいな。
此処はこのまま惚けようかな。
『で、何時まで惚けたフリをするんだ。ノブ』
「あっ、バレた?」
僕がそう言うと、ディアーネことユエは頷く。
『で、どうして魔人族になっているのか説明して欲しいのだが?』
『……言わないと駄目?』
僕も日本語で話す。
転生しても言葉を話せるからな、これぐらいはできる。
『言わないなら、こうだっ』
ユエは僕に抱き締めてくる。
って、そんな事をしたら、巨大な胸が僕の顔を押し付けられるっ。
『ちょ、くるしいよ。ユエっ⁉』
「言うまで、こうしてやる』
ユエは嬉しそう笑いながら言う。
全く、こういう悪戯好きな所は変わらないな。
「成程。そういう訳か」
ユエは僕を腕の中に収めながら、僕の身の上に起きた事を聞いている。
「一度死んで、魔人族に転生するとは、つくづく此処がファンタジーの世界だと思ってしまうな」
「本当にね」
僕もそう思うよ。
「真実は小説よりも奇なり、か。良く言ったものだな」
「僕も、ユエの事にも驚いているよ」
「わたしが?」
「そうだよ。何で千年ぶりに会ったら、何で吸血鬼になっているのさ」
「……それを話すには、長くなるからかいつまんで話すとこうだ」
ユエは咳払いする。
「わたしが、マイと村松の三人でこの世界に来て、旅をしていたら、あるアイテムを手に入れて、わたしは吸血鬼になって、商会を作った。簡単に言えばこんな感じだな」
分かる様な分からないような説明だったが、とりあえず言えるのは。
「もう二度と会えないと思っていたけど、もう一度会えて嬉しいよ」
「わたしもだ」
ユエは微笑む。
「ところでさ、どうして魔国に進出して来たんだい?」
ついでとばかりに、僕はこの『鳳凰商会』の目的は何なのか訊ねる。
ユエは隠す事なく告げる。
「簡単だ。ただ商圏を広げたいから、この魔国に進出しただけだ」
「成程ね」
僕はニヤリと笑う。
商圏を広げる為に進出したのなら、僕の話しに乗ってくれるだろう。
「ユエ。物は相談なんだけど」
「何だ?」
「僕の政策に一口乗らない?」
「ふむ。詳しく聞こう」
僕は前々から考えていた政策をユエに話す。
「楽市楽座か。ヴァンガドの話を聞いた限りでは、この都市は自由貿易都市みたいな感じだと思っていたが」
「楽市楽座を取り仕切る商人が居なかったからね。だから、ユエが言ったような感じになったんだ」
「成程な。で、その取り仕切る商人をわたしの商会がしろと」
「そうなんだ。ユエなら信頼できるし、この商会は向こうの大陸にも伝手があるから、大陸の商品を売る見込みが出来るだろうしね」
「ふむ。……だったら」
「勿論。ヴァンガド以外は直ぐに解放する。ヴァンガドはそうだね。暫く開発中の鉱山で強制労働という事で」
「ふふふ、お前は優しいな」
「そうかな?」
結構、厳しいと思うのだけど?
「ヴァンガドは奴隷落ちにしても良いと思うが?」
「ああ、駄目駄目。魔国だと奴隷にするのも売買するのも禁止だから」
「そうなのか?」
「父さん。今世の父さんが奴隷にするのも売買するのも禁止するという法を作ったからね。だから、魔国では奴隷は居ないんだ」
なので、奴隷の様な扱いをされる人は居ても奴隷は居ない。
「僕が生まれる前というか、父さんが幼い時は奴隷制度はあったそうだよ。親が奴隷だったとかいう人も普通に居たりするから」
「では、何故、ノブの父君は奴隷制度を廃止したのだ?」
「さぁ、僕が生まれる前の事だからね」
お手上げとばかりに手をあげる。
「そうか。大陸では普通にあるのだがな」
「大陸と言えば、聞いても良い?」
「何だ?」
「僕の息子というか、ターバクソン男爵じゃなかった公爵家はまだ残っているのかな?」
前世の僕に仕えていた部下の話だと、僕の息子がもらった領地を繁栄させた様な事を言っていたけど、その息子が死んでからは、領地を出たと聞いているから、その後、どうなったか気になる。
家が滅んだのなら、それはそれで仕方がない。この世は栄枯盛衰。諸行無常なんだから仕方がない。
残っているのならそれはそれで嬉しいな。
僕の血筋が残っているという事なんだから。
「ああ、お前の息子の家か」
? 何か、ムスッとしてない?
「公爵家だったら、お前の息子が死んで五十年後ぐらいだったかな。王国が滅んだ時に上手く立ち回って、公国を建国したぞ」
「は?」
「ついでに言えば、その公国の公都はお前が入植した都市のザクセンだ。わたしは其処に本店を置いているし、マイはそこで傭兵部隊の頭を張っているぞ。ああ、村松もそこでマイの手伝いをしているぞ」
「はい?」
「ああ、それとターバクソン大公国というのが正式な名称だが、皆略して『公国』と呼んでいるぞ。ちなみに、大陸で公国と呼べる国は、その国以外何処もない」
「へっ?」
……。
…………。
あ、頭の理解できるキャパを越えている。
もう、何がなんだが分からない。
「わたしとしても聞きたい事があるぞ。ノブ」
ユエは僕を抱き締める手に力を込めて、目を細める。
「何時の間に第二王女とそういう仲になったんだ?」
「あ、それは」
「じっっっくりと聞かせてもらおうかっ」
「……はい」




