閑話 ある支店長との密談
本日 二本目。
第三者目線で送ります。
リウイ達が、酒場を後にしてから数時間後。
もう深夜と言える時間で、酒場も店を閉める時間。
そんな時間で、一人の男性が暗い道の中を歩いていた。
魔石灯の明かり以外は何も無い道を歩いている。
不思議な事に、男は歩きながら、時折後ろを振り返り、誰かいないか確認しているのだ。
こんな時間では歩く人すら稀だというのに。
そうして、後ろを警戒しながら歩いていた男性は、塀に囲まれたある建物の前で一度止まる。
男は塀を見ながら、その周りを歩く。
そして、その建物と隣の建物境にある塀の所まで来ると、男は跳び上がった。
跳び上がった勢いのまま、塀に手を掛けて、塀の中の建物の中に入る。
男は着地すると、そのまま歩き出す。
そのまま歩くと、塀の中にある建物の裏口があった。
男はその裏口に近付き、ドアを四度ノックした。
ノックして直ぐに返事が来た。
『誰だ?』
「わたしです。酒場のトラヴィスです」
何と、その建物の中に入ったのは、リウイ達が情報収集で入った酒場のマスターであった。
『今、開ける』
その声と共に、施錠を外す音が響き、扉が開けられた。
「今日はどうかしたのか?」
「連絡したい事がありまして」
「分かった。支店長は二階の私室だ」
扉の番をしていた者は、トラヴィスにそう言って、建物の中に入れる。
建物の中に入ると、トラヴィスはそのまま階段を上がって行く。
そして、直ぐに目的の部屋の前に着く。
「ヴァンガド様。トラヴィスです。ご報告した事がありまして参りました」
『入れ』
トラヴィスは扉を開け中を見ると、顔を顰める。
其処には美男子といえる者以外にも、トラヴィスと同じ虎耳を生やした女性が二人いた。
二人共、二十代くらいの女性で、垢抜けた器量を持っていた。
だが、二人共。目に光はなく、トロンとした目をしていた。
その二人を見て、トラヴィスは苦い顔をする。
この二人はトラヴィスの娘なのだから。
トラヴィスも今でこそ酒場のマスターだが、以前は東地区にあった『ブラック・タイガー』のリーダーであった。
だが、数年前に来た『ビアンコ・ピピストレロ』によって、チームは吸収された。
トラヴィスは最後まで抵抗したが、『ビアンコ・ピピストレロ』の規模と構成員の強さに敵わず負けた。
敗北した事で、自分のチームの縄張りだけではなく娘二人を、この男『ヴァンガド』に奪われた。
「どうかしたのかな? 義父上?」
ヴァンガドは嗤いながら、トラヴィスに声を掛ける。
トラヴィスは一瞬、頭に血をのぼらせたが、直ぐに平静になった。
娘達を人質にされている時点で、最早、自分には勝ち目はないと分かっているからだ。
「……報告したい事がありまして、参りました」
感情を抑えながら、トラヴィスは報告する。
「ほう、どんな事かな?」
「はい。どうやら、この店の事を探ろうとしている者が居るようです」
トラヴィスがそう言っても、ヴァンガドは平然としていた。
「何故、そう思うのだ?」
「その者は貴族に食料品を下ろす商家の者と言っていましたが、何故か『鳳凰商会』以外の商会の名前は訊ねませんでした」
「ふむ。それはおかしいな。この地区には一番大きいのは、我が『鳳凰商会』ではあるが、中小規模で品揃いも優秀な商会は沢山ある」
「ええ、その通りです」
「ふむ。その者の名は?」
「リウイと申していました」
「そうか。ご苦労であった。下がれ」
「……はっ」
トラヴィスは頭を下げると、部屋から出て行った。




